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『激甚化する大規模自然災害への備え』
~九地整の果たすべき役割とは~

栁田誠二

キーワード:防災・減災、大規模自然災害の備え、TEC-FORCE 活動、南海トラフ巨大地震

1.はじめに
「毎年のように全国のどこかで大きな災害が発生している」これは誰もが実感している感想だ。事実、大規模自然災害が全国各地で頻発し、激甚化している。九州では、2016 年 4 月の熊本地震、2017 年 7 月の九州北部豪雨で他に類を見ない大災害が発生し、現在も復旧工事が急ピッチで進められている。今年度(2019 年)も 6 月・7 月の梅雨前線、台風 5 号、8 月の秋雨前線、大規模な停電が発生した 9 月の台風 17 号などによる災害は、記憶に新しい。
全国に目を向けると、2018 年の西日本豪雨、2019 年 9 月の台風 15 号、2019 年 10 月の台風19 号災害など、過去に災害の発生が少ないとされてきた地域にも甚大な災害が発生している。被災地では、幸いにも命は守れたものの、生活再建までの時間と費用は被災者の重い負担となっている。このように毎年のように全国のどこかで大きな災害が発生していると、災害を「他人事」ではなく「自分事」として捉え、防災・減災に対する意識も高まりを見せている。
更には、九州の特性の一つでもある突発的な火山災害や、今後 30 年間に 80% の確率で発生すると予測されている「南海トラフ巨大地震」など、災害発生の懸念は後を絶たない。その一方、災害が発生した際、最前線で対応にあたる「地域の守り手」である建設業界も担い手不足などの課題が山積である。今後の防災・減災をどう進めていくのか、九州地方整備局の役割や今後の災害への備えとして重点的に取り組むべき事項について紹介する。

2.防災担当部局としての役割
1)九州地方整備局の防災体制
大規模な災害が発生した場合の国土交通省の役割として、被災地住民の救助や救命活動を可能とし、迅速な復旧を支える様々なライフラインの確保があげられる。災害が大規模で広域に発生すればするほど、国土交通省が持つ組織力や機動力を最大限に発揮しなければならない。災害の様相は様々で、大雨による土砂崩れ、河川堤防の決壊、道路災害による通行止めなど、いろんな特徴を持っており、その特徴に応じた対応が求められることになる。また、国としての対応は、直轄管理施設にとどまらず、地方自治体管理の河川や道路、港などの施設も対象となってくる。災害が発生若しくはその恐れがあると、首長とのホットラインや自治体からの要請に基づきリエゾンや緊急災害対策派遣隊(TEC-FORCE)を派遣し、被災状況 調査の実施や、被災状況に応じて、排水ポンプ車や照明車などの災害対策用機械の派遣を行うこととなる。
防災体制は、災害発生時に限ったことでなく、平時から訓練や意見交換等を通して防災関係機関や、自治体、建設業の各種団体、学識者との連携を深め、いざ災害が発生すると、それら関係者が一体となって早期復旧を目指すことになる。
2019年4月に、国土交通省の各整備局に災害対応強化のため、防災専属の新組織が発足した。

2)新組織の役割
新組織は、被災した直轄管理施設への迅速な対応に加えて、地方自治体が管理する施設が被災した場合の TEC-FORCE 派遣に関する対応も行っている。災害の激甚化により地方自治体からの要請も年々増加してきており、全国的な組織力を有する TEC-FORCE への期待も高く、我々としても責任重大である。
また、平時の取組も重要と考え、台風や大雨対応の防災業務を円滑に進めながらも、訓練の企画や、各種計画の策定により組織や職員個々の防災力の向上や災害対策用機械・機器類の増強、他の防災関係機関との連携強化、更には災害に強いインフラの推進について、常に意識しながら業務を行っている。

3.近年の災害の特徴とその対応
1)近年の自然災害の特徴と国民意識の変化
2001 年から2019 年までの台風上陸回数を見ると、九州が19 回と最も多く、それも気圧が低く、勢力が強い段階で上陸していることがわかる。

