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九州技報 第40号 論文

防災まちづくりの取り組み

九州地方整備局 大野良徳
1 はじめに
近年,台風の上陸や集中豪雨をはじめ,福岡西方沖地震等,全国各地で大きな被害が発生している。平成18年では九州南部の豪雨災害や九州北部の唐津市・伊万里市の集中豪雨等が発生し,改めて日頃からの「備え」が重要であると痛感させられている。
日頃からの「備え」は,まず,地域の住民一人ひとりが,災害時に自ら判断し,主体的に行動が起こせるように,災害のメカニズムや危険性を知り,とるべき行動を身につけておくこと,すなわち自助の精神が必要である。次に,地域コミュニティを基盤として,連絡体制の確立や防災活動等の役割分担を決め,地域全体で助け合う,すなわち共助の精神による地域づくりを進めることが求められる。
武雄河川事務所が管轄する嘉瀬川・六角川が流れる佐賀平野は,低平地の割合が多く有明海に注ぐ河川は潮位の影響を受ける等,大雨が降ると自然排水が困難となり,内水被害が多発している地域である。また,過去に大規模な水害が発生している。内水被害に対しては,排水機場の設置等のハード対策が実施されてきたが,普段のまちづくりや地域コミュニティにおいて,危機管理の観点が十分ではなく,災害に対して弱い地域が形成されている。
このような状況を踏まえ,武雄河川事務所では,自助・共助・公助の連携をより一層推進することが重要と考え,「新たな危機管理対策プラン」を提案している。このプランは,ソフト対策の充実を図り自助・共助・公助の連携を推進することが重要とするもので,“新たな防災情報の活用”と“危機管理を考えたまちづくり”の2つのプランで構成されている。
“新たな防災情報の活用”を進める一方で,平成17年度は“危機管理を考えたまちづくり”に基づき,「マイ防災マップ」を活用した防災まちづくり検討会を提案した。
※危機管理対策プランについては九州技報No.37にて報告
 
2 「マイ防災マップ」
「マイ防災マップ」とは,浸水想定区域図や洪水ハザードマップをベースに地域固有の情報を追加し,地域の防災に関する情報を記載した地図である。

図2-1 マイ防災マップ
 
浸水想定区域図や洪水ハザードマップは縮尺が小さすぎて,自分の家すらも確認できず,地域の人々が使用する防災のための情報としてあまり実用的とはいえない。そこでそれらの縮尺を拡大して自分たちの家を確認できるくらいにし,自分たちの町を自分たちで点検しながら必要な情報を載せていき,地域独自のわかりやすいマップを作成する。
防災まちづくり検討会は,「マイ防災マップ」の作成を通じて,地域住民一人ひとりの防災意識を高めること,自助,共助,公助を基礎とした地域の防災力の向上を図ることを目的とした活動である。防災まちづくり検討会の目標としては,下記のとおりである。
・防災情報の入手方法や避難する際の目安を理解し,自らの判断で避難できる。
・避難場所や避難経路を把握し,自ら避難できる。
・地域において助け合いの体制ができる。
・地域で日頃から防災体制について話し合い,地域の防災力向上に寄与する。
武雄河川事務所では,平成17年度にモデル地区での実施により検討を行い,どういった進め方あるいは効果があるのかを明らかにしていった。この検討結果をここに紹介する。


3 防災まちづくり検討会の実施
「新たな危機管理対策プラン」の推進を図るために,平成17年度は,広域ハザードマップを公表している六角川流域の中から危機管理を考えたまちづくりの実践地区として公募を行いその結果,5つの地区において,「マイ防災マップ」の作成を含んだ防災まちづくりを実施した。実施概要については表3-1の通りであるが,久津具地区,掛橋地区,東・西宮裾地区においては合同で検討会を行っているので,事務所の体制としては,3班編制で検討会に望んだ。
検討会は地域の方々が参加しやすいワークショップ形式で行うこととした。
このモデル地区での防災まちづくり検討会を実施する上で,当事務所では度々各班の担当者間で打合せを行い,経過の報告と進めていく方向性を検討した。3班とも地域の規模,特徴,参加者の視点等に違いがあり進め方や成果物にそれぞれ個性が表れ,それらを最終的に整理を行い,検討することで,防災まちづくりの適切な進行やまとめ方及び具体的なノウハウを見いだした。その結果をふまえ4章では防災まちづくり検討会の一連の工程について示す。

図3-1 防災まちづくり検討会のようす
 
表3-1 防災まちづくり実施地区


4 防災まちづくり検討会の進め方
防災まちづくり検討会の基本的な流れと概要を示すと表4-1のようになる。概ね,6つの段階を経ることで地域の課題を知り,対処方法を具体的に検討できるようになっている。各段階の目的を理解し,地域の実情に合う内容とすることが重要である。また進め方としては基本的に地域の方々に作業をしてもらうことが前提であり,無理に進めていくよりも,対話をしたり,きっかけをつくって導いていくことが重要である。
各段階の内容を簡単に説明していくと次のようになる。
表4-1 検討会の基本的な流れ

