大島大橋(仮称)下部工コンクリートの設計について
長崎県島原振興局建設部道路課
技師
(前)長崎県大瀬戸土木事務所
大島大橋建設課 技師
技師
(前)長崎県大瀬戸土木事務所
大島大橋建設課 技師
有 吉 正 敏
1 はじめに
長崎県が現在建設中である大島大橋(仮称)は,完成すれば九州で最大の3径間連続鋼斜張橋である。
長崎県は,九州最西端に位置し,大小約600におよぶ離島を抱え,その面積は県土の約45%にも相当する。このため,離島架橋は,県の施策のひとつとして積極的に推進され,これまでに平戸大橋,生月大橋等の長大橋を建設してきた。
大島大橋も,離島である西彼杵郡大島町と崎戸町(平島,江ノ島は除く)を本土化するために,大島町寺島と西海町中浦北を結ぶ中央支間350m,橋長1,095m(取付道を含む工区延長は2,780m)の離島架橋である。
本事業は,平成3年度より着工し,平成12年度完成を目指して順調に工事が推進している。
今回,本大橋の下部工(特に海上部)の設計にあたり,コンクリートの耐久性を考慮した設計を行ったので報告する。
2 目 的
コンクリート構造物は,長期の耐久性を有し原材料の入手が容易で経済的であることから,住宅,公共建築物,道路,橋梁,ダムといった社会資本整備に広く用いられてきた。
しかし,最近になって,一部のコンクリート構造物において建築後10年から15年といった比較的早い時期に異常なひび割れが生じる等の劣化現象が見られるようなった。この早期劣化現象の原因の一つとして塩害がある。本県内における海上橋の下部工も,例にもれず塩害等により補修を余儀なくされている。
以上の点を考慮し,本大橋下部工においては「耐久性」を考えた設計,施工を行った。
3 設 計
本大橋下部工の配合・かぶりの設計をするにあたり,耐久性のある海洋コンクリートを建設するための示方書・基準・指針等の選定を行った。
表ー1に選定した基準等をしめす。この比較表より判断すると,条件的に最も厳しいのは①(コンクリート標準示方書)であり,他の②~⑤についてはほぼ同じ配合条件を示している。
大島大橋は離島架橋であり,規模も大きく,更に,耐用年数をできる限り長く取る事を前提に設計および施工上,①のコンクリート標準示方書に示す「海洋コンクリート」の配合条件を採用するものとした。
なお,柱は飛沫帯・海洋大気中に位置し,フーチングは海中部に位置する。よって,柱とフーチングは配合条件を変えるものとした。その結果を表ー2に示す。
この配合により,下部工の施工を行った。
4 P1・P2橋脚の施工
大島大橋の下部工は,まず一番陸地に近いP1・P2橋脚の施工から着手した。
下部工コンクリートの施工に先立ち,次の問題点が提言された。
「本橋脚の配合は富配合であり,また,断面も大きく工期および潮位の関係から打設リフト厚さも大きく,普通に施工した場合にはセメントの水和反応に伴う熱が蓄積され,温度応力によって謳体コンクリートにひび割れを生じる危険性がある。」
そこで,施工に先立ちコンクリート発熱の制御方法について,次のような検討を行った。
(1)水和熱の低いセメントを使用する。
(2)粗骨材最大寸法を大きくする。
(3)セメント使用量を少なくする。
(4)気温の低い時期・時間に打設する。
(5)コンクリートの使用材料をプレクーリングする。
(6)打設したコンクリートをパイプクーリングする。
以上のような対策が考えられたが,各種現場条件を考慮した場合なかなか現地に適用できなかった。このため,温度応力によるクラックを心配しながらの施工となった。しかし,今後の施工の参考とするため,コンクリートの温度計測を実施することとした。その結果を図ー3に示す。
コンクリートの打設は,平成6年5月下旬から9月上旬にかけて行った。5月から6月ごろにかけては気温も低く,目立つようなクラックも発生しなかったが,7月から8月にかけて気温が上昇してくると,クラックが発生するようになってきた。コンクリートの打設を早朝に行ったり,砕石に散水したり等の対策を行ったが,改善されなかった。クラックの状況を写真一1に示す。これでもわかるようにクラックは最大0.4mmぐらいのものであり,日本コンクリート工学協会編「コンクリートのひび割れ調査・補修指針」によると,耐久性から見た場合0.4mm以上については補修が必要であるとなっている。本橋脚の場合は,海上橋脚であり防水性から見た場合0.2mm以上については補修が必要であるとなっているため,0.2mm以上については補修を行った。補修は,エポキシ樹脂を0.2mm以上のクラックに注入する方法で行った。この補修によりP1・P2橋脚の耐久性は保たれたと考えている。
5 1P~4P橋脚の施工
先に述べたP1・P2橋脚の経験を踏まえ,斜張橋部分の下部工となる1P~4P橋脚の施工に先立ちコンクリート設計の再検討を行うこととした。
