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福岡水害と激特事業
’99福岡水害 御笠川激特事業

福岡県土木部河川課
 課長技術補佐
田 中 春 夫

1 はじめに
平成11年6月29日午前7時ごろ,九州北部を襲った梅雨前線豪雨は,6月の1時間雨量としては観測史上最大の79.5mmを記録した。このため福岡市域を流れる河川を氾濫させ甚大な被害をもたらすこととなった。なかでも二級河川御笠川の被害は甚大で,下流部のJR博多駅周辺をはじめ中流部,上流部とも溢水し,流域に大きな被害をもたらすことになった。
福岡県は今回の御笠川の被災直後から建設省と協議を重ね,河川激甚災害対策特別緊急事業(以下「激特事業」という)の採択を受けた。
現在行っている改修事業とあわせ,平成11年度から五箇年で河口から山田橋までの約10.5kmを改修することとなった。今回の激特事業では,河川自体の改修とともに河川の情報を流域の人々にいかに伝え,被害の最小化をどのように図るかという観点から情報基盤整備のメニューが盛り込まれた。

2 御笠川における出水状況
(1)御笠川の概要
御笠川は,太宰府市に源を発し筑紫野市,大野城市,春日市,福岡市を流域とする流路延長24km,流域面積94km2の二級河川であり,福岡の玄関口であるJR博多駅の東側を流れている。流域は,福岡都市圏の中でも急速に都市化している地域のひとつであり,他の河川に比べて森林の割合が低く,開発区域の割合が著しく高くなっている。
つまり,御笠川は都市部における中小河川の特微として次のことがいえる。
  ①降雨の流出が早い。
  ②流路延長が短く,短時間で洪水が到達する。

(2)降雨概要
九州北部・山口地方は平成11年6月29日早朝,梅雨前線が停滞し活動を強め,雷雨を伴った激しい雨になった。時間雨量のピークは福岡市で77mm(8:00~9:00),御笠川上流の太宰府市で77mm(9:00~10:00)に達した。福岡市では7時43分からの1時間雨量が79.5mmという6月としては1939年の記録を更新した(図-1)。


(3)博多駅周辺の水害の概要
博多駅周辺の水害は,短時間の集中した降雨による内水氾濫と,御笠川の溢水による氾濫が輻輳している。まず,午前8時から9時にかけての集中豪雨により下水道などの排水能力を超えた雨水で氾濫した。これは博多駅周辺に限らず福岡市内および周辺市町の低地部でも発生している。さらに御笠川上流域の豪雨と博多湾の満潮時が重なったことが被害増大の一因となっている。
この溢水した水は,地盤の低いJR博多駅周辺のビル,ホテル,地下街,店舗等に流れ込み,一時は周辺において1mほどの深さに達する甚大な被害となった。JR博多駅周辺の浸水被害の状況は図-2のようであるが,これらの影響でJRおよび地下鉄が一時運休したほか,道路冠水により動けなくなった車が続出し,地下街の浸水や地下配電施設の水没による停電などが発生した。また,ビル地下の飲食店では逃げ遅れた従業員が亡くなっている。
このように資産が集中し,かつ地下空間を有する都心での水害は,都市機能の麻痺など深刻な事態になる危険性があることを実感することとなった(写真-1,写真-2)。

(4)博多駅周辺の地形
御笠川流域は,福岡都市圏として昭和30年代頃から急激に都市化している地域である。ここで問題なのは都市化の際,水害を考慮した土地利用を行うことがあまりなされてこなかった点にある。その例が今回浸水した博多駅周辺に見ることができる。博多駅は,昭和38年に現在地に移ったが,それまでは,約1km北側(現在の地下鉄祇園駅付近)にあった。現在の博多駅付近は,それまで低湿地帯であり,低い地形のまま都市化したため今回の溢水により浸水の被害を受けることとなった。

3 御笠川激特事業(河川激甚災害対策特別緊急事業)
御笠川激特事業は,今回水害が発生した地域について,事業を緊急に実施することにより,再度災害の防止を図り,国土の保全と民生の安定を図ることを目的とする。御笠川激特事業は治水基準点(東大橋)における計画高水量1,000m3のうち,今回の洪水流量730m3を安全に流下させるための河道整備を行う事業であり,その内容は以下の通りである。
 (1) 事業期間 平成11~15年度
 (2) 事業区間 河口から山田橋までの10.5km
 (3) 事業概要 ・掘 削  785,000m3
         ・護岸工  13,700m
         ・橋梁架替 9橋
         ・橋梁補強 2橋
         ・堰改築  5基
         ・河川情報設備1式
御笠川激特事業は,福岡市の都心部における大事業であり,用地確保や橋梁架替については相当な困難が予想されるが,すでに平成11年度より事業に取り組んでいるところである(図-3)。

4 情報基盤設備構想
御笠川のような中小河川では,雨が降ってから河川が氾濫するまでの時間が短時間であるため,迅速な河川情報の伝達が必要となる。さらに,福岡市の都市部である博多駅周辺では地下街,地下鉄,地階を有する多くの個別ビルが存在し,今回の水害で大きな被害が発生したことから,これら地下空間への情報伝達も重要となってくる。
このため,御笠川の激特事業では情報基盤整備として雨量や水位の状況を迅速に把握し,関係機関に確実に伝達できるよう次のような計画を策定中である。
 (1) 雨量・水位計のテレメータ化
 (2) 光ファイバーにより情報網の整備
さらに,中小河川では降雨の流出が早いため,降雨予測を含む迅速な洪水予測を行うシステムを検討している(図-4)。

5 おわりに
今回の水害は,新しい型の都市型水害であり,河川改修という治水対策だけではカバーしきれない多くの教訓を得た。現在,激特事業で今回の被災流量にも耐えられるよう改修に着手しているが,改修しても計画を超える洪水が発生する危険性は常に存在する。
このような計画を超える洪水に対して被害を最小限にするために,情報基盤整備を行うことにより地元自治体と連携をとりながら洪水対策を行っていきたい。

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