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益城町の復興まちづくりの取り組みについて
~県道熊本高森線の4 車線化と
益城中央被災市街地復興土地区画整理事業~

熊本県 土木部 道路都市局 
都市計画課 益城復興推進室
課長補佐
坂 口  誠

キーワード:創造的復興、被災市街地復興土地区画整理事業、住民参加のまちづくり

1.はじめに
平成28 年4 月に発生した熊本地震は、我が国の観測史上初めて、震度7 を28 時間以内に2 回観測し、多数の家屋倒壊や土砂災害など熊本県内に甚大な被害をもたらしました。特に前震・本震共に震度7 を観測した益城町においては、死者45 名(直接死20 名、震災関連死25 名)、重軽傷者135 名、住家の全壊3,026 棟、大規模半壊・半壊3,233 棟、一部損壊4,325 棟(2019 年2月13 日時点)と被害規模が大きく、早期復興のためには、様々な取り組みが必要となりました。

益城町は熊本都市圏東部地域の拠点の一つで、昭和40 年代の高度成長期に主要地方道熊本高森線(以下、「県道熊本高森線」という。)を中心に都市計画がないまま市街地が無秩序に広がり続けたため、狭く、見通しの悪い道路や形の悪い宅地で構成された密集市街地が形成されていました。しかし、熊本地震により相当数の建築物が滅失し、現状のまま建物の再建が単純に進んでしまえば、再び避難路等の防災機能が脆弱な密集市街地が形成されてしまいます。そこで、益城町は甚大な被害を受けた市街地を被災市街地復興推進地域(222.5ha)に指定し、発災から2 年間(2018 年4 月13 日まで)を期限とした建築制限を行い、この間に様々な復興まちづくりの計画を策定し、事業を進めることになりました。
本稿では、創造的復興に向けた重点10 項目の一つ「益城町の復興まちづくり」として、熊本県が施行者となって進めている、県道熊本高森線の4 車線化事業(以下、「県道4 車線化」という。)と益城中央被災市街地復興土地区画整理事業(以下、「益城復興区画整理」という。)の2 事業の取組状況等について紹介します。

2.県道熊本高森線の4 車線化
(1)計画の概要
県道熊本高森線は、「熊本都市計画区域マスタープラン」において、都市機能が集積する熊本市中心部と生活拠点である益城町市街地部とを結ぶ域内幹線道路で、都市の骨格をなす2 環状11 放射を形成する重要な道路と位置付けられ、非常時には緊急輸送道路としての役割があります。しかし、熊本地震の際には、沿線家屋等の倒壊により通行機能が喪失し(写真- 1)、地震発生直後には、緊急車両、復旧や支援活動、物資輸送等の車両が集中し、交通混雑が深刻化するなど、防災上の課題が確認されました。
地震で甚大な被害を受けた益城町は、平成28年12 月に「益城町復興計画」を策定し、その中で、既存の土地利用に配慮し、本路線を中心軸としたまちづくりを実施していく復興将来像を掲げました。当該道路は、地震前の時点(H27)においても1 万7 千台/日の車が通る交通量の多い道路でしたが、町境の熊本市東端(約300m)から町内区間は2 車線(幅10m)しかなく、朝夕は慢性的に交通渋滞が発生していたこともあり、熊本県においても、町の復興を県全体の問題として捉え、創造的復興のシンボルとなるまちづくりを支援する取組みとして、約3.8㎞区間の拡幅整備(2車線→ 4 車線・幅27m)に都市計画道路事業として着手することになりました(図- 1)。

本路線の町内区間は都市計画道路益城中央線として平成29 年3 月に街路事業の認可を取得、熊本市内の区間は都市計画道路水前寺秋津線として平成29 年10 月に事業認可を取得し、「交通の円滑化」「安全な歩行空間の確保」「防災機能の向上」を目的に4 車線化に取り組んでいます(ただし、益城復興区画整理と重複している約7 百m 区間は、土地区画整理事業の認可時に街路事業の認可範囲から除外する変更を実施しています)。

(2)事業の加速化を目指して
現況幅10m の道路が27m に広がることで、住宅再建や商業・業務の継続について不安に思われている方がいることから、事業着手時点から沿道の方々の意向を丁寧に把握するために、代替地提供の種地となり得る事業用地背後の土地まで広範囲に意向調査や個別ヒアリングを行い、用地交渉を進めています。平成29 年10 月から本格的な用地交渉に着手し、平成30 年度末までの約1年半で、約5 割の権利者からご契約をいただくことができ、用地取得は着実に進んでいます。
代替地希望者に対しては、県、町、宅建協会等が保有する土地取引の情報等を一元化した「代替地情報システム」を活用して代替地の情報を提供するとともに、現在地近傍での生活や生業の継続が図られるように、残地や後背地を集約して代替地とするための三者契約や沿道整備街路事業などの手法を活用する検討を進めています。希望に沿う代替地が確保できない場合、町外への流出や廃業する事業者が発生し、まちの賑わいや活気が失われる懸念があることから、影響を最小限にとどめるよう、個々の権利者の生活の実情や意向を踏まえながら、町と連携して対応しています。
また、完成後のイメージを町民に持ってもらえるよう、平成31 年1 月にはモデル地区(2 地区、約300m)の先行工事に着手しました。補償物件の移転も徐々に進展し、工事可能な用地も増えてきていることから、モデル地区の範囲を拡大する形で順次工事を進め、沿線の方々に対して事業効果の可視化を図り、早期復興のため、事業の更なる加速化を目指しています。

