一般社団法人

九州地方計画協会

  • 文字サイズ
  • 背景色

一般社団法人

九州地方計画協会

  •                                        
【特集】平成29年7月九州北部豪雨災害について
寺内ダムの防災操作について
坂井勲
松浦旬

キーワード:線状降水帯、防災操作、異常洪水時防災操作回避

1.はじめに
平成29 年7 月5 日、福岡県から大分県で線状降水帯の形成に伴う豪雨により寺内ダムが位置する佐田川流域で記録的な降雨となり、寺内ダムでは管理開始以降最大の流入量(約888m3/s)を記録したが、約1,170 万m3をダムに貯留し、ダム下流に流す流量を最大で約99% 低減させて下流河川の水位上昇を抑制し、佐田川における浸水被害を軽減した。
本稿は、平成29 年7 月九州北部豪雨における寺内ダムの防災操作と効果について報告する。

2.寺内ダムの概要
寺内ダムは福岡県朝倉市の筑後川水系佐田川に位置する中央コア型ロックフィルダムで、①洪水調節、②都市用水の供給、③かんがい用水の供給、④流水の正常な機能維持を目的とする多目的ダムであり、昭和53 年6 月から管理を開始している。
寺内ダムの洪水調節計画は、1/150 年の超過確率でダムに流入してくる流量300m3/s(計画高水流量)のうち180m3/s をダムに貯留し、一定率一定量方式によりダム下流へ最大120. /sを放流する計画となっている。
放流設備は、主放流設備であるオリフィスゲート(摺動式ラジアルゲート)が1 門、非常用放流設備であるクレストゲート(越流式ローラゲート)が2 門あり、通常の洪水時はオリフィスゲートのみで操作を行っている。なお、オリフィスゲートの敷高はEL.113.00m であるが、クレストゲートの敷高は平常時最高貯水位のEL.121.50m、ゲート天端高は洪水時最高水位のEL.131.50m となっている。

3.寺内ダムの洪水時防災対応
3.1 流域の降雨状況
九州北部地方では平成29 年7 月5 日から6日にかけて線状降水帯による猛烈な降雨を記録した。寺内ダム流域においても7 月5 日7 時~ 6日4 時までの流域平均雨量は累計約426㎜、時間雨量は7 月5 日12 時~ 14 時まで2 時間連続で約50㎜、14 時~ 16 時まで2 時間連続で100㎜を超える降雨を記録し、12 時~ 16 時までの4 時間で300㎜を超える降雨を記録し、九州で初めて大雨特別警報が発令される事態となった。

3.2 寺内ダム防災操作の概要
平成29 年7 月九州北部豪雨における寺内ダムの洪水調節を図- 5 に示す。ダムへの流入量は7月5 日13 時頃から急激に増加し始め、14 時10分に流入量が洪水量(90m3/s)を超えたため洪水調節を開始し、15 時00 分に流入量が計画高水流量(300m3/s)を超え、16 時10 分に計画高水流量の約3 倍となる約888m3/s の最大流入量を記録した。(管理開始以降最大)
最大流入時のダム放流量は約10m3/s であり、約99% に当たる878m3/s の洪水をダムに貯留し、総量では洪水調節容量(700 万m3)の約1.7 倍に当たる1,170 万. の水量をダムに貯留してダム下流域における洪水被害の軽減を図った。この防災操作によりダム貯水位は洪水時最高水位(EL.131.50m) まであと57cm に迫るEL.130.93m まで上昇した。この防災操作中には貯水位が洪水時最高水位を超える予想もあったことから、ダムの放流量を流入量の範囲内で計画最大放流量(120m3/s)(以下「本則操作」という。)以上に増加させる異常洪水時防災操作の可能性があったが、雨量レーダ、下流河川水位等の状況判断を綿密かつ適時に行った結果、異常洪水時防災操作開始水位(EL.129.80m)を超えても本則操作を継続し、異常洪水時防災操作を回避することができた。

3.3 寺内ダム防災操作の特徴
今回の防災操作の特徴として、次の点が挙げられる。

1)渇水傾向による空き容量の利用
洪水前の貯水位が通常の水位より低く、洪水調節容量700 万m3に空き容量約500 万m3を加えた約1,200 万m3の容量を利用して洪水調節を実施することができたことが本則操作で対応できた要因と考えられる。なお、洪水前の貯水位が平常時最高貯水位付近であった場合は洪水調節容量が不足し、異常洪水時防災操作への移行は避けられなかったものと考えられる。

2)急激な流入量増加への対応
猛烈な降雨により急激な流入量の増加に対して、流入量の時間的な増加割合を限度とした急激放流を実施したことで通常のステップ放流に比べて約1 時間早く計画最大放流量(120m3/s)に到達させることができたことが、結果としてその後の異常洪水時防災操作の回避にもつながったものと考えられる。

3)異常洪水時防災操作の回避
異常洪水時防災操作については、最大放流量を出来るだけ抑制して可能な限り洪水調節容量を最容量を最大限利用して貯留する操作方法について限られた時間内で検討を行うとともに、雨量レーダや下流河川水位等に基づく状況判断を綿密かつ適時に行った結果、本則操作を継続し異常洪水時防災操作を回避することができた。

