九州中央自動車道の開通効果と今後への期待
国土交通省 九州地方整備局
佐賀国道事務所 計画課長
佐賀国道事務所 計画課長
山 下 修
国土交通省 九州地方整備局
延岡河川国道事務所
調査第二課長
延岡河川国道事務所
調査第二課長
栗 田 耕一郎
キーワード:九州中央自動車道、整備効果
1.はじめに
九州中央自動車道は、熊本県上益城郡嘉島町(嘉島JCT)~宮崎県延岡市(延岡JCT)を結ぶ全長約95㎞の高規格幹線道路であり、熊本県と宮崎県の連携強化や災害時における信頼性の高いネットワークとして期待される。これまでに全体の3割にあたる約29㎞が開通している。
2.熊本県側の概要
①全体計画の概要
熊本県側の九州中央自動車道は、嘉島町~山都町に至る延長約23.0㎞の自動車専用道路であり、2014 年3 月22 日に嘉島JCT ~小池高山IC 間の1.8㎞、2018 年12 月16 日に小池高山IC ~山都中島西IC 間の10.8㎞が暫定2 車線で開通している。
《計画諸元》
◇起点 熊本県上益城郡嘉島町
◇終点 熊本県上益城郡山都町
◇延長 23.0㎞
◇道路規格 第1 種第3 級
◇設計速度 80㎞ /h
◇幅員 12m(暫定2 車線)
②熊本地震の影響
平成28 熊本地震では、4 月14 日の前震および4 月16 日の本震で2 度の震度7 を記録し、並行する国道445 号では23 ヶ月間の通行止めが発生。通勤・通学をはじめ経済活動に大きな影響を及ぼした。
また、平成30 年度開通予定であった小池高山IC ~山都中島西IC 間の施工現場においても、本震の影響により太田川橋上部工工事のタワークレーン倒壊や移動作業車( ワーゲン) が傾斜するなど3 ヶ月間の工事一時中止が発生したが、その後の施工業者の努力により開通への影響は発生しなかった。
③工事の進捗状況
残る山都中島西IC ~矢部IC(仮称)間の約10.4㎞では、用地買収も全て完了し、現在、工事用道路の設置や改良工事、橋梁上下部工工事などを推進中であり、引き続き工事の全面展開を図っていく。
2-1 九州中央自動車道の整備効果 -熊本県側を中心として-
①熊本市~延岡市の所要時間短縮
九州中央自動車道の整備により、九州中央部を結ぶ広域ネットワークが形成され、熊本市~延岡市間で約50 分の所要時間短縮が見込まれている。
熊本市~山都間では通勤通学の結びつきが強く、今後の整備により更なる交通流動の増加が期待される。
②防災機能の強化
国道445 号や国道218 号では、災害等により平成19 年以降で計21 回の全面通行止めを行っており、熊本市~山都間の通勤・通学、救急医療活動に影響を及ぼした。また、平成28 年4 月の熊本地震では、国道445 号において23 ヶ月の通行止めが発生し、大型車の迂回は通常の2 倍となる180 分を要した。
今後の開通延伸により、今後、発生が想定される南海トラフ地震などの大規模災害発生時の代替機能が確保される。
③観光活性化
小池高山IC ~山都中島西IC 間の開通に伴い、九州で唯一の人形浄瑠璃が楽しめる道の駅「清和文楽邑」では、今年度のゴールデンウィーク来場者数および売上ともに、前年比で約1.5 倍に増加し賑わいを見せている。
2-2 その他
①沿線地域の方々とともに喜んだ開通
開通直前の高速道路で沿線住民が賑わう上益城郡5 町( 御船町・嘉島町・益城町・甲佐町・山都町)と熊本市が主催する開通プレイベントとして、記念ウォーキングイベントが開催され約1500 人が参加、開通すると歩けなくなる高速道路からの景色を満喫した。
②開通式典イベント