(3)住民参加のまちづくり
熊本地震からの復旧・復興を進めるにあたって、熊本県では、「Ⅰ 被災された方々の痛みを最小化する」「Ⅱ 単に元にあった姿に戻すだけでなく、創造的な復興を目指す」「Ⅲ 復旧・復興を熊本の更なる発展につなげる」という復旧・復興の3 原則を掲げており、この原則に基づき県道4車線化を地域に愛される道路とするため、計画に地域住民の声を反映させる取り組みを行っています。地元の熊本大学では、「熊本復興支援プロジェクト」の一環として、平成28 年10 月に、益城町の秋津川河川公園の一角へ、サテライトラボ「熊本大学ましきラボ」(以下、「ましきラボ」という。)を設置し、地域住民の思いを集約して、復興計画等へ反映させる行政支援活動を行っていました。
そこで、県道4 車線化では、「ましきラボ」と連携を図り、4 車線化完成後の道路と街並みの模型を使った住民との意見交換を行うなど、まちづくりのイメージを共有しながら、まちづくりと一体となった道づくりを進めています(写真- 2、図- 3)

3.益城中央被災市街地復興土地区画整理事業
(1)県施行の背景
「熊本都市計画区域マスタープラン」において、益城町役場周辺地区は周辺市街地の生活の利便に供する「生活拠点」に位置付けられ、「郊外部市街地」としての都市機能を集約するとともに、都市計画道路益城中央線(県道熊本高森線)を「放射状都市連携軸」として連絡交通機能を強化することとしていましたが、熊本地震の発生により、町役場や中央公民館など地域の中心となる主要施設が被災し、また、多数の家屋倒壊など甚大な被害が発生したことから、役場を中心とした公共施設の整備や地元商店街の活性化及び災害に強いまちづくりの実現に向けて計画的な土地利用の再構築が必要となりました。これらを一体的かつ効率的に行う事業手法として土地区画整理事業が有効であると考えられ、土地区画整理事業の施行に向けた準備がスタートしました(写真- 3)。

事業施行にあたっては、町職員や財源の不足から町独自での施行は困難であったため、平成29 年10 月に町から県に対して事業施行の要請がありました。当該地区の復興まちづくりは町の復興のみならず熊本都市圏東部の復興には不可欠であったことから、平成29 年11 月、県は、町に代わって県施行によって事業を実施することを表明しました。
事業を円滑に進めていくため、県と町が連携して地権者(約410 名)に対する個別説明とアンケート調査を短期間(平成30 年1 ~ 2 月)かつ集中的に行い、住民の事業に対する理解度を深め、平成30 年3 月、「益城復興区画整理」の施行区域(28.3ha)が都市計画決定(町決定)されました。

(2)事業計画の決定及び変更
都市計画決定後、被災市街地復興特別措置法第6 条3 項の規定に基づき、町と県施行の協定を締結(平成30 年3 月16 日)。また、施行者となった県は、県施行で実施する区画整理の経験が少ないため、UR 都市機構と技術支援協定を締結し(平成30 年4 月9 日)、県とUR 都市機構が相互協力して益城町の復興に取組むこととなりました。事業計画案の作成に際しては、平成30 年5 月に、施行区域内のまちづくり協議会や商工会などの関係団体、学識者などから構成される土地区画整理事業協議会を設立し、各まちづくり協議会からの提案を基に町が取りまとめた事業計画(原案)をできるだけ反映したものを土地区画整理協議会で説明し、その意見を基に平成30 年7 月には事業計画案を策定しました。その後、事業計画案の権利者説明会及び縦覧、県都市計画審議会での意見書審査などを経て、平成30 年9 月27 日に国土交通大臣により設計の概要が認可され、10 月5日に県が事業計画決定(公告)を行いました。
事業計画決定後、詳細な地形測量、建物の位置や敷地の利用実態の調査、換地に関する意向確認を行い、現状の生活や早期生活再建に配慮するために既存住宅等や土地利用への影響をできるだけ低減できるよう検討を進めました。その結果、交通広場を含む道路や公園の配置等の変更や幹線道路の無電柱化計画を追加する変更が必要となったことから、平成31 年3 月に事業計画変更の手続きに着手し、令和元年5 月28 日に国土交通大臣の変更認可を受けました(図- 4、図- 5)

(3)用地先行取得について
既成市街地である本地区は減価補償地区であるため、道路・公園等の公共施設用地に充てる土地の先行買収が必要となります。そこで、緊急防災空地整備事業による先行買収を進めることとし、平成30 年4 月に説明会を開催し、アンケートや個別訪問による意向確認を行って、7 月から個別交渉に着手しました。平成31 年4 月には用地先行取得が完了し、事業計画決定の前から緊急防災空地整備事業を活用したことで、減価買収期間を大幅に短縮することができ、換地設計や住民との合意形成に速やかに入ることができました。

(4)今後の予定
平成31 年4 月から仮換地(案)の個別説明を進め、同意が得られた一部の街区等については、6月末に第1期の仮換地指定を行いました。今後、順次、移転補償及び工事に着手し、最短で、令和2 年6 月頃に地権者へ宅地を引渡すことを目指しています。当該地区には仮設住宅(みなし仮設含む)に入居されている方も多く残っており、他の街区も権利者との合意形成や基盤整備を早期に進める必要があります。
また、都市拠点における“ まちのにぎわいづくり” として「まちの商店街」や「物産館」など町が主体的に検討する内容も多岐に及ぶため、今後も県と町が一体となって取り組んでいく必要があります。

○おわりに
熊本地震から3 年が経過し、生活再建を待っておられる方が多数存在します。「県道4 車線化」と「益城復興区画整理」は共に既成市街地で実施する大規模な事業であるため、一般的には完成までに長い事業期間を要しますが、熊本都市計画区域マスタープラン等の上位計画の実現と地域の方々の一日も早い生活再建に向け、町と連携しながら、時間的緊迫性を持って事業に取り組んで参ります。

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