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佐賀導水事業完成
~H21からの管理を目指して~
九州地方整備局 久保朝雄
1 はじめに

佐賀平野は、北の脊振山地、南の有明海に挟まれた6万haを越える広大な平野で、その殆どが有明海の干満の影響を受け、干拓とガタ土(海洋性粘性土)の堆積により形成され、現在も拡大が続いている沖積平野です。
この佐賀平野を流れる河川は、低平地のため河床勾配が緩く小河川が多いため、昔から氾濫や内水による浸水被害が頻発していました。また、山地に比べ平地が広く(全国の国土に占める平地の割合は24%なのに対し、佐賀平野は58%)、山地は低く奥行きが狭いといった特徴があります。水を供給すべき山地が狭く水を使用する平野が広いため、渇水時には水不足による被害を被ってきました。更に、水が不足がちなため地下水の汲み上げが盛んに行われてきたことから、昭和30年代後半より大規模な沈降による窪みが広く知られるようになりました。これらの問題を解決するため、河川改修事業や内水対策事業、ダム事業などの取り組みがなされています。
これら佐賀平野特有の課題である治水、利水、地盤沈下の一助として対処するため、当事務所で整備を進めてきた「佐賀導水事業」が、このたび完成致しますので紹介します。


図-1 佐賀平野鳥瞰図

2 佐賀導水事業の目的

佐賀平野は、北に山地を抱え南に有明海が位置することから、河川はほとんど北から南へ流れるという地形的特徴を有しています。そこで、佐賀導水事業は、洪水時には内水を引き起こす小さな河川の水位低下を図るため、嘉瀬川や筑後川等の比較的大きな河川へポンプで排水し、排水先は距離の近い方の河川としています。更に、佐賀市街部の洪水被害軽減のために、巨勢川調整池で洪水調節を行います。また渇水時には、県東部の筑後川や城原川から水源の少ない県西部へ導水路を使って導水します。嘉瀬川や城原川の河川維持用水として、佐賀西部地域の上水道用水として、更に佐賀市内河川の浄化用水として、南北に流れる河川水を東西方向に水融通させる事業です。
目的毎に整理すると次の4項目となります。まず、治水対策としては、①県都佐賀市を流れる巨勢川及び黒川の「洪水調節」や②低平地である佐賀平野の内水被害を解消する「内水排除」を行います。また、利水対策として、土地改良事業等による農業形態の変化や生活様式の変化に伴う水需要の増加に対して、水源の確保が緊急の課題となってきたことから、③嘉瀬川及び城原川の流況の改善や佐賀市街地の小河川の水質浄化を目的とした「流水の正常な機能の維持」並びに④佐賀西部地域(4市3町1企業団)への「水道用水の補給」を目的に建設を進めてまいりました。


図-2 佐賀導水の位置

3 沿 革

高度成長期を迎えた昭和40年代から50年代に、佐賀平野の中でも規模の大きな筑後川、城原川と嘉瀬川を繋ぎ、治水、利水及び浄化用水をも解決する抜本的対策として佐賀導水事業を計画しました。当時の筑後川工事事務所において、昭和40年佐賀導水事業の予備調査に着手し、昭和48年に設置された嘉瀬川ダム調査事務所において翌昭和49年実施計画調査へと進みました。更に、昭和54年名称変更した佐賀河川総合開発工事事務所において流況調整河川事業として建設に移行しました。


表-3 沿  革

4 計画立案
(1) 洪水調節
佐賀市街地は、有明海の大きな潮汐の影響を受けて中小洪水によっても氾濫する状況でした。そこで、佐賀市内へ流入する主要河川である巨勢川、黒川等の洪水を調節して、佐賀江川の河川改修と合わせた排水対策計画を立案しました。

