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水無川1号砂防ダム建設工事

建設省雲仙復興工事事務所
 技術副所長
山 下 洋 征

建設省雲仙復興工事事務所
砂防課 主任
野 﨑  信

1 はじめに
平成2年11月17日,雲仙・普賢岳は約200年ぶりに火山活動を再開した。以来,相次いだ火砕流,土石流は,水無川,中尾川,湯江川流域に甚大な被害をもたらした。
雲仙・普賢岳の火山活動および降雨によって発生が懸念される土石流等の災害から地域の安全を確保するとともに,災害に強いまちづくりを推進し,一刻も早い地域の復興を図るために,平成5年度より建設省直轄砂防事業に着手している。
直轄砂防事業の範囲としては,北から土黒川,湯江川,中尾川,水無川,深江川を事業対象流域としている。現在,水無川,中尾川および湯江川について砂防基本構想を策定するとともに,土黒川および深江川について砂防計画を策定し,鋭意事業進捗に努めている(図ー1)。

2 水無川砂防基本構想
(1)基本方針
水無川の砂防基本構想は,雲仙・普賢岳の火山活動および降雨によって発生が予想されるさまざまな土砂移動現象から地域の安全を確保するとともに,地域の振興に役立てることを目的として策定されている(写真ー1)。

(2)施設配置計画
水無川において,最も発生が危惧される土石流および土石流に伴い流下する流木等から地域の安全を確保するために,図ー2に示す区間毎に土石流対策施設を配置する。
区間毎の施設配置計画概要は,以下のとおりである。
① 区間A
・土石流発生域には土石流発生抑制工を配置する。
・可能な限り多くの巨礫・流木を捕捉し,土石流のエネルギーを減勢させる目的の砂防ダムを配置する。
② 区間B
・各合流点付近には土石流により流出する土砂を確実に捕捉する目的の砂防ダムを配置する。
・堆砂地内では,想定外の土石流の発生に備えて積極的に除石を実施する。
③ 区間C
計画規模を越える土石流規模あるいは連続して発生する土石流に対して被害を最小限とするために導流堤を配置する。

3 水無川1号砂防ダム建設工事
(1)水無川1号砂防ダムの概要
水無川1号砂防ダムは,雲仙・普賢岳の土石流対策施設として水無川上流域に計画されている40基の砂防ダム群の最下流部に位置する基幹ダムである。全国にはこれまでに設置された砂防ダムが5万基以上あるが,水無川1号砂防ダムの諸元は,堤長870m,高さ14.9m,計画貯砂量約100万m3であり,完成すれば日本一長い砂防ダムとなる。
(2)工法選定にあたっての基本思想
工法選定にあたっては,下記の4つのポイントを基本にし,総合的に検討した。
 ① 土石流に対して安全な構造物であること。
 ② 工期の短縮が可能で,早期効果の発現が期待できること。
 ③ 作業員の安全確保を目的とした省人化が可能であること。
 ④ 流域内に膨大に存在する火山堆積物を有効に利用できること。
(3)無人化施工の導入
工事中の作業員の安全確保は最も重要な課題であり,第11溶岩ドームの崩落による火砕流の危険が残るため,無人化施工技術を積極的に活用した省人化施工が求められる。
① 雲仙における無人化施工技術
建設省では技術開発の一環として,平成5年度に試験フィールド制度を創設した。雲仙における無人化施工技術はその適用第1号となり,大型ブルドーザ,バックホウ,ダンプトラック,ブレーカを遠隔操作して土砂の掘削,積込,運搬を行う一連の土工作業に対するものであった。
今回,水無川1号砂防ダムの建設ではこの無人化施工技術を,単に土工作業だけでなく砂防ダム堤体工事へ適用した。
② 適用可能な無人化施工
通常砂防ダムにおける在来工法の一連の堤体構築手順は次のとおりである。

在来工法への無人化施工技術の活用を考えた場合,現段階で確立されている技術に限ってみると,適用できる可能性は少ない。したがって,採用工法は堤体構築工事が土工作業に近いもの,例えばフィルダムの施工技術を導入した工法にほぼ限定される。
③ 工法の選択
上記条件を勘案すると,ダムにおける実績のある工法としてはRCC工法,また,実績はないが仮締切堤の合理化施工(経済性,工期短縮等)を目標として実施されているCSG工法がある。
a RCC工法について
RCC(Roller Compacted Concrete)工法は,貧配合超硬練コンクリートをダンプトラック等で運搬し,ブルドーザ等で敷き均し,振動ローラで締め固める方法である。
現在,日本で貯水ダムの合理化施工法として確立されているRCD工法と比べた場合以下の特徴を有する。
・コンクリートの品質は劣るが経済性,施工性は非常に優れている。
・使用セメント量が少ない。
・RCD(75cm~1m)に比べてリフト高が小さい(25~40cm)。
・連続打設を原則とし,グリーンカットや水平打継目の敷モルタルを行わない。
・横継目がないか,少ない。
・ダム表面の施工は,有スランプコンクリート打設プレキャストパネルや型枠を介して打設する方法,下流面では型枠を用いず打設する方法等いろいろな方法がとられている。
・洗浄しない骨材を使用している。
本ダムに無人化施工技術を導入する場合,RCD工法における横継目の造成,水平打継目のグリーンカットや敷モルタル作業等の無人化は現段階では困難である。このため,一部有人作業を前提としても,安全性重視の観点から極力省人化を図るためには,多少のコンクリートの品質低下を伴っても,省人化や施工性に優れるRCC工法的な施工法をとる必要があった。
b CSG工法について
CSG(Cemented Sand and Gravel)工法は,建設残土や近傍に存在する材料(現地発生材)を有効利用する工法である。現地発生材にセメントを添加し混合させることでフィル材料を改良し強度増加を図り,フィルダムの経済的,合理的な建設をするために開発されたものである。
CSG工法の特徴は以下のとおりである。
・現地発生材を有効に利用できる。
・フィル材料に比べ堤体の強度強化が図られ,構造物の法勾配を急にした形状が可能である。
・施工法は,フィルダムの施工とほとんど変わらず,アースフィル型構造に比べ,降雨による規制緩和が図られ工期の短縮が期待できる。
・地形,地質,材料等の特性を活かすことにより経済的,効率的な施工が可能である。
・ただし,CSGだけでは遮水が十分でないため,遮水を必要とする場合には何らかの方法で遮水壁を設ける必要がある。
この工法は,堤体材料の品質・強度面については,実績が少なく体系化された工法とは言い難いが,施工面で見る限りRCC工法と大差なく,むしろよりフィルダムに近い工法で,省人化が可能という点では実現性の高い工法である。

