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佐賀空港建設工事

佐賀県建設推進局佐賀空港課長
唯 野 邦 男

1 はじめに
昭和44年1月のことであった。佐賀県は,県の南東部に位置する川副町(かわそえまち)に空港を建設する計画を公表した。時あたかも,全国の空港に先駆け,熊本,大分,鹿児島,長崎の九州各県において新空港が次々に建設されていった時期であり,航空機のジェット化・大型化というわが国国内航空輸送の大きな変革が始まった時期であった。その頃を境に航空は庶民の足となり,当時年間1,500万人程度であった国内航空旅客は,平成6年度には7,500万人にまで増加している。
佐賀空港の建設地として選定されたのは,有明海に面する2つの干拓地であった(図ー1)。そのひとつ,平和搦(へいわがらみ)は,昭和17年から39年にかけて干拓され,既に入殖がなされていた。もうひとつの国造搦(こくぞうがらみ)は,昭和30年から47年にかけて干拓されたが,農業政策の転換により農地としての利用が求められなくなっていた。県は当時の農林省からこの土地の払い下げを受けて空港を建設しようと考えたのであり,48年3月払下げを受けている。平和搦部分の空港用地は地権者から買収する予定となっていた。
当初地元はこの空港建設を大いに歓迎したが,しばらくするうちに漁民の間から建設反対の運動が起こり,大きな力となっていった。空港建設により,有明海で大々的に行われている海苔漁業に多大な影響があるのではないか,という懸念がその理由のひとつであった。その解決には長い時間を要し,空港建設に入れる状況が整ったのは昭和62年になってからであった。実に20年近くの年月が流れ,その頃までに九州の各県の空港は拡張されて,国際線の定期便が就航するまでに成長していた。
平成5年7月,前年までに用地買収の問題を解決した佐賀県は,いよいよ佐賀空港建設の本格工事に着手した。現在順調に工事が進められており,開港は平成10年夏頃の予定である。

2 佐賀空港計画の概要
佐賀空港は県が設置・管理する空港であり,空港整備法に定める第3種空港に位置付けられている。(これに対し,福岡,長崎空港などは運輸省が設置・管理する第2種空港である)
滑走路長は2,000m,エプロンは4バースである。この滑走路にはA300やB767といった中型ジェット機(ほぼ300席以内)までの就航が可能である。将来はこれを2,500mに延長し,平行誘導路を整備して,B747などの大型ジェット機の就航を可能にする構想を有している(図ー2)。
本空港内は新しく建設される空港でありながら,母都市である佐賀市から11kmと非常に近い位置にあり,その一方で空港周辺や航空機離着陸経路直下に人家などがないため航空機騒音の問題がほとんどない,という利点を有している(図ー1)。

3 佐賀空港建設工事
本空港の建設工事の特徴として,次の2つを挙げることができる。
 ・軟弱地盤対策としての地盤改良工事
 ・大量土砂の長距離陸上運搬
(1)軟弱地盤対策としての地盤改良工事
① 佐賀空港建設地の地盤
佐賀空港の建設地およびその周辺は有明海の湾奥部にあたり,4~5mの干満差を有するとともに干潮時には海岸線から沖合数kmに亘って干潟化する遠浅な海域となっている。この干潟は,河川と潮流によって運ばれた微細な土粒子の堆積作用によるものであるが,毎年10m前後の速さで進行している。
地質は,有明粘土と呼ばれる非常に軟弱な粘土層である。これは特に微細な土粒子が海水中の塩素イオンを吸着して凝集したものであり,綿毛構造と呼ばれ,空隙に富んだヘドロ状となっている。空港建設地付近の地盤のうち沖積層部分は,この有明粘土が20~25mに亘って堆積したものであり,その中に何層かの砂層を挟在している。その下の層は洪積砂層および粘土層の互層であり,更に第三紀の軟岩層へと続いている(図ー3)。

② 地盤改良試験
空港建設地の地盤がそのように非常に軟弱な土質であることから,滑走路等を建設するに先立って地盤改良をしておく必要がある。県は,平成5年から本格的な地盤改良・盛土工事を開始するにあたり,事前に図ー4に示す位置で地盤改良試験を行った。

