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これからの構造物管理について
独立行政法人土木研究所 大石龍太郎
1 これまでの社会基盤整備

戦後劣悪な社会経済状況の中で、我が国は狭く限られた土地で生活、生産活動をしなければならず、諸外国に比較して資源に乏しい我が国が経済的に発展し、貧困から抜け出していくためには、資源を輸入し、それらを加工して製品を輸出する、所謂「加工貿易」を中心とした産業構造を取らねばならなかった。そのためには、物資を国内各地へ効率的に輸送する手段としての道路整備が不可欠であり、そのための道路整備財源を確保しながら、全国の高速道路、国道をはじめとした道路ネットワークを精力的に整備してきた。この道路ネットワークを利用して、平成19 年度現在では、物資輸送の約61%、旅客輸送の約65%が行われている1) 。まさに、道路ネットワークは日本の生命を維持し、活性化する動脈であり社会経済文化活動を支える重要な社会基盤となっている。
一方、道路ネットワークの整備について、もういらないのではないかという議論が行われているが、東京と地方都市の両方で生活し勤務した筆者にとっては、決してそのようなことはないと感じている。例えば、高速道路が行き届いていない地方都市はとても不便であるし、東京圏の環状道路の遅れによる都市内渋滞はひどい状況である。さらに欧米先進国と比較するならば、明らかに不便で効率が劣る国である。例えば、時速80/km以上で走行できる道路ネットワークについて、欧米諸国と比較してみると歴然とした差があり2) 、驚くばかりである。これは少しの事故や災害等が起これば社会経済的に大きな打撃を受ける可能性が高いことを意味している。
さらに道路だけではなく、日本の港湾や空港の整備水準は経済大国を標ぼうするにはあまりにも低位な状況に甘んじている。欧米諸国と比較しても、さらにアジア主要国と比較しても交通手段としての機能は低すぎる状況にある。これらの状況を鑑みれば、日本の社会基盤の整備については今後とも精力的に行っていく必要があることは冷静に考えてみれば自明の理である。日本の生活水準を維持向上させるためにも、また食料の安全保障の面から至極当然のことである。最近では食糧自給率の向上を目指すという良い方向が打ち出されており、少ない農地しかないのに遊休地は至るところにあることは非常にもったいない。農家の安定的な収入の確保とともに、農地の効率性をあげて様々な取り組みが行われていくことは好ましい限りである。農産物の輸送においても、これらの社会基盤は必要不可欠である。24時間、365日、日本の社会経済文化活動を支えている社会基盤は空気や水のようなもので、あって当たり前、使えるのが当然という意識が強いものなのかもしれない。しかし、最近の日米の道路橋の事故や損傷に現れているように、構造物は人の体と同様に高齢化していくものであり、社会を不安定にさせる要因を内蔵している。

2 構造物管理の現状と課題

構造物といっても社会基盤に関するものは幅が広いため、ここでは主として道路橋に絞って記述することにする。
1) 道路橋施設の現状3)
我が国には、支間長15m以上の橋梁が1950年には5千橋であったものが、現在約14万6千橋になっている。そのうち、建設後50年を越える割合が6%、しかし、10年後にはその割合が20%、20年後には47%になる見込みであり、高齢化が進みつつある。これは、1970年代のアメリカに類似していると言われている。アメリカでは日本よりも30年早く多くの道路施設が高齢化を迎えた。この状況につていは、次項で述べることとする。道路橋の点検状況を見てみると、直轄国道では、平成16年3月に制定された「橋梁定期点検要領(案)」に基づき、供用後2年以内に初回点検を実施し、2回目以降は5年以内の実施とすることとされている。それ以前は10年に1回の定期点検であった。これらの定期点検結果からは、直轄橋梁の約4割に「速やかな補修」が必要とされる損傷等が発生し、また橋齢の増加に伴い、損傷の割合が高くなっている結果となっており、35年経過する橋梁の半数に「速やかな補修」が必要な損傷が発生していることがわかった。損傷の部位としては鋼橋・コンクリート橋とも主桁及び床版が多い状況である。近年、直轄国道では、国道23号木曽川大橋(図-1 参照)や国道7号本荘大橋(図-2 参照)のトラス橋の斜材の破断や国道25号の山添橋の疲労亀裂等の損傷事例が報告されており、それらに伴い、社会に影響を及ぼす交通規制が生じている。過去においても、塩害によって掛け替えを余儀なくされた国道7号秋田大橋や国道7 号暮坪陸橋の事例(図-3 参照)がある。道路交通の安全性を確保する上で、看過できない事態が多く顕在化してきたように思う。

