一般社団法人

九州地方計画協会

  • 文字サイズ
  • 背景色

一般社団法人

九州地方計画協会

  •                                        
高速基山バス停での高速バス乗り継ぎ社会実験

国土交通省 九州地方整備局
 道路部 道路調査官
岸  弘 之

1 はじめに
九州では、高速道路の延伸に伴い数多くの高速バスが運行されており、高速バスの位置情報等の運行情報を提供する「Qバスサーチ」により、高速バスの利用促進が図られているところです。
また、各バス会社共同での高速バス予約システム「楽バス」の導入や3日間乗り放題のバスフリー切符「SUNQパス全九州」なども発売されており、九州の高速バスの利便性は他地域と比べて高いものとなっています。
しかし、現在の高速バスの運行は、人口の多い福岡(天神バスセンター)と各県主要都市を結ぶ福岡一極集中型となっているため、便利で運賃が安価な割には、高速バスを利用して地域間を円滑に交流(移動)するまでには進んでいないのが実態です。これは例えば、西九州と東九州や南九州を結ぶ直行便の便数が少ないこと、福岡天神で乗り継ぎするには福岡往復や福岡市内混雑のため時間と費用がかかることが原因であると思われます。
一方、九州縦貫自動車道と九州横断自動車道が交差する鳥栖ジャンクション近くの高速基山バス停は、多くの高速バスが通行(停車あるいは通過)することから、乗り継ぎ拠点としての可能性が考えられていました。
このようなことから、「高速基山バス停」において高速バスの位置情報提供システム(以下、「高速バスロケ」という)を活用した全国初の高速バス乗り継ぎ社会実験を行うこととしました。(図-1参照)

図-1 高速基山バス停での乗り継ぎ効果

2 社会実験
2-1 検討体制
社会実験を進めるにあたり、各関係機関(学識経験者、九州バス協会、バス事業者(6社)、NPO法人、西日本高速道路㈱、佐賀県警、福岡県警、佐賀県、基山町、国土技術政策総合研究所、九州運輸局、九州地方整備局)から構成される「高速バスロケを活用した乗り継ぎ社会実験検討委員会(以下、「検討委員会」という)」(委員長:井上信昭福岡大学教授)を設置し、乗り継ぎ利便性の向上のための情報提供のあり方など様々な課題について検討を行いました。

2-2 実験内容
平成19年7月1日から8月31日の2ヶ月間社会実験を行い、実験開始までに乗り継ぎを支援するためのソフト整備及びハード整備を実施しました。

【ソフト整備】
2-2-1 ダイヤ改正と割引切符の販売、広報
乗り継ぎ利便性を向上させるためには、まず第一に基山バス停の停車便数を増加させることが必要となります。このため社会実験の開始に合わせてダイヤが改正され、高速基山バス停の一日あたりの停車便数は238.5往復から倍の478.5往復とされました。(図2-2-1-①参照)これは高速基山バス停を通行する555往復(通過を含む)の約9割であり、ピーク時では1時間に38便停車(鳥栖方面、下り、土日祝日)することとなります。

図-2-2-1-① 高速基山バス停における停車便数の増加

また、ダイヤ改正に伴い、出発地~基山と基山~到着地までの単純合算運賃より割安の運賃設定が行われました。発着バス停を含む「主要拠点」相互間に既に直通便(運賃)がある路線については、乗継運賃は直通運賃と同額とし、直行便がない路線については、単純合算運賃の概ね2割引としました。(ただし、長崎~宮崎線のみ、単純合算運賃で据え置き)
さらに、利用者への広報活動が重要と考え、ポスターの掲示(図2-2-1-②参照)、ホームページの開設、マスコミへの記者発表や現地見学会を実施しました。

図-2-2-1-② ポスター

【ハード整備】
2-2-2 高速バス運行情報表示板
平成17年度に整備した九州の主要な高速バス路線に導入している高速バスの運行情報等を提供する「Qバスサーチ」を活用して、「高速バス運行情報表示板」を整備しました。提供する運行情報は、行先、遅れなどの運行状況、現在位置、空席状況等とし、バス停に設置(既設を含め、上り線2基、下り線1基)するとともに、乗り継ぎ時間を有効に活用してもらうため、基山パーキングエリア休憩所内にも設置(上り線1基、下り線2基)しています。
この上り線バス停の運行情報表示板2基の設置については、バスの乗り換えはほぼ全て、福岡方面行きの上り線バス停から福岡から各地へ行く下り線バス停への移動となることから、上り線バス停に下り線の高速バス運行情報表示板も設置したものです。
表示方法にも工夫を加え、東(大分方面)・西(長崎方面)・南(鹿児島・宮崎方面)方向別に色分け分類しています。(図2-2-2-①②③参照)
休憩所内の運行情報表示板はモニター画面の大きさの関係から東・西・南方面の切替表示としています。