試験は3つの工区で行い,パックドレーンによる改良,ペーパードレーンによる改良および無処理の各々の試験を行った。試験の方法は,図ー5に示すとおり,原地盤上に厚さ50cmのサンドマットを敷き,ドレーンを打設または無処理のままとした後,底部が70m四方,頂部が25m四方,盛土高がサンドマットを含め3.5mの台形状に盛土をする方法で行った。パックドレーンについては,1.2m間隔の4本を1ユニットとし,各ユニットの中心間隔3.2mのグリット状に,深さ25m程(沖積層底部)まで打設した。ペーパードレーンについては,1.5m間隔のグリット状に,深さ25m程まで打設した。各工区の地盤に表面沈下板,層別沈下計,間隔水圧計,傾斜計を各々設置して,圧密沈下の動態観測を行ったところである。

これらの試験のうち,最終的に空港の地盤改良方法として採用することとしたペーパードレーン工法による改良工区および無処理とした工区での沈下量の時間変化を図ー6に示す。この図から分かるとおり,ペーパードレーン工区の沈下量は2.4m程であり,盛土終了から一年程度で沈下がほぼ終了している。
また一方,無処理工区での沈下は一年程で1.7m程度に達しているが,その沈下は継続中である。
この試験における様々な観測データから,ⓐ無処理のままでは圧密沈下の終了がかかり過ぎること,ⓑペーパードレーンとパックドレーンではほぼ同様の効果が期待できるが,ペーパードレーンの方が施工性の面から有利であること,©ペーパードレーン打設および盛土工事終了後,圧密沈下が概ね終了するまでに一年程度の放置期間を要すること,などが明らかになった。また,地盤の土質構造に応じて各箇所において実際にどの程度の沈下が発生するかを推定することができるようになり,搬入土砂全体量や全体事業費の把握を行うことができた。

③ 佐賀空港地盤改良工事
佐賀空港における,ペーパードレーンによる地盤改良工事範囲を図ー4に示す。基本的には,滑走路・誘導路・エプロンといった空港の重要な施設の地盤を改良の対象としているが,その他,旅客ターミナルビルなどの建物エリアも地盤改良している。これは,建物については深さ30m程のところにある支持層まで杭を打つため沈まないことから,そのまわりの地盤についても後から沈むことがないよう配慮したものである。
地盤改良工事は,平成5年度には滑走路の測点No.3からNo.9付近を基本的に行ったが,その他,No.14付近とエプロンの一部を先行的に行って,地盤改良試験地から離れたエリアでの沈下の状況を事前に確認した上で,次の年度に当該エリアの本格工事に着手する方法を取った。平成6年度にも同様に,国造搦地区の残りの滑走路・エプロン・誘導路部分の地盤改良を行う一方で,平和搦地区の滑走路No.16および20付近を先行的に地盤改良してきている(写真ー1)。

図ー7に,滑走路測点No.3からNo.9部分の盛土高さおよび平成7年2月時点での沈下量を示す。地盤構造の相違からNo.3側が3m程沈下し,一方No.9側は1.5m程度の沈下量である。いずれの地点においてもほぼ計画どおりの沈下量であり,また沈下は概ね終了している。

(2)大量の土砂の長距離陸上運搬
① 背景
佐賀空港建設用地は干拓地であり,その地盤面の標高はほぼTP±0mである。これに対して,滑走路の中心線の高さは中央部付近でTP+1.7mとする計画であり,地盤の圧密沈下の分を含めると,約200万m3(真砂土約150万m3,砂約50万m3:ルーズ値)の土砂が必要となる。空港の運用面から見ると非常に望ましいことであるが,建設地の周辺に山がなく,このため,これらの土砂を遠方より運搬する必要があった。
土砂の採取地と運搬方法についてはいくつかの検討がなされた。このうち有明海の海上を利用して船舶により運搬する方法は,既述のように空港建設地の沖合が数kmに亘って干渇化する遠浅な海域であり,相当沖合まで伸びる桟橋を新たに建設する必要がある。しかしそれによって,同海域で営まれている良好な海苔漁業に影響を与え,また澪筋(みおすじ)と呼ばれる小型船舶の航路を妨げることになるなどの理由から,この方法は難しいと判断された。
結局,土についてはいくつかの候補地の中から東背振村(ひがしせふりそん)にある小山を採取地とし,ダンプトラックによる陸上運搬を行なうこととした(図ー8)。また砂については購入砂としたが,供給量の関係で,富士町,多久市の3ケ所から,やはりダンプトラックにより陸上運搬が行われている。運搬ルートは,長崎自動車道の利用を含め,可能な限り4車線道路を利用することとし,それができない場合もできるだけ広い道を利用するように計画した。

