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環境ホルモンおよびダイオキシンについて

九州地方建設局 河川部河川調整課
 水質監視係長
徳 永 浩 之

1 はじめに
近年,ヒトを含む生物の生殖機能等内分泌系に影響を与える可能性が指摘されている内分泌攪乱化学物質等(いわゆる環境ホルモン)の新たな水環境問題が顕在化してきている。水環境中の環境ホルモンの存在状況については,これまでほとんど把握されていないことから,建設省においても平成10年度より環境庁と連携し,実態調査を実施している。
また,ダイオキシン類については,一部の廃棄物処理施設周辺における環境汚染が明らかになり,社会的な不安や関心が高まっていることを踏まえ,平成12年1月より「ダイオキシン類対策特別措置法」が施行された。この「ダイオキシン類対策特別措置法」において,河川水質の環境基準の設定や監視が規定されているが,これまで河川の水質・底質に関する実態調査は十分に行われていないのが実態である。
本稿では,内分泌攪乱化学物質(以下「環境ホルモン」)およびダイオキシン類とはどのようなものかを紹介するとともに,九州地方建設局管内一級河川20水系における環境ホルモン実態調査の概要ならびに結果,また河川におけるダイオキシン類実態把握への取り組みについて述べる。

2 環境ホルモンについて
(1)環境ホルモンとは
「環境ホルモン」(正確には「外因性内分泌攪乱化学物質」)とは「動物の生体内に取り込まれた場合,本来その生体内で営まれている正常なホルモン作用に影響を与える外因性の物質」をいう。(環境中にあってホルモンのような働きをするということで,環境とホルモンを合わせてマスコミ用に造られた言葉である。)

(2)ホルモンのはたらきと攪乱メカニズム
正常なホルモンは内分泌器官から血流に直接分泌され,動物の発生過程での組織の分化,その成長,生殖機能の発達,恒常性等を調節する重要な役割を果たしている。
ホルモンは,血液中を移動し,作用を及ぼすべき体内組織や器官に到達すると,その細胞にある受容体(レセプターと呼ばれるもの)に結合して活性化し,DNAに働きかけて固有のタンパク質を生成して目的を果たす。
ホルモンの種類によって結合するレセプターが決まっていることから,ホルモンとレセプターの関係は鍵と鍵穴の関係に例えられる。
本来ホルモンが結合すべきレセプターに化学物質(環境ホルモン)が結合することにより,遣伝子が誤った指令を受け,ホルモンの正常な働きを邪魔(攪乱)するものである。

(3)人や動物への影響について
 ① 野生動物への影響
野生動物への影響を指摘する報告の中から主なものは次頁表-1のとおりである。
 ② 人の健康への影響に関する報告
人の健康への影響については,精子の減少等が報告されているが,報告された異常と原因物質との因果関係,発生メカニズムについては,まだ十分に明らかにされていない状況にある。

3 九州地方建設局管内一級河川における環境ホルモンに関する実態調査について
(1)調査目的および方針
本調査は,建設省において,環境ホルモンとして疑いのある物質について,一級河川を対象に全国的な実態把握を行い,今後の対策検討のための基礎資料とすることを目的として実施されている。
九州地方建設局管内における本調査は,以下の基本方針で実施している。
○水環境中の環境ホルモンの実態把握
なお,本調査の実施にあたっては,対象水域,対象物質,分析方法,調査時期等について,環境ホルモンの全国一斉調査を実施している環境庁等と連携を図り,調査を行うものとした。

(2)調査概要
平成10年度(前期7月,後期11月),平成11年度(夏期9月)に九州地方建設局管内の一級河川における河川水および底質を対象として環境ホルモンとして疑いのある物質の実態把握を行った。

 ① 調査対象河川
九州管内のー級河川20水系を対象とし,筑後川については,代表河川として重点的な調査を行うこととした。
 ② 調査地点
調査地点は,表-2に示すとおりであり,以下の考えに基づき決定した。
 a 水質調査
水質調査地点は,以下の点を勘案のうえ選定した。
〈河川の調査地点〉
・直轄管理区間の淡水域·汚濁負荷の流入・公共用水域の水質測定地点
〈ダム湖沼の調査地点〉
・汚濁負荷の流入・利水面の重要性・レファレンス(他の地点との比較)
 b 底質調査
底質調査地点は,原則として代表河川(筑後川)の淡水域最下流部の代表地点とした

 ③ 調査対象物質
 a 水質調査
 (a) 基本調査対象物質
基本となる調査対象物質は、内分泌攪乱作用が疑われている67物質(環境庁「環境ホルモン戦略計画 SPEED‘98」平成10年5月)の中から,年間生産量と環境中での検出状況を勘案して選定し,当初平成10年度調査では8物質に,人畜由来ホルモン(17β-エストラジオール)を加えた9物質とした。その後平成11年度の調査では,スチレンについては平成10年度調査において全国的にもほとんど検出されなかったため調査対象物質から除外され,平成11年度は8物質とした。
 (b) 追加調査対象物質
代表河川(筑後川)においては,環境庁との整合を図る観点から,基本調査対象物質に加えて,表-4に示す14物質を追加調査対象物質(平成11年度はスチレンを除く13物質)として調査した。
 b 底質調査
底質の調査対象物質は,水質調査における基本調査対象物質とした。
ただし,代表河川(筑後川)の代表地点については,環境庁調査との整合を図る観点から,表-4に示す追加調査対象物質,並びにポリ塩化ビフェニール類(PCBs),トリブチルスズおよびトリフェニルスズも対象とした。

