橋梁洗掘被災の特徴と予防保全に向けて
国立研究開発法人土木研究所
河道保全研究グループ
上席研究員(特命事項担当)
河道保全研究グループ
上席研究員(特命事項担当)
猪 股 広 典
キーワード:橋梁洗掘、予防保全、洪水、現地調査、河道二極化
1.はじめに
近年、洪水発生時において橋脚沈下や道路盛土等が被災する事例が目立つようになってきており、被害防止・軽減に向けた取組が求められている。橋梁洗掘に関する研究は、最終洗掘深推定式に関する研究等例えば1)が1970年代以降実施されてきた。それらの研究が実施された社会的背景・要因に関する報告は多く無いが、昭和53年に発生した全16 被災事例のうち「局所洗掘又は河床低下」により発生したものが14にのぼるとする報告1)、神通川に架かる富山大橋が1969年の豪雨時に沈下した要因は砂利採取に伴う河床低下、交通量の激増とする報告がある2)。砂利採取を一因とした橋脚基礎の浮き上がり発生については他にも報告があり3)、砂利採取による河床低下に伴う橋脚基礎の沈下被災・浮き上がりは当時局所洗掘に係る研究が実施された背景の一つとして推定される。しかし1966年以降砂利採取量が減少3)した後も洪水時の橋梁の被災は発生している。橋脚沈下による被災は通行止めや架け替えを行う必要が生じ地域への影響が甚大となるため、これを避けるためには被災を未然に防ぐ予防保全が必要である。
西川4)は洪水時の橋梁の災害を、外力の観点から「圧倒的な超過外力による災害」及び「時間をかけて洗掘が進んだ結果として生じる劣化・損傷の一種」の2 種類に大きく類型化できるとしている。前者については、大規模な洪水の発生により橋梁上流側から河岸侵食が発生し、橋台と背面が侵食される被災事例5)や近年では球磨川豪雨時の橋梁の流出6)が挙げられる。また、国土技術政策総合研究所7)は、近年洗掘により被災が生じた道路橋と生じなかった道路橋に関するデータを基に、線形判別分析により定量的な洗掘被災リスク要因と被災事例の個別検証に基づく定性的な洗掘被災リスク要因の2つの視点から、道路橋において洗掘による被災リスクが高くなる条件に付いて検討を行った。その結果、竣工年が古い、橋長が小さい、河積阻害率が大きい、湾曲角度が大きい橋梁において被害が大きいとしている。さらに、建設年次としては河川管理施設等構造令が施行される以前に建設された橋梁においては被災の割合が上がること、基礎形式としては直接基礎、パイルベント形式が被災件数全体の90% 以上を占めること、河床勾配としては1/400よりも急な勾配において発生していることが示されている。この研究は主として建設年次や形式をはじめとして、橋脚の仕様に着目して行われたものであり、西川の分類4)に示された外力規模での分類に着目されていない。また、河床勾配は考慮されているものの、平面形状についても考慮されていない。本報告では、西川の分類4)における後者である「時間をかけて洗掘が進んだ結果として生じる劣化・損傷の一種」を主対象として、2019年以降に発生した複数の橋梁被災事例について河川の特性から被災要因を推定し、予防保全に向けた取組について考察・報告するものである。
2.近年発生した被災事例と特徴
(1)被災事例調査を実施した事例、方法
2019年から2024年にかけて発生した9 件の被災事例について被災要因の推定を行った。事例の抽出は、被災時において上部工までの水位上昇は生じず、被災は下部工周辺河床の洗掘のみであったものに絞った。また本報告で取り扱う事例は、著者が認識した事例のみを扱っており、ここで取り扱う事例以外にも被災事例が存在することも考えられる。そのため本報告で扱う事例から得られる結果の一般性については留意が必要である。
