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調川(つきのかわ)トンネル2号新設工事における軟質な泥岩によるトンネル沈下と切羽崩壊対策について
浅房和利

キーワード:泥岩、スレーキング、トンネル沈下、早期閉合、切羽崩壊

1.はじめに
西九州自動車道は、福岡市を起点として、唐津市・伊万里市・松浦市を経由して武雄市に至る延長約150㎞の高規格幹線道路であり、沿線各都市間の所要時間短縮等により九州北西部の地域経済の活性化、高速定時性の確保に大きく貢献する道路である。本工事は、西九州自動車道のうち伊万里松浦道路に計画された調川トンネル2号を建設するものである。
本稿では、軟質な泥岩によるトンネル沈下と切羽崩壊対策を報告する。

2.工事概要
工事名:長崎497 号 調川トンネル2号新設工事
発注者:国土交通省 九州地方整備局
施工者:株式会社 安藤・間
工期( 施工):平成26年3月12日~平成28年3月21日
工事内容:トンネル延長:336.0m  掘削断面積:126㎡~ 151㎡  内空断面:99㎡  掘削方式:機械掘削

3.地形・地質概要
3.1 地形概要
長崎県北西部の北松浦半島の北東部では、標高50~ 120m の丘陵地が海岸線の近くまでせまり、海岸沿いの平野はほとんど発達していない。本トンネルは、この海沿いの丘陵地に計画されたものである。

3.2 地質概要
本トンネルの地質は、新生代新第三紀中新世中期~前期佐世保層群の黄褐色を呈する砂岩(Fss)および灰色を呈する泥岩(Fmd)であり、一部泥岩中に黒褐色を呈する炭層(t=10 ~ 50㎝程度、3条)を挟在する(図-3)。砂岩の岩片自体は比較的硬質であるものの、風化が進行し亀裂が多く発達する。これに対して泥岩は新鮮であるもののスレーキング性を有し、掘削に伴う応力解放や地質境界からの湧水などにより軟質化する傾向を示す。地質構造は、N55°E/20°N を示し、左肩から出現し右踏前へ抜けていく傾向を示す。

4.トンネル沈下の発生
4.1 地形状況
今回報告する起点側坑口部の地形は、坑口近傍では20°程度の緩い斜面であるが、NO.816+3.0(TD.14.3m)付近より30°以上の地形勾配を示し急崖を形成し、土被りが厚くなる。また、砂岩の巨礫が散在しており、浮石・転石が広範囲に分布する。

4.2 地質状況
トンネル沈下が発生した箇所の地質は、図-4に示すとおり、当初計画では、砂岩のみが出現するとされていた。しかし、実際には軟質な泥岩が上半切羽中央から脚部まで広く分布し、想定と異なっていた。
起点側坑口の切羽状況を写真-1、脚部状況を写真-2に示す。

4.3 変位状況
起点側坑口からトンネル掘削を開始し、NO.817+9.4(TD.40.7m)まで上半掘削が完了した時点で、NO.816+15.0(TD.26.3m)付近を中心に天端沈下・脚部沈下が増大した。この区間の支保パターンはDⅢパターンで、NO.815+14.9 ~NO.816+2.8(L=7.9m)間においては上半盤に未固結の崖錐堆積物が分布し、脚部地盤の支持力が確保できないことから、脚部補強工としてウイングリブ付き鋼製支保工(H-200)と脚部補強パイル(φ114.3㎜、L=5m)が計画されていた。一方、天端沈下・脚部沈下が増大したNO.816+15.0 付近においては特別な沈下対策工は計画されていなかった。
図-5 に、各計測断面における天端沈下量を示す。また、表-1に、天端沈下量、脚部沈下量、および内空変位量を示す。NO.816+15.0では、天端沈下量が-94.7㎜、右脚部の沈下量が-97.9㎜、左脚部の沈下量が-59.4㎜であった。左脚部の沈下量に比べて右脚部の沈下量が大きくなったのは、右脚部に軟質な粘土を挟む泥岩層と炭層が分布していたためと考えられる。
内空変位量は、最大でも-20.5㎜程度で、沈下量に比べて小さかった。また、吹付け面、ロックボルトプレート、および鋼製支保工の変状も確認されなかったことから、側面からの荷重は小さいと考えられる。