(2) 内水排除
筑後川から嘉瀬川にいたる内水常襲地区の河川は10河川ですが、このうち内水排除計画の対象となるものは、半バック堤計画の田手川と寒水川、洪水調節計画の対象となっている巨勢川の3河川を除く、通瀬川、切通川、井柳川、三本松川、馬場川、中地江川、焼原川の7河川としました。東佐賀導水路のルートは、内水排除の効果を最大限に発揮する観点から山地と平地の境付近に計画し、既設道路の下を通し極力用地買収を軽減しました。西佐賀導水路のルートは、旧中地江川を活用した開水路方式とし、内水氾濫を導水路に取り込み被害軽減を図ることとしました。

(3) 流水の正常な機能の維持
山が低く奥行きが少ない脊振山系を源にする嘉瀬川及び城原川は、河川維持流量に対して流況が不足する場合があり、この場合は既存の水利用に支障を及ぼさない範囲で導水路にて他河川より補給する計画としました。
また、佐賀市内の河川は緩勾配に加え潮汐の影響を受け、加えて水源となる流入水のほとんどが耕地からの落ち水と生活排水なので、人口増と市街化区域の拡大から市内河川の水環境は劣化の傾向にありました。そこで、筑後川、嘉瀬川の余剰水を流況調整河川を通じて導水し、佐賀市街部の水質浄化に寄与することとしました。

(4) 水道用水の確保
佐賀平野の水需要は、人口集中と産業発展により増加傾向にありました。このような状況に対応するため、筑後川、嘉瀬川等を連絡する導水により水資源確保の一環としました。
特に、白石地区等の西部地域では、過剰な地下水汲み上げにより広範囲で地盤沈下が発生し、水源転換が求められていました。
上記の理由により、治水、利水を解決する抜本的対策として佐賀導水事業を計画したものです。


図-4 治水計画


図-5 利水計画

5 佐賀導水事業の概要

本事業は、平成20年度末の完成を目指して整備を進めているところですが、事業の主な内容は以下のとおりとなっています。
○全体事業費 :995億円
○事業工期:昭和54年度~平成20年度(30年間)
○事業内容
①『治水専用施設』の整備
【巨勢川調整池】
・巨勢川(125m3/s⇒70m3/s)及び黒川(75m3/s⇒0m3/s)の洪水調節施設
・容量:約220万m3、面積:約55ha
【排水ポンプ場】
・東佐賀導水路及び西佐賀導水路と接続する各河川に、計8機場(総排水量72m3/s)を整備。
② 『利水専用施設』の整備
【揚水ポンプ場】
・佐賀西部地域への水道用水(最大0.65m3/s)の補給及び佐賀市内の浄化用水(最大1.2m3/s)の補給並びに城原川(最大0.1m3/s)、嘉瀬川(最大0.3m3/s)の不特定用水(河川維持用水)の補給を行うため、利水ポンプ及び取水施設を整備。
③ 『兼用施設』の整備
【導水路等】
・東佐賀導水路(筑後川~城原川L=13.2㎞)及び西佐賀導水路(城原川~嘉瀬川L=9.8㎞)の全長23㎞(管路27.6km、開水路5.4㎞)の整備等。
・操作室 巨勢川調整池西側に佐賀導水路及び機場、水門等の遠隔操作のための設備。


図-6 巨勢川調整池機場、西佐賀導水路

6 治水と文化財保存の両立

佐賀導水事業の主要施設である巨勢川調整池の掘削工事を進める中で、地上から5mほど掘り進んだほぼ最終段階で貝層や木製品が発見されはじめ、平成15年度より予備調査を行い、縄文時代早期(約7,000年前)の貝塚(東名遺跡)と判明しました。調整池内の南北方向に6箇所の貝塚が確認され、平成16年9月より本格的な2次調査を行い平成19年8月末に無事終了しました。貝塚の貝層から土器石器や動物性遺物が多数出土し、それより低い位置にある縁辺部の粘土層から編みかごをはじめとする多くの植物性遺物が出土しました。最終的には、土坑(貯蔵穴)158基とその多くから編みかごが出土し破片資料も含めると700点以上に上ります。
調査が進むにつれ、規模の大きさや貴重な情報の多さが判明し、東名遺跡の重要性と共に保存への声も高まり、何らかの対策が必要でした。国内の遺跡ではこのような保存例や知見が無かったため、考古学や地質、地下水等の専門家からなる「東名遺跡保存検討委員会」を組織して検討し、貝塚上部をキャッピング(盛土)して酸素を遮断し酸化による劣化を防ぐ工法を採用しました。
おかげさまで関係する皆様のご協力により、治水と文化財保護の両立を図ることができました。