各橋梁について、基礎形式、竣工年、航空写真による河道平面形変遷の調査、縦断勾配、橋梁架設近傍の河道横断データ、河床材料情報等の情報を可能な範囲で入手し、これらの情報を基に定性的な検討を実施した。また、一部の橋梁については現地調査を実施した。表-1 には検討対象とした9橋梁の諸元(管理者、基礎形式、竣工年、被災年、橋長、径間長)、河川に関する情報(河床勾配、主な河床材料)、現地調査の実施有無を示す。河床勾配については公表資料等により入手可能なものはその情報を参考としたが、入手不可能だった対象橋梁についてはGoogle Earth で表示される標高と距離計測機能から河床勾配を概算した。河床材料については、河床材料調査結果が入手できた事例(B、F橋)については平均粒径を示した。河床材料調査結果が入手できなかった事例のうち、現地調査を実施した事例(D、E、G、H、I橋)については現地調査結果に基づき主たる河床材料を示し、現地調査を実施しなかった事例(A、C橋)については航空写真から推定した主たる河床材料を示した。また、被災事例発生周辺河道における河道二極化の発生有無についても示した。宮田ら8)は二極化について、「河川区域内における植生・樹木の繁茂(樹林化)、これに伴う水域部と陸域部における比高差の拡大」と定義している。本報告ではこの定義を参考に、河道横断データが入手できた事例(B、C、F橋)については横断形状の変遷から水域部と陸域部における比高差拡大が確認された場合、河道横断データが入手できなかった事例(A、D、E、G、H、I橋)については航空写真から樹林化を伴って経年的な主流路固定が確認される場合に二極化が生じていると判定した。以下、数事例について具体的に述べる。

(2)被災メカニズムの定性的な推定
① F橋
F橋は県道にかかる橋梁であり、橋脚の基礎形式はケーソンである。2022年の洪水時に、全14橋脚のうち左岸から6つ目の橋脚が沈下した。F橋が架かる周辺河道における勾配は1/570、主たる河床材料は砂利(D50=9.5mm)であり、セグメント区分は2-1 である。
写真-1は竣工直後から被災前までの航空写真であり、黒丸箇所は2022年の洪水により沈下した左岸側から6つ目の橋脚の位置を示している。竣工年である1957年以降最も早い年に撮影された1963年の航空写真からは、澪筋の位置は右岸よりであることが分かる。その後、1976年には右岸側に加えて中央部分での流れが新たに発生し、2005年においては流路が1つとなり中央からやや左岸よりに位置している。2009年の澪筋位置は2005年と同じ位置であり、その澪筋上に沈下した橋脚が位置している。被災後の現地調査の結果、2005年、2009年の航空写真から判読された流路位置は被災時でも変わっていなかったことが分かっており、およそ20年にわたって流路が固定化されていたこととなる。また2009年の航空写真からは周辺河道の一部において樹林化が確認できる。この航空写真からはF橋上流の右岸側に礫河原の存在が確認できるものの、現地調査を実施した2022年においてはこの範囲についても草木に覆われ全面的に樹林化しており、陸部においては土砂移動が活発ではなかったと推測される。また、航空写真からから読み取るその他の着眼点として、被災橋脚と流路の角度が挙げられる。一般的に橋脚の設置方向は、河積阻害率を最小とするために流向に対して平行とすることが一般的であり9)、F橋も竣工当時は橋脚方向と流向は平行であったと考えられる。しかし2009年の航空写真からは、被災橋脚に対して流向が斜めになっていることが確認できる(写真-2)。橋脚に対して流向が斜めになると、橋脚と流向が平行である場合と比較して見かけの橋脚幅の増加に伴い局所洗掘深が増加することが知られており9)、F橋は竣工当時よりも大きな局所洗掘が生じうる状況であったことが推察される。
図-1 はF橋直下における横断測量データ(1966年、1977年、2020年)である。竣工から9年後にあたる1966年の計測では右岸側にあった澪筋が、1977年の計測では左岸方向に移動していることが分かる。2020年においては、最深河床高が左岸側から約140mの位置にあり、その位置における1966年の河床高と比較すると、2020年は約6m河床が低下し澪筋の河床低下が進行していること及び比高差が拡大していることが分かる。また、図-1 には洪水によって沈下が生じた橋脚基礎の下面の位置(図面等を基に推定)を示しており、沈下した橋脚は最深河床部に位置していたことが分かる。この図によると2020年時点において最深河床高から基礎底面まで約6m あることが確認される。またLaursen-Toch 式10)及びTarapore 式10)を用いて被災橋脚のケーソン幅等から局所洗掘深を推定した結果、橋脚方向と流向が平行であった場合で最大約5.0m と推定された(最深河床部においてこの局所洗掘深が生じた場合の河床高を図-1 に示す)。以上の情報から、澪筋が長期間固定化されていること及びそれに伴って生じるか継続的な河床低下により、沈下した橋脚では長期間に渡って継続的に根入れが減少していたことが分かる。