図-2-2-2-① 上り線バス停屋外の高速バス運行情報表示板
(東・西・南方面の情報提供)

図-2-2-2-② 高速基山パーキング休憩所における
高速バス運行情報表示板

2-2-3 案内看板
上下線バス停間や休憩施設への移動を分かりやすく案内するため、移動経路のポイント(19箇所)に目的地への方向、距離を示す案内看板を設置しました。(図2-2-2-③、2-2-3参照)

図-2-2-2-③ 基山パーキングにおける設備位置図

図-2-2-3  基山PAにおける案内看板

2-2-4 高速バス時刻表及び路線図
高速基山バス停に時刻表及び路線図、基山パーキング休憩所に時刻表を新たに掲示しました。(図2-2-2-③、2-2-4-①②参照)

図-2-2-4-①  高速基山バス停及び基山パーキング休憩所における時刻表

図-2-2-4-②  高速基山バス停における路線図

2-2-5 バスバース
高速基山バス停に停車する便数をこれまでの倍の478.5往復停車させることに伴い、高速基山バス停付近でのバスの混雑防止、また乗車するバスやバスの発着場所を分かりやすいものとするため、これまで1バースだったバス停を2バースに増設し、あわせて案内表示を行いました。(図2-2-5参照)

図-2-2-5 高速基山バス停下り線バスバース

2-2-6 その他
高速基山バス停で乗り継ぎ利用者の安全性、快適性の観点から、バス乗り継ぎ移動経路の照明の追加や清掃等を行いました。

3 実験結果
実験期間中に高速基山バス停利用者状況調査(実験期間後も一部実施)及び乗り継ぎの満足度に関するアンケート調査を行いました。その結果は次のとおりです。

3-1 高速基山バス停利用者実績
7月1日にダイヤが改正されましたが、ダイヤ改正前6月28日の乗り継ぎ利用者11名からダイヤ改正後9月27日には61名と約6倍に大幅に増加しました。また、高速基山バス停で乗降する利用者も76名から175名へと約2倍、全体でも87名から236名へと約3倍に増加しています。(図3-1-①参照)

図-3-1-①  高速基山バス停利用者数の推移

本年3月13、15、16日のバス協会による調査では、利用者は全体で平均333名とさらに増加してきています。
高速基山バス停乗り継ぎの方面別利用者数を見ると、西九州~南九州、西九州~東九州の利用が全体の約7割を占めており、特に、直通便のなかった「長崎・佐世保~鹿児島」や「佐賀・佐世保~大分」の利用が多い状況です。(図3-1-②、表3-1参照)

図-3-1-②  高速基山バス停での乗り継ぎ方面別利用者数

表-3-1  実験前後での乗継便数の比較(乗継者数TOP10)

3-2 社会実験実施施策の満足度
アンケートにより社会実験で実施した施策の満足度調査を行いました。各実施施策に関する結果は次のとおりです。

【ハード整備】
3-2-1 高速バス運行情報表示板
高速バス運行情報表示板の利用状況は、乗り継ぎ利用者が70%、非乗り継ぎ利用者が68%となっています。(図3-2-1-①②参照)

図-3-2-1-① 利用状況【乗り継ぎ利用者】

図-3-2-1-② 利用状況【非乗り継ぎ利用者】

高速バス運行情報表示板の利用者のうち、乗り継ぎ利用者及び非乗り継ぎ利用者とも「非常にわかりやすく、役だった」と「分かりやすく、役に立った」と合わせて7割以上と高い評価が得られました。(図3-2-1-③参照)

図-3-2-1-③ 高速バス運行情報表示板の満足度

高速バス運行情報表示板の設置箇所別の表示板の見やすさについては、上り線バス停屋内の利用者の約6割、下り線バス停屋内の利用者の約3割が「非常に見づらい」と回答しています。(図3-2-1-④参照)

図-3-2-1-④ 高速バス運行情報表示板の見やすさ

見づらい理由を尋ねたところ、「日中、光が反射する」「画面が暗い」という理由が多いことが明らかになりました。(図3-2-1-⑤⑥参照)
このため、日光反射防止、表示板の温度上昇による画面の暗化防止対策を実施し、改善しています。

