いま、北九州市の都心がおもしろい
―紫川マイタウン・マイリバー整備事業―
―紫川マイタウン・マイリバー整備事業―
北九州市建設局紫川周辺開発室
主査
主査
牟 田 英 昭
1 はじめに
時刻は金曜夜7時ジャスト。東京発博多行きひかり号はすべるように小倉駅のホームを出た。
車中からふと川の上流を見やると,橋の上にユラユラと8つの火が燃えている。何だろう。一瞬,びっくりする。が,すぐに見えなくなってしまった。
そうです,みなさん。今渡った川が北九州市の都心を流れる『紫川』。そして火が出ていた橋が,『火の橋』です。
いま,北九州市は急激に変貌しようとしています。
『半年来なければ街の様子が変わっている。』たびたび訪れる方々は,口をそろえてこういいます。
では,私たちが実現しようとしているまちづくりを,ここで皆様に少しだけ紹介してみましょう。
2 まず歩いてみる
夜,川の横を歩いていると,若い男女が何かを待っています。突然『ジー!』という音がして,アレッと思っていると『ボッ!』と火がつきます。思わず立ち止まって,しばし,ゆらゆら揺れる大きな炎に見入ってしまいます。そうこれが,先程の『火の橋』です。こんな仕掛は日本でここだけ。紫川ではその昔,鵜 飼をしていたのでその漁り火をモチーフとして作りました。高さ6mの弓状の8本のモニュメントの先端からガスの炎が燃える様は本当に幻想的です。一度,見に来てはいかがでしょうか。
人の多く集まる金曜,土曜の夜7時から30分間隔に点火(10分間)されます。しかし,平日ご覧になりたければ,『火の橋』の横にある市営室町駐車場に申し込めば,お好みの時間に2000円で10分間点火してくれます。結婚記念日や彼女の誕生日,そのほか,二人の特別な日に火をつけて,お祝いする装置です。これを「素敵記念日点火式」と呼んでいます。ちょっと粋な仕掛と思いませんか。
次の日の朝,ホテルのカーテンを開けると,大きなひまわりの絵が目に飛び込んできます。これが『太陽の橋』です。ゆったりとした歩道に大きなひまわりの花が2つ。よく見ると,色とりどりのモザイクタイルで出来ています。なにやらおもしろそうなので,朝食もそこそこに,朝の散歩に出かけてみることにしました。
ホテルの横を流れるのは紫川,対岸にはガラス張りの大きな市庁舎や小倉城が見えます。『太陽の橋』のたもとに立つと,ホテルの窓から長細く見えたひまわりは,きちんと丸く見えます。ひまわりは北九州市の市花です。美しく輝くこの橋は,特に,女性に人気のある橋です。
橋の上には,7体のつるつるした人形のオブジェ『光にむかって』があります。そのオブジェの影を見ると,太陽の光によってできる頭の部分の影が,ちょうどひまわりの形になっているではありませんか。おもしろい。さりげなくこんないたずらをしてみました。この橋を渡る何人かの人は,この仕掛に気づいてくれているはずです。
近頃,このオブジェに若い人の間で,おもしろい噂が広がっています。それは,彼女と彼氏がオブジェの穴を通して見つめ会うと,必ず結ばれるというもの。このまちで,たくさんのカップルが誕生することを期待しています。
3 紫川マイタウン・マイリバー整備計画とは
紫川は,小倉北区・小倉南区の中心部を流れる全長22.4kmの北九州市のシンボル的な河川です。今では下水道の整備も進み水質も向上して,アユやシロウオがそ上し,上流ではホタルが舞う清流によみがえっています。魚釣りやジョギング・ハイキングなど,紫川は市民の憩いの場となっています。
しかし,この紫川も昭和28年,梅雨期の豪雨により氾濫し,当時の小倉市においては家屋人口の実に8割近くが浸水するという大きな被害を受けました。
以後紫川の整備は進められていますが,いまだ整備途中の段階であり,特に都心部での治水対策が課題となっています。
また都市化の進展により,川に流れ込む雨量も増大しており,いま昭和28年並の豪雨があった場合,災害に対して決して安全な街とは言えません。
災害に強い都市づくりを進めるとともに,市民が安心して水辺に親しめる河川環境をつくるためには早急に河川改修を行うことが必要です。
紫川マイタウン・マイリバー整備事業は,紫川下流部を河川改修事業により拡幅して治水対策を推進すると同時に,周辺の市街地や道路,公園などを一体的に取り込んで同時に整備することにより,『水辺をいかした安全で快適な街づくり』を行うものです。
4 自然をテーマに都市を演出
紫川の河川改修は,様々な工夫で生態系にも配慮し,川底の汚泥の取り除き,快適な河川環境整備となるように整備を進めています。
護岸工事は,自然石(主に御影石)を使った近自然工法を取り入れています。この工法の特徴は低水護岸の法 勾配を1:1(45゜)とし,コンクリートを使用していないことです。石の自重だけで安定する70cm×70cmの空積み構造は,多くの魚の巣になっています。また,石の表面には青海苔などが繁殖し,魚の餌になっています。これは,従来のコンクリートブロックでは見られない現象です。