(3)調査結果
 ① 水質調査の結果
 (a) 基本調査対象物質の結果
九州管内20水系において,実施した水質調査による基本調査対象物質の検出状況を表-5に示す。その結果,九州管内においては平成10年度4化学物質と人畜由来ホルモン,平成11年度夏期調査では3化学物質と人畜由来ホルモンが河川から検出され,これらの物質は低濃度ではあるが,河川水位中に存在することが確認された。
 (b) 追加調査対象物質の結果
代表河川筑後川の瀬ノ下地点においては,基本調査対象物質の他に追加調査対象物質について調査を実施したが,平成10,11年度通じて,全ての物質において検出されなかった。

 ② 底質調査の結果
 (a) 基本調査対象物質の結果
底質調査については,代表河川筑後川の瀬ノ下地点において平成10年度後期調査より実施しているが,平成10年度後期はフタル酸ジ-2-エチルヘキシル,ビスフェノールAの2化学物質,平成11年度夏期はフタル酸ジ-2-エチルヘキシルの1化学物質が検出され,水質調査の比較して調査地点数は少ないものの,これらの化学物質が底質中にも同様に存在することが確認された。
 (b) 追加調査対象物質の結果
底質調査における追加調査対象物質は平成10,11年度を通じて全ての物質において検出されなかった。

(4)今後の予定
以上のように,これらの調査結果により水環境における環境ホルモンの実態に関する測定結果が得られたところであるが,まだ十分な実態把握がなされたとはいえず,今後継続的な調査が必要と思われる。
また,今後の予定としては,平成11年度実施した秋期,冬期の調査結果を取りまとめた後に公表していく予定である。

4 ダイオキシンについて
(1)ダイオキシンの概要
一般にダイオキシンとは,75種類の異性体を持つポリ塩化ジベンゾパラジオキシン(PCDD)および135種類の異性体持つポリ塩化ジベンゾフラン(PCDF)の総称をいう。塩素の付加する位置や数で毒性の強さが異なり,2,3,7,8四塩化ジベンゾジパラジオキシン(2,3,7,8-TCDD)が最も毒性が強い。環境中で検出されるダイオキシンは,一般に複雑な同族体・異性体の混合物であり,その混合物の毒性は2,3,7,8四塩化ジベンゾジパラジオキシン(2,3,7,8-TCDD)の毒性の等量(TEQ)として表す。
なお,「ダイオキシン類対策特別措置法」においては,ポリ塩化ビフェニール(PCB)の中で毒性の強いコプラナーPCBもダイオキシンとして扱うこととしている(図-1参照)。
 ※異性体:分子式が同じでも構造(構造式)が異なるもの(図-3参照)。

図-2にどんな形の化合物があるかダイオキシンの構造式を示しているが,図中の1~4と6~9位置に塩素が付いたものがダイオキシンである。塩素の数や付く位置によっても形が変わるので,PCDDは75種類,PCDFは135種類ある。
最も毒性が強いといわれる2,3,7,8-TCDDはPCDDの2と3と7と8の位置に塩素が付いたものである。
ダイオキシンの性質としては,無色無臭の個体で,ほとんど水に溶けないが,脂肪などには溶けやすい。また,ダイオキシンは他の化学物質や酸,アルカリとは容易に反応しない安定した性質を持っており,太陽からの紫外線で徐々に分解されることもわかっている。
ダイオキシンは意図的に作られることはなく,炭素・酸素・水素・塩素が熱せられるような工程で意図せずに作られる。ダイオキシンの主な発生源は,ごみの焼却による燃焼工程等の他,金属精錬の燃焼工程や紙などの塩素漂白などさまざまなところで発生すると考えられている。

(2)ダイオキシンの毒性
ダイオキシンの毒性については,動物実験により以下のような毒性が報告されている。
 ① 急性毒性
ダイオキシンを一度に大量に接種した場合の毒性を急性毒性という。最も毒性が強い2,3,7,8-TCDDを用いて動物実験が行われており,急性毒性があることがわかっている。
 ② 慢性毒性
長い時間をかけて摂取することによって現れる毒性を慢性毒性という。動物実験により発ガン性体重減少,胸腺萎縮,肝障害,心筋障害等が報告されている。

(3)河川におけるダイオキシンに対する取り組み
平成12年1月より施行された「ダイオキシン類対策特別措置法」において,河川の水質・底質における環境基準の設定や監視についても規定されており,今後関係機関と連携して公共用水域の水質・底質中のダイオキシン類の実態調査を実施するとともに,河川における監視地点の選定等の測定方針の考え方について検討を行っていく。

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