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地球温暖化と水問題
~アジア・太平洋水サミットin別府~
九州地方整備局 鶴崎秀樹
1 はじめに
 人間活動に起因する地球温暖化に伴う気候変動は、その予想される影響の大きさと深刻さから、人類の生存基盤そのものに影響を与える重要な課題と言われている。その影響は、生態系、淡水資源、食糧、沿岸域と低平地、産業、健康など広範囲に及ぶことが懸念されている。
 特に沿岸域や低平地では、海面水位の上昇、大雨の頻度増加、台風の激化等により、水害、土砂災害、高潮災害等が頻発・激甚化するとともに、降雨の変動幅が拡大(図-1参照)することに伴う渇水の頻発や深刻化の懸念が指摘されている。
 

図-1 年間降水量の変化

 
 こうした中で、気候変動に関する政府間パネルの第4次評価報告書が公表され、温暖化の緩和策には限界があり、緩和策を行ったとしても気温の上昇は数世紀続くことから、温暖化に伴う様々な適応策を講じていくことが重要と指摘されている。
 一方これらの状況を踏まえ、水問題の解決に向けた地球規模での議論の場として「世界水フォーラム」が設置され、さらに中でも影響が大きいと予測されるアジア太平洋地域では「アジア太平洋水フォーラム」が設置されている。このような一連の対応の一貫として各国の首脳が集まり議論する場として「第一回アジア・太平洋水サミット」が別府で開催された。
 本論文では、これらの動きとともに、特に現在日本で議論されている水問題の解決に向けた動きについて紹介するものである。
 
2 第1回アジア・太平洋サミットの開催
 水問題の解決に向けて地球規模でその解決を図るため、「世界水フォーラム」が既に設置され、3年に1度、水問題に関心のあるあらゆる人々が参加し、水問題解決に向けた情報交換を行っている。
 このフォーラムの中で、特に衛生施設(トイレ)や洪水死亡者(世界の洪水死亡者の約8割がアジア地域)さらには、食糧不足(飢えに苦しむ人がアジア太平洋地域に約5億人)等深刻な状況に陥っているアジア・太平洋地域では、解決に向けた取り組みが必要とされ、「アジア・太平洋水フォーラム」の設置が宣言された。この水フォーラムは、実体的にはWEBの中で諸問題を議論することとなっており、それだけでは水問題の解決には至らないため、各国のトップが国の統治の一環として水問題に取り組むため、各国の首脳が集まる会議として「アジア・太平洋水サミット」が開催されることとなった。(図-2参照)
 この記念すべき1回目のサミットが「アジア・太平洋水サミットin別府」である。 
 

図-2 国際的な水問題の動き

 
 今回のサミットでは開催にあたり、開会式で皇太子殿下が「人と水―日本からアジア太平洋地域へ」という記念講演を実施され問題解決に向けた本サミットの重要性をアピールされた。(全文は宮内庁のHPに掲載)
 また、本サミットによる議論のみならず、アジア・太平洋地域の課題である「水供給と衛生」「水と災害」「水と食糧」に関して、学会や市民団体など数多くのオープンイベントも開催され、多くの人々が関心を寄せることとなった。
 なお、九州地方整備局においても、九州において近年頻発している豪雨災害に対する対応や行政・市民団体等が連携し「いい川づくり」を進めている取り組み状況等をアジア・太平洋地域へ発信した。
(写真―1参照)
 

写真-1 

 
3 地球温暖化と水問題
 世界の水問題に関して、従来はどちらかというと衛生面に対する注目が高い傾向が見受けられていた。このような状況の中で、地球温暖化に対して気候変動に関する政府間パネル(IPCC)の第4次評価報告書が発表され、「CO2の増加、地球温暖化は事実である」ことが再認識された。具体的には、ヒマラヤの氷河がとけることによる洪水やアラスカ海が渇水で干上がる、海面上昇により太平洋の島々が水没、過去に例がない水害の発生などの現象を踏まえ、これらの課題に対するパネルがサミット内でも開催され、気候変動への適応の必要性が強調され、解決に向けた早期の対応が求められている。
 地球温暖化対策には、緩和策と適応策があり、CO2削減は緩和策である。京都での気候変動枠組条約の第3回締結国会議(COP3)の京都議定書では具体的な削減目標が示された。この目標を達成すべく、交通、産業、業務、家庭等の各分野でCO2削減に向けた取組が実施されているものの、現時点では満足できる成果とはなっていない状況である。また、IPCCの報告書では京都議定書レベルの削減では悲劇的状況は回避できないことも言われている。
 一方、適応策は地球温暖化による海面上昇と降雨の偏差拡大 (大雨、干ばつ) への対応であり、水フォーラムでは、この問題が焦点となった。IPCCの報告書では、「緩和策を行ったとしても気温上昇は数世紀続くことから、温暖化に伴う降雨増大や海面上昇などの様々な影響への適応策を講じていくことが重要である」ことが言われている。
 このような状況の中で我が国においては、社会資本整備審議会において「気候変動に適応した治水対策検討委員会」が設置され、適応策についての提言の中間報告が本サミット前に発表され、降水量の増加に伴う洪水対策を超過洪水への対応の中で位置付けることや海面上昇や台風激化に伴う高潮上昇への対応として堤防等の嵩上げを行うこと等が提案されている。
 
