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風倒木地域における土砂災害対策

大分県土木建築部
 砂防課長
北 崎 顕 孝

1 はじめに
平成3年9月に相次いで来襲した台風17号および19号は,本県に甚大な被害をもたらし,今なお,県民生活に大きな影響を与えている。
特に,県北部,西部においては,かって経験したことのない最大規模の山林被害を被り,大量の風倒木が発生し,その被害面積は,約22,000ヘクタールにも及んでいる。この復旧対策については,被災森林が膨大であるうえ,林業労働力の不足や木材価格の低迷などの影響から,2年を経過した平成5年9月末現在でも,33パーセント程度の復旧に止まっている。
さらに,風倒木による二次災害が懸念された折,平成5年6月の梅雨前線により九州中北部を中心に,また,7月の台風5号,9月の台風13号等によりほぼ県下全域にわたって豪雨に見舞われた。これらの豪雨により,山腹斜面崩壊が起こり土砂とともに流出した風倒木による土石流災害や,人家裏山のがけ崩れ災害等が発生し,死者5名,および家屋,道路等に大きな被害をもたらした。また,筑後川上流域にある松原ダムでは約18,000m3,下筌ダムでは約59,000m3の流木が滞留した。
この風倒木対策としての砂防事業は,平成3,4年度の災害関連緊急砂防等事業により流木対策施設を設置してきており,これら流木対策施設は多くの流木を捕捉して,その結果を発揮できたのでここに今後の砂防対策等も含めて,その概要を報告するものである。

2 平成3年台風19号の特徴
台風19号は雨量こそ多くなかったものの,猛烈な暴風を伴っていたのが特徴で,特に西日本や東北地方の日本海側の多くの気象官署で最大風速や最大瞬間風速の記録を更新した。
本調査対象地は図ー1に示すように台風の中心経路の東側に当たり,時速90kmで進行する台風の方向と最大瞬間風速時の風向きとが一致したため,強風が吹いたと推定されている。

最大瞬間風速は日田測候所において9月27日17時58分に南南西の風44.4m/secを記録した。大分地方気象台では南南東の風38.3m/sec,大分空港出張所では南西の風44.8m/secを記録した。
最大風速は,日田測候所において9月27日の17時から19時の間に16.7m/sec程度の強い風が吹き,その主たる風向は南西から南南西の風であった。
最大瞬間風速,最大風速共に風向は南西から南南西であり,風倒木の倒れている方向とほぼ一致しているため,この強風時に風倒木は発生したと推定される(図ー2・表ー1,2・写真ー1)。
総雨量は,多いところ80mmであり,平均的には60mm程度と少なかった。風倒木地発生と同時に発生したと推定されている崩壊地は,この程度の降雨によって発生したとも考えられる。

3 平成5年の降雨状況
平成5年においては,前線の活動や相次ぐ台風の来襲により8回の異常気象が発生し,大分県下においては雨量が度重なった。この中でも6月の梅雨前線による集中豪雨や台風13号により,風倒木地域において多大な土砂災害を被った。
(1)6月18日梅雨前線豪雨
平成5年6月12日から梅雨前線によって断続的に降り続いた雨は,17日の太平洋高気圧の発達によって前線が押し上げられて一度は降り止んだが,その後大陸から深い気圧の谷が進んで来て梅雨前線は再び活発になり,18日未明から再び雨が降り始めた。とくに,日田地方では18日午前11時頃にピークを迎えた。日田土木事務所管内の降雨観測所「熊戸」では18日午前11時までに累加雨量210mm,午前11時のピーク時には70mm/hrを記録した。
住民からの聞込みによれば,この時刻に土石流が流下したということである。また,18日の日雨量は272mmであった(表ー3,図ー3,4,写真ー2~4)。
日田地方(とくに前津江村,中津江村,上津江村の3村)に災害を発生させた過去の降雨を調べると平成5年6月の降雨は5~6回あるが,3村で崩壊,崖崩れ箇所の合計はせいぜい数箇所程度で4,000箇所を越えるような記録はない。

