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九州地方整備局 水災害予報センターの取り組みについて
九州地方整備局 中原鶴見
1.はじめに

近年、地球温暖化に伴う気候変化等により、「観測史上の記録を上回る大雨」や「局地的な集中豪雨」等による洪水等の災害が多発しています。このため河川管理者及び地方公共団体等に、更なる迅速で的確な防災対応が求められています。
また、近年の気候変化等による外力の増加を把握し、それらに対してハード対策・ソフト対策を適切に見直すことで、「犠牲者ゼロ」を実現することが重要です。

2.水災害予報センター設置
このため、平成21年4月に全8地方整備局に水災害予報センターが設置されました。水災害予報センターでは、
①水災害の監視・予測の実施や高度化
②水災害の監視・予測、予警報、水位情報等に関する情報収集や情報提供
③気候変化による水災害への影響の分析・評価
④都道府県河川管理者や水防管理者に対する支援
等を実施することとなりました。

3.九州地方整備局 水災害予報センターの取り組み
九州地方整備局水災害予報センターでは、水災害の予報に関する体制の強化を図るため、様々な取り組みを行っています。
ここでは、雨量観測の高度化(レーダ)、洪水予報システムの高度化、地上デジタル放送による水災害情報の提供について紹介いたします。

4.雨量観測の高度化
1)雨量観測の現状
水災害の監視・予測を行う上で、その原因となる雨量の把握は最も重要です。雨量観測は、一般的には直径20cmのじょうご状の機器を地上に設置し、一定時間水槽に雨水を貯め、そのたまった水量を雨量として計測しています。
雨量観測は、観測所地点の雨量を正確に実測することができる一方で、山地や平地といった流域に降る雨を面的に把握することができないといった課題があり、又、雨量観測地点を増設するには、建設コストや維持管理コストが増大するなど新たな課題が発生するため根本的な課題の解消に至りません。
そこで、面的な雨量の観測が可能なレーダによる雨量観測を整備し、観測精度を高める取り組みを行っています。

2)レーダによる雨量の観測
レーダ雨量計は、回転するアンテナから電波を発射し、雨粒にあたって反射した電波を同じアンテナで受信する装置です。電波の往復する時間から距離を測定、アンテナの向きから方位を測定、返ってきた電波の強さから雨量強度を測定することができます。
また、レーダ雨量計の特徴として、電波の周波数・強さによっては、広範囲の降水量を面的に把握することが可能です。一方、雨粒の大きさによる電波の反射強度の違いや風の影響等様々な要因による誤差が生じてしまいます。
このため、地上に設置した雨量観測所の観測結果を用いて、レーダ雨量を補正する事が重要です。

4.1 Cバンドレーダについて
1)Cバンドレーダの現状
洪水を予測するには、降雨の様々な情報(降雨の分布や強度、移動速度や方向、盛衰など)をできうる限り正確に把握することが必要です。
このため、国土交通省では全国に26基のCバンドレーダを設置しています。(Cバンドとは電波の周波数を表します。)
九州には国見山(鹿児島県肝付町)、釈迦岳(大分県日田市)、八本木山(長崎県五島市)の3基のレーダが配備されています。Cバンドは、十分な精度で定量的に観測できる範囲が120kmと広範囲であり、この3基のレーダにて九州全域の雨量観測を行っています。
現在、これらのレーダによって、全国の雨量を1kmメッシュ単位で測定しています。

2)Cバンドレーダの課題
現在、全国に設置されているCバンドレーダは、極めて強力な電波を雨に向かって発信し、雨粒にあたって反射された電波の強さから雨量を算出する方式となっています。反射された電波の強弱によって雨量を算出するため、以下の問題があります。
①雨域を通過すると電波が減衰するため、非常に強い雨域の背後には電波が届きにくくなり精度が下がる。
②降雨以外(地形や構造物等)からも電波の反射が生じ、雨粒にあたって反射された電波と混じってしまい精度が落ちる。
③上空の冷たい雲で生じた氷の粒が、水分を付着させながら大きな粒となって降ってくる場合には、通常の雨と比較し電波の反射が大きくなるため、誤差が大きくなります。

3)Cバンドレーダ雨量の精度向上
上記の課題への対応として、国土交通省ではレーダで得られたデータを、雨量観測所の観測値によって、オンラインでリアルタイムに補正しています。また、雨量を算出する計算式について補正係数等を見直し精度向上を図っています。
これらの対応に加え、九州地方整備局では釈迦岳レーダの機器更新と合わせて新方式(Kdp方式)の導入を行いました。
現在全国に設置しているCバンドレーダは、水平の電波のみを用いていますが、これに垂直の波を加えることで、高い精度の観測が可能となります。
従来の水平電波だけでは「反射された電波の強さ」からしか雨量の算出ができませんが水平と垂直の2つの電波が、雨に反射する際に生じる電波の位相のずれからも雨量強度を算定するKdp方式の技術研究が進められており、このKdp方式を導入することによって、既設Cバンドレーダが抱えている諸課題の解決が期待でき観測精度が大幅に向上されます。
しかし、このKdp方式については、実機としての運用事例がなく、現在本格運用へ向けて学識者等と協働しながら、レーダ観測値の精度解析や雨量強度換算のアルゴリズムについて検討を実施しているところです。

4.2 XバンドMPレーダについて
1)局地的豪雨の多発
平成20年7月28日、神戸市の都賀川において短時間で記録的な大雨が発生し、河川水位が10分間に約1.3m上昇したため、人的被害が発生しました。
既存のCバンドレーダは全国の雨量を観測するため、少ない基数で広範囲の降雨を観測することを目的としているため、局地的かつ短時間に発生する突発的な「局地的豪雨」に対する観測性能は持ち備えていません。