図-3-2-1-⑤ 「下り線バス停屋内」高速バス
運行情報表示板の見づらい理由

図-3-2-1-⑥ 「上り線バス停屋内」高速バス
運行情報表示板の見づらい理由

また、アンケートで「表示板の表示が正確でない」との声がありました。原因としては、天神~基山間は渋滞するにもかかわらず、高速バスの位置情報をチェックするポイントがなく、提供する情報が正確でないのではないかということで、福岡都市高速道路の「天神北ランプ」及び「千鳥橋ジャンクション」、「太宰府IC」にチェックポイントを新設することで改善を図りました。

3-2-2 案内看板
案内看板の分かりやすさについて、図3-2-2-①に示すとおり、満足度は約7割と概ねの評価が得られました。

3-2-3 バスバース
バス事業者の現地確認の結果、懸念されたバス停車場付近での停車バスの渋滞は発生しませんでした。また、乗車するバスやバスの発着所の分かりやすさについては、図3-2-2-①に示すとおり、満足度は約6割と概ねの評価が得られました。

3-2-4 その他
バス乗り継ぎ移動経路の照明の追加や清掃等実施しましたが、図3-2-2-①に示すとおり、移動経路の利用しやすさの満足度は約4割と他に比べて低い評価で、利用者からは「夜間暗い」や「出入口の格子を取り除いて欲しい」、「移動経路に屋根を付けて欲しい」といった安全・安心面やバリアフリー、アメニティの向上を望む声が聞かれました。

【ソフト整備】
3-2-5 ダイヤ改正
高速基山バス停にこれまでの倍の便数を停車させていますが、図3-2-2-①に示すとおり、バスダイヤの便利さの満足度は約7割と概ねの評価が得られました。

図-3-2-2-①  実験施策満足度状況

3-2-6 割引切符
料金が安くなることで利用者からは好評を得ていますが、割引切符の利用者は乗り継ぎ利用者全体の約3割と告知期間が短いこともあり認知度が低く、利用は低調でした。(図3-2-2-②参照)

図-3-2-2-②  乗り継ぎ利用者の利用切符内訳

4 評価及び課題
夏休みを終えた9月の時点で、実験前に比べて高速基山バス停における乗り継ぎ利用者が約6倍、非乗り継ぎ利用者も約2倍(高速基山バス停の全利用者は約3倍)、3月では全体で約4倍と着実に増加しており、乗り継ぎ利用者のみならず、近隣住民の利用も図られ、これまで利用者が少なかった高速基山バス停が大いに利用されるようになってきています。今後の広報の充実や路線バスとの連携、パーク&高速バスライドの仕組みの導入などを含めた良好なサービスの提供で、さらに利用者が増加する可能性を秘めています。
社会実験実施施策においては、高速バス運行情報表示板や案内看板、バスバース、ダイヤ改正は約6~7割と高い評価を得ています。満足度が低かった箇所の高速バス運行情報表示板の改善については、社会実験ということで各関係機関が連携して取り組んでいることもあり、早々の対応ができました。
照度の基準値は満たしているものの「夜間暗い」といった要望や「出入口の格子を取り除いて欲しい」等といったバリアフリーやアメニティの向上の要望に対応するため、さらに割引切符の認知度を高めるため、高速基山バス停における乗り継ぎ社会実験は終了しましたが、今後も各関係機関で連携しながら、検討を重ねていくこととしています。
なお、社会実験で一定の評価を得たことから、現時点においてバスダイヤは変更せず、運行情報表示板等によるサービスの提供を継続しています。

5 おわりに
今回の社会実験において、高速バスダイヤの改正や案内看板の設置、バスバース増設等を実施した九州バス協会様ならびにバス事業者様、実験場所である高速基山パーキングエリアの提供や通路照明増設等を実施した西日本高速道路株式会社九州支社様、同じく通路照明増設等を実施した基山町様、また、社会実験に際し、忌憚のない議論や各種データの提供等頂いた、学識者ならびに各委員の皆様に対し、この場をお借りして厚くお礼申し上げます。

参考
・高速バスロケを活用した乗り継ぎ社会実験
http://www.qsr.mlit.go.jp/n-michi/bus/web/index.html

・SUNQパス
http://www.sunqpass.jp/index.shtml

*高速バスロケーションシステムとは…
 高速バスの位置情報提供システムのこと

上の記事には似た記事があります

すべて表示

カテゴリ一覧