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ヨーロッパにおける情報化施工の現況
独立行政法人土木研究所 藤野健一
1.調査の目的

情報化施工は生産性の向上、熟練技術者不足・技能者不足、発注環境の変化や品質確保の重要性の高まりなどに対応する革新的な技術として期待が高まっている。日本においては、産学官の連携の下、平成20年7月に「情報化施工推進戦略」が策定され、情報化施工の本格的な普及を目指した取り組みが各方面で進められている。
今回、国内における情報化施工の普及に向けた取り組みの参考とするために、近年急速に普及が進んでいる欧州における情報化施工の取り組み状況や技術動向に関する調査を実施した。

2.調査行程

今回の調査は平成21年9月13日~20日の行程で実施された。
訪問先はライカジオシステムズ社、チューリッヒ工科大学(以上、スイス)、スウェーデン道路公社、スカンスカイエーテボリ道路建設現場(以上、スウェーデン)、ライン州道路公社、ボーマク社、ドイツ連邦道路交通研究所(以上、ドイツ)で、
  1. 欧州における情報化施工機器の開発状況等
  2. 欧州における建設現場での情報化施工の導入状況
  3. 欧州における発注機関の情報化施工普及への取り組み状況
を実施した。

3.欧州における情報化施工機器の開発・使用状況について

欧州における情報化施工機器の開発状況については以下の知見が得られた。
  1. 3次元マシンガイダンス(以下、「3D-MG」という。)一辺倒ではなく、GPSやTS(トータルステーション)を使用せず、基準点設定もしくは回転レーザーなどによるキャリブレーションを行う2Dシステムを活用している。2Dシステムの方が安価なこともあり、一般的には販売台数も多く、普及している。
  2. 高度な品質を要求する工事や大規模施工においては、元請企業が下請業者に対して3Dコントローラやユニットを貸し出して高度な施工を実施している。
  3. このとき、2Dシステムを装備している機械であれば、3Dへのアップデートはコントローラの交換やGPSユニットの設置だけで簡単に実施できる。

  1. ボーマク社では土の締め固め、アスファルトの転圧管理のために、ローラーに加速度応答のシステムを搭載し、施工品質の向上を図っている。
  2. ドイツにおいては土の締め固めに加速度応答を利用した検査方法が導入されており、普及を支えている。(技術仕様となっている。)

4.欧州における建設現場での情報化施工の導入状況

  1. 欧州では、バックホウへのガイダンスシステム搭載は一般的になりつつある。(なおこの仕様ではバケットを横方向にチルトする機構が搭載されている。)

  1. 仕上げ形状とバケット位置(X-Y座標)がコントローラ上に表示されるため、位置関係が明確になり、オペレータにとって必須の装置になっている。

  1. ブルドーザーへの3次元マシンコントロールシステム(以下、「3D-MC」という。)も効果が認められ、導入が進んでいる。
  2. 単純な施工においては、2Dシステムだけで十分対応できると考えており、必要に応じて3Dシステムを使用する考え方を採っている。
  3. イエーテボリ市(スウェーデン)では、情報化施工が市の入札条件となっており、全面的に情報化施工が導入されている。
  4. 入札条件となっていることも理由ではあるが、施工業者側もオペレータの操作支援の効果やそれに伴う品質向上、工期短縮などの効果を感じることから情報化施工の普及が進んでいる。
  5. イエーテボリの道路建設現場では、施工現場内での情報通信網が整備されており、事務所で変更した設計図面を稼働している建設機械のコントローラに転送し、修正を行うことまで可能になっていた。

5.欧州における発注機関の情報化施工普及への取り組み状況の調査

  1. 前述の通り、情報化施工導入に積極的に取り組んでいるスウェーデンでは情報化施工が入札条件化されていたり、ドイツでは加速度応答による検査方法が導入されているなど、発注者側も普及に向けた取り組みを行っている。
  2. 施工図については、その取り扱いは国ごとに異なり、発注者が発注図を3次元の電子図面として施工業者に渡しているところもあれば、発注図面を参考図扱いとしているために、施工図面は施工業者側で作成するものと言い切る発注者もいた。
  3. ドイツでは発注者側でも3次元CADの導入が進んでおり、3次元データとして発注図を提供できるケースもある。また、これらの情報の利用はドイツのCALSの標準手順である「OKSTRA」によっており、CALSでの情報連携を生かした情報化施工を指向している事が伺えた。

6.おわりに

今回の欧州調査は平成20年度に実施された米国調査に続いて実施されたものである。
米国調査においては、情報化施工の普及に当たって、合理化施工、工期短縮などを達成した請負業者に対するボーナス制度がインセンティブを高めていることなど、日本の制度との違いが影響していることが報告された。今回の調査においても乾燥しているドイツでは土の締め固めに関する加速度応答の相関性が得られやすいこと、岩盤地帯が多く、丁張りを打てない悩みがあった北欧では電子丁張りの導入が品質管理の課題を解決したなど、地域的な影響が情報化施工の普及にも影響を与えていることが明らかとなった。
また、一般の建設現場で情報化施工が珍しくなくなっている欧米諸国に比べて日本国内での導入が立ち後れていることも強く感じた。
現在、日本における導入メリット、特に官側での有効な活用方策についてはまだすっきりとした方向性が見いだせていないように感じられる。今後の積極的な普及を行う上でも官・民それぞれの主体の導入効果を明確化し、応分な負担を行いつつ、国際的な技術競争力を確保・向上するためにも情報化施工の普及を進めていくことが肝要である。

謝辞
本稿を執筆するに当たり、調査および資料提供にご協力頂いた立命館大学建山教授、(社)日本建設機械化協会および同情報化施工委員会等、ライカジオシステムズ(株)、ボーマクジャパン(株)の関係者各位に厚く御礼を申し上げます。

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