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長江を旅して

「きゅうこ会」三峡ダム旅行一同

〈旅行の計画〉
九州地建のOB仲間にダムを勉強しようというグループがある。現職時代に主として河川やダムの仕事をした人たちである。グループの名前を「きゅうこ会」という。
九州の各地に湖を作ったという意味だが,なぜかかな・・名である。グループ結成10年を記念して中国三峡ダムの視察を企画したのは昨1998年であった。しかし,その年の長江は大洪水に見舞われた。軍をはじめ国をあげて水防や災害復旧に懸命の最中に,視察をするのもどうかなということで,取りやめにした。
一年おいて1999年10月8日から約一週間の期待の旅行が実現した。

〈中国旅行への期待の膨らみ〉
吉川英治氏の「三国志」を読み,その後「三国志」と名の付く小説で目に付くものは全て読まないではおられない程熱烈な三国志ファンにとって,三峡ダムとともに,白帝城,赤壁等の古戦場を訪ねる事は大きな期待であった。

また,会員の中にはこの旅行を期待して,ここ1年ほど中国語会話教室に通っていて,その成果を,密かに試してみたいと胸を膨らませていた会員もいた。一行それぞれ大きな期待を持って福岡空港を出発した。

〈視察旅行の行程〉
10月8日 福岡から上海経由で空路重慶ヘ
世界一辛い四川風料理火鍋を食し重慶泊
10月9日 重慶から長江下リクルーズ
小雨,霧の中の三峡下り,人口5万人,ダムによる水没都市豊都とその山の上の鬼城を観光。船中泊

10月10日 霧の中の三峡クルーズ
三峡は四川省と湖北省にまたがる中国最大の峡谷で一番狭い瞿塘峡,一番険しい巫峡,一番長い西陵峡の三つの峡谷の中を航行,霧の中の白帝城を見ながらさらに下り小船に乗りかえ神農峡を観光。船中泊
10月11日 ハイライトである「三峡ダム」現地視察
幸いに雨はあがっていた。高速道路経由葛州ダム見学,荊州へ,博物館でミイラを見学し,三国志時代の面影のある城壁を観光し,荊州泊
10月12日 高速道路,一般道路を経て「赤壁」観光
一般道路の舗装工事による交通渋滞で中国の運転マナーと農村風景に触れながら武漢へ。三峡ダムの最高責任者崔政権先生を囲む夕食会。武漠泊
10月13日 航空で上海へ
上海玉仏寺,豫園,高度に都市化している上海高層ビル群およびそれと対照的な旧い街並みを見学。夕食後には雑技団サーカスを観光する。上海泊
10月14日 一路空路で福岡へ

〈三峡ダムの規模諸元〉
1 三峡ダムプロジェクトの概要
三峡ダムは,世界第3位の河川である揚子江(長さ6,380km)の険しい三つの峡谷のうち最下流の西陵峡の三斗坪(湖北省)に建設中で,2009年12月完成予定である。
三峡ダム建設の主な目的は次に示すとおりである。
 1 洪水調節(100年確率)
 2 発電(1820万kW)
 3 航路改善
 4 水資源開発

2 三峡ダムの諸元ならびに主要指標
 正常貯水位    175m
 洪水防止制限水位 145m
 ダム貯水量    393億m3
 洪水調節容量   221.5億m3
 貯水面積     1,084km2
 ダム最大放水量  116,000m3/s
 ダムタイプ    コンクリート重力式
 ダム堤高(標高) 185m
 ダムの最大高さ  175m
 ダム軸堤長    2,309.47m
 発電所の設備   26基(1基70万kW)
 年間発電量    847億kWh
          (中国全土の発電約10%量を供給,
            毎年5千万トン炭代替エネルギーに相当)
 通航構造物     2路の5段式 連続閘門,垂直昇降機1基
 シップロック1基の寸法 120mX18mX3.5m
 吊り上げ能力     11,500トン(3,000トン級船の平均通過時間30分)
 閘門ゲートの寸法   280mX34mX5m
             (最大通過量12,000トン平均通過時間3時間)
              年間片方向通船能力  5,000万トン

【工事施工数量】
 掘削土砂       10,259万m3
 埋戻し土砂      2,933万m3
 コンクリート     2,714万m3
 鋼材         28万トン
 鉄筋         35万トン
 タービン発電機    26セット(1,820万kW)

