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高耐力マイクロパイルを用いたのり面抑止工の計画と施工

国土交通省 延岡工事事務所
 建設監督官
光 安  勇

株式会社フジタ 九州支店
菊 谷 久 嗣

1 はじめに
宮崎10号寺畑谷第二トンネル新設工事のうち,起点側坑口周辺の切土のり面工事では,グラウンドアンカーによる抑止工法が計画されていた。本切土のり面は,今回施工するトンネルと将来施工する計画であるトンネルを横断する形状で計画されており,アンカー施工前に実施したチェックボーリング結果から地質構成が当初予測と異なることが判明し対策工の見直しが必要となった。
最近,高強度鋼管を用いた高耐力マイクロパイル(杭径が300mm以下の場所打ち杭・埋込み杭の総称)工法が構造物基礎の耐震補強1)などに用いられている。本工法は小口径鋼管を用いることから小型機械での施工が可能で急峻な狭盆地での施工性がよく,従来の同口径程度の地すべり鋼管杭と比較して高耐力が得られることが特徴である。
本稿は,トンネル坑口周辺の切土のり面の地すべり対策工事において,急傾斜かつ狭隘な施工条件を考慮して,高耐力マイクロパイルを抑止杭として採用した背景と設計・施工についてその概要を報告する。なお,高耐力マイクロパイルを抑止杭として採用する工事は全国で初めてとなる。

2 切土のり面の設計
(1)高耐力マイクロパイル採用の背景
本工事では,設計・調査段階において古地すべり崖の分布とボーリング調査によって不安定岩塊の分布が確認され,トンネル掘削に伴い切土のり面が不安定となり対策工の必要性が検討された。
図ー1に現場状況,図ー2にトンネル坑口周辺の切土のり面平面図,図ー3に地質断面と対策工の標準断面図をそれぞれ示す。設計では,崖錐堆積物と強風化砂岩を不安定土塊と想定してグラウンドアンカーによる抑止工が採用された。しかしながら,グラウンドアンカー施工前に実施したチェックボーリングによって不安定土塊の厚さが将来卜ンネル近傍で厚くなり,必要抑止力が増えると同時に,単にアンカー自由長を延長すると将来トンネルの内空をアンカ一定着部が侵すことが明らかとなった。よって,切土のり面のうちグラウンドアンカーが将来トンネルの内空を侵す領域(図ー2の斜線部)において,切土のり面最上段のグラウンドアンカーの長さと打設角度を変更し,不足する必要抑止力を高耐力マイクロパイルによる抑止杭に負担させる計画とした。現地は,図ー1に示すように急傾斜かつ狭隘地であり大型機械での施工は困難で,施工性および経済性を考慮して高耐力マイクロパイルの採用が最も有利となった。

(2)設計
チェックボーリングは,当初設計における地質構造とグラウンドアンカ一定着部の周辺摩擦抵抗を確認することを目的として,図ー2に示したNo.1(将来施工トンネル側),No.4(当初設計断面),No.7断面(今回施工トンネル側)で実施した。その結果,当初設計断面のNo.4断面では想定通りの地質構造が確認されたが,今回施工トンネル側のNo.7断面では不安定土塊が浅く,将来施工トンネル側のNo.1断面では,逆に不安定土塊が厚いことが確認された。よって,今回施工トンネル側では,アンカー自由長を短くする計画としたが,将来トンネル側では,アンカー自由長を長くするとアンカ一定着部がトンネル内空を侵す結果となった。以上から,将来トンネル側のNo.1断面におけるすべり解析は,図ー3に示した上部のすべり面①(崖錐堆積物と強風化砂岩の境界)および下部のすべり面②(強風化砂岩と風化砂岩の境界)においてそれぞれ必要抑止力(計画安全率1.20,全応力解析,複合すべり面(円弧一直線)解析)を算出し,各々のすべりに対して計画安全率を満足する抑止杭を配置する計画とした。なお,すべり面の強度定数である粘着力と内部摩擦角は,今回および将来のトンネル掘削による地山の緩みがすべり面に与える影響を考慮して,想定される物性より値を低減2)3)して計算を実施している。
一方,当初設計でグラウンドアンカーが採用されていた将来トンネル側ののり面には,表層崩壊対策としてロックボルト工と吹付のり枠工を採用した。最終設計におけるのり面対策工の展開図を図ー4に示す。高耐力マイクロパイルの施工数量は杭間隔1.0mで計10本であり,グラウンドアンカー工と併用してのり面小段に施工する計画とした。

