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中央橋交差点改良における交通解析を用いた検討と事後検証
廣瀬健太

キーワード:中央橋、交差点改良、交差点解析

1.はじめに

二級河川中島川に架かる市道橋中央橋は、昭和57年に発生した長崎大水害を契機とする中島川広域河川改修事業の一環として、計画流量に応じた河川断面の確保を目的に橋長の拡大と桁下高の嵩上げのため橋梁架替工事を行い、平成21年10月に供用を開始している。
当橋梁は、市内主要幹線である国道202号が交差する大波止交差点から県庁前を経て、商業の中心地である浜町に通ずる幹線橋として物資の流通に寄与してきており、また、橋梁に隣接する中央橋交差点は日交通量36,000台を数え、長崎市中心市街地の主要交差部に位置する市内交通の要衝となっている(写真-1)。
そのため、本橋梁の架替えにあたっては、周辺部への交通及び経済的影響を及ぼすことが十分考えられた。
本稿は、中央橋部の河川改修工事にあたり、中央橋はもとより、交差点周辺の交通問題等を含めた中央橋交差点改良の検討内容及び、改良後の検証について記述するものである。

2.橋梁架替えにおける検討課題

中央橋交差点にはその四方向に主桁を広げる形で横断歩道橋が昭和42年に架設されており、以来約40年にわたり、当交差点の歩行者通行を担ってきた。しかし、今回の橋梁架替えにあたり、交差点のバリアフリー化、景観性の向上及び、周辺商店街活性化への寄与等を目的として歩道橋撤去とそれに代わる横断歩道の設置による平面的な歩行者動線の確保について周辺の各商店街や商工会議所等各関係者から強い要望がなされたことにより、単なる橋梁架替えのみならず、隣接する交差点の改良の必要が出てきた。
しかし、先述したとおり当交差点は県内でも屈指の交通量を誇る交差点であり、車両通行のみの現況にあって、その能力はほぼ飽和状態に達していた(図-1)。ここに、横断歩道を設置するとなると、さらに歩行者通行分の交通負荷が加わることとなり以前より渋滞が増長されることが予想された。
このことから、中央橋の架替工事において中央橋交差点におけるスムースな歩行者動線の確保と、車両渋滞の抑制という、相反する事象の克服に取り組んでいくこととなった。

3.交差点解析による改良案検討
3.1.改良案の検討にあたり

橋梁の架替え及びそれに伴う交差点改良の検討にあたっては、先述した課題や、架替工事が周辺に与える影響を鑑み、「中央橋架替に関わる検討委員会」を設置し地元関係者、交通管理者、道路管理者、交通事業者及び学識経験者等、様々な方面から審議・検討を行いながら、交通解析による将来交通予測を踏まえての改良案の検討を行っていくこととなった。
改良案の検討にあたっては、改良後の交通予測の精度が非常に重要となってくることから、改良案に対する交通流動の検証を目的として行った交差点解析について以下のとおり記載する。

3.2.解析手法の決定

中央橋交差点は、その周辺に長久橋、鉄橋、県庁前等、各交差点が隣接している。これら相互に影響のある複数の交差点の交通状況を反映するためには、一般的な交差点解析手法である「静的解析(計算式)」では、これらを加味した解析は困難であった。
そこで、小規模な範囲を対象とするものの、時々刻々と変化する交通状況、複雑な道路ネットワーク、車線変更・発進遅れ等の車両挙動を表現することが可能で、比較的再現性の良い交差点解析手法である「動的解析(シミュレーション)」を採用した。