先の経験から,温度応力によるクラックを発生させないためには,P1・P2の項に述べた6つの対策をできるだけ行うことが必要であった。このため,一番効果があり,コンクリートの耐久性に悪影響を及ぼさず,費用が大きく増加しない対策として「水和熱の低いセメント」の使用を行うこととした。
しかし,1P・4P橋脚と2P・3P橋脚とは形状が著しく異なるため,クラック発生の原因も内部拘束と外部拘束と異なっている。このため,強度もあり,発熱が少ないセメントの選定が必要となり,耐久性,地域性,経済性等も考慮し,中庸熱高炉セメントと低熱高炉セメントから選定することとした。
選定にあたり現地材料(実際に使用する砕石,砂)により試し練りを行った。さらに,この試し練りを行ったコンクリートを使用し,力学的特性試験,熱膨脹試験,断熱温度上昇試験等を行った。この中から,圧縮強度試験結果を表ー3に,引張強度試験結果を表ー4に,断熱温度上昇試験結果を図ー4に示す。なお,LBが低熱高炉セメント,MBが中庸熱高炉セメント,BBが高炉B種セメントである。これらの結果を検討し,使用セメントの選定作業を行った。図一4を見てもらえばわかるように,通常温度応力によるクラックが発生する4日までの温度上昇はLBもMBも大差がなく,優劣はつけづらいが,表ー3,表ー4の圧縮強度,引張強度を見ると初期強度がMBの方が高く,ひび割れが発生しにくいと考えられる。以上より,1P~4P橋脚のセメントはMB(中庸熱高炉コンクリート)を使用することとした。
さらに,耐久性に重大な影響を及ぼす要素の一つである鉄筋の「かぶり」についても再検討を行うこととした。先に述べた基準等によれば,「かぶり」は7cmあれば十分である。しかし,現実には7cmの「かぶり」であっても各種の問題が生じている。
また,これらの基準は一般的なコンクリート造物を対象としたものであり,大島大橋のような大型海洋コンクリート構造物に適用できるとはいいがたい。さらに,P1・P2橋脚の施工を実際に経験してみて「かぶり」の必要性を実感したからである。以上の点を考慮し,「かぶり」の見直しを行った。その結果,考え方の基本として,㈳日本コンクリート工学協会「鉄筋コンクリート構造物の耐久性設計に関する考え方」を適用することとした。
この考え方の基本は,
(1)この考え方は,新規に建造する鉄筋コンクリート構造物が,その設計耐用期間を通じて,その耐久性を確保するかどうかを検討する方法を示すものである。
(2)鉄筋コンクリート構造物の劣化現象の内,ここではコンクリート中の鉄筋の腐食を設計の対象とする。また,その限界状態としては腐食の発生を考える。
以上であり,耐久性においては構造物の規模,重要度,供用期間等を勘案し,設計耐用期間を設定する。
構造物の種類から設計耐用期間を設定する際の目安として,
(1)特に高い耐久性を要する土木,建築構造物は100年
(2)一般の土木,建築構造物は50年
(3)耐用年数が短くてもよい建築構造物は30年
以上であり,大島大橋はその規模,重要性より社会的,経済的条件から高度の耐久性を要求されるものと考え,設計耐用期間を100年に設定した。
この耐用期間を満足する「かぶり」を現地条件等を考慮して,12cmに変更した。
6 まとめ
以上に述べたように,大島大橋下部工コンクリートの設計,施工は試行錯誤しながら進めているところであるが,近年の技術進歩に対応していくことの難しさを深く感じているところである。
海上大型橋梁下部工コンクリートの考え方についても,本州四国連絡橋の児島坂出ルート,明石海峡大橋,来島大橋と同じ本四においても大きく変化してきている。このコンクリート技術の変化(進捗)に長崎県という地方の県が対応していくことは,非常に難しいと言わざるを得ない。しかし,長崎県の地域性を考えた場合、県土の健全な発展のためには,新たな大型橋梁の建設が不可欠であることは事実である。
また,現在ある橋梁,さらに今後建設する橋梁を出来るだけ健全な状態で長持ちさせることは,県の財政上も重要なことであり,今回の大島大橋における下部工コンクリートの耐久性設計の試みが,今後の事業に生かされることを望みたい。また,今回の大島大橋における新たな試みが,九州における技術発展に少しでも寄与できれば幸いである。
現在,工事は順調に進んでおり,1P~4P橋脚のケーソン鋼枠の設置が完了し,1P・2Pは謳体柱コンクリートの打設中であり,3P・4Pは鋼枠内コンクリートの打設中である(写真ー2)。
終わりに,本橋の建設にあたり,技術的なご指導を頂いた長崎県橋梁技術検討委員会(松崎委員長)並びにワーキンググループ検討会の委員の皆様に深く感謝の意を表すとともに,今後のご指導を切にお願い申しあげます。