(2)台風13号豪雨
戦後最大級の台風13号は,大型で非常に強い勢力を保ちながら,本県では佐伯市付近を通り,豊後水道を抜け,降雨量の多い最悪なコースを通過したため,下記に示すように異常な降雨記録が各地に残された。
台風13号による雨は,連続雨量で別府383mm,大分329mm,竹田306.5mmと300mmを越えたほか,国東,佐伯,三重,玖珠で200mm以上を記録した。
時間最大雨量では,別府62.5mm,三重52.5mm,臼杵52mm,国東51mm,竹田50mmで,また,高田,大分,佐伯,玖珠も30mm以上となっている。
なお,気象台の記録では,大分市の時間雨量は81mm(観測史上第1位)を記録した。
特に下毛郡本耶馬渓町,字佐郡院内町等の風倒木地域において,集中豪雨に見舞われ,城井峠観測所で9月3日20時40分から21時40分の1時間に118mmに達した。このときの連続雨量が410mm,最大日雨量が396mmとなり,山腹斜面崩壊が起こり土砂とともに流出した風倒木による土石流災害や,人家裏山のがけ崩れ災害等が発生した(図ー5,写真ー5,6)。

4 二次災害の被害状況とその特徴
平成3年の台風19号による九州中北部の風倒木災害に起因して,6月18日梅雨前線豪雨では,上津江村,中津江村を中心とした山間部で崩壊,土石流による人家の損壊や耕地埋没等の直接被害や道路の寸断等が数多く発生した(表ー4)。

上津江村では災害パトロール中の村役場職員2名が土石流に巻き込まれて死亡した。中津江村,大山町,天瀬町ではがけ崩れや河川の氾濫に備えて住民が一時的に公民館等に避難していた。このように,風倒木災害に起因する二次災害は地域社会に多大な不安と被害を与えた。
大分県下では36箇所で土砂災害が発生し,負傷者3名,全壊5戸,半壊9戸等の被害が生じた。特に被害の大きかった地域は1級河川山国川水系の本耶馬渓町であり,2年前の風倒木発生地域からの土石流や流木流出が多発した。

昨年の降雨を発生確率で見ると1/10~1/20程度であり本地域としては際立って大きな降雨とはいえない。
これは平成3年9月の台風19号により発生した風倒木地域において,倒木がその後の出水により下流の橋梁や堰等を閉塞する恐れがある。また,根返し木が発生している斜面では,表層土が攪乱されており土壌緊縛力が低下して崩壊が発生しやすくなる等の懸念があったが,今回それが的中したためであった。
昨年の土砂災害の特徴は,崩壊の多くは風倒木地から発生したものであり,非風倒木地と比較するとその発生頻度は1km2当たり7倍もある調査結果が報告されている。しかし,昨年の豪雨により土砂災害の発生した箇所は,九州中北部でも比較的保全対象の少ない地域での発生であり,土砂流出や流木流出の大きさに比べ人的・物的の被害は少なかった(表ー4,5)

5 これまでの二次災害砂防対策事業
(1)ハード対策
この風倒木対策としての砂防事業は,平成3,4年度の災害関連緊急砂防等事業により流木対策施設を設置してきており,これら流木対策施設は多くの流木を捕捉して,その効果を発揮した。
さらに今後は,枯死した樹木の根の腐りに伴う,地盤の強度低下,および植生の減少による保水力の低下が,進行することが予想され,10~20年の長期にわたり,豪雨が発生すれば風倒木地域において山腹斜面崩壊,土石流の発生とそれに伴う流木の発生が予想される。このような土砂とともに流下する流木による土石流,および洪水災害の危険性の増加に対処するため,現在,建設省および大分県によりスリットダムの設置,急傾斜地崩壊対策工事,流木の除去等が進められている(写真ー7,8)。

以上のように,風倒木による二次災害防止対策として,砂防事業を積極的に推進しているにもかかわらず,被災地区の面積が広大なため,砂防施設の必要な箇所は,まだまだ多い状況である。平成5年度も引き続きその対策として,通常砂防事業の外に災害関連緊急砂防等事業および砂防災害復旧事業において,スリットダム等の整備と砂防災害関連事業,災害関連地域防災がけ崩れ対策事業が採択され,早期の完成を目ざしている(表ー6)。

(2)ソフト対策
土石流警戒避難体制整備の一貫として,土石流発生監視システムの整備を実施した。土石流発生監視システムは,図ー6,7に示すように監視局,観測局よりなる。観測局において収集された雨量データは監視局において解析され,その結果が風倒木対策としての土石流警戒避難基準雨量の警戒雨量や避難雨量を越えた場合,関係市町村担当部署に連絡され警戒避難対策が取られる。
土石流発生監視システムの配置は,観測局18箇所,監視局として日田,玖珠,中津の3土木事務所内に設置されている。

