九州地方整備局における総合評価落札方式の取り組みについて
後田徹
キーワード:総合評価、品質確保、建設生産システム
1.公共事業における調達
公共工事の品質は、「目的物が使用されて初めてその品質を確認できること、その品質が受注者の技術能力に負うところがおおきいこと、個別の工事により条件が異なる等の特性を有することにかんがみ、経済性に配慮しつつ価格以外の多様な要素をも考慮し、価格及び品質が総合的に優れた内容の契約がなされることにより確保されなければならない」ことが「公共工事の品質確保の促進に関する法律(平成17年制定)」に規定され、「価格のみの競争」から「価格と品質で総合的に優れた調達」への転換が図られた。
一方、公共工事の上流部において実施される調査・設計業務についても、公共工事と同様に、技術者の技術力等が成果品の品質に大きな影響を与えるところである。調査・設計業務については、「公共工事の品質確保の促進に関する施策を総合的に推進するための基本方針について(平成17年8月閣議決定)」において、「公共工事に係る調査・設計の品質確保に関しても価格と品質が総合的に優れた内容の契約とすること」が位置づけられた。
2.工事における取り組み
1)総合評価落札方式の実施状況
平成22年度の総合評価件数は1,432件、そのうち簡易型は1,006件(70.3%)、標準Ⅱ型は403件(28.1%)、標準Ⅰ型は12件(0.8%)、標準型(WTO型)は11件(0.8%)である(図-1)。
受注動向を技術評価点と価格でみると、価格が最も低い者が受注している割合は39.2%で、技術評価点の高い者の受注が高くなっている傾向(平成21年は46.9%、平成22年は60.8%)である(図-2)。
また、低入札における落札はゼロ、落札率は全工種平均で87.5%となっている。
2)平成23年度の取り組み
総合評価落札方式の実施にあたっては、全国統一の「工事に関する入札に係わる総合評価方式の標準ガイライン」を基本としながらも、地域特性等踏まえ各地方整備局独自の取り組みを行ってきたところであるが、さらなる透明性等の観点から手続きの共通事項(次に示す①~④等)については、平成22年度より全国統一を図っている。
①タイプの選定
総合評価落札方式のタイプは、図-3に示すように、工事内容に応じ、難易度、金額等により設定している。
②タイプ毎の配点
タイプ毎に、技術提案、施工能力、地域等の評価割合を定めている。簡易型及び標準Ⅱ型については、地域に貢献する地場企業を評価する観点から、「地域」に関する評価が他の評価項目とは別に設けていることが特徴である(図-4、図-5)。
③技術提案の指定テーマ数、指定テーマ毎の提案数
指定テーマ数を簡易型では1題、標準Ⅱ型では1~2題、標準Ⅰ型では2~3題とし、また、テーマ毎に重要なものの5提案を上限とし、応募者の負担軽減を図っている。
④施工体制確認型の評価
調査基準価格未満の者において要求用件を実現できる確実性の観点から施工体制確認を行なっている。評価は、施工体制確認において獲得した得点を施工体制評価点30点満点に対する割合を技術提案の評価点に乗じて実施している(図-6)。
⑤透明性確保の改善
透明性の観点から、技術提案の評価結果を通知しているが、これらの「採否の通知」の問い合わせについて、平成22年度より各地方整備局の技術開発調整官を窓口として、文書又は面談で対応している。主な問い合わせ内容は、「-」評価・「×」評価の理由である。
⑥技術提案の履行確認
受注者が提案した技術提案は、契約図書の一部としてその内容を履行することとしている。また、履行されて初めて目的物の品質確保等、提案内容の効果が発揮されることになる。その履行確認において不整合が生じないように、技術提案の内容について発注者と施工業者が情報共有し一体となって技術提案を適切に履行するように「技術提案等の履行に関する実施方針」を定め運用している。
⑦総合評価落札方式の考え方を公表
九州地方整備局においては評価基準等を公表することとしており、「総合評価落札方式における現状の考え方(平成23年度版)としてホームページに掲載している。
URL:http://www.qsr.mlit.go.jp/hinkaku/pdf/sogohyoka.pdf
3)運用等の平成22年度からの主な変更点
①企業及び予定技術者の工事成績評価について、特定の範囲に集中しないこと等踏まえ細分化。
②災害協定に基づく実績等について実態等踏まえ細分化して評価。
③簡易型の簡易な施工計画について、現地条件の把握、重点的に配慮すべき事項への対応等の視点で評価。