写真-3 は、被災発生直後にF橋から上流の左岸側及び右岸側を撮影したものである。左岸側及び右岸側共に植生の倒れ状況から痕跡が把握でき、左右岸共に痕跡から堤防までの距離は100m 程度であった。このことから、砂州上への冠水は限定的であり洪水流は低水路にほぼ集中していたと推定される。
以上の状況からF橋においては、固定化された澪筋上に被災橋脚が長期間位置し、河床低下が進行して根入れが徐々に浅くなった状況で、2022年洪水を迎えた。その時に発生した洪水の多くが低水路に集中することで洗掘・沈下が発生したと想定される。




(3)A橋の事例
A橋は国道にかかる橋梁で、橋脚は直接基礎形式である。2019年の出水時に、全7橋脚のうち右岸側に位置する2橋脚において沈下が生じた。特に、右岸側から2つめの橋脚(写真-4 の黒丸の位置)において沈下量が大きかった。A橋は仮復旧の後、本復旧として下流側に新しい橋を建設した。A橋周辺の河道の勾配は1/60、主たる河床材料は砂利と推定され、セグメント区分は1である。
写真-4 はA橋及び周辺河道の航空写真である。竣工から3年後の撮影となる1962年時撮影(写真-4上)においては、A橋梁の上下流の河道には礫河原と考えられる白い範囲が広く分布していることから、河床材料が活発に動いていたと推定される。それに対し、被災する3年前である2016年時撮影(写真-4下)では、A橋の上下流河道において樹木繁茂が確認され、澪筋平面位置が固定化していたことが推測される。写真-4 中に黒丸で示した沈下量が大きかった橋脚の位置は、固定化された流路が存在する場所に位置していることが分かる。F橋と比較して情報が少ないため断定することは困難ではあるが、A橋においても固定化された澪筋上に被災橋脚が位置し、河床低下が進行して根入れが徐々に浅くなり、最終的に2019年洪水による洗掘により発災したと推定される。

3.考察
(1)被災事例の共通点
前節において、F橋、A橋を対象として被災要因について定性的な推定を試みた。F橋について航空写真による流路の遷移過程・砂州の樹木繁茂状況、横断測量結果や現地調査での痕跡を調べた結果、F橋は竣工当時と比較して澪筋の河床低下が進行し、被災直前の測量によると竣工当時と比較して河床が約6m 低下していた。F橋のように横断測量データが得られなかったが、A橋についても、航空写真を使った推定では植生繁茂が確認され、澪筋の河床低下が進行していたと推察された。ここでは全ての事例について説明することはできないが、この特徴はF橋、A橋以外にも、表-1 の右列に記載した「河道二極化の有無」に「○」が記載されている橋梁(9橋梁中5橋梁)に共通する特徴であった。併せて、それらの主たる河床材料が砂利であることも共通点である。この結果は、砂利地盤の河川においては、橋脚の設計上必要なN値が確保できる支持層の位置が浅いため、必要となる根入れが小さい直接基礎や浅いケーソン基礎が採用され、結果的に河床低下・局所洗掘による被災に至りやすいとする諏訪の指摘11)と整合する。今回報告した二極化に伴う被災形態は、1.において従来の被災事例として挙げた砂利採取に伴う河床低下に起因する沈下2)、大洪水時の水位上昇に伴う取り付け盛土流出、橋脚・橋台の被災5)、上部工流出6)とは異なる被災形態として、近年事例が増加してきたとして捉えることができる。
(2)予防保全に向けた点検の考え方、方法
