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ボタに含まれる石灰可溶性炭酸に対する
コンクリートの劣化対策について
  やす ろう
かん ざき ひろ あき
井 上いのうえ ゆう 

キーワード:西九州自動車道・石灰可溶性炭酸・コンクリート劣化対策

1.はじめに

伊万里松浦道路は西九州自動車道のうち伊万里西ICから松浦ICまでの延長17.2㎞の自動車専用道路であり、山代ICから~今福IC間は平成26年度の供用開始を目指し、現在工事が進められているところである(図-1参照)
伊万里松浦道路は長崎県北部の松浦市に位置し、計画地は北松炭田と言われ、江戸時代から戦後まで石炭の採掘が盛んに行われていた。計画地周辺には石炭採掘の際に排出される原炭から石炭を識別した後の不要物(ボタ)が捨て土として分布しており、その成分がコンクリートを化学的侵食・劣化させる性質があると言われている。本稿は、当該路線における今福2号橋(仮称)のボタによるコンクリート劣化対策の事例を報告するものである。


2.今福2号橋の概要

今福2号橋は、伊万里松浦道路と人柱川が交差する松浦市今福町地先に計画された橋梁であり、主な諸元および形状は次のとおりである。(図-2参照)
【主な諸元】
・橋   長:L=37.0m
・上部工形式:PC単純少主桁橋
・下部工形式:逆T式橋台
・基礎工形式:A1橋台 場所打ち杭, A2橋台 深礎杭


3.地質概要・土壌成分

図-2に示すように架橋地周辺には、下位に泥岩(Salm)が分布し、A1 橋台付近ではその上位に粘性土および砂礫からなる沖積土(al)と表層にボタ(bo)が分布している。A2橋台付近では、砂岩と泥岩の互層が分布している。ここで、A1橋台付近においては表層にボタが分布し、橋台コンクリートの侵食が懸念されたため、ボタ層および下位に分布する沖積層を対象として土壌分析試験を行った(表-1、図-3参照)。

なお、土質工学会編「土質調査法」(土質工学会)
に記載されているドイツにおけるDIN 4030を判断基準として、A1橋台におけるpH 値、石灰可溶性炭酸、アンモニウム、マグネシウム、硫酸塩を測定した。表-2の土壌分析試験結果に示すとおり石灰可溶性炭酸がボタ層および沖積層においてコンクリートに対して強侵食性を有すると判定された。


4.石灰可溶性炭酸(CO2)とは

一般的に、二酸化炭素によるコンクリートの劣化は、大気中で起こるコンクリートの中性化(炭酸化)である。中性化とは、大気中の二酸化炭素がコンクリート内に侵入し、炭酸化反応を起こすことによって、pH値が低下する現象である。
この現象により、コンクリート中の鉄筋の不動態皮膜が破壊され、鋼材が腐食しやすくなり、コンクリートのひび割れ、かぶりの剥落等が発生する。
【コンクリートの中性化】
Ca(OH)2 (水酸化カルシウム[コンクリート主成分]) + CO2 (二酸化炭素) → CaCO3 (炭酸カルシウム) + H2O (水)

一方、石灰可溶性炭酸とは、水中に溶存する侵食性の強い二酸化炭素のことであり、コンクリート中のカルシウム分を水に溶かす性質がある。よって、コンクリート中のカルシウム分と石灰可溶性炭酸が化学反応した場合、コンクリートが水に溶け出し、断面が欠損する現象が発生する。
【石灰可溶性炭酸による溶出】
Ca(OH)2 (水酸化カルシウム[コンクリート主成分]) + 2H2CO3 (石灰可溶性炭酸) → Ca(HCO3)2 (水炭酸カルシウム[溶出]) + 2H2O (水[溶出])


5.既往の橋梁における一般的対策

ボタは酸性土壌となることが一般的であり、硫酸塩に対する対策が行われている。また、温泉地帯に架かる橋梁においてもpH値および硫酸塩に加え、火山性ガス、地熱に対する対策が行われている(図-4参照)。

既往の橋梁における化学的侵食対策は、主にpH値および硫酸塩に対するものであり、石灰可溶性炭酸に対する対策事例は報告されていない。


6.対策工の選定について

橋梁における石灰可溶性炭酸の対策事例がないため、学識経験者等にヒアリングを行った上で対策工法を検討した。ヒアリングの結果、同様な事例としては、水処理施設における遊離性炭酸によるコンクリートの損傷事例の報告がされており、対策としてはコンクリート表面にエポキシ樹脂の塗装が行われていた。
しかし、橋梁の基礎および橋台のように土中に埋まる土木構造物においては、再塗装によるメンテナンスが不可能であるため、①腐食因子を排除し地下水を遮断する『置換・遮水案』、②構造物そのものの耐久性を向上させる『増厚コンクリート案』が有効であるという結論に至った(図-5,図-6参照)。

ここで、『置換・遮水案』は鋼矢板による締め切りと良質土置換に加え、良質土置換では十分な締め固めが困難なため、地盤改良も必要となる。経済性、施工性等を比較検討した結果、『増厚コンクリート案』を採用することとした。
既往の事例により増厚コンクリート厚の算出式は『九州横断自動車道(湯布院~大分間)温泉地帯におけるコンクリート構造物の設計・施工指針(案)』において、pH 値に対して設定されている。
しかし、石灰可溶性炭酸に対する増厚コンクリートの厚さを設定する基準がない。そこで、DIN 4030の侵食性の判断基準による設計可溶性炭酸とpH値の相関関係に着目し、石灰可溶性炭酸濃度をpH値に換算し、pH値から増厚コンクリート厚を設定するように考えた(図-7参照)。


7.今福2号橋劣化対策について

今福2号橋の対策方針としては、既往の対策と同様に、①所要の機能および性能を確保することを目的として『コンクリート材料面からの対策』②侵食要因に対する耐久性を確保することを目的として『コンクリート構造面からの対策』を実施することとした。表-3、表-4にそれぞれの対策工法に対する比較を示す。
①『コンクリート材料面からの対策』
コンクリートの劣化因子である石灰可溶性炭酸の侵入を防ぐため、水セメント比W/C=50%以下にしてコンクリートの空隙を少なくし、密実なコンクリートにすること、化学抵抗性に優れる高炉セメントを使用することとした。

②『コンクリート構造面からの対策』
コンクリートの増厚を施すようにした。
増厚コンクリートについては、厚量算出式から増厚量を100㎜と設定し、地下水の影響を受ける底版と場所打ち杭に設置した。


8.おわりに

本事案では、今福2号橋におけるボタのコンクリート劣化対策の事例を報告した。
本架設地同様に、過去に石炭の採掘が行われていた地域では、侵食性の高い土壌成分が検出される可能性があるため、計画地の歴史的背景を十分調査した上で、調査・設計時点においてコンクリートの劣化対策を検討することが重要である。
今後は、今福2号橋におけるコンクリートの劣化状況を経年的に観察し、劣化の進行速度を計測することで、同様の土質条件における対策検討に活かすことができると考えられる。

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