2)XバンドMPレーダの導入
既存のCバンドレーダは、非常に広大な空間を対象にしているため、現状では1kmメッシュ毎にしか雨量を把握できません。また1回の観測に5分を要し、情報の処理や伝達に5~10分程度の時間を要します。
「局地的豪雨」の原因となる積乱雲は発生して10~20分で急速に発達し、またその広がりは数km から十数kmと比較的狭い範囲の現象です。このため、空間的・時間的にCバンドレーダによる観測では「局地的豪雨」を十分に把握することが困難です。したがって狭い範囲ではあるものの、より短時間でより詳細に観測が可能なXバンドMPレーダを設置して「局地的豪雨」の監視を行うものです。

3)XバンドMPレーダの設置・観測
遠賀川流域は近年、平成11、13、15年と甚大な被害を続けて受けており、今年度も「平成21年7月中国・九州北部豪雨」により大きな被害を受けました。このため、九州地方整備局では、遠賀川流域の監視を主目的に北部九州にXバンドMPレーダを設置する予定です。

4)XバンドMPレーダの効果
XバンドMPレーダは、観測間隔が短いため、雨雲の発生から時間を置かず発見が可能となり、分解能も現状の1kmから250~500m と地先単位の詳細な情報提供が可能となるため、局地的に降る降雨にも対応が可能となります。
また、XバンドMPレーダの風、雨粒の形状等の観測機能も活用し、積乱雲の発達や雨域の移動等を観測及び予測することが可能となり情報提供の迅速化にも繋がるものと期待しています。

5.洪水予測の高度化について
1)洪水予測の現状
現在、九州地方整備局では多くの河川で「貯留関数モデル」という手法で洪水の予測を行っています。このモデルは、今から半世紀ほど前に開発された手法で、モデルがシンプルであり、計算が容易で、雨量観測所の観測値から洪水をよく再現できることから、河道計画や洪水の予測に広く用いられてきました。
しかし近年の技術の進歩は著しく、レーダによる1kmメッシュの雨量測定、電子計算機の発達、LP*1等による流域の地形等の電子情報化などが実現されています。
このため、九州の全ての一級水系において、本年度までに新型洪水予測モデルである、「分布型モデル」の構築に着手したところです。

2)分布型モデルの特徴
分布型モデルは、1kmメッシュのレーダ雨量を用い、流域を非常に細かく分割し、表面流・地下水流を個別に複雑かつ膨大な計算を行い洪水流量を求めるものです。
例えば筑後川流域では、貯留関数モデルでは流域を24に分割し、約30箇所の雨量観測所の雨量を用いて計算を行います。一方分布型モデルでは約1万1千に流域を分割し、約3千の1kmメッシュ毎のレーダ雨量を用いて計算を行います。

3)分布型モデルの課題と対応
分布型モデルは、最新の技術を活用したモデルであるため、その精度は高いと考えられています。
しかし、①パラメータの設定・調整が膨大、②モデル作成に用いられる1km毎のレーダ雨量データが2006年以降しか存在しない。③計算と実測水位に誤差が生じた際のフィードバック手法が確立されていない、等の問題があります。このため九州地方整備局では、作成した分布型モデルの精度向上のため、①過去のレーダ及び雨量観測所のデータから新たに1kmメッシュの雨量を生成②洪水のデータの蓄積及びそれを用いたパラメータの調整③フィードバック手法の検討、等精度向上に向けた取り組みを行う予定です。

6.地上デジタル放送を用いた防災情報の提供
1)地上デジタル放送(データ放送)とは
近年、多発する水害から人的被害を減らすためには、迅速かつ的確な避難誘導が重要であり、そのためには防災情報の速やかな伝達が重要です。
現在国土交通省では、「川の防災情報」等のインターネットを活用した情報提供を行っていますが、パソコン等の情報機器の操作に不慣れな人に対しては十分な伝達手段とは言い難い状況です。
一方、誰でも簡単に利用できる情報伝達手段としてテレビ放送があります。テレビ放送は、2011年には地上デジタル放送に完全移行する見込みであり、映像・音声情報に加え、データ放送、双方向通信等の利用が可能となります。

2)九州地方整備局における取り組み
九州地方整備局では、地上デジタル放送を活用した「河川防災情報の提供」を行うために、河川の防災情報(雨量、水位等)をリアルタイムで放送局に提供するTVCML*2システムを構築中です。
また、本システムを用いてNHKと放送に向けた取り組みを行っており、本年度末の放送開始を予定しています。

7.終わりに
この他にも水災害予報センターでは、様々な取り組みを行っています。
今後も引き続き水災害の監視を強化し、予測の精度を高め、また適切なタイミングで予報・警報等の情報提供を行うことで、水災害の被害軽減を図ります。

*1 LPとは、レーザープロファイラー(Laser Profiler)の略称です。航空機などから地上に向けてレーザーパルスを照射し、地上から反射してくる光を受光盤でとらえ、その往復時間によって距離を測定し、数値標高データなどを取得するシステムです。これにより航空写真測量より詳細な地形を把握することが可能です。なお、高さの精度は約15cmです。

*2 TVCMLとは、TeleVision Common Markup Languageの略称で、災害情報の伝達に適したコンピュータ言語で、多様な表現、情報伝達が迅速・正確に行える等が特徴です。

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