図-1 国道23号木曽川大橋
(トラス橋の斜材の破断)

図-2 国道7号本荘大橋
(トラス橋の斜材の破断)


図-3 国道7号暮坪陸橋
(主桁PC鋼材の破断:1991年(26年経過)

一方、地方公共団体においては、過去5年以内に道路橋の定期点検を都道府県及び政令市ではほぼ実施しているが、市区町村では約83%が実施していない状況である。この原因としては、技術力不足、財政的問題、技術者の人材不足があげられている。ちなみに、全国の地方公共団体が管理する道路橋のうち、通行規制が講じられている橋梁数は684橋に存在している(平成19年9月時点)。このような状況に対して、如何に対応していくのかも重要な課題である。

2) アメリカの教訓
前述したようにアメリカでは、1970年代に入り道路橋の高齢化を迎え、吊り橋のケーブルの疲労破壊により落橋したシルバー橋(図-4 参照)や鋼桁の疲労ひび割れにより崩壊したマイアナス橋(図-5 参照)等の事故が多数発生し、社会経済に大きな打撃を与えた。その後アメリカでは、これらの事故を教訓に全国橋梁点検規準( 2年に1回の定期点検の法定化)を定め、ガソリン税の引き上げによる更新・修繕費の道路財源の確保・拡大を図り、道路橋の保全に力を入れてきた。これらの教訓を他山の石としてはならないのでないか。


図-4 1967年に落橋したシルバー橋
(米国ウェストバージニア州)


図-5 1983年に落橋したマイアナス橋
(米国コネチカット州)

○崩壊前の橋梁
 
○崩壊後の橋梁

出典:John Weeks氏のホームページ
 
出典:CNNのホームページ

図-6 アメリカのミネアポリスI-35W橋
(崩壊前)

 

図-7 アメリカのミネアポリスI-35W橋
(2007年8月1日)の崩壊

また、図-6~7に示すように2007年8月1日、アメリカのミネアポリスのミシシッピ川に架かる州際高速道(I-35W)の橋梁が突然崩壊し、ラッシュ時であったため、50台以上の車が巻き込まれ、13人の死者を出したのには、心底驚きと恐怖感を感じた。この事故原因についてその後、米国運輸安全委員会にて調査が行われ、主たる事故原因としては、トラス部材の接点であるガセットプレートの設計ミス(必要な耐荷力の不足)であった。また、その脆弱性を露出させた誘因として、(1)過去に行った橋梁改良工事による橋梁重量の大幅増加、(2)事故当日の交通荷重と橋梁上の施工時集中荷重を指摘している。こられの意味するところ、得られる教訓は多々あるけれども、構造物管理には、設計から施工を含むものであること、つまり完成した構造物を管理していくだけではなく、完成する前の設計や施工段階においても管理に及ぼす要因が多く含まれていることを意味している。また、完成後には交通荷重とともに、幾多の補修や工事に伴う付加荷重がかかり、当初設計状況と違った状況が生じてくることへの構造物の耐荷力の照査が必要となってくる。これを怠ると、大きな事故につながりかねない。構造物管理をとらえる視点としては、管理要素だけではなく、設計・施工・管理までを含んだ視点を持つ必要があることを示唆していると思う。医者と比較してみてもわかるように、医者は人間の生命の誕生、成長の過程、患者が置かれた環境条件やその変化等を勘案して、患者の治療にあたることが素養として求められているのではないのでしょうか。構造物の管理を担当する技術者は、同様に使用する材料特性から、設計・施工・管理に至るマネジメント技術が求められていると思う。もう少し大きく言えば、国民の方々の安全と安心を確保するためには、広く道路を管理・運営するための技術力が技術者に求められているのではないのでしょうか。