(4)現地発生材の有効利用
① 堤体材料への利用
現地発生材の堤体材料への利用としては,RCC工法では骨材として適用の可能性がある。またCSG工法ではフィル材料として現地発生材にセメントを添加し,混合させた改良築堤材料として利用できる。
② 水無川1号砂防ダムヘの適用性
a 越流部
本ダムは水無川流域において最初に施工されるダムで,砂防基本構想の中で基幹ダムとして位置付けされている。当面は,土石流が頻発することが予想されるため,土石流の外力および侵食力等が作用すると考えられることから,少なくとも従来コンクリート程度の品質を確保しておく必要がある。
そのため,現地発生材を骨材として利用するには,現地発生材料の各種骨材試験およびコンクリート試験を実施し,その特性を十分に把握した後適用することが妥当である。
b 袖 部
袖部については,土石流の直撃は少なく,氾濫防止を目的とするため,従来のコンクリートのような強度は必要としない。従って,現地発生材の有効利用ができるCSG工法の適用が妥当である。

(5)総合比較
① 施工性と工期の短縮
RCC工法は,ダムの合理化施工の一環として,フィルダムの施工技術を導入した工法であり,一般に横継目を設けず,打継目処理としてのグリーンカット,敷モルタルを行っていない。そのため,リフト高は小さくても打設ピッチが速く,施工速度の向上が図れるなどの利点を有する。本ダムの場合,更に省人化および施工性の向上を図るため,掘削残土を利用したノン型枠工法を採用した。
CSG工法は,RCC工法に比べ,よりフィルダムに近い工法であり,大型機械導入により工期の短縮が可能で施工性に優れている。
② 経済性
RCC工法については,在来工法と同程度のコストである。また,CSG工法については,工事により発生した土砂を有効利用することから,本ダム上流の除石工事(材料採取)を含めて比較しても,経済性は非常に優れている。

(6)最適工法
① 越流部
・作業員の安全性を確保するため,無人化施工技術を極力活用した省人化施工とする。
・火砕流の危険性が高いため,既往の火砕流熱風到達実績範囲と土石流の流路変遷範囲の区間は無人化施工とし,その他は有人施工とする。
・越流部は土石流が直撃・流下する区間であり,重力式コンクリートダム構造とする。また,土石流の摩耗・侵食等に対し従来程度のコンクリートの品質・強度を確保する。
・現地発生材の使用については,骨材強度等の問題があり,今後の調査・検討が必要である。
以上の点を総合的に判断し,越流部に対してはRCC工法を採用した。更に無人化・省人化を図るため,掘削残土を型枠として利用するノン型枠工法を採用した。また,現地骨材の使用に関しては,今後更に調査・試験期間を要することから,当面は購入骨材を使用し,目標の品質・強度を確保することとした。
② 袖部
・火砕流に対する危険性が低いため,左右岸とも有人施工が可能である。
・これまでの土石流の流路変遷および地形的要素を考慮すると,袖部への土石流の直撃は少ないものと判断され,堤体は従来コンクリートのような品質は必要としない。
・袖部の機能は土石流の氾濫防止および下流に概成している導流堤方向へ安全に流下させる導流堤として位置付けられている。
以上の点を総合的に判断し,袖部の工法としては,施工性・経済性に優れ,現地発生材料を大量に有効利用が可能なCSG工法を採用した。

(7)試験施工による確認
施工に先立ち,RCC工法およびCSG工法の試験施工を下記に着目して実施した。試験施工により得られたデータ(強度,品質および施工性)等から,越流部にはRCC工法が,袖部にはCSG工法が適用できることが確認された。
 ① 砂防ダムヘの適用性の検討
 ② 示方配合の決定
 ③ 施工管理基準の検討

(8)通常工法との比較

(9)施工方法

(10)施工計画および諸元

4 水無川1号砂防ダムの今後の施工計画
今後の水無川1号砂防ダムの施工工程としては,本年度の出水期までに左右岸袖部を完成,越流部については現河床高までを完成させる。出水期後に前庭保護工に着手し,平成9年度中の越流部を含めた全体の完成を目途に事業を進める予定である。

5 おわりに
砂防ダム群の基幹ダムである水無川1号砂防ダムの着工は,地域復興の一助となるとともに上流ダム群の施工へ向けて大きな礎となった。
しかしながら,上流ダム群施工への無人化施工技術の適用,現地発生材のRCC骨材への適用,施工方法のさらなる合理化,CSG堤体の耐侵食性の確認等の課題も残されている。今後これらの課題を早急に検討し実施工に反映させることで一日も早く砂防ダム群を完成させ,地域の保全を図る所存である。

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