4)防災操作中に発生した水位計不具合への対応
寺内ダムでは右岸取水塔付近に設置している主水位計と堤体上流左岸付近に設置した副水位計のほか、目視計測できる量水標を備えている。今回、7 月5 日22 時直前に主水位計と副水位計の値に乖離を確認したため、量水標と一致する副水位計に切り替えて防災操作を継続したが、7 月7 日15 時頃に副水位計と量水標の値に乖離を確認したため、16 時から10 分毎に量水標で目視確認での操作を継続し、翌8 日に応急対策として仮設電波式水位計の設置確認をした20 時まで量水標目視確認でのダム操作を行った。

3.4 異常洪水時防災操作回避に至る経緯
寺内ダムの異常洪水時防災操作開始水位は洪水調節容量の8 割水位であるEL.129.80m あり、今回の防災操作では7 月5 日19 時頃に異常洪水時防災操作に移行する可能性があったが、ダム下流基準地点である金丸橋水位のピーク(16 時40分)の3.5m(避難判断水位)から若干低い3.4m前後で推移しており、ダム放流量を本則操作から大きく増加させた場合には佐田川の氾濫を招く恐れがあった。このため、貯水位が異常洪水時防災操作開始水位を超えた後の操作は下流河川の状況を確認しつつ、放流量の増加を抑制しながら本則操作120m3/s に+ 100m3/s を限度に洪水調節容量を最大限使う操作を行うこととしていた。
 ①洪水時最高水位-0.5m のEL.131.0m に達した段階でオリフィスゲート放流からクレストゲート放流(120m3/s)に切り替える。
 ②洪水時最高水位EL.131.50m に到達まではクレストゲート放流を継続する。
 ③洪水時最高水位に到達後は流入量の低減を見ながら+ 100m3/s を限度として放流量を徐々に増加させる。
このゲート切り替え操作により本則操作120m3/s を継続した場合の貯留可能な貯水位は洪水時最高水位より約+ 1.0m となる。結果的に貯水位は洪水時最高水位より57㎝低いEL.130.93m(7 月6 日0 時10 分)で止まり、クレストゲートへの切り替え操作を実施することなく本則操作が継続できた。

3.5 寺内ダムの被害軽減効果
今回の防災操作によってダム最大流入時にダム下流に流す流量を約99% 低減し、下流河川の水位低減を図ることができた。仮に寺内ダムが整備されていなければ佐田川において堤防高を大きく上回る洪水となり、浸水面積約1,500ha、浸水世帯約1,100 世帯に被害が発生していたものと推定される。

3.6 寺内ダム貯水池で捕捉した流木と管理設備に発生した不具合
今回の洪水後、寺内ダム貯水池内に多量の流木が流入していることが確認された(推定値約10,000m3)。
仮に寺内ダムが整備されていなければ流木等は貯水池内で捕捉されることなく、下流河川へ流出して大きな被害を生じさせる可能性もあったものと推定される。
また、管理設備等に不具合が生じ、復旧に向けた作業を進めている。
 ・貯水池内への大量の土砂流入
 ・土砂詰まりによる水位観測不能
 ・ダム上流端の護岸流出
 ・内水による放流警報床島局の浸水

4.今後の課題
平成29 年7 月九州北部豪雨による洪水に対して、寺内ダムでは防災操作によりダムへの貯留を行い下流の被害軽減に大きな効果を発揮することができた。
今回の防災操作においては、渇水により貯水位が低下している中で洪水調節による貯留を実施できたことも、異常洪水時防災操作に移行することなく本則操作で対応できた要因のひとつと言える。
近年各地で豪雨の頻発が発生しており、再度今回のような洪水が発生する可能性は否定できない。
このような洪水への対応について国土交通省において「ダムの機能を最大限活用する洪水調節方法の導入に向けたダム操作規則等の点検」が進められているほか、本年6 月には「ダム再生ビジョン」において、既設ダムの長寿命化、効率的かつ高度なダム機能の維持、治水・利水・環境機能の回復・向上など既設ダムを有効活用する「ダム再生」が進められている。
今後とも、ダムの最大限の治水効果を発揮しうる種々の操作を非常時の対応方法として考えていく必要がある。

5.おわりに
本稿においては、平成29 年7 月九州北部豪雨での寺内ダム防災操作におけるダムの効果について紹介した。気候変動により異常洪水が頻発している状況下においても適切かつ確実なダム操作に係る知識、対応能力のさらなる向上とともに、関係機関との連携強化を図り、より効果的なダム管理に努めて参りたい。
最後に、今回の洪水における寺内ダムの防災効果を示すべく、いち早く氾濫解析結果等の情報を提供いただいた国土交通省九州地方整備局、洪水にて生じた管理施設の復旧作業に対しご支援・ご協力を頂いた関係者皆様に対して感謝申し上げます。

上の記事には似た記事があります

すべて表示

カテゴリ一覧