4.4 発生原因の推定
4.4. 1 想定外の地質の出現
起点側坑口部のNO.816+15.0付近では、当初計画では切羽全面に岩盤等級CL 級で比較的硬質な砂岩が分布すると想定されており、特別な沈下対策工は計画されていなかった。しかし、実際にはトンネルの脚部付近には泥岩が広く分布していた。この泥岩は、スレーキング性を有し、湧水箇所では短時間で軟質化するという特徴を有していた。また、岩塊の一軸圧縮強度は、ポイントロード試験の結果から6.4~ 11.6N/mm2程度であった。写真-3に、泥岩がスレーキングし軟質化した状況を示す。

4. 4.2 トンネルの上載荷重
トンネルの沈下が最も大きいNO.816+15.0(TD.26.3m)は、土被りが11.3mと小さいため、グラウンドアーチの形成が困難である。さらに、地表面からトンネル天端付近まで崖錐堆積物が厚く堆積している。このため、この区間においては、大きな緩み荷重が支保工脚部に作用しているものと考えた。
支保工脚部に作用する荷重を式①から算出すると、1,115.4 kN/mとなる。上半施工時の脚部反力比は1.0 に設定した。なお、トンネルの緩み高さは、Terzaghiの理論式より算出した。
P= 1/2 ×γt×H×D×β (式①)
P :支保工脚部に作用する荷重(kN/m)
γt:地山の単位体積重量(18.0kN/m3
H :土被り高さ(緩み高さ)(8.1m)
D :トンネル掘削幅(15.3m)
β :上半施工時の脚部反力比(1.0)

4. 4.3 許容支持力の確認
NO.816+3.8(TD.15.1m)において、トンネル坑内の地盤の許容支持力を平板載荷試験により確認した。その結果、許容支持力は1,433.4 kN/㎡であった。写真-4、写真-5に、試験状況を示す。

4. 4.4 地盤支持力の照査
鋼製支保工の底板の幅は0.25mであることから、その底面反力は式②から算出できる。4.4.2より、支保工脚部に作用する荷重は1,115.4 kN/mであることから、底面反力は4,461.5kN/㎡となる。以上より、この区間においては、4.4.3 で求めた許容支持力を満足することができない。
Q=P /0.25 (式②)
Q:鋼製支保工の底面反力(kN/㎡)
P:支保工脚部に作用する荷重(kN/m)

4. 4.5 トンネル沈下の原因
4.4.1 ~ 4.4.4 から、本トンネルの天端沈下・脚部沈下の原因は、トンネル脚部に想定外に出現した泥岩が湧水によるスレーキングにより軟質化し、脚部地盤の支持力が低下したためであると推定した。

4.5 沈下対策工
4. 5.1 既掘削区間の対策工
既掘削区間(NO.815+8.7 ~ NO.817+9.4、L=40.7 m)については、早期にインバートを施工し、トンネル断面を閉合することとした。断面の閉合にあたっては、本体インバートとインバート吹付けのいずれかが考えられた。
本体インバートを施工するためには、1スパン10.5m を一度に掘削する必要がある。また、DⅢ区間の本体インバートは有筋であることから、コンクリートを打設して断面を閉合するまでの時間が長くなり、沈下量の増大が懸念される。
一方、インバート吹付けの施工は、通常のトンネル施工機械を使用して作業でき、掘削後、早期にトンネル断面を閉合できることから、変位抑制効果は高い。
以上から、当該区間においては、インバート吹付けにより断面を併合することとした。

4. 5.2 未掘削区間の対策工
未掘削区間(NO.817+9.4 以降)については、沈下対策工を、①注入式脚部補強ボルト、②ウイングリブ付き鋼製支保工+脚部補強パイル、③インバート吹付けによる早期閉合、の3つの中から選定した。表-2に、選定表を示す。施工性、効果、および工費を総合的に勘案した結果、インバート吹付けによる早期閉合が最適であると判断した。なお、有筋区間では本体インバートの底面から外側にインバート吹付けを施工し、吹付け厚を本体インバートの厚さに含まないこととした。無筋区間では本体インバートの底面から内側にインバート吹付けを施工し、吹付け厚を本体インバートの厚さに含むこととした。
また、鋼製支保工建込み時の上げ越し量を10㎝から15㎝とした。