3.3.再現性の高い解析のために

シミュレーションによる解析を採用したうえで、解析モデルの作成段階では、複雑な交通状況の当交差点及びその周辺部での再現性を確保するため、さらに以下のような工夫を行った。
○計算単位時間の細分化
  1. ・・・本シミュレーションにおいては、複雑に変化する交通挙動を的確に再現していくために、0.5秒単位という時間的高密度で計算を行っていった。
○停留所におけるバスの交通処理について
  1. ・・・当交差点の県庁方向にバス停留所が存在するが、停留所を発車してから車線変更できるよう、一般車の進入禁止部分(滞留できない部分)を設定した。当交差点はバスの通行量が多いということが特徴のひとつとして挙げられ、その挙動を正確に捉えることは、交通状況の再現において重要と考えられる。
○先詰まりによる渋滞の処理
  1. ・・・現況の混雑状況において、顕著に見られたのが中央橋から思案橋方面への車両混雑である(図-2)。これは、思案橋交差点では片側2車線のうち直進車線が1車線のみとなっており、そこに駐停車車両による後続車両の通行の妨げが生じることによる『先詰まり』の状態が発生しているためである。このことは、中央橋交差点において、その他3方向から中央橋への流入車両にも影響を与えると考えられる。そのため、思案橋交差点部に仮信号を設定し、この信号サイクルを現況再現時に調整して先詰まりによる渋滞状況を再現した。
これら設定を用い、現況再現により走行モデルの調整を行いシミュレーションによる検証を行っていった。

3.4.交差点改良条件について

先述のシミュレーション設定により、交差点改良案の検討を行っていくこととなるが、横断歩道を設置するにあたっての交差点改良条件を以下に記載する。
○歩車分離式信号の採用
  1. ・・・横断歩道を設置すると歩行者と車両が平面上で交差する状況が発生することとなる。しかし、従前の歩道橋を通行して
    いたときと同等の歩行者の安全性の確保を図らなければならない。そのため、歩車分離式信号制御を行うこととなる。
  1. これにより横断歩行者と右左折車両が交わることがないため歩行者の安全が確保されることとなる。
○渋滞の抑制
  1. ・・・横断歩道を設置しても、渋滞の拡大は抑制しなければならない。特に、中央橋交差点からの渋滞が隣接する市内主要幹線道路である国道202号の交差地点である大波止交差点まで達すると、連鎖的に交通渋滞が発生し、広域にわたる交通混雑につながるおそれがあるため、この状況は絶対に避けなければならない。
○車線数
  1. ・・・渋滞を抑制するにあたり交差点の通過能力を向上させるため車線増設の検討を行った。従前は、県庁方向、公会堂方向、国道499号方向がともに流入3車線、流出2車線の計5車線。思案橋方向、つまり中央橋については流入2車線、流出2車線の計4車線となる(図-3)。

  1. これから周辺土地の利用状況を考えると、県庁側の車線増設は困難であったが、公会堂方向と国道499号方向については河川側の歩道を改築することにより1車線ずつの増設、思案橋方向については中央橋の橋梁拡幅により2車線の増設までは図られることとなった(図-4)。

  1. これらの条件下における交通シミュレーション結果を踏まえながら、改良案の検討を行った結果、公会堂方面を除く3方向に横断歩道を設置するいわゆるコの字形の横断歩道の設置形状に決定した(図-5)。

3.5.横断歩道設置形状について

先述のとおり検討の結果、3方向に横断歩道を設置する改良案で決定したのであるが、なぜ公会堂方面にも横断歩道を設置して、交差点4方向全てに歩行者動線を確保することができなかったのかとういうことになる。
これは、シミュレーションにより渋滞長の予測を行ったところ、公会堂方面を含む4方向全てに横断歩道を設置した場合、県庁方面の渋滞が大波止交差点を越えて長崎駅近くまで達する。また、県庁前交差点から市役所方向についても市役所を越えて1㎞以上の渋滞が発生する結果となり、市内中心部の広範囲に渋滞の影響が及ぶ結果となる(写真-2)。
それと比べて、決定案である3方向に横断歩道を設置した場合の渋滞長のシミュレーション結果では、渋滞が大波止交差点まで達することなく、渋滞の拡大は抑制される結果となった(写真―3)。

