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菊池川横田・仮屋堰の改修(起伏ゲート)について

国土交通省 九州地方整備局
 菊池川河川事務所 工務課
 機械係長
光 安  保

1 はじめに
迫間川は、菊池市内を流れる延長9.3kmの菊池川の支川である。
迫間川では昭和55年7月、昭和57年7月に相次いで大規模な洪水が発生し、周辺に被害を与えている。その時の洪水を安全に流下させるために、迫間川の堰群改築を進めてきた。
横田堰及び仮屋堰は、迫間川の堰群改築計画の中でも最上流部に位置する固定堰で、それぞれに農業用水を取水するのに用いられてきた。仮屋堰及び横田堰は共に現況堰天端高が計画河床高以上で洪水疎通の障害となるため、洪水時の流下能力を確保するために早急な改築が必要になった。
従来、用水取水に利用される可動堰はゴム堰か鋼製起伏堰のどちらかであったが、当該区間は転石等の多い河川で、今回の設置位置よりも下流のゴム堰で袋体が破損した事例もあるので、ゴム堰の採用は不適切と判断した。
そこで新たに開発されたゴム袋体と鋼製扉体を組み合わせた合成起伏ゲートによる可動堰の設置を今回実施したので報告する。

     

図-1 菊池川流域

写真-1 横田・仮屋堰周辺

2 設備の概要

3 堰の特徴
今回のゲートの特徴は、上流側に配置した鋼製扉体により水を堰き止め、下流側に配置したゴム引布製の袋体で扉体を支持、および、その膨張・収縮により、扉体を起伏させ流水制御を行うものである。
通常の鋼製扉体では、スキンプレートの下流側に桁部が配置されているが、合成起伏ゲートの場合は、扉体全面を裏側からゴム袋体で支持する構造のため、通常位置に桁部が配置出来ない。そこで、スキンプレートを縦リブで補強する構造とし、扉体の剛性を確保している。扉体は定着ゴムにより下部戸当りと連結しており、水密と共に水圧荷重を支持している。
また、上流側への扉体の転倒防止のために、引留帯で下部構造に固定している。

図-2

写真-2 引留帯

扉体倒伏時は、扉体の下にゴム袋体と引留帯が収納されるが、扉体先端部から引留帯がはみ出すと流下土石で損傷する可能性がある。そこで、引留帯には製作時に曲げ加工等により予め折り癖をつけ、損傷防止を図っている。
全倒伏した時は、上流側より下流側を3°下がるようにして、水の流れを阻害しないよう配慮している。
ゴム袋体は、ゴム堰の袋体と同じ材質・構造を呈しており、ゴム堰の実績からも充分な耐久性を有するものと考える。引留帯も同じゴム材を使用している。ゴム袋体は、鋼製扉体とは別に下部構造に固定されており、堰を起立させたまま袋体のメンテナンスが可能である。
堰上流の河道は大きく湾曲しており、偏流により、扉体天端に偏りが発生する可能性がある。
そこで、扉体およびゴム袋体を堰軸方向に2分割し、それぞれのゴム袋体への給排気管を個別に配置し、左右の開度を同調させる堰高同調システムを採用した。
堰の開度は、左右の扉体端部に設置した傾斜計で計測し、システムに利用している。
合成起伏ゲートは、ゴム袋体の内圧が外気温や直射日光の影響を受けて変動し、堰高が変化してしまう。堰高が低下した場合は、給気用のコンプレッサーを運転し、ゴム袋体に給気して堰高を復帰させる。堰高低下は夜間に発生すると考えられるが、民家が近いために騒音公害になると予想される。そこで、圧縮エアータンクをコンプレッサーに接続して、タンク内の圧縮空気で堰高を復帰させる堰高自動復帰システムを採用した。

図-3

写真-3 ゴム袋体配置状況

写真-4 傾斜計

4 土砂堆積への対応
現場は半川締切により,平成17年度に右岸、平成18年度に左岸と操作設備を現場据付した。右岸ゲートは、設置後に倒伏し、水没させていたが、出水により右岸側に土砂が堆積した。
多い所で約1m程堆積したため、自力での起立は無理と判断し、左岸の締切撤去する際に同時に撤去を行った。30cm程度まで重機で撤去を行い、あとは通常の操作で起立をさせた。
堆積した土砂は、こぶし大の石が多数混じっていたが、起立後に扉体を確認したところ、スキンプレートおよび縦リブに、変形や損傷は見られなかった。

5 施工写真

写真-5 下部戸当り

写真-5は下部戸当りの設置状況だが、上流側に鋼製扉体およびゴム袋体を固定するボルト穴が見える。中央付近に、ゴム袋体に接続する給排気管が通る貫通部がある。
側部戸当りは、鋼製起伏堰と同じ構造とした。
下部戸当りには、ゴム袋体に接続する給排気管が通る貫通部がある。給排気管は、下部戸当りの下流側に据え付けて、コンクリートで埋設している。
給排気管は、ゴム袋体の両側に接続しており、左右均等に膨らむようにしている。
ゴム袋体内部は、結露により水が溜まるため、ドレンタンクを設けて、排水する構造になっている。ドレンタンクは給排気管の下流側に配置してあり、自動で排水するが、手動でも排水が可能になっている。

写真-6 (左)戸当り、(右)給排気管

写真-7 ゴム袋体据付(1)
ゴム袋体を押さえ板で固定している。
袋体のフランジは、給排気管の接続部分。

写真-8 ゴム袋体据付(2)
ゴム袋体固定後、袋体を下流側に移動させている。

写真-9 扉体据付状況
ゴム袋体と同じく、鋼製扉体も2分割で据え付ける。
扉体は連結ゴムで連結する。

写真-10 定着ゴム
扉体下部と下部戸当り部を定着ゴムで連結した状況。
下部水密の役割も果たす。

写真-11 通水前起立状況(上流より)

写真-12 通水前起立状況(下流より)

写真-13 通水前倒伏状況(上流より)

写真-14 通水前倒伏状況(下流より)

写真-15 堰操作室内(1)
扉機側操作盤と圧縮エアータンク。
盤の右側小扉は通常操作、左側は機器単体操作用。

写真-16 堰操作室内(2)
コンプレッサーとフロート式自動倒伏装置。

写真-17 大代堰および用水樋管
完成後の利用状況。左岸に用水樋管がありその奥に堰操作室が見える。

6 まとめ
鋼製扉体なので、ゴム堰のようにⅤノッチ現象が生じず中間開度でも安定した流量が得られる。空気で作動するので環境に優しく、扉体とゴム袋体が別々に据え付けることで維持管理もしやすい構造である。
ただし、採用に当たって留意する点としては、耐久性、経済性や流量制御などについて、河川の特性をふまえ、十分検討する必要があると思われる。
合成起伏ゲートは、まだ新しいタイプのゲートであることから、独自の基準がまだ確立しておらず、施工にあたってはゴム堰と鋼製起伏堰の両方の基準を準用することで対応した。基準が出来れば、今後の活用も増えていくものと思われる。

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