国道3号黒崎バイパス春の町ランプ橋の架設
~鉄道と都市高速道路を跨ぐ橋梁の施工~
~鉄道と都市高速道路を跨ぐ橋梁の施工~
国土交通省 九州地方整備局
北九州国道事務所 工務課長
北九州国道事務所 工務課長
坂 元 仁 宣
キーワード:黒崎バイパス、跨線橋・跨道橋架設、3,000t級クレーン
1.はじめに
一般国道3号は、北九州市門司区を起点とし、福岡市、熊本市を経由し、鹿児島市へ至る総延長約470㎞の主要幹線道路である。
北九州地域においては、東西方向の都市軸を形成する重要な路線であるものの、八幡および黒崎地区においては、約49,000台/日の交通量があり交通渋滞の慢性化により、幹線道路としての機能が低下している。このような状況を踏まえ、交通混雑の緩和と交通安全の確保を図り、北九州都市高速道路等と一体となって自動車専用道路ネットワークを形成し、国際拠点港北九州港の物流拠点へのアクセス性を向上することにより、産業の活性化を支援するため黒崎バイパスの整備を進めている。
本稿では、施工中である春の町ランプの大ブロック一括架設の工事紹介を行う。
2.黒崎バイパスの概要
黒崎バイパスは、北九州市八幡東区西本町から同市八幡西区陣原を結ぶ延長5.8kmの片側2車線の自動車専用道路である。
平成3年度に事業化され、平成20年10月に黒崎北~陣原(2.9㎞)が部分供用した後、数度の部分供用を経て、平成24年9月に北九州都市高速道路と接続し5.2㎞が供用したことで、北九州市内の自動車専用道路ネットワークの一部としても機能しており、沿道地域への企業立地の進展など、地域産業の活性化を促進している。残る工事は、春の町ランプ、黒崎西ランプ等の整備である。
3.春の町ランプの工事概要
現在、起点側の国道3号に接続する春の町ランプでは、令和元年10月~11月にかけてJRと北九州都市高速道路を跨ぐオフランプ(鋼5径間連続鋼床版箱桁橋(延長329m)[うち4径間を施工])と、オンランプ(鋼4径間連続鋼床版箱桁橋(267m)[うち3径間を施工])の架設を実施した。
3-1 JR跨線部
JR上の架設は、国とJRが協議しJRに委託した工事である。①鹿児島本線4線・鹿児島貨物線2線の6線を跨ぐ、②線路内にベント・橋脚の設置できるスペースがない、③架設作業可能時間は全線き電停止間の制約あり、③南北を北九州都市高速・国道3号線に挟まれる等の現場条件よりクレーン架設工法を選定した。
架設は、桁長さ約100m、重量にして400t超の桁となり、日本に数台しかない3,000t級クレーンを使用しての架設となるが、JR上空を長大スパンの桁をクレーンで架設する方法は非常に珍しく、綿密な計画と確実な施工が要求された。
(1)地組
下り線の桁については、全ての部材を地組してしまうと架設時の重量が重たくなりすぎ、クレーンの負荷率が90%を超えるため、後施工が可能な部材については一括架設後に施工した。
(2)桁移動
クレーンの近くまで桁を移動する際に、最も注意すべき点は桁のズレや落下である。
今回は、桁長が約100mと長大であるため、多軸式台車を2台並列にし、それを桁の前後に2組、計4台配置し、移動経路の不陸等に対応し、安定した移動を行うため4台の台車を同調させた。移動時は目視による確認はもちろんのこと、レーザーポイントを使用して、不陸を確認しながら慎重に作業した。
(3)桁架設
桁架設は、上り線を10月26日未明、下り線を11月4日未明に行った。
JR上の架設のため、キ電停止間合いでの作業となり、その作業時間は3時から4時30分までの約90分間しかなく、この間に①クレーン旋回、②主桁据付・調整・ラッシング、③玉掛け解放(上部のみ)、④クレーン旋回戻しの作業を行う必要があった。キ電停止終了予定時刻を1分でも過ぎれば列車運行に影響がでるため、作業にあたっては綿密な計画と準備が求められた。
また、旋回時にカウンターウェ-トワゴンが国道3号まで支障となるため全面通行止めを実施したうえで架設を実施した。
①試験吊り・3,000t級クレーン試験吊り
吊り上げ重量及び重心位置、3,000t級クレーンの能力、玉掛け設備の調整、クレーン設置箇所の地盤沈下を確認するため試験吊りを行った。