【工事静態投資(1993年5月価格)】
 総投資額       900億元
  工事投資      500億元
  移転投資      400億元

〈筑後川の100倍〉
重慶,三峡ダム,武漢,上海と長江を下る旅をしてふと思いついた。これらの都市とダムの位置関係が筑後川にそっくりなのだ。三峡ダムは夜明ダムに相当する。筑後川では夜明ダムから下流が筑後平野で,左右の山地は下流に行くに従って遠くなる。長江の山地も三峡ダムまでで,ここから下流は広漠たる平野が広がる。筑後川とちがって山らしいものは何も見えない。夜明ダムは上流日田までの狭窄部に水を堪えているが,三峡ダムもいわゆる三峡と呼ばれる奇巌秀峰の狭部が湛水区域で,湛水域は重慶の少し上流にまで及ぶ。つまり日田に相当するのが重慶である。しかし,重慶は日田とちがって盆地ではない,長崎のような坂の町である。ガイドによれば重慶には自転車がないという。重慶に湛水域が及ぶのは舟運のためであって,今は,われわれが川下りで乗った5,000トンの船が最大であるが,ダムができれば10,000トンの船が就航可能となる。
さて,長江中流の主要都市武漢は久留米であり,上海は大川市だ。そしてこれらの都市やダムとの距離と人口を筑後川のスケールで換算すると,おおよそ100倍なのである。日田―夜明約7km,重慶―三峡ダム約600km,日田の人口約6万人,重慶の人口約700万人,以下「約」を省略するが,夜明―久留米30km,三峡ダム―武漢400km,久留米の人口22万人,武漢の人口724万人,久留米―大川20km,武漢―上海800km,上海の人口は1000万人を越え大川市の100倍どころではない。

〈三峡地区の河川状況〉
揚子江(長江)の川幅は,数キロもあり海のように広いと聞いている。なるほど下流は悠々たる大河川であるが,三峡地区は両岸が岩に覆われ,絶壁の迫った峡谷は河幅100m以下のところがある。ふと,河幅・水深と流量の関係がどうなっているかが気になった。三峡ダム地点での平常流量は10,000~15,000立米/秒と云われており,当日の流量は少なく見積もっても約10,000立米/秒はあったろう。
一番狭い地点で,水深はどれくらいかと聞くと,約50mとのことである。あまりの深さにびっくりしたが,考えてみると10,000立米/秒の流量を流すにはこの深さが必要なわけである。
流量=河巾(100m)×水深(50m)×平均流速(2m/s)=10,000立米/秒(注:平均流速は表面流速2~3m/sより想定)
昨年の大洪水の際は,水位が現在水位より約30m上昇し,それが約1ヶ月続いたと聞いたが,誇張ではなく,なるほどと納得した次第である。

〈中国の道路と自動車の運転マナー〉
自動車の運転は中国独特のルールがある。中国マインドで運転している,事故が多発しないのが不思議である。
中国マインドの運転というのは隙あらば,警笛を鳴らして追い越しや,割り込みをかける。渋滞を起こしているところにも同じように割り込んでくる,これが,楔状になりニッチもサッチもゆかなくなる。まさに糸が絡んで解けなくなってしまったようだ。工事中で片側1車線に規制されている区間でこの渋滞にはまった,こんな場所でも中国マインドである。おかげで3時間も立ち往生で予定時間を遅れた。建設部の係員が職権をもって交通整理を行ってやっと動き出した。

わが国の道路はやたらに交差点信号が設置されているが,中国の一般道路にはほとんどない。武漢市のような大都会でも交差点信号は見当たらない。ただ,街の中心部や大都市では交差点にロータリーが設けられている。信号を見つけたのは,上海の市街地だけではなかったろうか。
また,ゼブラ歩道も見当たらない,上海や武漢など大都市部で,ほんのいくつか見つけた。歩行者や自転車は横断道路の標示のない交差点を車の流れの間をサーカスの芸人のように渡っていた。

〈感性持続のため海外旅行の勧め〉
人間は生き物である限り,体力・知力も,ある年齢を境に次第に衰えるものである。われわれOBも大部分はその境を越え,あるいは越えつつある事は否定できない。人間の持つ感性も,体力,知力の衰えに従って衰えてくるものだと私は理解している。しかし,その感性の衰えるピッチを遅くする方法がある,それは,新たな事に挑戦し,衰えつつある五感をフルに活用することではないか。感性は経験により磨かれるものも多いと聞いている。第一線を退き,時間と経済的な余裕が生じたわれわれは,今こそ自らの興味を持てる場所等への海外視察旅行等を重ね,何時までも「あの人は気が若い」と云われ,感性の衰えの少ない人間になりたいものである。

〈あとがき〉
本稿は,「きゅうこ会」28名の中国三峡ダム見学会をもとに報告書を作成したが,その中から会員の記述の一部を取り出し組み立てたもので,この報告書の要約版と言えるものである。
もとの報告書は,平成12年5月に発刊されたが,その中で自由に記述した旅行雑記の部分は読んで大変面白いものとなった。機会があればぜひともご一読下さい。(編集・文責 光岡毅)

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