4 我が国の取組
 ここでは、「気候変動に適応した治水対策検討委員会」により提言された中間とりまとめの内容について概略紹介する。 
 まず初めに本提言では、基本的認識として、地球温暖化の状況を踏まえ、国際的な認識と併せて他の先進国での取組状況に対して、我が国が先進国の中でも災害に対して脆弱であるにもかかわらず、気候変動が水関連災害に与える影響について科学的な解明がなされつつある段階であり、気候変動に適応する具体的な施策についての検討が不十分な実情であることを指摘したうえで、国民の安全・安心を確保することが、国の基本的な責務であり長期的な視点に立ち、早期に気候変動に対して、予防的な施設の整備をはじめとする順応的な適応策を検討・実施すべきとしている。
 具体的には、外力(気候変動の影響を受ける降水量などの気象要素と、その変化により生じる洪水、渇水、土砂流出、高潮等の影響力を意味する。)の増大により、
① 降水量としては、100年後の降水量の変化を予測すると、現在の概ね1.1~1.3倍程度
  (図-3参照)
 

図-3 地域別の降雨量予測

 
② この結果、全国の一級河川の安全度は現計画に対して概ね30~60%に低下(表-1,2参照)
 

表-1      100年後の計画の治水安全度

 

表-2      100年後の降雨量の変化が治水安全度に及ぼす影響

 
 
③ 土石流等の激化として、発生頻度の増加、発生時期の変化、発生規模の増大
④ 高潮及び海岸浸食の増大として、海面上昇や台風の激化等
⑤ 渇水の危険性の増大として、極端な小雨による大規模な渇水の発生や積雪量の減少や雪解時期の早期化等による都市用水や農業用水への影響が懸念。
等影響が顕著化することが懸念されている。 
 このような状況を踏まえ、当提言では、対応策の基本的方向として、増大する外力への対応として
① 洪水に対する治水政策の転換として、降水量の増加に伴う洪水流量の増加に対して施設整備での対応は社会条件等の制約や完成までの期間等を考えると現実的には困難。このため、これまでの「河川で安全を確保するという治水対策」から、今後はこれに加え「流域における対策で安全を確保する治水政策」へ転換。
② 激化する土石流等への対応強化として、洪水流と一体となった土砂量増加や堆積する土砂への対応。また併せて、山地から海岸までの一貫した総合的な土種管理の取組強化。
③ 高潮への段階的な対応として、浸水頻度を減少させるため、段階的に堤防の嵩上げや外力の変化に応じた構造設計の考え方の検討が必要。
とされている。
 また、これらの対応にあたっては、「犠牲者ゼロ」と併せて、首都圏のように中核機能が集積している地域での国家機能の麻痺を防止するため、重点化をはかるなど目標を明確化し実施することが必要とされている。
 また具体的な適応策の基本的な内容として、
 ① 土地利用の規制・見直しなど地域づくりからの対応策
  ・社会情勢の変化を踏まえた土地利用や住まい方の見直し
  ・氾濫しても被害の少ない地域づくり
 ② 危機管理対応を中心とした適応策
  ・大規模災害への対応体制の整備
  ・新たなシナリオによるソフト施策の推進
 ③ 施設を中心とした適応策
  ・外力の変化に対する施設の信頼性の確保
  ・既存施設の徹底活用・長寿命化
  ・新規施設の整備
等が提言されている。
 なお、これらの適応策の進め方については、
 ① 政府全体の取組
 ② 国民との協働
 ③ 予防的措置への重点投資
 ④ 優先度の明確化
 ⑤ ロードマップの作成
 ⑥ 順応的なアプローチの採用
 ⑦ 関係機関等との連携
 ⑧ 新たな技術開発と世界への貢献
 ⑨ 調査・研究の推進と治水計画への反映
といったことが併せて示されている。
 
5 現在議論されている内容
 ここでは、我が国において先の中間取りまとめを受け現在議論されている予防的な対策内容について参考までに紹介する。
(以下、気候変動に適応した治水対策検討委員会資料より)
 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 
6 さいごに
 これまで紹介させて頂いたように、現在地球温暖化による影響は全世界的に大きな課題として認識され、さらにその取組みも既に始まっている地域もある。一方、我が国においては、まだまだ遅れている状況の中で、九州においては既に平成17年の宮崎県を中心とした豪雨災害や平成18年の鹿児島北部災害などその影響が顕著化している状況にある。
 我が国の安全・安心を確保するためには、真に必要な適応策を早期に実施することは必要不可欠であり、国民全員が同じ認識を持ち、国土全域で総合的な適応策を推進することが必要と考えられる。
 このためには、一方で無駄な公共事業を唱える動きがあるものの国民全体が同じ認識を持ち国民一人一人が考える時期にきているのではないだろうか。

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