また、タイムスケジュールの確認と国道3号への影響などを事前に確認するため、クレーンの試験旋回を行った。クレーン用敷鉄板(3m×8m、厚み50㎜、重量約10t/枚)の敷設は国道通行止め後の施工となるため、作業効率を向上させるため当初クレーンにより行う計画であったが、フォークリフトに変更した。
②玉掛け解放訓練
約90分間のキ電停止間合いに平衡滑車と玉掛けワイヤーの分離のため、滑車下側のピン(約90㎏)を抜き、玉掛けを解放しなければならなかった。ワイヤー自体が重なってピンを抜くことが出来ないなど、様々なことを想定しながら訓練を実施した。
③電動ウインチ搭載車による桁介錯
本工事は桁のサイズ(桁長約100m、重量400t超え)が大きいことに加え、JR線路内に作業員が立ち入って介錯することができないため、P10橋脚上の作業員が介錯ロープを受け取るまでは、全てP9側で対応しなければならなかった。また、風の影響などの不測の事態にも備える必要があり、電動ウインチ搭載車(2tトラック+500㎏引きベビーウインチ)を2台配置し、人力用ロープと併用して作業を行った。
3-2 都市高速跨道部
北九州都市高速道路上の架設は、JR部の架設した桁とベント工法により架設された桁の間に1,250t級クローラクレーンを用いて大ブロック一括落とし込み架設を行った。落とし込み架設を行うブロックは、上り線は桁長66m、架設重量約250tのブロックであり、落とし込み架設を行うには比較的大規模な部材であり、確実に落とし込み架設を成させるため、設計・製作・架設の各段階で種々の配慮を行った。
①設計製作時の配慮
本橋では、継手位置での部材間の隙間は一般部で10㎜としているが、J17、J24ではワーキングスペースとしてそれぞれプラス20㎜の隙間を設けた。J17、J24の仕口形状は鋼床版(上フランジ)側を広く、下フランジ側を狭くし、確実に落とし込める形状とした(図-6)。
また、架設のため桁を吊り上げると桁が変形し仕口角度も変化するため仕口角度の変化量を構造解析により把握した。また一括架設に先立ち実施する試験吊りの際に仕口形状を計測し、構造解析による値と比較した結果、仕口形状の変化は解析と実構造物とで一致しており、またその変化量を考慮しても落とし込み架設に支障のないことが確認できた(図-7、表-1)。
②施工での配慮
標準温度(20℃)に対する温度変化量が+10℃の場合、上り線の桁全体での伸び量は32㎜になる(線膨張係数1.2×10-5、施工桁長269mとした場合)。一括架設は11月30日の夜間に実施する予定であったため、標準温度以下であることが想定されたが、施工誤差や架設時の風の影響といった不慮の事態も考慮して、先行架設したJ24~UA2の桁を30㎜セットバックした。
ワーキングスペースの設定、吊上げ時の桁の変形量の確認および先行架設桁のセットバックなどの配慮に加え、一括架設直前に先行架設桁の位置関係を測量し、落とし込み架設が可能であることを確認した(図-8)。
③一括架設作業に従事する作業員に対して
縦横断勾配のついた曲線桁を吊上げた際の挙動を説明するために、1/200の縮尺模型を作成した。その模型を吊上げてみて、曲線桁の架設時に生じうる挙動を実感してもらい、実際の作業時に配慮すべき内容について監督職員と作業員とで共通認識をもつことができた。これらの事前準備を行い、11月30日の夜間に実施した大ブロック落とし込み架設は、精度よく安全に終えることができた(写真-8)。
(4)広報活動
11月16日に土木の日イベントとして巨大クレーン見学会を実施した。クレーンの操作体験、高力ボルト締付などを体験していただき、参加者は約200名となった(写真-9、10)。
11月30日の見学会では架設作業の状況をビジョンカーに映しだし、その映像を橋梁の専門家が約90分間に渡り解説し、約300名の参加者も興味深く作業を見守った(写真-11、12、13)。
そのほか、高校生・大学生、地元自治会、事務所職員等を対象とした見学会を実施し、多くの方に黒崎バイパス事業への理解を深めていただくことができた。
4.おわりに
春の町ランプ橋は、今後9基の下部工工事、鋼3径間連続非合成箱桁橋(延長126m)およびPC5径間連結ポステンT桁橋(延長165m)の上部工架設等の施工を予定しており、早期に供用を図れるよう事業を進めて行く。今回の執筆にあたり、資料や情報の提供をいただいた施工者である九鉄工業(株)、川田工業(株)の工事関係者の皆様に感謝の意を表す。