④標準型の技術提案について、具体的に品質向上を図る箇所等を明確にするために、数量・範囲・頻度等を記載。
4)手続きや評価項目等に関する多様な取り組み
公共工事における品質確保、地域に与える貢献、技術者の育成等の観点で、入札契約及び総合評価落札方式の評価において多様な取り組みを行なっている。平成23年度においても次に示す項目等について引き続き実施する。
①上位等級への参入等の制度設計
企業の技術力を促進するため、技術評価点が高い下位等級企業の上位等級への参加や、難易度が高い工事において上位等級企業の下位等級への参加を可能とする。
②地元企業活用を評価
地域雇用の拡大を図るため、大手企業等に発注する工事において地元企業の下請活用や地元からの資材調達を評価する。
③登録基幹技能者の活用を評価
工事における安全や品質を図るために基幹技能者の活用を評価する。
④ベテラン技術者の現場での技術者指導を評価
技術伝承や若手技術者の配置を促進するため、若手技術者の配置においてベテラン技術者が指導することを高く評価する(図-7)。
⑤契約後VEにつながる提案
入札時に技術提案として「契約後VEにつながる技術提案」を求め評価し、契約後に技術審査を受け発注者と受注者が協働してコスト縮減に努める取り組みを、平成20年12月から3億円以上の工事を対象に実施している。平成23年度は2億円以上の適切な工事についても拡大を図る。
図-8に契約後VE活用の概要を示す。
⑥インターネットを活用した工事説明会
企業が一堂に会して行なう現場説明会は談合防止等の理由から行なわれていない。一方、工事内容が複雑であったり、新工法を取り入れている工事等においては事前配布する資料だけでは工事内容等が分かりにくいものもある。参加企業に工事内容等をより分かりやすくするための工夫の一つとして、対象工事を適切に選定して「インターネットを活用した工事説明会」を行なっている。
3.建設コンサルタント業務における取り組み
1)入札契約方式
コンサルタント業務における入札契約は、一定の基準に基づいた参加者により一定の品質が確保されるような、資格・実績・成績等による条件を付した上で、最低価格者を落札者とする「価格競争方式」や、高い知識・構想力・応用力が必要とされる業務を対象に、発注者が業務概要と概算金額を示したうえで、参加者に技術提案書の提出を求め、技術的に最適な者を特定して契約を行う「プロポーザル方式」により多くが実施されている。
「総合評価落札方式」は、「価格競争方式」と「プロポーザル方式」の間に位置する業務において、価格による競争から価格以外の多様な要素も考慮して、価格と品質が総合的に優れた者と契約する方式で、より高い技術をもつ者を優位とし技術力の低い者が落札しにくくすることで、調査・設計業務の成果品の品質向上を期待するものである。
2)総合評価落札方式の本格導入
九州地方整備局では、平成19年度から建設コンサルタント業務等における「総合評価落札方式」の試行を開始した。その後、平成20年5月に国交省と財務省との包括協議が整い、建設コンサルタント業務等においても「総合評価落札方式」を本格導入することとなった。このため平成21年4月には建設コンサルタント業務等に関する調達方式の適切な選定等の考え方や各方式の運用を示した「建設コンサルタント業務等におけるプロポーザル方式及び総合評価落札方式の運用ガイドライン」(以下、「運用ガイドライン」という。)が策定されている。なお、この運用ガイドラインはその後の実施状況を踏まえ現在改定作業中である。
3)建設コンサルタント業務の実施状況
①入札契約方式別状況
平成22年度の調査・設計業務の契約件数は1,646件で、入札契約別の割合は、全業種では、価格競争が49.4%、総合評価落札方式が23.6%、プロポーザル方式が25.9%となっている(表-1)(図-9)。
業種別には、技術提案求めることにより優れた成果品が期待出来る割合の高い土木コンサル業務においては、プロポーザル方式が38.0%と高い。
また、一定の資格・実績・成績等を評価することにより品質が確保出来る割合が高い測量・地質調査・建築コンサルタント・補償コンサルタントにおいては、価格競争方式を適用した割合が65.1%~90.4%と高くなっている。
②落札状況
平成18年度では87.5%、平成22年度では80.2%と毎年低下しており、低価格競争が激化している(図-10)。
業種別では、平成22年度においては、土木コンサルタント業務の平均落札率は79.0%と全業種の平均を下回っている(表-2)。
