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エコロード・国道58号和瀬バイパス
(奄美ふれあいロード)

鹿児島県大島支庁土木課
 技術補佐
西小野 成 人

1 はじめに
奄美大島に12年ぶりに赴任した。前回は昭和60年の赴任で,最初の仕事は,本茶バイパスの明かり部の工事と本茶トンネルの門番?であった。
先輩の方々の努力のおかげで,1,055mの本茶卜ンネルを含む約11kmのバイパスがまもなく開通しようとしている頃のことである。
奄美大島におけるそれまでの道路は,とにかく道路を通すことが先で,お世辞にも快適なドライブウェイと言えるしろものではなく,急峻な山地を縫うようにしてできあがっていた。先輩の話を聞くと,元々道のないところに新たに道をつくっていかねばならず,測量には,海岸づたいを船でわたり民家に何日も泊まり込んでの作業もあったそうである。
このような苦労のおかげで,とにかく各集落間を車の通れる道でつなぐことはなんとか実現された。
その後,本茶バイパスを初めとして,三太郎バイパス,朝戸バイパスなど,懸案の隘路箇所が次々に奄美群島振興開発事業のなかで整備されていった。(図一1)前回の赴任は丁度このようなバイパスの整備が始まった頃であった。
本茶バイパス起点部の龍郷側の取り付け部を残して本茶バイパスがまもなく開通しようとする頃,あちこちからバイパスの視察にこられたため,その度毎にトンネルの門を開けにいったのである。
これらのバイパスは,いずれもモビリティ重視に偏った考え方で整備がなされてきたように思われるが,社会情勢やそれまでの道路のことを思うと,やむを得なかったものと考える。
近年の地球環境問題への関心の高まりなど国民の新たなニーズに的確に対応すべく第11次道路整備5カ年計面の一環として策定された道路技術5ヵ年計画の中で,21世紀を目指した新たな道路づくりがうたわれている。
これを受けて,鹿児島県でも各道路管理者や関係機関が協力して全県を対象とした道路環境計画「快適ロードさつま路」を策定している。
計画の一環として地区毎に個別計画を策定しているが,そのひとつである一般国道58号和瀬バイパスの「奄美ふれあいロード」の概要を紹介することとする。

2 快適ロードさつま路:鹿児島県道路環境計画
(1)道路に係る環境の現状と課題
鹿児島県といっても,県土は南北600kmに広がり,その特徴は地域によって異なり,なかなか多様である。また,県土の27%が島しょであり,約72%が山地や台地部で占められる本県は,世界自然遺産の屋久島やいまなお噴煙をあげている桜島など豊かな自然や景観資源が残るとともに,県固有の歴史や文化も残されている。
一方,都市部では集中する自動車交通による交通渋滞や自動車騒音などが課題となっている。
鹿児島県道路環境計画では,これらの自然環境や地域環境を踏まえて,5つの視点に立った道づくりを行うこととしている。
・自然植生や貴重な動植物に配慮した道づくり
・地域固有の景観を活かした道づくり
・観光客へのやさしさを提供する快適な道づくり
・歴史や文化に配慮した道づくり
・良好な沿道環境を創るネットワークづくり

(2)道路環境形成の基本方針
5つの課題を受け,“豊かでゆとりある社会空間を実現する交通ネットワークの確立”を県土全体の基本方針として設定するとともに,県内を7ブロックに分け,各地域別の特性に応じた基本方針を設定している。(図ー2)

(3)道路環境形成の目標
良好な道路環境の形成を図るため,県土全体に対する目標値を設定することとし,それを3つの視点から考えている。
 ① 豊かな自然に配慮した道路環境の創出
 ② 暮らしを支える良好な道路環境の創出
 ③ 人を大切にした道路環境の創出

(4)個別計画
“快適ロードさつま路”の実現に向けて,7地区別に地域の代表となる路線・地区を抽出するとともに,県土全域にわたる道路緑化推進計画を加え8路線・地区の個別計画を策定している。(図ー3,表ー1)

3 奄美ふれあいロード
(1)国道58号和瀬バイパスの事業概要
一般国道58号は,奄美大島本島を南北に縦貰する幹線道路であり,大島南部地域と産業・経済の中心地である名瀬市および奄美空港を連絡する奄美大島本島内の生命線とも言うべき路線である。
島内には,国道58号と平行して島の西海岸部を主要地方道・名瀬竜郷線と名瀬瀬戸内線が走っており,国道58号とこれらの道路は,お互いに災害時の補完道路としての役割を担っている。
国道58号の全路線延長の約4割は,カーブが連続し,縦断勾配もきつい山地部区間となっている。このため,雨期や台風時の災害に悩まされ続けている。
現在整備を進めている和瀬バイパスは,名瀬市朝戸と住用村東城を結ぶ計画で,鹿児島県の道路としては最長のトンネル(L=2,435m)を含む全体延長6,720mの2車線道路である。(表ー2)
平成4年に事業着手しており,今年の夏頃には住用村側の一部区間を残し,暫定供用する予定である。