式典では、沿道地域の方々より「九州中央自動車道は農業を営む者にとって、販路拡大や農業振興に大きく寄与する。引き続き山都中島西IC から矢部までの早期整備をお願したい。」など九州中央自動車道に対する期待のメッセージが寄せられた。
3.宮崎県側の概要
宮崎県側の九州中央自動車道は、北方延岡道路が平成18 年に舞野IC ~延岡JCT/IC(延長2.1㎞)、平成20 年には北方IC ~舞野IC(延長6.4㎞)、平成27 年に蔵田交差点~北方IC(延長4.6㎞)が開通し、平成30 年に高千穂日之影道路の雲海橋交差点~日之影深角IC(延長2.8㎞)が新たに開通している。
また、平成30 年から事業着手した五ヶ瀬高千穂道路(約9.2㎞)の整備が進められている状況である。
《計画諸元》
◇起点 宮崎県西臼杵郡五ヶ瀬町
◇終点 宮崎県延岡市天下町
◇延長 51.0㎞
◇道路規格 第1 種第3 級 (北方IC ~延岡JCT/IC 第1 種第2 級)
◇設計速度 80㎞ /h (北方IC ~延岡JCT/IC 100㎞ /h)
◇幅員 12.0m(暫定2 車線) (北方IC ~延岡JCT/IC:10.5m[ 完成2 車線])
3-1 九州中央自動車道の整備効果 -宮崎県側を中心として-
①災害時の代替機能確保
九州中央自動車道と併走する国道218 号は、災害時の緊急輸送道路に指定されており、現道の線形が厳しい箇所や防災点検の要対策箇所が多数存在し、災害発生時の通行止めなどのリスクが非常に高い地域にある。また、周辺には迂回路もなく、現道が寸断された際には、大幅な迂回を強いられることが懸念されている。
今後の九州中央自動車道の整備により、災害発生時の代替機能が確保され、救援物資や医療関係者を円滑かつ迅速に輸送できる道路ネットワークとして機能することが期待されている。
②救急医療アクセスの改善
五ヶ瀬町、高千穂町には第3 次救急医療施設がなく、2 町総人口の約4 割が第3 次救急医療施設までのアクセス性が悪く、医療サービス水準の地域格差がある。また、救急搬送経路となる国道218 号は、道路の線形が厳しい区間が多数存在し、患者への負担が大きい状況である。
今後の九州中央自動車道の整備により、第3次救急医療施設の速達性、走行性が向上し、医療サービス水準の地域格差の解消に繋がることが期待されている。
③主要観光地との連携機能強化
九州中央地域には、宮崎県を代表する観光地『高千穂』などの複数の主要な観光地が広く点在しているが、これらの観光地間ならびに熊本市、八代市や延岡市などからの長時間移動を要するため、観光客が十分に取り込めておらず、伸び悩んでいる状況にある。
今後の九州中央自動車道の整備により、九州中央地域に点在する複数の観光地間の移動時間が短縮され、周遊性が高まるのみでなく、熊本市、八代市や延岡市などからの広域的な観光圏域が拡がり、観光客の増加が期待され、九州中央地域の観光振興を支援すると考える。
④企業進出の促進
高速道路へのアクセス性の良さを生かし、御船IC 付近には白岩産業団地、延岡JCT・IC 付近にはクレアパーク延岡工業団地が整備され、新たな企業進出や雇用創出に寄与している。
今後の九州中央自動車道の整備により、交通アクセス性の向上や物流の安定搬送が確保され、熊本市~延岡市間で約50 分の所要時間短縮が見込まれている。これにより、九州東西軸の結びつきが強化され、産業交流が活性化し、更なる企業進出を促すことが期待される。
4.おわりに
これまで九州中央自動車道が着実に開通を迎えられたことは、ひとえに工事にご理解を頂いた沿線地域の方々、関係行政機関そして調査・設計・施工業者の方々のおかげであり、本稿を借りて深くお礼を申し上げる。
今後も、地域の方々のご理解・ご協力を頂き関係自治体と一体となって、残る区間の早期開通に向け引き続き全力で取り組んで参りたい。