2019 年の 6 月末、8 月末からの活発な前線に伴う大雨や、台風 5 号や 17 号などは、九州各地で多くの被害をもたらした。特に、8 月末からの大雨では、佐賀県での浸水被害に伴う油流出という事故も発生しており、雨の降り方も局地化・激甚化・集中化と大きく変化し、災害発生リスクはますます高まる傾向である。
また、全国的に見ても同様の傾向であり、台風19 号では、関東甲信、東北地方において甚大な被害が広域に発生し、多くの方々が今なお避難生活を余儀なくされている状況にある。
九州では火山活動も活発化しており、桜島や阿蘇山に加え、口永良部島、霧島山(新燃岳他)や薩摩硫黄島等にも注視しなくてはならない。このほか、有明海の軟弱地盤や九州北西部の地滑り地帯、九州南部のシラス等の特殊土壌も広く分布し、更には、九州は南海トラフの西端に位置するなど、自然災害発生リスクが高いことも特徴といえる。
昨今、国民の防災や減災に対する関心の高さから、自らの地域の様々な防災訓練や活動に積極的に参加する住民の動きも多く見受けられるようになった。これが後押しするように防災・減災に関するマスコミの報道も増えてきている。

2)2019年の防災対応の特徴
九州地方整備局が実施した 2019 年の防災対応の新たな取組みとして、6 月末の大雨や 8 月末の大雨の際に福岡管区気象台との合同記者会見を行った。これは、通常の気象予報に加え、河川洪水予報の留意点や情報発信ツールの紹介など避難判断に繋がる情報を提供し、多くのマスコミから取り上げられた。この全国初の取組みは危機感を共有し、住民に警戒を呼びかける取組みとして高い評価を得、10 月の台風 19 号来襲の際には、近畿、中部、関東をはじめ、全国に水平展開された。

九州南部地方の豪雨災害が懸念された 6 月末の大雨時には、あらかじめ本局から TEC-FORCE 隊 38 名と、九州北部の事務所から排水ポンプ車、照明車、衛星通信車を九州南部の事務所・出張所に前進配備した。被災状況調査では、鹿児島大学の地頭薗教授(TEC-DOCTOR)が災対ヘリ「はるかぜ号」に搭乗し、上空からの被災状況解説や調査後の記者会見を実施し、報道を通じての住民への情報発信を行った。
8 月末の防災対応では、前線の活発な活動により長崎県、佐賀県、福岡県を中心に大雨となり、直轄管理河川のうち松浦川水系松浦川、六角川水系牛津川、筑後川水系巨瀬川では、レベル 5 にあたる氾濫が発生した。また、六角川、牛津川周辺で広範囲の浸水被害が発生し、佐賀県杵島郡大町町では工場から油が流出し浸水中の堤内地に漂流した(流出量: 10 万 3 千リットル、工場敷地外:推定5万4千リットル 企業調査結果 R1.10 月発表値)。六角川への油の流出を食い止めるべく、佐賀県、大町町、自衛隊等関係機関並びに災害時協定業者とともに、オイルフェンスの設置やオイル吸着マットによる油除去をポンプ排水と連携して実施した。当該エリアは、浸水常襲地帯あることを再認識させられ、抜本対策の必要性を改めて知らされた。また、今回の浸水で国道上に立ち往生した放置車両の撤去を行うため、災害対策基本法第 76 条の 6 第 1 項に基づき国道34 号、35 号を区間指定し、道路啓開作業を行った。

10 月の台風 19 号への対応では、2008 年のTEC-FORCE 制度創設以降、東日本大震災を上回る最大規模の TEC-FORCE 活動が展開され、九州地整からも TEC-FORCE 隊員が多くの災害時協定業者とともに、関東地整、北陸地整管内で被災地調査や排水作業、路面清掃などの活動を行った。最終的には総勢 252 名のTEC 隊員と排水ポンプ車26 台、道路路面清掃車 11 台、船舶1 隻を派遣した。