3) 構造物に関する研究開発の現状
橋梁技術の研究開発は、新設に関する技術開発を中心に進められてきており、供用後の橋梁の点検、診断、劣化予測、補修・補強については、鉄筋の検知器の開発や耐震補強技術、アルカリ骨材反応等、部分的には行われてきているが、体系的にあまり行われてこなかった。財政的制約の中で、今後、急速に高齢化を迎える道路橋の寿命を延ばし、構造物の安全性を確保するための橋梁保全技術の研究開発を積極的に進めることが緊急の課題である。

4) 筆者の経験
 構造物の管理関係の仕事を筆者はいくつかのポストでやってきたため、その時に経験した事例を紹介する。1つ目は、松江国道事務所長をしていた時のことである。平成9年に国道9号の斐伊川に架かる神立橋(橋の設置から約60年経過)の補修をすることになり、今までの補修の経過を調べたところその記録が正確には残っておらず、図面が適切に管理されていないことに困った。補修経過としては、60年間に3回の大きな補修をしていたようであった。橋の現場を見に行ったところ、主桁に多くのひびわれが発生しており、ゲルバーヒンジ橋のため、ヒンジの補強が行われていたり、主桁の増し厚が行われていたりしたことは現場を見ればわかった。一日の交通量が2車線で2万台を越える橋なので、充分な管理が必要なことと橋の挙動に万が一異常が起きたら、迅速に対応する必要があり、試験的に事務所(神立橋から自動車で約1 時間のところ)でおおよその挙動をモニタリングするため、ひずみゲージを主桁等の大きな応力がかかる箇所に設置した。通常の交通では、充分許容ひずみの範囲内であった。しかし、平成12年10月6日に鳥取県西部地震(最大震度6強)が発生した時には、どのような挙動であったか心配になり、松江国道事務所からデータを送ってもらったところ、幸い、神立橋付近では震度4であったため、ひずみは大きくなっていたが、許容ひずみの範囲内で弾性挙動をしていたことがわかった。このように、地震時に高齢化した橋梁の挙動を把握する方法として、モニタリングは道路管理者にとっては有効な手段と考えられる。
もう一つは東京国道事務所長をしていた時のことである。首都高速道路の桁下面に設置していた国道246号の照明灯が突然落下して国道の上に落ちたのである。幸い自動車にあたらず事故にならなかったけれど、背筋がぞっとした。その照明は設置後約30年経過していた。同様な照明灯が約600基あり、それらの対策が急を要した。しかしながら、照明灯の場所を図面に落としたり、設置年等の諸元を整理するのに多大な時間と労力を要した。一般的に落下の危険性が高いのは設置年数が長いものと考えられるが、その総括的なデータ整理が迅速にできなかった。この事故以外にも同じような時期に照明柱の倒壊、防音壁の落下、標識柱の倒壊等があり、多数の道路付属物を管理する者として、使いやすいデータベースシステムの構築が不可欠であると感じた。ぜひとも現場管理者が使いやすい構造物管理システムの構築を期待している。

3 これからの構造物管理に関する研究開発
1) 道路橋の予防保全に関する提言
平成20年5月16日に出された「道路橋の予防保全に向けた有識者会議による提言」(以下、「提言」という)によると、道路橋の高齢化の進行と道路の機能への要求性能の高度化を背景に、道路橋保全の現状を表すものとして、「見ない」、「見過ごし」、「先送り」という言葉が使われている。このまま放置すると、重大事故につながる危険な橋の増大を招くとして、「早期発見」、「早期対策」の予防保全システムの構築が急務であるとして、5つの方策を提言している。具体的には、①点検の高度化、②点検及び診断の信頼性確保、③技術開発の推進、④技術拠点の整備、⑤データベースの構築と活用である。