表ー1に対策工法の比較表を示す。高耐力マイクロパイルは外径φ178mm,肉厚12.7mmで材質としてAPIN-80(許容曲げ圧縮応力度350N/㎟,許容せん断応力度200N/㎟)を用いていることから,杭間隔1.0mとした場合,従来の鋼管杭の外径φ300mm,肉厚10mm程度に相当し,現地が山岳地で急傾斜かつ狭隘地であり施工ヤードが限定されることを考慮すると,総合的には高耐力マイクロパイルの採用が有利となった。

図ー5に高耐力マイクロパイルの構造図を示す。高耐力マイクロパイルは,杭長19mで非鋼管定着部1mと鋼管定着部1mからなる定着部2mと高耐力鋼管18m(12本1.5m)から構成されている。

3 施工
(1) 高耐力マイクロパイルの施工手順
表ー2に使用材料の一覧を示し,図ー6に高耐力マイクロパイルの施工手順と施工状況写真を示す。施工手順は以下である。
手順①:杭体となる鋼管をケーシングとして,ボーリングマシンで削孔する。
手順②:清水により孔内を洗浄する。
手順③:芯材(異形棒鋼)を挿入し、グラウト注入(一次注入)を行う。
手順④:鋼管を所定位置まで引き上げ、加圧グラウト(二次注入)を行う。
手順⑤:鋼管をグラウト部に再圧入し杭頭処理を行い、高耐力マイクロパイルを完成する。
高耐力マイクロパイルをのり面抑止杭に用いる利点を主に施工面からまとめると以下となる。
・材料および施工機械が小さく運搬が容易なため山岳地,狭隘地での施工に適している。
・ボーリングマシンによる削孔なので騒音や振動が少ない。
・杭径が小さいことから掘削土量が少ない。
・軟弱地盤から砂礫地盤,岩盤まであらゆる地盤での施工が可能である。
・掘削機械の最小施工幅3.5mで,注入プラントと泥排水処理プラントの占有面積が各々50㎡程度(最小幅2.5m)である。

(2)計測工と結果概要4)
高耐力マイクロパイルの抑止効果を確認するために2箇所の杭(計測杭A:No.1断面[設計断面],計測杭B:No.2+3断面[グラウンドアンカー施工側])を対象として,鋼管内に塩ビ管製パイプひずみ計を設置した。図ー7に計測位置を示し,図ー8に,計測結果と設計計算(すべり面①,②)における曲げモーメントを対比して示す。
計測結果から,計測杭AとBでは計測杭Aの方が若干大きな曲げモーメントを示すが,正・負の傾向は一致している。さらに,計測された曲げモーメントの最大値は,設計で想定した上部のすべり面①付近で,約ー10kN·m(計測杭Aで谷側に凸)となり,設計計算結果と比較して約1/ 7程度と小さな値で,地山深部ではほとんど変化がない。切土のり面は,現況で安定していることから,この計測結果は,のり面下段の切土に伴う応力解放によって地山表層の土塊が緩み,その緩み土塊を高耐力マイクロパイルが効果的に抑止している状況を捉えていると考えられ,抑止杭としてその機能を十分発揮していると判断できる。なお,今回の計測結果はのり面下段の切土およびロックボルト工が完了した段階であり,トンネル(下り線)坑口部の掘削は今後実施する計画である。

4 おわりに
本報告では,基礎杭の耐震補強工法として最近注目されている高耐力マイクロパイルをトンネル坑口部の急傾斜・狭隘地における切土のり面抑止杭として,全国で初めて採用した事例を紹介した。今後,制約の多い施工条件下での新技術として本工法の活用が期待される。

参考文献
1)例えば,岸下崇裕ほか:高耐力マイクロによる既設基礎の耐震補強事例,第4回耐震補強・診断技術,耐震診断に関するシンポジウム,土木学会,平成12年7月
2)日本道路公団,設計要領第一集(第1編土工),p.265-266,1998.5
3)高速道路調査会,トンネル坑口周辺の地すべり・崩壊対策に関する研究報告書,1981.1
4)高耐力マイクロパイルを用いたトンネル坑口切土のり面の抑止工と計測,土木学会年次学術講演会,2002.9(投稿中)

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