4.災害への備えは “ 総力戦 ”
今後も、自然災害が広域化、激甚化することが予測される中、防災・減災を担う建設業界、学識関係者、行政が一体となって対応するためには、それぞれの組織が緊密に連携していく必要がある。また、併せて建設産業界の喫緊の課題である「担い手の確保」を協力して真剣に対応して行く事が必要で、「建設業界の魅力向上」「建設産業の生産性向上」を両輪として強力に進めていく必要がある。これらは防災面からも今後の災害への備えとして最重要事項であり、そのため、ポイントとなるいくつかの事項について記述する。

1)災害に強いインフラ整備(予算の確保)
防災の備えとして最も必要性が高いのが、災害 に強いインフラの整備を着実に進めることである。昭和から平成の時代に増加してきた公共事業予算は、1998 年前後をピークにその後減少していたところであるが、2019 年度の政府全体の公共事業予算(当初)は約 6 兆 9 千億円と 5 年ぶりに横ばい状態から上昇に転じた。このうち約 9 千億円の上昇は、重要インフラの対応方策として2018 年度補正予算から計上された「防災のための重要インフラの機能維持」「国民経済・生活を支える重要インフラ等の機能維持」の観点から特に緊急に実施すべきソフト・ハード対策について3 年間で集中的に実施することとされた「防災・減災、国土強靱化のための 3 か年緊急対策」の 2 年目分である。
そのほか、南海トラフ巨大地震などの備えとしての耐震補強や東九州自動車道や九州中央自動車道などの高規格道路の整備は被災地への輸送・支援路確保として重要な役割を担うため、 着実に整備を進めていく必要がある。
九州では、南海トラフ巨大地震時の道路啓開の計画として、高速道路や国道等を活用し、九州東側沿線に進行し道路啓開を行う「九州東進作戦」を展開することとしている。

2)「防災i-Con」の推進
国土交通省においては、建設業における調査・設計、施工、検査、維持管理・更新までの全ての建設生産プロセスで ICT(Information and Communication Technology) を 活 用 す る 「i-Construction」を推進しているが、防災対応においても、迅速性や安全性の向上などの視点から生産性を高める取組みも積極的に進めることとしており、いくつかの事例について紹介する。
災害現場の TEC-FORCE 隊員の安全かつ迅速な被災状況調査を可能とするドローンやレーザー計測器、機動性が高く安定した通信回線を確保できる設備(i-RAS、公共 BB)などの防災機器類の導入を進め、大規模自然災害発生時の初動対応力の向上を図る。九州地方整備局では、職員を対象としたドローン(無人航空機)資格者制度を全国に先駆けて設けており、ドローン操作の安全確認や事故防止の観点から資格試験に合格した者のみ運用できることとしている。保有資格は、試験や飛行経験時間に応じて、トップガン(S 級)から操縦者(C 級)の 4 段階に分類され、175 名(2019 年 12 月末現在)の有資格者が活動している。
その他、新技術のとして、360°カメラの本格導入や 360°動画共有に向けた技術開発、VR 技術を用いた災害のアーカイブ化、災害復旧工法技術の研究開発にも取組んでいる。最近の話題としては、通信速度が第 4 世代(4G) から第 5 世代(5G)になると、災害現場での早期の情報共有が可能になることなどにより防災対応全体への影響も大きいと期待している。

