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通勤地獄

建設省大分工事事務所長
中 村  亮

多少下がったとはいいながら,相変らず東京の地価は高く,一般のサラリーマンには家を持つのも至難の技です。この原因に東京一極集中がある。この余波は地方都市にも及び,九州もそのうねりの中にいる。8年程前,私も国土庁大都市圏整備局に籍を置き,毎日片道2時間の通勤に耐えながら,その解決策を検討したものだ。しかし事態はますます深刻化の度を増している。今や先進国では,人,もの,情報等最も集中している都市となっている。
10年前のロンドン,5年前のマニラの経験を例に人々の居住地と通勤をもとに都市の特徴を考えてみたい。始めに東京の私が思っている平均的な住宅と通勤についてであるが,朝ラッシュアワーにもまれて郊外の住宅団地から1時間以上もかけ,会社から支給された通勤手当で購入した割安の定期券を使って都心の仕事場へ通う。夜もまた残業を少ししてから途中で一杯ひっかけ朝同様に帰路につく。決して帰りは急がない。平日家族と過すのは非常に短い時間である。それでも家族はこんなものかと思っている。これからの時代はそうはいかないかも知れないが。ここでは近郊都市と東京は千葉都民,埼玉都民と呼ばれているように一体化している。住宅都市はベッドタウンと呼ばれ就業場所としてはコマーシャルセンターに主婦のパートがある位である。
さて,ロンドンではどうだろう。都心から50km離れた郊外住宅から都心に通う仮想通勤者の一日はこうだ。朝奥さんに「なんでこんなに早くから出かけるの」と言われながら車で駅へ行く。駅のパークアンドライド駐車場に車を入れ,切符を買う。会社から通勤費は支給されないため自前である。しかもラッシュアワーは昼間の倍の割増運賃になる。電車で1時間の場所からは片道で3ポンドである。ロンドンの平均賃金が週給100ポンド,約3割が通勤費で消える。夕方も家に着くのは7時頃である。庭いじりの好きなイギリス人は帰宅から夕食前に庭いじりを家族でするのが好きだ。奥さんから何んでこんなに遅いのと言って苦情を言われる。これはあくまで仮想であり一般的なイギリス人はこんな遠距離通勤はめったにしない。町の大きさも市内に住宅を持つ人が働ける位いにしか大きくはない。もちろん通勤者も多いが程度の問題である。通勤費が支給されない彼等は通勤費に耐えられなくなり,職住近接の場所で働く,その為イギリスのニュータウンは就業場所が確保されており進出企業も多い。しかし問題もある。通勤手当がなくしかも就業場所の多いロンドンで働くには都心で職住近接をする。その為都心部に人口密度稠密な地区が発生する。いわゆるスラムである。欧米の都市では大なり小なりこの種のスラムは存在する。
この種のスラムが発達し都市のかなりの部分を占めてしまうのが発展途上国の都市である。マニラもその例にもれず市内には東洋一といわれるトンド地区をかかえ,市内のいたる所にスラム街がある。しかし,そこの住人は貴重な労働力であり,彼等なしに都市は成り立たない。マルコスの時代にはスラムは見苦しいからといってマニラ郊外に低家賃住宅をたくさん作った。そこに彼等を移住させようとしたが,一時住んでもまた逆もどりしてしまう。職がないしまたマニラまでは交通費が高くて通勤できない。
通勤地獄もお国によって異なり,日本の場合は肉体地獄,他の場合多くは経済地獄である。通勤手当を廃止して運賃を倍にしたら東京ももっとスリムになるかも知れない。ロンドンの例もあるのだから。

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