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国道326号供用に伴う整備効果について
(中山間地域における道路整備の一考察)

(前)国土交通省 佐伯工事事務所
 所長
中 村  勲

国土交通省 佐伯工事事務所
 調査第二課長
丸 久 哲 郎

1 はじめに
一般国道326号は,宮崎県延岡市を起点とし,国道10号と重複しつつ,大分県大野郡犬飼町に至る延長87.4km(内重複延長:26.6km)の幹線道路であり,道路網構成上,国道10号の迂回路としての役割を担う道路であると言える。
しかし当道路は,祖母傾山系の急峻な地形に沿っているため,線形不良個所が連続し,幅員も狭く見通しも悪いことから,幹線道路としての機能が発揮できず,沿線地域発展の障害となっていた。
このような中,道路交通の安全確保,国土の発展基盤の整備等の充実を図るため,昭和49年,宮崎県東臼杵郡北川町大宇熊田から大分県大野郡三重町大字内山までの計画延長38.6kmを権限代行区間として事業に着手し,平成10年2月大分県側,同年10月に宮崎県側が供用することにより全線供用するに至った。
事業着手から全線開通まで24年の年月を要した事業であったが,大分県側の部分供用にあわせ,北川ダムにかかる唄げんか大橋(L=292m,斜張橋),袂に道の駅「宇目」が開業し,多くの人が集まるようになった。また,沿線に「ととろの里」等の観光スポットが注目を集めたり,延岡~大分間で特急バスが運行開始するなど地域間の交流が盛んになり,沿線地域が活性化している状況がある。
今回,このような中山間地域における道路整備が沿線地域の活性化に及ぼした影響について報告するものである。

2 国道326号の全線開通に伴う効果
(1)交通条件の変化
① 国道10号経由に比べ約30分の時間短縮。
一般国道326号が10号と分岐する宮崎県北川町から大分県犬飼町間では,国道10号を利用した場合に比べ,距離で約20km,時間で約30分短縮した。

② 利用経路が変化した。
平成6年から全線供用後の平成11年までの大分・宮崎県境近辺の国道10号(大原),および国道326号(南田原)における交通量の推移は以下の通りであり,両路線が分担する交通量の比は,平成6年の8(R10):2(R326)から3:7に逆転した。
大分・宮崎県境では国道10号を利用していた交通が国道326号に転換した事に加え,断面交通量自体も増加しており,県を越えた交流が促進されたといえる。

(2)交流圏域の変化
① 近隣での交流圏域が大幅に拡大した。
宇目町の30分圏域に含まれる自治体は,1村から2町1村に,60分圏域では,1市3町2村から3市8町4村に拡大した。

② 通勤通学圏域が広域化した。
国道326号の整備により宇目町から三重町への通勤・通学者が増加し,平成7年には大分市への通勤・通学者もみられるようになった。

③ 長トリップ交通が増加
H6,H11の路側OD調査結果によると,大分~宮崎間の自動車交通量は国道326号の全線開通により,33%増加した。
増加した交通量(1,264台/日)の内1,103台/日(87%)は長トリップ交通であり,国道326号の整備により,広域的な交流が促進されたといえる。

(3)沿線の住民生活の変化
① 下宿しないでも大分市へ通学できるようになった。
宇目町民が大分市内の高校に就学する場合,従来は下宿せざるを得なかったが,国道326号の整備により,バスと鉄道を利用して大分市まで通学が可能になった(進学先の選択肢が拡大した)。

② より高次な医療が受けられるようになった。
宇目町では,国道326号の整備により,総合病院がある佐伯市までの所要時間(約40分)よりも,県立病院がある三重町までの時間(24分)が短くなったため,佐伯市と三重町の病院を状況に応じて選択できるようになり,医療圏外の県立三重病院でも高度医療が受けられるようになった。

③ 買物が近くですまされるようになった。
宇目町の中心(重岡地区)では買い回り品の主な購入先が,生活圏の中心都市である佐伯市から,三重町に変化し,買い物がしやすくなった。

④ 色んな娯楽が楽しめるようになった。
宮崎県北川町では,大分県内の大分市,佐伯市,宇目町等他県へ娯楽レジャーに行く割合が増えた(レジャー活動が広域化した)。

(4)産業活動の変化
① 新しい産業がおこった。
宇目町では,国道326号の整備が進む平成元年,沿線に「花き団地」が新たに造成され,近年急激に出荷をのばしている。

② 観光客が増えた。
宇目町の入込み観光客数の増加率は近隣の直川村や弥生町と比べても格別に高く,昭和54年から平成10年の間に43倍に増加した。その結果,人口4千人程度の宇目町に,平成10年には約60万2千人の観光客が訪れるようになった。
道路整備とともに,平成5年の唄げんか大橋の開通,平成7年の道の駅「宇目」の完成に伴い,宇目町への入込み観光客数は大幅に増加した。

(5)その他の影響
① 国道326号沿線では,自動車騒音,ゴミ等の問題が生じた。
国道326号が整備されるまでは,交通量や観光客が少なかった沿線地域の住民にとって,交通量や観光客の増加は,「ゴミの増加」「交通事故の心配」等の新たな不安材料を抱え込むことになった。

② 国道10号沿線ではドライブインの売上が減った。
国道326号が全通するまで,大分・宮崎間を結ぶ幹線道路であった国道10号の沿線では,利用交通量の減少によりドライブインの売り上げが減少する等の影響がみられた。

③国道326号では交通事故が増えた。
国道10号では利用交通量の減少により事故件数は減少傾向にあるのに対し,国道326号では交通事故(特に負傷者数)は増加傾向にある

3 おわりに
宮崎県北川町と大分県犬飼町間での,距離にして約20km,時間で約30分の短縮は,都市部と山間地域のアクセスを向上させ,隣接県間での交流人口の増大に寄与している。
社会経済効果としては特に観光面で大きく,宇目町では,これまで自然景観が主体であった観光資源に,近年は「唄げんか大橋」をはじめ,「道の駅」宇目,「トトロ」のバス停,キャンプ村などの観光施設が増加し,入り込み観光客・観光消費額が増加している。また,これによる就業機会の増大は,定住人口の増加にもつながり,地域経済の活性化に大きく寄与していることがうかがえる。
一方,道路整備は新たな影響を沿線住民の生活にもたらし,交通事故,騒音,ゴミといった問題や通行量の減少による商業の低迷などの問題も生じている。
このようなプラス効果,並びにマイナス効果を踏まえ,今後の中山間地域における道路整備は以下の点に留意して行う事が重要と思われる。
(1)中山間地域における道路整備では,道路の走行性の向上を図るだけでなく,地域の交流と連携を活発化させるために,地域の自然を活かしたランドマークや「道の駅」等のたまりスポット的な機能を持つ施設整備を行う等の配慮が必要。
(2)中山間地域の道路整備には,沿線住民の日常生活に対しても充分に配慮するとともに,交通安全面においても従来以上に十分な配慮が必要。
(3)道路整備による地域の活性化を一時的なものにせず,将来にわたって持続させるような対策について事前に充分検討しておく必要がある。

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