さらに,水面より少しだけ高い所に河畔プロムナードと呼ばれる遊歩道を設け,散歩やサイクリングなどができるように工夫しています。また,1:5程度のゆるやかな傾斜や階段のある岸辺に改良し,今まで河原に降りられなかった市民が,水辺に近づき親しめるように河川整備を進めています。
5 紫川橋梁整備基本構想とは
紫川マイタウン・マイリバー整備事業の一環として,整備事業の対象区域に架かる10本の橋を,「群」としてとらえ,都市景観をリードする都市施設としてアピールしていこうというのが,紫川橋梁整備基本計画です。都市景観に造詣の深い,京都精華大学教授上田篤氏により策定された「紫川オープンリバー・ミュージアム構想」に基づいて,橋の整備を進めています。
「海・火・木・石・水鳥・月・太陽・鉄・風・音」この基本構想による10橋のデザインのモチーフも自然です。
かつての北九州市は,公害都市の代名詞のように呼ばれていましたが,今日では公害を克服した都市として,平成4年6月,地球サミットで「国連地方自治体表彰」を日本の自治体で唯一受賞しました。
そのよみがえった自然環境のシンボル的な存在として,都市を流れる清流,紫川がクローズアップされています。その意味から,新しい橋づくりのテーマを自然に求めたものです。
ここで,もう少しユニークな橋を紹介してみましょう。公園を川沿いに歩いていくと,緑と銀色の大きな風車が目に飛びこんできます。川の上を流れる風で動く巨大なモニュメント。これが「風の橋」です。高さは35mあります。橋の上に円形の広場がありその中心にタワーが建っています。音もなく回り続ける,大きなモニュメント。しばしば立ち止まって,空をあおぎみることになります。いままでこんなに長い時間,橋の上にたたずんだことがあったでしょうか。
ここに本当の意味でのソフト(仕掛け)が隠されているのです。
夜,この橋の上で星空を見上げると,銀河の中を巨大なオールでこいでいるように見えます。
『世界最大級の動く彫刻』ということでギネスブックに申請しましたが,そういうジャンルがないということで,保留になっています。
他に,交通量の多さを考慮して,歩道を車道から切り離し,車道より高く設けている『海の橋』が平成5年4月に完成しています。また,旧長崎街道の起点として15世紀ころから架けられていた歴史性をコンセプトに,日本のすぐれた木橋工法を活用して昔懐かしい雰囲気の『木の橋』が平成7年3月に完成する予定です。
グラフィックデザイナーや彫刻家など,日本を代表するアーチストの協力を得て,世界に例を見ないユニークな橋梁整備は進行中です。
すでに完成した橋梁については全国の自治体などから多くの見学者が訪れ,大きな反響を呼んでいます。
6 線から面へ(都市の一体的整備)
河川整備とともに周辺の都市開発を進めていくのが,マイタウン事業です。
河川整備が進行する中,面整備である市街地再開発事業が始まりました。『太陽の橋』の横で,市街地再開発事業を進めています。ここには,映画館・メガレストラン・ホテルが一体となった再開発ビルを建設する予定で事業を進めています。
また,平成4年5月小倉北区役所用地拠点開発検討委員会の答申を受けて,紫川に隣接した小倉北区役所の跡地1万4千m2に,文化拠点として演劇専用のホールをはじめとする複数のホールや市民ギャラリー,商業・宿泊施設,オフィスを備えた,「高層複合ビル」の建設の準備に着手しています。
この拠点開発が完成する21世紀初頭には,この地区は北九州市の新しい文化の拠点として,人々が集まる賑わいの場となっていくことでしょう。
7 今後の課題
河川や道路の『線』の整備から,公園や市街地再開発といった『面』の整備へと,都心が一体的に整備されつつあり,紫川マイタウン・マイリバー整備事業は「快適居住都市」づくりに向けて着実に進行しています。
この事業は当面,北九州市ルネッサンス構想の目標年次・平成17年までに,JR橋から風の橋までの約1.1キロメートル,92ヘクタールを整備する予定です。完成すれば,都心に大規模な親水空間が出現します。
事業推進のためには,市民や企業の方々の協力が不可欠です。
また,民間企業の計画区域内への事業参入をよりいっそう促進する必要もあります。
8 おわりに
現在,紫川都市小河川改修で周辺の用地買収を進めていますが,関係の方々は非常に苦労されています。まちが生まれ変わって行くためには,大変なエネルギーが必要だという事を,私達は今この仕事をしながら痛切に感じています。
北九州市の都心地区は現在,大手術中と言えるでしょう。痛みを伴いながらも,都市は少しづつ生まれ変わって行くと信じています。
魅力ある都心づくりにむけて,私達はこれから,ハード施設ばかりでなく,これらをより有意義に利用するためのソフト施策にも力を注いで行かなければならないと思っています。
視察案内:北九州市建設局紫川周辺開発室