3)連携(産・官・学)
防災は、当然のことながら行政だけでは対応で きず、他の防災関係機関との連携が重要となり、特に九州地方整備局としては、地方自治体、建設業界や学識者、更には、住民の方々も含めたまさに” 総力戦” を展開する必要があると考えている。
特に生命に関わる場合は、発災後 72 時間が生 死を分けるとされており、発災後直ちに最善を尽くす活動を開始しなければならない。そのためには日頃から備えを進めることが必要で、個々の能力の向上、組織力の強化、災害対策用機器類の確保など、多くの時間とコストを要する。
一旦災害が起これば、関係する全ての組織が総力を挙げて対応することになり、特に人命救助の視点では自衛隊や消防、警察、自治体との連携は必要不可欠である。
また、大規模な災害発生では、災害協定に基づき建設業者やコンサル、TEC-DOCTOR の学識者など「産・官・学」が連携して対応することになる。現在、九州地方整備局では、九州各県、政令市、市町村の全て、更には関係機関、総数 273 自治体・団体と協定を締結し、各事務所においても地元建設業者などと災害協定を締結している。
特に、「学」との連携では、持続可能な建設業界を目指す長期的な視点でも、災害時のみではなく日頃からの連携が重要であると考える。先生方や学生と災害現場や建設現場を日常的に共有することで人材育成と技術者の継続的な確保にも繋がると考えており、様々な場を通じて学との連携強化を進めている。

その他、様々な災害現場を経験し、建設行政全般の知見や技術力を有する「九州防災エキスパート会」との協力体制は着実に強化されている。多様な九州地方整備局の業務の中では、現場力や災害対応力、技術力を全ての職員が習得することは難しく、災害の様相も様々であることから、マニュアル通りに対応できないことは過去の災害でも実証されている。それを補うために必要なのが先輩方の知識であり、経験である。災害時に円滑に協力体制がとれるよう、災害時のみではなく日頃の活動も積極的に行われるよう、技術伝承の場作りも進めている。

4)広報
防災・減災対策を進める上での課題解決の手段として、住民に確実に届く広報をいかに効果的に実施していくかが重要になってくる。
気象情報や災害情報による危機感を共有し、その後も復旧情報などをわかりやすく伝えることが、結果として「命を守る行動」に繋がると考えている。
九州地方整備局では、2019 年度からの新たな取組みとして、前述した福岡管区気象台との合同記者会見に加え、災害対応中の九州地方整備局災害対策本部から TV 生中継を行い緊迫したリアルな情報発信を積極的に実施した。
また、大規模発生時には、被災地域の主要道路の通行可能な路線を地図化した「通れるマップ」を公表している。これは、2016 年の「熊本地震」や 2017 年の「九州北部豪雨」の際にも作成・公表してきたが、現在では作成手法も徐々にICT 技術活用で進化してきている。

また、防災・減災対応は国民全体が、理解し自ら行動に移すことが求められる。そのためには、 多くの国民に防災・減災意識を向上してもらう行動も必要である。これには、各自治体で実施されている総合防災訓練への参加や、河川流域を中心に進めている学校教育や出前講座等による防災教育への参画なども計画的に進めていくことが必要である。
更に、災害対応や復旧情報等の情報と通じて、地域の守り手としての建設業界の活躍を知ってもらうことも、防災・減災への備えの重要なテーマである。

5)災害への備えは “ 総力戦 ”
災害への備えを進めていく上では、前述した、「災害に強いインフラ整備」「防災 i-Con」「産・学・官連携」「広報」を関連づけながら進めていくことが重要であり、着実に進めて行くためには、組織及び個人として姿勢やどう行動するのか、そのための“ 想像力”“ 意思疎通”“ 意欲”の3 つのキーワードが必要と考えている。

5.おわりに
災害のリスクが高い九州、さらに、2019 年に関東甲信や東北地方を襲った台風 15 号や 19 号など過去に比較的災害が少ない地域での猛烈な雨や風など、世界的な気象変動も危惧されるなか、南海トラフ巨大地震への備えも進めなければならない。どのようにして国民の生命と財産を守り、被害の最小化、早期の復旧・復興が実現する体制や仕組みを作っていくか。加えて、 建設産業界の喫緊の課題である担い手確保など、安全で安心できる生活環境を確保するには乗り越えなければいけないハードルは多く、そのひとつひとつは高い。しかし、防災・減災への備えを前向きに捉え、行政や建設業界、有識者など全ての関係者が連携して取り組む“ 総力戦” で備えれば乗り越えることも可能であると信じている。九州地方整備局としてしっかりと役割を担っていかなければならない。

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