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四国香川の思い出

福岡県土木部 道路建設課長
深 見 一 男

建設省のお世話により,平成6年4月から3年間,香川県道路建設課に勤務いたしました。短い間でしたが,四国で体験したことや感じたことなどを綴ってみたいと思います。
四国の特徴は,一口にいえば,その自然の豊かさにあるといえましょう。山,海,太陽,風のいずれをあげても,アウトドア派には,堪えられない一級品が揃っており,しかも身近にあるのが嬉しい。

1 急峻な四国山脈(石鎚山登山)
マントルの作用により押し上げられてできた四国山脈は,標高2,000mにも及び,海面までの距離が短いため,予想以上の険しい山が多いのに驚かされました。中でも西日本一高い石鎚山(標高1,982m)や四国第2の剣山(1,955m)はその代表です。登山経験のほとんどない私も,この二つに挑戦しました。まず,剣山は,アクセス道路の国道438号も整備されており,平成8年6月2日,高松から車で2時間半,リフト乗り場の見の越駅まで難なく到着できました。そこからリフトで15分,名前とは違ってなだらかなくまざさの草原に着き,ボードウォークを歩いて苦もなく頂上に達しました。遠目には芝生を思わせる優美なくまざさの草原が,爽やかな風も手伝って,いっそう心地よく感じられました。若者が多く集っていました。
一方,石鎚山は,相当な覚悟がいります。天候にも十分気をつけ,また,紅葉の時期をねらって,同年10月6日の朝7時半に高松市を出発し,高速道路を通って一路,山腹のロープウェイ下駅に向かいます。ここから成就社駅まで昇り,10時に成就社に参拝し,いよいよこれからは自分の足だけが頼りです。ブナをはじめ,秋の日に照らされて紅葉は錦をなし,林の中の急な坂道をえっちら,えっちら休みながら登り続けると,やがてくまざさの草原に出ます。ここから切り立った崖の上の頂上を眺めると,小さく人が動いているのが見えます。その手前に,3つの絶壁があり,それぞれに大きな鎖が付いており,一の鎖,二の鎖,三の鎖と名付けられています。案内書には迂回路があるとありましたが,近くに行くと自分より年上の女性たちが挑戦していたので,負けてなるかと鎖に向かいました。途中で下を見ると足がすくむので,上を目指して一心に登ります。登りつき下を見るとぞっするほどでした。ほどなく山小屋で,頂上もまぢかです。まずは,昼時なのでうめぼしにぎりを頬張ります。素朴なこの味が一番です。徒歩約2時間半,谷から吹き上げてくる風が少しずつ汗を引かせ,格別な爽やかさです。周りを見ると,中年以上の男女がほとんどで,この年代の登山熱の程を今更ながら思い知らされました。さらに急な岩場を登り,頂上を極め,記念写真を撮って,13時半帰路へ,夕方6時には高松につきました。高速道路の力強さを痛感した次第です。
この屏風のような山脈に守られて,瀬戸内側は穏やかです。台風の接近までに時間があると踏んで,高知市まででかけたところ,予定より早く風雨が強まり,見る見るあたりは暗くなり,折れた松の枝が路面を吹き飛ばされてゆきます。「しまった,帰れないのでは」と高速道路のトンネルを急いで抜け,瀬戸内側にはいると,嘘のように静かでほっとしたことでした。
このような地形のため雨が極端に少なく,大小の溜池が造られ,香川県だけでもその数16,000余,中でも最大の満濃池は,弘法大師空海の作といわれ,今日においてもなお,善通寺市をはじめとする地域の農業用水,飲料水として幅広く使われています。平成6年夏は,20年ぶりの大渇水で,池も相当干上がり,平常時は水面下にある池の底を歩くという貴重な体験をすることができました。昭和40年代初め,吉野川上流の早明浦ダムの水を,阿讃山脈を貫く導水トンネルを通して県内の隅々まで自然勾配により配水する香川用水ができ,安心しきっていただけに,この渇水は衝撃的でした。その後は,マスコミでご存じのとおりですが,私の古いアパートには地下タンクが備えられており,給水制限時間中でも心配はありませんでした。新しいマンションほど備えがなく困っていたようです。県庁も節水のため冷房が止まり,窓の少ないビル内は朝から30度を超え,仕事どころではありませんで,小学生よろしく水筒持参の毎日が思い出されます。