2) 構造物メンテナンス研究センター(以下、「CAESAR」(シーザー)と呼ぶ:Center forAdvanced Engineering Structural Assessmentand Reaesrch)の発足と役割
我が国では、社会基盤整備の精力的な努力の結果、全国的に社会基盤施設が整備されてきたが、それらは、前述の提言でも指摘されているように、厳しい荷重の負荷や自然環境にさらされ、高齢化が始まっている。これらの構造物の健全性を評価し、維持管理する技術の確立を急ぐ必要があるため、(独)土木研究所は研究組織を改組・発展させ、新設橋梁の設計施工、維持管理技術の高度化、長寿命化、これらに伴うトータルコスト縮減、災害時復旧の更なる迅速化をはじめとする、道路橋の安全管理のための構造技術に関わる総合研究機関である「CAESAR」を平成20年4月1日に設置した。
CAESAR は、前述の提言の中の、主として③技術開発の推進及び④技術拠点の役割を担うため、今後積極的に活動していくつもりである。もちろん①、②、⑤についても関連する研究や活動を実施していく予定である。 上記の提言を踏まえつつ、CAESAR は今後以下のような研究開発を積極的に推進していく予定である。

3) CAESAR の研究開発の使命
本研究センターの使命としては、大きく次の4つの項目を掲げている。

(1) 臨床研究
点検、検査、診断技術が必ずしも確立されていない高度な案件について、道路管理者とともに道路橋の健全性評価、補修、補強対策に関わる問題解決に当たる。評価後・対策後のフォローアップを行う。災害で被害を受けた橋梁等について、道路管理者とともに早期復旧のための問題解決に当たる。そして、これらの問題解決やその合理化に必要な知見を構築するための基礎研究も充実させ、実施する。

(2) 技術の集積と発信
道路橋の設計、施工、メンテナンスに関する技術の集積を図る。道路橋の点検、検査、診断、管理に関わる道路管理者間の連携をコーディネイトする。大学や民間機関、他国の研究機関や道路管理者などの連携・分担をコーディネイトし、共同で技術開発を行う。

(3) 新技術の検証、標準化、基準化
 臨床研究成果や集約した情報のフィードバックを行う。長寿命化を目指した設計、道路橋のメンテナンス、地震被害の防止や軽減等に関する先端的・基礎的な研究の成果に基づき、構造安全性の確保の合理化に向けた新技術に関する技術基準の策定、維持管理技術の標準化を行う。

(4) 技術者教育
安全管理システムを支える人材の育成を持続的に行う。道路橋の安全管理、維持管理に携わる機関の拠点として、道路管理者、大学、民間会社から技術者や研究者を受け入れ、ともに問題解決に取り組む。

4) CAESARの役割
このような使命のもとで、次の3つの役割を担っていきたいと考えている。それは、①現場の支援、②研究開発、③情報交流の場である。以下にそれぞれの具体例を示す。

(1) 現場支援
土木研究所の役割として一番重要なものである。個々の橋梁が抱えている損傷・変状等の技術的課題に対しては、現場とより密接に連携をしつつ、橋梁の状態評価・診断等の技術支援を行うとともに、評価後・対策後についてもフォローアップを継続し、適宜対策効果の検証を行っていくことを考えている。また、技術支援を通じて得られた現場の症例や後述する臨床研究を通して得られた知見については、他の橋梁にも役立つように蓄積するとともに技術の体系化・標準化を図り、例えばマニュアル等の形で現場に提供していく。
具体例を挙げると、平成16年10月23日の夕方、新潟県中越地方を震源とするマグニチュード6.8の地震が発生した。震度7が観測されたこの地震により、多数の人命が失われるとともに、建物や土木施設にも多くの被害が生じた。その中に、新組跨線橋があり、橋脚部の断面損傷を受け(図-8参照)、国道8号を管理する長岡国道事務所はこの橋梁を通行止めにした。この橋梁の応急復旧を行うために、土木研究所に専門家の派遣依頼があり、研究者が現地調査を行い、派遣要請の翌日に応急復旧方針(炭素繊維シート巻立て)を立案し、同日から応急復旧に着手し、4日間で工事を完了し(図-9参照)、地震発生後7日目に通行規制解除を行った。このように、土木研究所としては、長年の蓄積された研究開発に基づく研究成果や知見、経験を生かして、社会基盤の安全性や機能性の確保に貢献していきたい。