年度別、業種別の低入札発生率の経年変化は表-3のとおりである。
4)平成23年度の取り組み
建設コンサルタント業務等の入札契約の手続きは全国統一の「運用ガイドライン」等に基づき実施している。
①入札契約方式の選定
発注方式の設定は、図-11の入札契約方式の選定フローに基づき選定することを基本としている。
②標準的な業務内容に応じた発注
各事業の業務内容別に発注方式を標準化し運用している。図-12に「道路事業における標準的な業務内容に応じた発注事例」を示す。
③総合評価落札方式の積極的な活用
発注方式の選定は、「選定フロー」、「発注方式の標準化」に基づき選定することを基本としているが、九州地方整備局においては、従来は価格競争方式で発注していた業務おいても品質確保の観点から、業務内容等に照らして総合評価落札方式を積極的に活用する。
総合評価落札方式の落札者の決定は、入札価格が予定価格の制限の範囲内にある者のうち、評価値の最も高い者とする。評価値の算出方法は加算方式を基本とする。
(参考)
総合評価落札方式の評価値の算出
- □評価値=価格評価点+技術評価点
- □価格評価点の配分点を20点から60点の範囲(価格評価点:技術評価点=1:1~1:3)で決定
- 価格評価点=(価格評価点の配分点)×(1-入札価格/予定価格)
- □技術評価点=60点×(技術評価点の得点合計/技術評価点の配分合計)
④履行体制確認型の適用
履行体制確認型総合評価落札方式(予定価格1千万円以上)は、入札説明書等に記載された業務内容に加え入札者が行った技術提案について、履行の確実性を確認・審査しその結果に基づき技術評価点を算出する。
総合評価落札方式(予定価格1千万円以上)の業務において試行してきたところであるが、品質確保の観点等より、対象業務は基本的に全て履行体制確認型で行う。図-13に履行体制確認型の技術評価点算出イメージを示す。
⑤総合評価落札方式の考え方を公表
総合評価落札方式等の考え方について、「建設コンサルタント業務等におけるプロポーザル方式及び総合評価落札方式等の現状の考え方(平成23年度版)」としてホームページに掲載している。
URL:http://www.qsr.mlit.go.jp/kensetu_joho/kangaekata.pdf
5)運用等の平成22年度からの主な変更点
①企業及び予定技術者の工事成績評価について、特定の範囲に集中しないこと等を踏まえ細分化。
②企業・予定技術者の表彰について、全国的に運用する基準や計画策定・システム等に関する業務は他地整が行った表彰も対象。
③プロポーザル方式は、高度な知識・豊かな経験を必要とする業務に適用すること等を鑑み「実施方針」と「特定テーマ」を求める「総合評価型」を基本とした。
6)建設コンサルタント等業務における品質確保対策
公共事業を行ううえで上流側に位置する調査・設計業務は、その成果が事業に与える影響は大きい。設計業務等の成果に不備があることが施工段階において発見されるなどその品質低下が懸念されている。成果品の品質確保については、プロポ-ザル方式及び総合評価落札方式において「照査における具体的手法・工夫等」を評価することや、履行体制確認型総合評価落札方式を適用することのほか、調査基準価格(予定価格1千万円以上の業務に設定)未満で落札した業務については次のような取り組みを行う。
①業務中の監督強化として、測量・地質業務においては主任技術者の現場常駐性の義務付け、土木コンサルタント業務においては現地調査を伴う場合の管理技術者の現場常駐性の義務付け。
②請負者負担による第三者照査の義務付け。
③予定管理技術者の手持ち業務量を通常10件4億円未満を5件2億円未満に制限(補償コンサルタント業務は5件1億円未満に制限)。
④履行中に管理技術者が手持ち業務量を超えた場合は管理技術者の交代措置を請求。
また、設計業務等の成果に不備が生じる原因は種々考えられるが、その一因に業務内容によっては適正な工期や適正な期限の設定が考えられることから、履行期限の平準化、必要な履行期間の確保について取り組む。
4.公共工事の品質確保の取組みについて
公共工事の品質確保の取り組みは、建設生産システムの流れのなか各段階で種々取り組んでいる(図-14)。
調達の入り口段階である、建設コンサルタント業務におけるプローザル方式及び総合評価落札方式や工事における総合評価落札方式の内容等については、設計成果や工事目的物のコスト、品質の確保・向上の観点で、実施状況の分析、総合評価技術委員会での意見、全国的動向等を踏まえながら、引き続き改善の取り組みを行う。