2 日本最後の清流四万十川
四万十川が日本最後の清流と言われて久しい。この川は,高知県と愛媛県の境界にある大野見村に源を発し,太平洋に面した窪川町に南進し,ここから西に向い西土佐村を経由して,さらに南進し,再び太平洋側の中村市に至る蛇行した河川です。その特徴は,ダムやコンクリート護岸の少ない,ひと昔前の自然体の河川というところにあります。上流部は源流として,中流部はレジャーに,そして下流部は豊かな水流を活かした漁業や観光に利用されています。
まず,源流部では,四国カルスト付近の山々に降った雨が地下水となって滲みだした清流が玉石の中を流れ,せせらぎ,鳥の声,梢をわたる風の音などが聞かれます。
中流域は,レジャーボートなどのアウトドアスポーツ派の若者が集まります。例の四輪駆動車やキャンピングカーが広い川原によく止まっていました。
下流域になると,川幅は相当に広くなり,春には,悠々と流れる水面の向こうに,菜の花が山の緑を背景にして咲き広がり,時の流れや街の喧騒をしばし忘れさせ,大自然の営みの中にとっぷりと浸っている心地がしました。滑るように屋形船が水を切って下り,水紋がどこまでも広がっていきました。
河川を渡る橋には,増水時に水面下に隠れる「沈下橋」が数多くあり,頑丈で,数の多い橋脚と薄い床版,乗用車がやっとすれ違えるだけの幅員,所々の離合所,高欄なしの簡素な上部工からなり,通行には緊張がともないます。(長年事故がなかったのに,吉野川では,当時何故か車の転落が多く発生し,問題になりました。)川幅が広く,堤防も高いため,経済的なこのような橋が考案されたのでしょう。橋の中ほどに立つと,すぐ下をとうとうと水が流れ,静かではあっても底力を感じさせられます。白装束のお遍路さんたちが杖を突き,読経しながら渡る様子は,四国ならではの風景です。
下流域には独特の「あかめ」という大型の魚がいます。文字どおり,目が赤く,悠々と「トンボ公園」の水槽で泳いでいました。このほか,手長海老,ウナギ,ノリなどの名物料理を食べさせる料理店もあり,四万十川を満喫できました。

3 穏やかな瀬戸内海(夏,海水温度を天気予報する香川)
うだるような暑い日でも,夜になるとひんやりした風が海から吹いてくるのが福岡の夏ですが,明け方になっても気温が目立って下がらないのが香川の夏の特徴です。山に囲まれた地形上の理由かと思っていましたが,あるとき海図をみてはたと気がつきました。瀬戸内海の水深は浅く,ほとんど20m内外です。従って,太陽で温められやすく,しかも外洋に接するのが鳴門海峡のみで,下がる要素がありません。福岡の天気予報で海水温度を報じることはありませんが,香川では,「今日の水温は,高松で20℃…」と常に報道されます。一日のスタートが高い温度から始まるため,日中の気温はさらに高くなり,暑く,湿度の高い香川の夏を演出することになります。
寝苦しい夜,やっと眠りかけた明け方に,「ボー」という汽笛がまぢかに間こえてきます。大型船が通行し,周囲の漁船等に警告をしているのです。阪神地区を控え,大型船舶の通行が激しく,大小の海難事故がけっこうありました。中には,居眠り運転が原因という事故もあり,タンカーが瀬戸大橋のピアに衝突したら……と考えるとぞっとします。
古来,瀬戸内海は海の交通の要衝で,塩飽水軍などが取りしきり,広く中国とも交易し大変な繁栄を極めました。今も塩飽諸島の本島にはそのなごりが,笠島歴史的街並みとして保存され,当時を偲ぶことができます。日本人の手で初めて太平洋を横断した咸臨丸の船員50人中35人が塩飽出身者でした。今は,瀬戸大橋を真横から最も良く眺められる島でもあります。
四国は魚の宝庫で,高知名物の鰹のたたきに対して香川では,さわらが人気の魚です。淡白で上品な味の魚で,すしなどに使われます。九州ではあまり人気のない魚ですが,香川では値段が驚くほど高いのです。かつて,内陸部から高松に嫁に来た娘が,実家帰りに土産に持たされ,その尻ヒレを玄関の鴨居に釘で打ち付け,大きさを自慢しあったといいます。穴子や飯蛸,太刀魚も忘れられません。概して香川の人は,刺激の強い味が苦手のようです。博多ラーメンやからしめんたいは「むつごい」といってあまり喜びません。また,九州の魚は,チューインガムみたいに固く,魚の味がしないといいます。

4 祭(見る阿呆の阿波踊り)
四国の祭で一番有名なのは,阿波踊りです。徳島県の方に誘われて,家内と二人で見物に行きました。踊りの集団を「連」といいますが,次々に連が繰り出して行く通路の両側に,階段状の見物席が設けられ,ここが会場となります。暑い夏の太陽がようやく沈み,あたりが薄暗くなり始めると,次々に連が繰り出してきます。常連やプロの集団がまず踊り,見事な演技を見せてくれ,次第に2拍子のリズムにからだが馴染んでいくのが感じられ,ウキウキしてきます。夜十時半を過ぎる頃,素人集団が入り始め,自分も踊りたい衝動に駆られます。道路建設課の若い男女が法被姿で出てきたのには驚かされました。徳島大学時代に参加して以来毎年参加ということでした。
ところで,あの独特の踊りといい,日頃は垂した長い髪を結い上げ,きりりと鉢巻をし,あるいは桃色の蹴出しに白い足袋,編笠姿といい,何とも言えない日本の女の色香をことさら際立たせるものです。玄人は玄人らしく,素人は素人なりに,極めてエネルギッシュでリズム感あふれ,この私でさえ,確かに見る阿呆から踊る阿呆になりたくなりました。「来年,私は,にわか連に出るからね。」と家内も申しました。

5 最後に
四国はこれからの発展がおおいに期待されるところです。明石海峡大橋の開通に向けたアクセス道路の整備,徳島県に通じる三頭トンネル等の開通,阪神大震災の惨状をまぢかに見,また,福岡県を外から見るなど,短い期間にもかかわらず,貴重な体験ができました。ここに関係各位に深く感謝申し上げます。
なお,紙幅の都合上,業務関係については,別の機会に譲らせて頂きました。

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