図-8 新潟県中越地震における国道8号
新組跨線橋の橋脚損傷

図-9 新潟県中越地震における国道8号
新組跨線橋の橋脚応急復旧
(炭素繊維シート巻き立て)

(2) 研究開発
土木研究所では、これまでは主として新設橋を対象とし、例えば、その性能評価手法の研究においては、図-10に示すように、構造物で生じる現象を設計状態として単純化・モデル化し、部材毎の模型実験や解析データの蓄積により、設計基準における設計法として提案してきた。
しかしながら、今後対象となる既設橋の性能は、設計時の構造のみならず、実際の施工状況、つまり初期の施工品質や、その後の長年にわたる橋梁の環境、交通荷重や塩分飛来等の腐食環境によって異なってくる。橋梁毎に異なる複合的な現象を模型で再現することは困難であり、CAESARでは、実際の現場の損傷事例を対象にした臨床学的研究アプローチを重視して問題の解決に取り組むこととしている。すなわち、全国から実在の橋梁を抽出し、道路管理者と一体となって非破壊調査、挙動計測等の詳細な調査や構造解析を行うなどして、損傷の状況把握、劣化損傷メカニズムの解明を進めていく。また、既に補修補強が行われた橋、これから補修補強が行われる橋における対策効果の継続調査等の結果も加えて、既設橋に対する一連の点検検査、予測評価、補修補強技術として基準化・標準化を図っていく。具体的には大きく以下の3つの区分の研究テーマに取り組むこととしている。


図- 10 臨床研究に基づく研究・技術開発

①点検・検査技術、健全性の予測・評価・診断 技術
橋梁のある部材・部位に損傷が発見された場合、その損傷が橋の安全性に及ぼす影響の程度を踏まえて、対策の要否、対策の程度、緊急性・優先性を適切に判断していく必要があるが、個々の橋毎に構造条件、供用条件等の不確実な面がある中で、健全性を適切に評価するのが難しい場合も多い。特に構造物の耐久性に関しては長期間の信頼できる情報はほとんどなく、実橋における挙動計測、劣化進行の非破壊調査や撤去橋梁部材の耐荷性能の調査等、臨床学的研究や解剖学的な分析による知見の継続的な蓄積を進めていく必要がある。このため、鋼部材の疲労等、高度な診断を必要とする劣化損傷のメカニズム・挙動を解明し、部材の損傷が橋全体系の健全性に及ぼす影響を適切に評価し、最適な対策判断につなげるための研究に取り組んでいる。
これらの研究の一環として、古い年代に建設された撤去予定の橋梁を活用して、挙動計測、劣化進行状況の非破壊調査、撤去部材の載荷試験等の臨床的な研究を開始したところである。その最初の橋梁として、平成20年10月下旬より、北海道芦別市に位置する国道452号旭橋を活用した調査試験を始めている(図-11 参照)。この橋は、昭和28年に建設された3径間連続I桁橋であり、鉄筋コンクリート(RC) 床版に目地を複数箇所設置した非合成桁構造となっている。長年の供用により床版劣化が進行しており、RC床版が全体挙動に与える影響等に着目し、荷重車による載荷試験、ならびに、人力加振試験を行い、今後挙動推定のための解析を行っている。


図-11 撤去橋梁を活用した臨床研究(国道452号旭橋)

また、解体前におけるコンクリート部材の非破壊調査や、解体時に抽出した材料の強度試験等も行っている。今後も継続して、一つの橋梁を対象に、撤去前の挙動計測から撤去後の部材試験まで、個別の調査研究を継続的に実施していくことにより、劣化損傷の進んだ橋梁の調査・診断の方法論を確立していきたい。今年度は、千葉県の銚子大橋と島根県の神戸橋を対象に、撤去橋梁を活用した臨床研究を実施する予定である。
既設橋の評価・診断に際しては、橋梁の状態を把握する検査技術が不可欠である。このため、目視困難な構造物内部の状態を把握する非破壊検査技術、損傷の発生と進展を適時に効率的に検知する、もしくは地震後に夜間でも目視困難な状況でも被害の有無を早期に発見するための計測・モニタリング技術など、橋梁の状態を管理者のニーズに応じて効率的かつ合理的に把握するための検査技術の研究にも取り組んでいる。ここで、非破技術の開発に際しては、実構造物での適用性の確認が必要となり、上記の撤去予定橋梁の活用の一環として、非破壊検査技術の適用性の検証についても今後取り組んでいく(図-12 参照)。