この渋滞長の差は県庁方向からの車両交通によるものであるが、決定案である3方向に横断歩道を設置した場合は、1日のうちで最も車両が混雑する夕方6時台においても、それぞれの方向で、通過可能台数が実際の通行台数を上回っており、通過車両を処理できる結果となる(図-6)。
それと比べて、公会堂方面に横断歩道を設置する場合であるが、前述したとおり、歩車分離信号制御の条件により、第1車線を左折専用の車線にしなければならない。この部分で、第1車線を左直車線にて運用することができる3方向横断歩道設置案と車両通過能力に差が出ており、通過可能台数が実際の通過台数に比べて大幅に落ち込むこととなり、車両交通を許容できず、渋滞の増長を招く結果となる(図-7)。
このようなシミュレーション結果から公会堂方面には横断歩道は設置せず、3方向設置する案で決定となった。

4.改良後の検証
4.1.趣旨
これら検討の結果、平成21年10月に現在の3方向に横断歩道を設置するかたちで供用開始された中央橋と中央橋交差点であるが、シミュレーションがどの程度改良後の実際の交通状況を反映することができていたのか、改良後に行った交通量調査結果と比較・検証を行う。

4.2.交通量の推移
改良後の交通量調査は平成22年1月19日に行った。車両交通量は12時間の交差点の断面交通量として62,404台で、決定案でのシミュレーションの設定交通量である平成20年6月24日の交通量である61,596台と比べると、若干の増となっている。

4.3.渋滞予測長と実測長の比較
実測した調査日1日のうちの最大渋滞長とシミュレーション結果による予測渋滞長を比較した(図-8)。すると、各方向ほぼ予測どおりの渋滞長を示していた。ただし、市民病院へと延びる渋滞は、予測より250m長くなっていた。

4.4.渋滞長の差の検証

ここで、この渋滞長の差について検証してみる。
まず、交差点改良前の平成20年6月24日に行った交通量調査においても市民病院方向の渋滞長は410mに達している。そのため、考えるのはなぜシミュレーション上において渋滞長がここまで短くなってしまったのかということになる。ここで注目するのが中央橋交差点に隣接している長久橋の交差点交通についてである。この交差点を経て、中央橋交差点に流入するのは、国道499号からの直進方向と、長久橋から交差点を右折して中央橋交差点に進入する2方向である(図-9)。

そのうち、今回の渋滞長の差が出ているのは後者の長久橋を経て市民病院方面へ向かう方向である。
次に、シミュレーションにおいては実際の交通量調査結果により方向別の車両台数を設定している。ここで、長久橋方面から中央橋交差点に流入する方向別の車両台数を見てみると公会堂方面へ直進する車両が最も多い。しかし、この方向別の車両台数を先ほど述べた長久橋交差点に流入する方向別に考えてみると、国道499号からの流入車両については、中央橋交差点を直進する車両台数が多いが、長久橋から右折して進入してくる車両については、特に路線バス等の大型車両において中央橋を左折する車両が多いことに気づく(写真-4)。

そのため、シミュレーションにおいて交差点の連続性を考慮した方向別の車両台数を正確に捉え切れなかったため、長久橋交差点と中央橋交差点との信号オフセットの関係より、長久橋から中央橋交差点へ流入する方向において、シミュレーションでの方向別車両台数設定と比して実際の通行台数が多く、交通負荷が大きくなっていることが渋滞長の差となったと考えられる。
ただし、この方向においても改良前の渋滞長と比して改良後の渋滞長は低減されているため所期の目的は達成されていることとなる。

5.おわりに

以上のような様々の検討を経て、約40年ぶりに中央橋交差点から歩道橋がなくなり、河川改修を契機とした新たな中央橋及び中央橋交差点が完成した(写真-5、写真-6)。改良後の交通状況についてもほぼ予測どおりの結果を示すことができ、各関係者からもおおむね好評を得ることができた。今後も市内交通の要衝としてその機能を果たしていってもらえればと思う。

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