図-7 巨勢川調整池の東名遺跡

図-8 出土遺物①

図-9 出土遺物②

7 IT化の推進

佐賀導水は、複数の河川を結ぶ流況調整河川なので数多くの流域を抱えており、降雨パターンの違いによって操作パターンも無数に想定されるため、限られた予算と人員で確実かつ適切に操作可能とするためにはIT化を進める必要がありました。
約23㎞の導水路のほか、8つの排水機場、調整池及び9つの水門、さらに分水工、制水弁、サイフォン等400を越える施設があり、これまではそのほとんどが人による現地での操作を基本として運用していました。そこで、各施設において遠隔操作装置、運転支援装置、広域監視装置、CCTV設備等の整備を行ったことにより、特に、排水機場については、すべてで遠隔操作が可能となり、操作室からの遠隔操作により運転されています。
また、対象施設が佐賀平野全体に及ぶことからIT化を図ってまいりましたが、拠点となる事務所は、佐賀平野圏域の総合防災拠点として広範囲の河川情報等の収集・解析・提供を担い、防災連携の意味から関係行政機関、利水者と近接することが望ましく、事務所用地の借地期限切れと導水事業の完了に伴い、佐賀市兵庫南地区に新しく管理事務所を設置しました。


図-10 IT化による整備

8 建設中管理

昭和54年4月に建設事業に着手し順次工事を実施していますが、排水ポンプなどの一連区間の施設完了後は、逐次管理運用に入り関係地域への早期効果発現を図っています。建設段階ではありますが、33局の河川等水位及び5局の雨量観測データを基に8箇所の排水機場、48箇所の水門・制水弁等を操作して高水及び低水の管理を行っています。
馬場川機場、三本松川機場は、平成3年度から排水機場試験運転として内水排除を実施しています。当時は現在のように遠隔操作設備が無かったため、警戒体制にはいると職員が各機場2名張り付き、ポンプ操作や排水先河川の巡視を行っていました。その後、順次機場の完成に伴い内水排除を実施し、切通川機場が完成し平成18年出水期からは全ての機場を稼働できる体制となり、現在では全てが遠隔操作可能です。
利水運用としては、平成13年4月に東・西導水路が全川完成したことにより一級河川に指定され、前後して佐賀西部広域水道企業団による取水が開始されました。佐賀県西部地域の水不足解消と地盤沈下抑制に寄与しています。


図-11 巨勢川調整池の効果(H13.7.12出水)


図-12 縫の池復活(H13年)

9 維持管理へ向けて

平成21年からの管理に向けて管理施設の整備と佐賀導水沿川市町との危機管理体制強化のための情報の共有化などの取り組みを行っています。また、ハード整備の完了に合わせて筑後川及び城原川からの導水に向けた関係者への説明と操作規則等のルールづくりを行います。

10 おわりに

佐賀導水事業は、30年間にわたる長い工事期間のすえに無事工事完了しようとしています。これは偏に用地の提供や工事へのご協力を頂いた沿川住民の皆様、関係市町村の皆様のおかげであり、紙面をお借りし改めてお礼を申し上げます。
最後に、佐賀導水事業は佐賀平野の広い範囲において治水や利水等の効果をもたらす事業であり、地域の期待は非常に大きく佐賀平野の水問題解決の大きな一手になるものと確信しています。今後も引き続き、地域住民の安心安全な生活に寄与できるよう的確・確実な管理を目指して努力してまいります。

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