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新石垣空港整備事業における「住民合意形成」と「環境対策」

沖縄県 八重山支庁
 新石垣空港建設課
 主任技師
安座間  猛

1 新石垣空港の必要性
石垣島は、沖縄本島那覇市の南西約410kmの東シナ海に位置し、沖縄県内では沖縄本島、西表島に次ぐ3番目に大きな島です。島の中心部には亜熱帯地域の代表的な森林が広がり、カンムリワシ等の希少な野生生物が生息し、沿岸部には発達したサンゴ礁など、亜熱帯地域の優れた自然環境を有していることから、平成19年8月1日に石垣島の一部が西表国立公園に編入され、公園名称が「西表石垣国立公園」となっています。
また、石垣島は、八重山圏域(石垣市、竹富町、与那国町)の政治、経済、教育、交通の中心地となっています。
現在の石垣空港は、那覇、宮古、与那国、波照間の県内路線の他、東京、大阪、神戸の本土路線や台湾から不定期チャーターの国際路線運航があるなど、八重山圏域の基幹空港となっています。平成17年度の利用実績では、乗降客数189万人、取扱貨物量11,048トンで、全国の第三種空港の中で、共に1位と非常に利用度の高い空港です。
しかしながら、現在の石垣空港は、滑走路が1,500mのままジェット化されているため、一部の路線では重量制限等を行って運航しており、非効率的な航空輸送だけでなく、利便性においても不便を来たし、農林水産業及び観光産業の発展に障害となっています。
また、現空港の周辺は市街化が進み、航空機騒音問題が及ぼす住環境や教育環境への悪影響が重大な問題となっています。
これらの課題を解消するとともに、今後とも増大が見込まれる航空需要に対し、八重山圏域の振興発展を図るため、中型ジェット機が就航可能な2,000m滑走路を有する新空港の早期開港が望まれているところです。

石垣島と新石垣空港の位置図

現空港と新空港の比較

2 住民合意形成プロセス
2.1 行政主体の位置選定
建設位置選定にあたっては、昭和51年に白保海浜地先案を選定し、昭和57年3月に「白保海浜地先」として設置許可を得ていましたが、新石垣空港といえば「環境問題」をすぐに連想する人が多いと思われるほど、白保のサンゴ保全のための建設反対運動が全国的、世界的に展開されました。
これまで自然保護団体からの反対運動や農政上の問題を理由とした建設候補地住民の大規模な反対運動に発展し、位置選定にあたっては、20年以上翻弄され続けてきました。
2.2 住民主体の位置選定
建設位置選定については、これらの経緯を踏まえ、地元での合意が得られる場所で、建設を進めることが早期建設に繋がるとの共通認識のもと、地元関係者を中心に自然保護団体、学識経験者等を委員とする「新石垣空港建設位置選定委員会」を平成11年6月に設置して比較検討が行われました。

これまでの経緯

候補地選定にあたっては、空港計画としての妥当性、環境保全上、農政上の課題を中心に比較検討を実施しました。その中で、海域の埋め立てを伴わず、農地の潰れ地面積が少ない等、最も望ましい建設位置として「カラ岳陸上案」が委員の合意で選定されました。
建設位置選定にあたっては20年以上紆余曲折がありましたが、その選定プロセスについて報告します。
新石垣空港建設位置選定委員会は地元関係者を中心に自然保護団体、学識経験者等を委員とする総勢36名の委員による審議を公開して行い、公平性、透明性を高めるとともに、全会一致を原則として比較検討が行われました。

現石垣空港と教育施設・市街地との位置関係

候補地については、石垣島の地形条件から、これまでの蓄積されたデータを基に、空港建設が可能である場所として、①カラ岳東側案、②カラ岳陸上案、③宮良案、④冨崎野案の4つが対象となりました。なお、現空港の拡張については、拡張予定の北側に国指定の遺跡があること、南側は市街化が進み大規模な移転補償が伴うこと、現空港周辺は航空機騒音による住環境が悪化していること、周辺住民より強い拡張反対の要請があること等により、滑走路延長が困難であることから、委員会の冒頭で説明がなされ候補地からは外されました。

空港建設候補地(4案)

