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大村湾南部流域下水道事業について

長峙県土木部 下水道課
 総括課長補佐
八 尋 龍太郎

長崎県諌早土木事務所 都市計画課
 下水道班係長
木 下 健一郎

1 はじめに
長崎県の下水道事業は,昭和24年に佐世保市が着手して以来暫時増加し,平成11年度末現在で27市町(全県下市町村は79)が事業を行っている。本県の下水道普及率は平成10年度末で40%(全国58%)であり,全国順位は25位である。
本県は,四方を海に囲まれ豊かな自然と景観を有しているが,急速な都市開発や生活環境の変化により,公共用水域の水環境は悪化するばかりである。大村湾,有明海,伊万里湾,長崎湾といった閉鎖性海域沿岸には人口が集中していることもあり,特に水質悪化が懸念されている。

2 大村湾の水質と下水道
県中央部に位置する大村湾は,極端な閉鎖性海域で,昭和51年度以降毎年水質環境基準を超過している。湾奥部の東大川河口水域は平成10年度県内海域ワースト1の水質であった。最近の大村湾の水質と下水道の整備状況を図-2に示すが,水質環境基準2mg/ℓ(COD)に対し,2.6㎎/ℓ前後である。これは,大村湾沿岸市町下水道整備促進により辛うじて大村湾の水質を現状にくい止めていると解釈した方が良いであろう。
平成10年度末大村湾沿岸の下水道普及率は51%と県平均を大きく上回っている。また,平成11年度に西彼町が着手して大村湾沿岸3市8町すべてが下水道事業を行うことになった。さらに,大村湾南部流域下水道事業の一部供用開始を平成12年3月31日に行い,より一層の水質浄化が期待されているところである。

3 事業概要
県内唯一の流域下水道で,大村湾奥部流域の2市1町(諌早市,大村市,多良見町)にまたがる区域を長崎県が平成5年度より事業に着手し,平成12年5月23日(火)に通水式を行った。
全体計画は,区域1,771ha,人口72,000人,日最大汚水量49,900m3/日で,平成22年度に完成予定である。そのうち事業認可は,区域767ha,人口33,800人,日最大汚水量21,500m3/日であり,平成12年度には,認可の延伸・拡大の予定である。
処理方式は,活性汚泥法で,流入水質BOD200mg/ℓの汚水を放流時には20mg/ℓ以下にする計画である。処理場の運転は,下水道公社に委託しているが,現在2mg/ℓの放流水質を保っている。幹線管渠は,工法,維持管理費等考慮し,自然流下方式としたため,流入地点においては地下22mの深さとなっている。延長はL=5,390mである。

処理場施設は,管理棟(地上3F),ポンプ棟(地下4F,地上2F),水処施設(地下1F,地上1F),汚泥処理棟(地下1F,地上3F)があり,うち管理棟,ポンプ棟および水処理施設の土木4/8系列が完成している。汚泥処理棟も平成12年度中には完成する。機械電気関係は汚水流入予測計画により段階的に整備していく。

4 工事経過
平成5年度より測量,設計を開始し,平成6年度から平成8年度にかけて用地買収を行った。管渠の工事は平成6年度から行い,現在施工中分も含めると認可分は完成となる。
処理場は,平成8年度より造成工事に取りかかり,ポンプ棟(主ポンプ2/5),管理棟,水処理施設(土木4/8,電気機械1/8)の順に整備を行った。以下に,工夫や苦労した点を少し紹介する。
(1) 管渠は,推進工法(泥水式)で行ったが,その泥水は外部へ処分すると産業廃棄物扱いとなるので,セメント系固化材を使用し改良土として処理場施設や立坑の埋戻土に使用した。
(2) 処理場は,もともと丘陵地で九州電力の高圧鉄塔が中央にあったが,計画地盤まで周囲を下げなければならず,アンカー工により鉄塔の基礎を保護することとした。
(3) ポンプ棟の掘削工事は,アンカー方式親杭横矢板を採用したが,5分の4程度掘削したところで地盤の変位が見られ,緊急に再調査を行いアンカーを増工した。

5 事業の効率化とコスト縮減
平成9年度の財政構造改革により,効率的な事業執行とコスト縮減対策が求められた。丁度その頃,当事業は処理場建設のピークであり,多額の予算が必要な時期であった。限られた財源で平成11年度末の一部供用開始を遅らせないよう知恵を絞った。具体的には,
(1) 緊急性の低い施設を後回しにした。(脱臭施設,自家発電施設,沈砂掻き上げ機等)
(2) 当初流入汚水量を少なく制限し,その分の機械電気設備を後年度回しにした。
(3) 汚泥処理棟とポンプ棟をつなぐ管廊を廃止し,ケーブル類は単独地中化することにより,コスト縮減を図った。
(4) 入札制度の改正により低入札価格調査制度が導入され,結果として従来より安価で工事が完成した。
以上の対策とその後の経済対策により,お陰様で当初予定の通り一部供用開始することができた。

6 今後の課題
処理場施設も概ね完成し,幹線管渠もL=340m残すのみとなり,今後は市・町による面整備に応じて処理場の増設を実施していく予定である。
また,閉鎖性海域である大村湾の水質浄化,特に赤潮の原因となる富栄養化の防止には,窒素・燐の削減が必要となるが,昨年度県の環境部局が大村湾の窒素・燐の類型指定を行った。県下水道課ではそれを受けて今年度から流総計画の見直し調査を行うが,窒素・燐の削減には,下水道の高度処理が有効であるため,環境部局と連携してその必要性を検討していきたい。
将来的には汚泥処理・処分も大きな問題であるが,現在は民間の処理業者に委託して,脱水ケーキを焼却後土壌改良材としてリサイクルしている。市場の動向や最終処分場のストック状況を見極めながら,広域化も検討していきたい。

7 おわりに
長崎県で最初で最後の流域下水道は,下水道技術者養成の意味から,日本下水道事業団に委託せず,直営で積算・施工管理を行った。処理場の維持管理も新たに㈶長崎下水道公社を設立し,県や市・町からの派遣職員で運営を行っている。
ここに来てようやく調査から維持管理までのノウハウを蓄積することができ,今後,市町への指導にも幅ができるものと期待される。
これもひとえに建設省や日本下水道事業団等関係各位のご指導のお陰であり,紙面を借りて厚くお礼を申し上げる次第である。

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