(2)沿線の現状
① 奄美大島の概要
北緯28度東経129度付近にある奄美大島は,沖縄と九州のほほ中間に位置し,気侯は,亜熱帯海洋性に属し,年間平均気温は摂氏21度前後,年間降水量は東京の約2倍で3,000mmと一年を通じて温暖多雨である。そのため,島内には原始の息づく森が広がり,また,海岸は透明度の高いマリンブルーの珊瑚の海となっている。
森の中には,「イタジイ」などの広葉樹の外「ヒカゲヘゴ」など亜熱帯性の植物が生い茂り,その樹海には,地球上で奄美大島と徳之島だけに生息し「生きた化石」といわれ,国の特別天然記念物に指定されている「アマミノクロウサギ」(写真ー1)や天然記念物であり県鳥にも指定されている「ルリカケス」(写真ー2)などの貴重な動物が生息している。もちろん,ハブも生息している。

② 沿線の現状
事業計画地にこのような貴重な動植物が生息しているかどうかを確認し,以後の環境対策の基礎資料とするため,文献調査および現地踏査を行った。
天然記念物,「絶滅の恐れのある野生動植物の種の保存に関する法律」による規制対象種,環境庁(当時)レッドデータブック記載種を主な対象として調査した。以下に現地調査の結果を示す。
a 哺乳類の生息状況
アマミノクロウサギについては,巣穴,糞,足跡が確認され,巣穴については,掘り出された土の状態から,非常に新しい物とかんがえられ,近辺がクロウサギの生息地となっていることが確認されている。
その他の貴重種については,生息を示す物は確認されなかった。
b 鳥類の生息状況
ルリカケスのほかオーストンオオアカゲラ(キツツキ科)(写真ー3)やオオトラツグミ(ヒタキ科)(写真ー4)などが確認され計画路線一体を生息の場としていることが考えられた。

c 植物の生育状況
奄美大島には,天然記念物に指定されている種はないが,レッドデータブックの記載種について調査した。
計画ルートと並行して走る朝戸川の川岸にフジノカンアオイやカクチョウランなどが確認された。

(3)環境形成の基本方針
計画道路沿線は国の特別天然記念物である「アマミノクロウサギ」など貴重な動植物の宝庫であり,また,奄美大島地域の個性的で多様な観光資源をいかした体験・滞在型観光を目指す個性あふれる観光地づくりを支援するため,和瀬バイパスについては,奄美本島の幹線道路としてのモビリティ機能だけではなく,亜熱帯性の景観を活かすとともに,自然環境への影響を最小限におさえ,奄美大島のゆたかな自然と調和したエコロード「奄美ふれあいロード」として整備することとした。(表ー3)

(4)対策のポイント
① 影響を最小限に押さえる路線選定
「アマミノクロウサギ」などの生息環境をできるだけ改変しないよう切り盛りを少なくするため,3本のトンネルと10橋の橋梁を配置している。
特に,朝戸川と並行して走る名瀬市側の明かり部については,やむを得ない橋台・橋脚の取り付け護岸をのぞき,河川部の改変をほとんどおこなわないようにした。

② 植生への配慮
できるだけ伐採を行わないようにするとともに,切り土・盛り土箇所については,在来種の復元が図られるような植栽を行った。植栽ブロックを施工した箇所については,思い切って何も植えずに自然に復元するのを待つこととした。施工後5~6年で,ススキなど在来種が活着している。

③ 動物への配慮
盛り土区間の法尻排水側溝や流末処理側溝には,徘徊性の小動物が這い出せるように斜路をもうけている。(写真ー5)

このような対策は,側溝に転落した幼鳥のためにも是非とも必要なものであるとの指摘が,奄美の自然保護団体の方からあり,当路線だけでなく奄美全域で取り組む必要があると考えている。(写真ー6)

橋梁の配置によりできるだけ獣道の保全につとめたが,やむを得ず盛り土により遮断されるおそれがある区間については,動物専用の横断用カルバートをもうけている。(写真ー7)
対象とする動物は,ウサギなど比較的小動物であるが,できるだけ圧迫感を与えないようにとの配慮から,高さ2m程度のものを設置している。

④ 工事による影響の軽減
工事排水の管理や工事用道路の再緑化はもちろんのことであるが,工事関係者に対しても貴重な動植物について周知徹底を図ることとした。
生態系への配慮は,他の工事箇所においても必要であり,大島支庁土木課では,道路を造る段階から自然生態系への配慮が行き届くように,工事の施工に際して配慮すべき点を示した「奄美地区における工事の進め方」と称するパンフレットを作成し,工事関係者に配布することとしている。

4 おわりに
鹿児島県では,平成13年1月に「共生ネットワークで築く心豊かで活力あふれる『かごしま』」を基本理念とする「21世紀新かごしま総合計画」を策定している。その中で,奄美地域の振興の基本方向として,奄美群島の特徴ある多様で豊かな自然との共生を目指した「奄美群島自然共生プラン」を策定し,世界自然遣産登録を目指した取組や自然環境保全対策を推進することとしている。
今後の道路整備も,この基本方向を念頭に進めることになるが,和瀬バイパスでとった対策について,その機能が十分発揮されるか追跡調査を行い,今後の道路整備に活用できればと考えている。

写真提供:㈶鹿児島県環境技術協会,高 美喜男 氏

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