4.6 対策工の実施
対策工の実施にあたっては、図-6に示すフロー図に従って管理することとした。上半掘削時に天端沈下量が管理レベルⅠを上回った場合は、上半掘削を中断し、下半掘削を施工する。そして、下半掘削が完了しても沈下が抑制されず沈下量が管理レベルⅡを上回った場合は、インバート吹付けによる早期閉合を実施する。また、インバート吹付けを施工しても沈下が抑制されず、沈下量が予想外に増大した場合や支保工に変状が発生した場合には、追加調査や補助工法の追加など改めて対策を検討することとした。

4.7 対策工の施工結果
天端沈下・脚部沈下が大きかった箇所NO.816+15.0 の計測結果を図-7に示す。インバート吹付けによる早期閉合実施により収束したが、NO.816+15.0 付近は想定外に大きな沈下であったため約15mの縫い返しが必要となった。
ただし、以降も、急激なトンネル沈下が発生する区間があったが、沈下対策工の実施フローによる管理(早期閉合実施)と支保工建込みの管理により縫い返し等の変状対策を施すことなく、無事に貫通させることが出来た。

5.軟弱な泥岩による切羽崩壊発生
5.1 崩壊発生状況
切羽崩壊状況を写真-6、写真-7に示す。なお、図-8に崩落発生時の地質状況を示す。泥岩層にはt=10㎝程度とt=50㎝程度の炭質泥岩が挟在していた。この炭質泥岩層は一部が石炭化しており空隙からの湧水が見られた。炭質泥岩周辺の泥岩は特に軟質化していた。

5.2 崩落発生の原因
写真-8に示すとおり、上半脚部の泥岩層にある炭質泥岩に見られる湧水の影響で周辺の泥岩が軟弱化していること、それに加えて、上半砂岩の割れ目開口が5㎝以上と非常に大きく、切羽面の倒壊が懸念されたため、切羽中央の地山を残した状況となるリングカットが必要だった。このリングカットにより、トンネル中央部の地山重量が下方に掛かり軟質泥岩が荷重に耐え切れずに潰れて発生したと考えられる(図-9)。

5.3 切羽崩落防止対策
今回切羽安定対策の目的は、泥岩層の崩落防止、および泥岩崩落に伴う、上部砂岩の崩落防止とした。
図-10に示すとおり、今回崩壊箇所の地層は、トンネル進行に伴い上部へ上がってくるため今後も崩壊が発生する危険性があった。
泥岩の基質は、基本的に軟質であるが、今回の崩落でも大きな岩塊(1.2m×1m×1m程度)での抜落ちが見られる。また、上部の砂岩についても、掘削作業中大きな岩塊での抜落ちが見られる。
このことから、大きい岩塊の崩落を防げて、長いスパンで効果が期待できる注入式長尺鋼管鏡ボルトを採用した。
鏡ボルト施工位置を写真-9、図-11に示す。

6.おわりに
今回、調川トンネル2号で発生したトンネル沈下と切羽面崩落は、軟質な泥岩に起因するものであるが、起点側坑口部で発生したトンネル沈下は、想定外の軟質泥岩が潜在したことで大きな沈下が発生した。今回は適切な対策工が早期に実施できたため、坑口上部の崩落も防止することができた。
今後のトンネル坑口付近の地質調査は、坑口計画位置で実施することが必要である。また、スレーキング性を有する地質が確認された場合は事前の対策検討が重要となり、早期対策実施により変状を抑制することができる。
今回の施工事例の報告が、今後の同種工事の計画や施工の参考になれば幸いである。
最後に執筆にあたり、貴重な資料や情報の提供を頂いた施工者である株式会社 安藤・間の工事関係者の皆様に感謝の意を表します。

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