建設位置決定には、委員長を除く35名の委員で評価の集計が行われ、「カラ岳陸上案」を支持する委員が、31名と多数でありましたが、位置選定は多数決ではなく、全会一致を原則とするため、再審議を行いました。そこで同案を支持しない委員の意見を求めた結果、再審議では一人の委員が同案の選定に反対しましたが、最終的には、白保海域の自然環境に負荷を与えないよう位置の調整や工法等を検討するという条件を付すことで、同案の選定を尊重するとし、「カラ岳陸上案」は委員会で選定されました。
地元関係者を中心に委員を選定し、結果として委員の合意形成を得ることができましたが、委員の選定にあっては、非常に難航した経緯があります。これまで建設予定地としてあげられ反対してきた地元の代表者は、「計画を受け入れさせることが目的の地元参加である」と受け止め、「アリバイ作りのために地元を参加させるものだ」と認識し、当初の委員会は一部の地元代表者がいないままでの開催となりました。
このことは、これまでに行政と地元とが築きあげるべき『信頼』という非常に重要な課題を欠如してしまっては合意形成を構築する始まりの舞台に立つことさえ困難であるということを示しています。信頼の崩壊は一瞬にして起こるものであるということ、一度壊れてしまった信頼を再構築することは難しく、構築するためには、長い時間と労力をかけなければ築けないものであるということを強く認識させられました。
2.3環境影響評価のプロセス
新石垣空港の事業地およびその周辺では、天然記念物や希少種などの様々な動植物が生息・生育が確認されるとともに、周辺の海域では多様なサンゴ礁が広がっています。新石垣空港の整備にあたっては、これらの豊かな自然環境保全を図ることを最優先の目標として取り組んでいます。
新石垣空港整備事業に係る環境影響評価の手続きを進めるにあたっては、方法書等の作成ならびに公告縦覧後に提出された意見に対し、適切な指導及び助言等を得るために様々な委員会を開催して検討を重ねてきました。例えば、環境全般については、地元自然保護団体を含む学識経験者で構成する「新石垣空港環境検討委員会」の設置をはじめ、赤土等流出防止対策の検討にあたっては、「新石垣空港建設工法検討委員会」、小型コウモリ類についてはさらに専門性を高めた、「新石垣空港小型コウモリ類検討委員会」を設置して、環境影響の回避・低減措置を図るよう検討を重ねてきました。
現在は、事業が開始されましたので、事後調査として、環境全般の「新石垣空港事後調査委員会」、地下水保全や赤土等流出防止対策に係る専門部会である「新石垣空港建設工法モニタリング委員会」、小型コウモリ類の専門部会である「新石垣空港小型コウモリ類検討委員会」をそれぞれ設置して、環境モニタリングや事後調査を行い、周辺環境に配慮して工事を進めています。

事業計画図

2.3 新石垣空港整備基本計画とPIの実施
国土交通省航空局が平成15年4月「一般空港整備計画に関するパブリック・インボルブメント(PI) ・ガイドライン(案)」をとりまとめるのに先駆けて、空港整備事業としては全国初の試みとして、平成15年1月にPIを実施しました。
現在では、福岡空港の「福岡空港の総合的調査に係るPI活動」や那覇空港の「りっかPIさな!(さあ、PIしましょう)」のフレーズでPIを実施していることもあり、PIの認知度も高くなりつつありますが、日本においてはまだその取り組みが浸透していないのが現状ではないかと思われます。
PIは、「新石垣空港整備基本計画(案)」の策定に関して住民意見を幅広く計画に反映させる目的で実施しました。
PIにより寄せられた意見は、自然保護団体を含む地元関係者を中心に設置した第3者機関である「新石垣空港整備基本計画協議会」において公開にて審議を行い、意見の集約を図っています。その結果を県知事あて報告し、事業者見解を付して公表しています。
意見は、全国から752通提出されており、建設推進の意見と建設に問題があるとする意見とに分類して審議を行っています。
建設推進意見として全体意見の65%にあたる489通の主な内容は次の通りでした。
①現空港は暫定的であり、地域発展のため早期建設が必要、②民主的手法で選定したカラ岳陸上案の基本計画に問題なし、③現空港は滑走路が短く危険である、④騒音で学習環境に影響がある。
計画案に問題があるという立場の意見として、全体意見の34%にあたる252通の主な意見は次の通りでした。
①動植物等自然環境への影響が大きい、②現空港の拡張や代替案の検討、③位置選定の手法がおかしい、④需要予測は過大、自然環境の破壊は観光客減少を招く。
基本計画策定にあたりPIを実施したわけですが、その前にも、ホームページ上での新石垣空港建設に対する「アンケート調査」の実施(平成13年3月~5月)、「郡民全所帯へのアンケート」の実施(平成13年12月~翌年3月)や八重山郡民の住民主体の運動による「新石垣空港早期建設1万人意見広告」を実現しています。(平成17年度国勢調査による八重山圏域人口は5万1千人)
住民主体の運動にまで発展できたことは、住民合意形成に向けたPI等の様々な取り組みが住民参画を促すことができた結果だと考えます。

これまでの経緯

※パブリック・インボルブメント<Public Involvement(PI)>:空港整備計画の検討段階において、空港整備主体が関係地方公共団体と連携して、主として対象事業を行う空港の所在または周辺地域住民、空港利用者等のPI対象者に情報を公開した上で、広く意見を把握し、計画策定過程にPI対象者の参画を促すことをいう。