4.1 検討会の進め方を決める
防災まちづくり検討会の立ち上げにあたり,対象地区,参加者及びリーダーを決める。また,検討会の内容,スケジュール,話し合う方法等を決める。検討会を進めていく上で,参加者の理解を深め,作業を円滑に進めていくために,話し合いの進行役,まとめ役となるリーダーの存在が重要である。スケジュールについては,平成17年度は6ケ月から8ケ月かかり,検討会の開催は月に1回程度が適度と思われる。
4.2 地域の変遷と現状を把握する
目的としては,自分たちのまちの危険箇所を知ることはもちろんのこと,過去の災害を再確認及び共通の認識として図面におとすことにより,明確に記録として整理することができ,地域住民の危機管理意識の啓発につながる。その方法として,過去の災害時写真と現在の平常時写真を図面上で並べて貼り付けたり,川周辺を後背地まで広く断面図で表したり,水害経験者宅に聞き取り調査を実施するなど,さまざまな工夫を行った。

図4-1 過去の災害写真をみながら検討

図4-2 河川から背後地までの断面図

  

4.3 課題を抽出する
地域の変遷と現状を把握した上で,防災上の問題点を抽出する。情報収集や避難行動など基本的な事項を改めて確認することで,参加者一人ひとりの課題と地域の課題が共通認識として得ることができるので,付箋やアイコン等を利用して,意見を出しやすくしたり,消防団や行政機関へのヒアリングを行ったりと,さまざま意見を抽出することが重要となる。ここでの作業が次の「まち歩き」と「課題の解決する方策」に反映されてくるので十分な話し合いと整理が必要となる。
4.4 まちを歩く
防災の観点から,危険箇所の状況や避難所の場所・状況,避難経路の位置・安全性等について実際に歩いて確認し,自分たちのまちの情報を共有する。記録にはアイコンを使った現場写真の撮影を行い,まち歩きの結果を図面上で写真及び手書きで整理する。夜間のまち歩きの実施も昼と夜の危険の違いを認識する上で効果的である。

図4-3 アイコンカードを利用した記録
 
4.5 課題を解決する方策を考える
まちの課題に対し,まち歩きの結果や話し合いの結果を踏まえ,解決策を提案する。解決策は地域の課題により様々だが,基本的には当初の目的である,「マイ防災マップ」の作成は欠かせないものである。これまでの検討結果を考慮し,地域の防災上必要な情報を分かりやすく載せる。また,防災意識の向上,啓発の観点から,4.2章において検討した,「過去の災害履歴マップ」や「現在の危険箇所マップ」の作成も方策の一つである。平成17年度の例から見ると,避難の目安となる基準地点を設置,地域版の防災計画書の作成,自主防災組織の立ち上げ等がある。
4.6 見直し・継続
これまで検討してきた事項や成果物について,風化していくことがないように周知・配布及び継続的見直しが重要となる。つまりマイ防災マップや地域版防災計画書を防災訓練,水防活動,避難活動の活用し,問題点を抽出し,定期的に見直しを行うという継続的な体制をつくることが一番のポイントとなる。

図4-4 継続的な体制


5 今後の防災まちづくりに向けて
今回の検討会では,マイ防災マップや地域防災計画書等を作成することにより,災害時の対応を地域で考えるきっかけができ,地域のコミュニティを活用して地域防災力の向上を図ることを目的としたが,さらに進んで,この活動を地域の日常にも広げていき,日常と非日常(災害時)の両面に対応できるよう工夫することにより,非日常を身近に感じることができ,地域防災を効果的に更に向上させることができると考えられる。また,防災まちづくり検討会において,市とも連携をとり実施したことにより,地域・市・国の意見の共有が大変重要であることを痛感させられた。それに伴い,今後の課題として県も巻き込んだ検討会を実施していくことで,関係機関の意思の共有が図れ,行政間においてもより良い連携が図れると考えられる。

 
武雄河川事務所では,今回の検討を生かし,平成18年度には新しい地区での開催と,平成17年度開催した地区での継続的なフォローアップを行っているところである。平成18年度の実施地区は嘉瀬川水系で2ケ所(鍋島地区,嘉瀬地区),松浦川水系で2ケ所(山本地区,宿地区)である。また平成17年度に実施した六角川水系に関しては,検討会を実施した地区をモデルとして,徐々に広めていく予定である。
フォローアップとしては,平成18年度は出水も多く,防災まちづくりの効果を当事務所に報告してきた地区もあり,地域の防災に関する意識や地域コミュニティの向上がみられ,反省点も多く出てきたが反省点を踏まえた見直しも行われており,これらも含め防災まちづくりの効果は顕著に見られた。実施した地区の方が感じた効果や反省点および反省点を踏まえた改善策を以下に記述した。
(効果)
・防災に関する意見が多くなった。
・区民集会の参加者が増加した。
・行政機関の窓口が明確になった。
・災害時の対応がやりやすくなった。
(反省点と改善策)
・災害弱者について,個人情報保護の観点からマップには載せず,位置づけもうやむやになっていた。今後は民生委員を活用した体制を考えている。
・設定していた水位の目安のポイントが,実際内水被害が起きたときに意味のないところに設定していた。この失敗を基に,危険度予測として最適な場所に新たに設置した。
・自主防災組織を結成したが,あいまいな点が多く出水時に対応が遅れたり,収集人員,活動内容に不備があった。これより,連絡系統の明確化と体制の見直しを行った。
防災まちづくり検討会で一番大切なことは,地域の方々に自分たちで作業させることである。今回紹介した検討会の進め方も1例に過ぎず,地域の特色に応じて進め方も様々であるが,できるだけ地域の方に考えてもらい,動いてもらうことで,意識は向上し,防災意識または組織自体の継続性に発展していく。この地域一人ひとりの意識がないことには,各行政機関が行っているハード事業やソフト対策が十分な効果を発揮することはないだろうと思われる。

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