6 これからの二次災害砂防対策事業
今後の二次災害対策として,県北部,西部における風倒木対策全体計画を検討した結果,人家近くの急勾配な風倒木斜面や,崩壊土砂が堆積している河床勾配が急な渓流は,非常に不安定であり,降雨5~6年確率雨量でも崩壊が発生し,下流に流下する恐れのあるので,緊急にスリットダム等の砂防対策を行うことが急務であるということが判明した。
そのために,土石流や風倒木などにより,激甚な災害の発生した日田市,日田郡地区のうち,次期出水時に家屋の流失,または全壊が想定される箇所に対して,二次災害を防止するため,平成6年度から平成8年度の3箇年で,スリットダム等の砂防対策事業を行う砂防激甚災害対策特別緊急事業が新規採択された。さらに,その他の風倒木地域を中心に平成6年度から平成9年度の4箇年でスリットダムを整備するなどの県単独の風倒木関連砂防対策事業が認められた。これらの事業の早期完成により,風倒木による二次災害防止対策としての効果が期待されている。

7 おわりに
風倒木地発生以後平成5年度まで二次災害対策をハード・ソフトの両面から実施してきている。しかしいずれの対策も十分とは言い難く,次のような課題がある。
1)現行二次災害対策全体計画は急勾配風倒木斜面を土砂・流木生産の場としているが,平成5年災害の崩壊・土石流は,それより緩勾配の斜面からも発生している。したがって二次災害の対策としては,本来このような斜面を含める必要があり,現在の全体計画は必ずしも十分とは言えない。
2)風倒木地は,倒木の発生と同時に崩壊が発生してる所,すでに倒木を処理したが根だけは残っている所,風倒木災害時のまま何も手が入れられずそのままになっている所など様々である。根または倒木がそのまま残っている所では,今後斜面に残存している根の腐食により表層土層の透水系数が大きくなり雨水が斜面により浸透しやすくなることなどの経時変化が予想され,攪乱を受けた斜面がさらに不安定さを増すことが考えられる。
3)平成5年の二次災害の崩壊・土石流発生場所の分布から,攪乱を受けた斜面が風倒木地以外にも存在し,そこから土砂と流木を生産する可能性があることは想像に難しくない。単位面積あたりの崩壊面積率や発生頻度から見ると風倒木斜面からの生産土砂・流木が二次災害対策として当面問題となる。しかし生産された土砂・流木量を比較すると,ある一定面積の中の風倒木地と非風倒木地で比較すると同じオーダーの量である。このことから,非風倒木地であっても場所によって根がゆすられ表層土層が攪乱を受けていると考えられる。このような場所では,時間が経過するにつれ樹木の活力が低下する可能性もあり,赤外線写真などによる樹木活力調査や現地調査など多角的な調査を継続的に実施し,土砂と流木の生産場の状況変化を把握する必要がある。この調査により攪乱された場所の特定ができた場合,二次災害対策を見直し検討する必要がある。
ソフト対策においては,次のような課題がある。
4)風倒木対策としての土石流警戒避難基準雨量は,土石流の発生・非発生事例に関するデータを平成5年豪雨とそれ以外にも収集し検討する事によって,より精度の高いものに改訂していく必要がある。
5)短時間降雨予測を利用した基準雨量の運用による,より確度の高い警戒避難体制の整備を検討していく必要がある。
ハード対策においては,次のような課題がある。
6)攪乱を受け風倒木地の斜面安定や渓間の土砂・流木捕捉のための,安価,施工性が良い,施工期間が短く,材料が現地で入手できるなどの利点をもつ工法の開発が望まれる。
7)工種ごとの土砂・流木に対する効果量を把握し,土砂・流木捕捉効率の良い砂防施設の開発に資することも重要な課題である。
このように,災害多発地帯に住む我々にとっては,何よりも県民の生活基盤の安全を確保し,安全で安心して暮らせることが優先すべき課題であり,改めて災害対策としての砂防事業は,多発する流木を含む土砂災害から県民の生命,財産を守り,安全で豊かな県土を形成するため,最も優先して実施されなければならない重要な施策であり,今後も積極的に取り組んでいかなければならないと考えている。

参考文献
社団法人 砂防・地すべり技術センター:風倒木対策砂防

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