図-12 撤去橋梁を用いた非破壊検査技術の適用性調査

(3) 情報交流の場
これまで述べたように、維持管理に関して取り組むべき課題は多岐にわたっている。技術支援にあたっては、構造物の点検、評価・診断、補修補強技術及びそれら統合する管理システムまでの幅広い領域をカバーするとともに、個別要素技術を追究する部分と維持管理全体を包括的に捉える部分のバランスをとりながら適切に診断を行うための技術力の向上を図っていく必要がある。このため、臨床研究を通して得られる知見とともに、現場の抱えている課題・ニーズ、産学における基礎的・先端的研究の知見や実用化に向けた新技術・新工法の情報など、維持管理に関わる産学官の技術者間の多種多様な情報を集積し、流通させることが重要と考えている。図-13に示すように、CAESARが我が国における構造物保全技術の中核的な研究拠点としての役割を担っていくためにも、国内外の技術者間の交流を図るとともに、最新の技術情報が集積し、流通する場を整えていきたいと考えている。


図-13 情報交流の場の設定

4 これからの構造物管理について

 筆者が昨年6月まで勤務していた国土技術政策総合研究所において、数年前から各種土木構造物を対象にストックマネジメント研究会を立ち上げ、構造物管理に関する議論・検討を行ってきている。その中で、構造物管理に関する研究開発の現状を整理してみたところ4) 、全般的に研究開発はまだまだこれからの感がある。その中でも比較的道路分野が進んでいたが、道路分野においても診断、劣化予測、予防保全技術について未熟な分野が多く残っている。一方、構造物管理は国や地方公共団体の役割であり責務である。社会経済文化活動を安全に、快適に円滑に行えるようにするという構造物が果たすべき機能を継続的に国民の方々へサービスし続けなければならない。構造物管理の問題点に対しては現場で対応せざるを得ないが、それらを支える研究開発の現状は非常に遅れていると言わざるを得ない。構造物管理が国の行政の重要課題となった現在、これらに関する研究開発に一層力を入れて、現場を支援していく必要性が増している。この現実の構造物管理に関する研究開発と現場対応のギャップを土木技術分野以外の分野とも連携協力して、早急に埋めていく努力を精力的にしていかなければならない。また、研究開発分野とともに、現場における構造物管理に関する技術力の向上にも力を入れていかなければならない。
国土交通省では今年から地方整備局において、道路部に道路保全企画官等の組織が充実され、本格的に道路橋の保全に対応していくこととしているが、土木研究所としてもこれらの組織と連携協力して、直轄の道路施設とともに地方公共団体に対しても支援できるようにしていきたい。改めて、構造物管理の意義と役割を再認識し、技術者が互いに技術力向上させ、連携協力を一層深め、国民の安全・安心確保のために貢献していくことが土木技術者としての責務、役割であり、またやりがいに通じていくことと思う。従来より力を入れてきた社会基盤整備により、日本の国土と国民の能力を高め、その能力を持続的に発揮できる環境を維持していくことが、本来の社会基盤の役割を全うすることである。

【参考文献】
1) 国土交通省:平成20年度国土交通白書 参考資料編(輸送の動向)
2) (財) 計量計画研究所:データでみる国際比較
~交通関連データ集~,道路施設整備17, 1999.4
3) 国土交通省:道路局ホームページ 「道路橋の予防保全に向けた有識者会議」資料
4) 西川 和廣:「社会資本ストックの戦略的維持管理とは何か」、
平成20年度「国土技術政策総合研究所 講演会」資料,p.12

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