② 円滑な土砂運搬のための方策
土砂運搬に当っては,地域住民の安全を確保し,また悪影響を極力少なくするとともに,運搬を円滑に進めるため,次のような方策を取ってきている。
a.運搬に当っての周知と調整
平成5年度当初土砂運搬を開始するに先立ち,「佐賀空港建設工事交通安全対策等連絡協議会」(運搬ルート沿線上の関係市町村,道路管理者,陸運支局,県警,県など)を組織し,運搬計画,安全対策などについて説明し,協議を行った。また各々の市町村からの求めに応じて,地元での住民説明会等を行い,円滑な運搬が行えるよう調整を行った。
更に,運搬開始の直前には新聞広告と折り込みチラシにより,土砂運搬について周知した。
b.土砂運搬上のルールの明確化と運転手教育
用地造成工事を請負った建設業者に対し,土砂運搬上のルールを明文化し,その遵守を義務付けている。建設業者は土砂運搬を実際に行うダンプ運転手に対して講習を行い,その講習を受けた者だけが運搬に従事できるようにしている。一方,ダンプ運転手が積極的にルールを守る気持ちになるよう,「佐賀空港建設の一員であることに誇りを持とう」と呼びかけている。
運搬上のルールは細部に亘って定めているが,その内の主要な項目としては,①運搬ルート・交通ルールの遵守,②「空」と書いたピンク色の旗を運転台の後の左右2ケ所に掲示,③過積載の厳禁,④地域の実情に合わせて定めた走行速度の遵守,などがある。
c.運搬の巡回監視と県民からの通報
土砂運搬がルールに従って行なわれているかどうかを確認し,必要に応じて適切な指導を行うため,定期的な巡回監視を行っている。また,ピンク色の旗を掲げたダンプに問題があった場合には連絡してくれるよう,広告・チラシなどで求め,県民から苦情・意見があった場合は,情況の把握と改善の指導を行い,それを記録に残している。
d.その他
運搬ルート上で狭隘な橋梁部や交差点などに交通整理員を配置している。また,信号機の設置・改善や歩道の設置など,他の機関に係わる安全対策・交通の円滑化対策についても各々の協力を得て実施してきている。
③ 土砂運搬の進捗状況
土砂運搬だけに着目すると,平成6年度末時点において必要土砂量約200万m3のうちの54%を運び終えており,7年度末には86%に達する見込みである。この7年度をピークとして,8年度には運搬量が減少し,9年度に残る分はわずかである。
平成10年夏頃開港のためのひとつのハードルであった土砂運搬について,乗り越える目途がついたと考えている。
(3)今後の工事見通し
全体事業費ベースで見ると,7年度末の進捗率は63%となる見込みである(写真一2)。
最後に残った工区の地盤改良工事を,その上の盛土工事を含めて7年度中にほぼ完了し,8年度一年間の放置となる。
5年度,6年度に地盤改良・盛土工事を行った滑走路の一部および誘導路については8年度にその舗装工事を行い,9年度には残りの部分の舗装工事を行う。その上で,航空照明灯器の設置,路面上のマーキングとグルービングを行う予定である。
また,旅客ターミナルビルなどの建築施設や航空無線施設などについても8年度より建設工事に入り,概ね9年度末頃までには完成する予定である。
そして,運輸省による完成検査や航空機を用いて行うフライトチェックを受ける。その後,航空法に基づく告示および航空関係者への周知のためのエアラックなどの手続きの期間を経て開港を迎えることになる。

3 おわりに
昭和44年から数えて30年目,平成10年夏頃に佐賀空港は開港する。九州各県における最後に残った空港であり,その期待は大きい。

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