これまでに述べた被災事例からは、河道二極化を一因とする被災を予防するためには、点検において橋脚至近で発生している局所的な洗掘だけでなく周辺河道の低下状況を把握すること必要であると言える。その際、図-1 のような河川管理者が経年的に計測している横断測量データや河川管理基本シート12)を用いることが効果的である。架橋地点の河川において必ずしも横断測量が実施されているわけではないと考えられるが、そのような場所においてはA橋の事例で見たように、航空写真を基に澪筋の固定化や樹木繁茂の変遷を判読することで河床低下の可能性を一定程度検知できる。また、橋梁の数は膨大であるため全ての橋梁を点検するには多大な労力を要するが、被災が生じる橋梁は比較的勾配が急な砂利河川に架かる直接基礎、浅いケーソン基礎に概ね絞られるため、点検を実施すべき橋梁の優先順位付けも可能である。
本報告では紙面の都合で9つ全ての橋梁について述べることができず、一番事例数が多い河床低下に伴う被災事例と点検の考え方・方法について述べた。その他の事例についても事前に被災の予兆を捉えることは可能であったと考えており、適切な点検の実施により予防保全を図ることは十分可能であると著者は考えている。
(3)今後必要な技術開発
(2)で述べた点検は簡易的なものであり、健康診断で言えば「毎年の定期健康診断」に当たるものである。点検により(1)や(2)で述べた条件に合致する橋梁については、健康診断で言えば精密検査に相当する詳細点検や具体的な措置の検討を実施することになると考えられる。その段階において適切な診断・措置を行うために下記に関する知見が必要である。
・詳細点検における具体的な点検方法
・詳細点検した結果、対策が必要なのか、または経過観察とするのかの判断基準
・対策が必要とされる場合、具体的な対策方法
現状において上記に関する有効な知見が乏しい状況であると考えられ、今後技術開発・研究が必要である。
4.まとめ
近年発生している洪水時の橋梁の沈下被災について、実際に発生した事例を対象として簡易的な調査を行った。その結果、河道二極化が生じている河川で被災が多く発生していることが分かった。予防保全のためには、橋脚至近で生じている局所洗掘だけでなく周辺河道の河床低下状況を点検時に把握することが重要であり、河川管理者が実施している定期横断測量データを用いることの他、航空写真を用いて橋梁の周辺河道における澪筋の平面位置の固定化の有無や植生繁茂状況を把握することも有効であることを述べた。
参考文献
1) 土木研究所河川研究室:橋脚による局所洗掘深の予測と対策に関する水理的検討、土木研究所資料第1797 号、1982.
2) 富山市郷土博物館:富山大橋その2、https://www.city.toyama.toyama.jp/etc/muse/tayori/tayori49/tayori49.htm
3) 山本晃一:総合土砂管理計画 流砂系の健全化に向けて、技報堂出版、2014.
4) 西川和廣:河川を渡る道路橋の災害防御と予防保全、土木技術資料、第65 巻、第4 号、pp.5,2023.
5) 土木研究所:平成10年8月末豪雨による福島県・栃木県豪雨災害現地調査報告書、土木研究所資料第3793 号、2001.
6) 松村政秀:球磨川流域における橋梁被害、令和2年7月九州豪雨災害の総合調査・研究報告書 第4 章、https://cwmd.kumamoto-u.ac.jp/gensai/data/R2_houkoku_omoto.pdf,2021.
7) 国土交通省国土技術政策総合研究所:道路橋の洗掘による被災リスク要因に関する研究-被災事例の統計分析等による検討及び令和3年(2021年)の豪雨災害調査-、2022.
8) 宮田昇平、三宅川洋亮、小林拓磨、福井洋幸、稲葉幸太:高津川における河道の二極化に関する研究、河川技術論文集、第27 巻、pp.445-450,2021.
9) 国土技術研究センター:河川を横過する橋梁に関する計画の手引き(案)、2013.
10)土木学会:水理公式集、2018.
11)諏訪義雄:社会史を考える重要性橋の基礎構造と河川技術・管理の変遷を例に、土木技術資料、第65 巻、第4 号、pp.6-9,2023.
12)藤田光一、田上敏博、天野邦彦、服部敦、浦山洋一、大沼克弘、武内慶了:現場での実践を通して河道管理技術を向上させる先駆的取り組み、河川技術論文集、第17 巻、pp.539-544,2011.