デジタルツインを活用した山国川圏域の流域治水の推進
~現実空間と仮想空間の取組をリンクさせた全国初の取り組み~
~現実空間と仮想空間の取組をリンクさせた全国初の取り組み~
国土交通省 九州地方整備局
山国川河川事務所
流域治水課 流域治水係長
山国川河川事務所
流域治水課 流域治水係長
平 山 敏 崇
国土交通省 国土技術政策総合研究所
河川研究部
水循環研究室長
河川研究部
水循環研究室長
竹 下 哲 也
国土交通省 国土技術政策総合研究所
河川研究部
水循環研究室 主任研究官
河川研究部
水循環研究室 主任研究官
諸 岡 良 優
キーワード:山国川、流域治水、デジタルツイン、リスクコミュニケーション
1.はじめに
気候変動による水災害の激甚化・頻発化への備えとして、多様な関係者が協働し、流域全体で水災害を軽減させる「流域治水」の取り組みが全国の各水系で進められている。広大な流域で多様な関係者がリスクコミュニケーションを図りながら流域治水を進めるには、水害リスクや対策効果の「見える化」を通じ、各関係者が「水害リスクを知り、自分事として捉え、行動する」、流域治水の自分事化が重要である。
本稿では、全国に先駆けてデジタルツインを活用した流域治水の推進方策を模索している山国川圏域の取組について紹介する。
2.山国川圏域における流域治水の取組と課題
山国川は、大分県・福岡県を流れる一級河川であり、流域面積の約9割は山地で覆われ、九州屈指の急流河川であるため、ひとたび大雨が降ると急激な水位上昇が起こる。また、洪水と共に流木による橋梁被害が発生することも多い。
このため、山国川と流域が隣接する2級河川を含めた山国川圏域を対象に、国、県、市町の関係者で構成される「山国川圏域流域治水協議会」(以下、「協議会」)が組織され、1) 河川改修、2)流木対策(発生源対策・流木捕捉)、3) 小規模河川の氾濫抑制対策の3 本柱を取組目標とした流域治水が進められている(図- 1)。具体的には、山国川や二級河川での河川改修、砂防・治山事業、田んぼダム、農業用排水路の事前水位低下による内水浸水被害の軽減等の取組が実施されている。
しかし、これらの取組に対する流域住民の認知度が必ずしも高くないことや、個々の流域治水の対策がどの程度地域の治水に貢献しているかが十分に見えず、流域治水の取組を拡大する上での課題となっている。このことから、協議会では、
i)知る機会を増やす取組(オリジナルパンフレット、ロゴマーク、広報ツール等を活用した普及啓発活動)(図- 2)
ii)自分事として捉えることを促す取組(デジタルツインを活用した水害リスク・対策効果の見える化等)
を進めることとなった。
3.デジタルツインを活用した水害リスク・対策 効果の「見える化」の取組
協議会の事務局である山国川河川事務所では、山国川圏域の環境特性、災害リスク、各種対策について、3次元のマップに集約することによって流域の関係者がこれらの情報を俯瞰的に把握できるようにした(図- 3)。
また、国土技術政策総合研究所(以下、「国総研」)が令和7年度の運用開始を目標に整備を進めている、流域デジタルツインの実験場「流域治水デジタルテストベッド」の一部機能を活用し、3次元での山国川の水害リスクの可視化(図- 4)や、浸水想定区域内の人口表示(図- 5)を協議会の場で試行している。協議会の構成員である市町の首長からは、「非常に興味を持った」、「デジタル技術による分析に期待する」といった意見をいただいた他、「内水ハザードマップの情報も3次元で可視化してほしい」といった意見もあった。
さらに、山国川の河川協力団体である「レスキュー・サポート九州」の紹介で、災害時の避難経路等を検討している大分県中津市の沖代小学校児童クラブの関係者にも3次元で水害リスクを表示し説明を行った(図- 6)。同関係者からは、「3次元表示は非常に分かりやすい」といった意見をいただいた。理由としては、普段見慣れた建物の形や高さが3次元で表示されているため、どの場所が浸水しやすいかを直感的に把握しやすいためであると考えられる。
4.おわりに
今回ご紹介した山国川圏域での流域治水の取組は、まだ始まったばかりであり、デジタルツインによる仮想空間での気づきを、現実空間での行動に繋げていけるよう、今後も協議会での議論を重ねながら進めていく予定である。
なお、詳しい取組内容については右QRコードを参照されたい。