3 空港整備における環境対策
新石垣空港の事業地及びその周辺では、天然記念物や希少種などの様々な動植物の生息・生育が確認されているとともに、周辺の海域へでは多様なサンゴ礁が広がっています。
新石垣空港の整備にあたっては、環境影響評価書に基づき環境保全対策を適切に実施するとともに、専門家の指導・助言を得ながら、これらの豊かな自然環境の保全を図ることを最優先の目標として取り組んでいます。
「自然環境に配慮した空港整備をめざしたその取り組み(環境対策)」に関して報告します。 
3.1 赤土等流出防止対策
降雨時には、事業実施区域外の南側にある轟川から赤土等が海域へ流出しています。轟川流域の耕作地(サトウキビ畑等)が主な発生源となり、豪雨時の轟川のSS濃度は1600~2500mg/lにもなります。

降雨時の轟川の現状

赤土等流出防止対策については、赤土等流出防止対策技術指針(案)に準拠し、発生源対策(表土保護工)、流出抑制対策(表流水のコントロール:小堤工,流域切り回し水路)、濁水処理対策(立坑,浸透池・仮設調整池の設置)を実施しています。

工事施工中の濁水処理のしくみ

3.2 地下水の保全対策
盛土構造内に雨水を地下浸透させる浸透層(ドレーン層)を設置し、空港表面の雨水を現況と同じ地盤中に地下浸透させ、現況の流出機構を可能な限り変化させないようにします。
また、空港南側やターミナル付近の難透水層の区域については、現況の流域を可能な限り変化させないよう轟川や既設の排水路へ排水します。
空港の雨水を空港内で地下浸透させるという工法は、沖縄県の他空港においても実績があり、最近では新多良間空港整備の際にも雨水の地下浸透により、赤土等流出防止対策と地下水保全を図っています。

地下水保全のしくみ(イメージ)

3.3 貴重植物の保全対策
空港建設地内で確認された貴重な植物の一部については、事業実施区域周辺の適地に移植することにより、個体の生育を確保しています。
移植の実効性については、試験栽培において①生育環境調査、②自然条件の調査(日照、風、土壌等)、③播種、挿し木、株分けを実施しながら試験の検証をして、より高い移植手法の検討を行いながら保全対策を実施しています。

3.4 小型コウモリ類の保全対策
空港建設地内の洞窟には、貴重な小型コウモリ類が生息しています。これらのコウモリについて、空港建設による影響を回避、低減するために以下の保全対策を実施します。
1)採餌場や移動経路としての緑地(グリーンベルト)を創出(幅50m程度)
2)出産・哺育時期や休眠時期は騒音・振動の影響を低減するため、騒音・振動を大きく発生させる重機による作業を回避
3)小型コウモリ類が利用可能な人工洞の設置

3.5 ビオトープの創出(ハナサキガエル類の保全対策)
空港建設地内では、オオハナサキガエルやコガタハナサキガエルが確認されています。空港建設によって、ハナサキガエル類の産卵場や幼生の生育場所として重要な水辺の環境が消失されることから、ハナサキガエル類をはじめとする水生生物や水辺を好む植物に係る環境保全対策としてビオトープを創出します。

4 おわりに
本整備事業においては、サンゴ礁をはじめとする石垣島の豊かな自然環境の保全(赤土等流出防止対策、貴重な動植物の保全対策、地下水の保全対策等さまざまな自然環境への配慮)を目的として、「環境検討委員会」、「建設工法検討委員会」及び「小型コウモリ類検討委員会」において多くの専門家による指導、助言をいただきながら検討を実施してきました。
空港の位置選定から整備計画に至るまで様々な住民合意形成のプロセスを経て、ようやく八重山郡民念願の飛行場設置許可を平成17年12月19日に受けました。地元紙では号外が発刊されました。そして、平成18年10月20日に新石垣空港の起工式が建設地において開催され、起工式典には内閣府、国土交通省始め国の関係機関、国会議員、県議会議員、地元関係者、市町関係者、県関係者など合計約600人の方に出席いただきました。
これまでに述べてきた課題等についてさらに検討を重ねていき、より確実性のある自然環境に配慮した工法等を実施設計において選定し、事後調査についても専門家の指導・助言をいただきながら工事を進めていきます。
洞窟を保全しつつ行う25mを超える高盛土工をはじめとして、進入灯橋梁の耐風設計における風洞試験の実施、大規模土工であることから大型重機による施工性の検討等環境面以外の土木技術面においても非常に注目すべき点が多い空港建設となっています。
また、空港整備事業として全国初となるPIを実施しましたが、PIは実施することが目的ではありません。計画の高質化や事業の公平さと透明さを図ることを目的としていますので、その理念に基づき、環境面や技術面そして用地問題等様々な課題がある事業ではありますが、今後とも情報を積極的に発信していきたいと思います。
最後に、これまで御支援、御協力いただいた関係各位に厚くお礼申し上げるとともに、これからはじまる本格的工事についても、一層の御指導、御協力をお願いいたします。

新石垣空港起工式(平成18年10月20日)

参考文献
1) 土木学会:合意形成論
2) 市民参画型道路計画プロセス研究会:市民参画の道づくり
3) 新石垣空港整備事業に伴う環境影響評価書:沖縄県

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