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九州地方整備局における新技術活用の取り組みの経緯について
崎野信二
田原秀樹
多田幸平

キーワード:新技術、NETIS

1.はじめに
1-1 新技術活用システムの概要
本システムは、民間事業者等(以下「開発者」という。)が新技術をNETISに登録申請することから始まり、工事等で活用し、事後評価を行い、評価結果を開発者へ通知することにより、技術のスパイラルアップを図るものである。活用にあたっては、
①現場のニーズ等により必要となる新技術を対象に発注者の指定により活用を行う「発注者指定型」
②施工者(受注者)からの提案により活用を行う「施工者希望型」
③開発者からの申請により試行現場を照会し活用を行う「試行申請型」
④発注者が現場のニーズ等により、具体のフィールドを想定して求める技術要件を明確にしたうえで、新技術を募集し、選考した技術の活用を行う「フィールド提供型」
⑤発注者が現場のニーズ等により求める技術募集テーマ等を明確にしたうえで、新技術を募集し、応募された技術の活用を行う「テーマ設定型(技術公募)」(平成26年度新技術活用システムの改正により追加)
以上の5タイプがあり、それぞれのタイプで活用促進を図っている(図-1参照)。

1-2 九州地方整備局での新技術活用
九州は日本列島の西南端に位置し、地理的には、海に囲まれ、多くの離島、半島を抱えている。また、内陸部では九州山地で東西が分断されている。地質は、北部には有明海沿岸に極軟弱な有明粘土、北西部には地滑り地帯、南部にはシラス土等の特殊土壌地帯が広がっている。
また、自然環境豊かで、変化に富んだ美しい自然が残っているが、台風の来襲頻度が高く、集中豪雨や火山活動(口永良部島、霧島山(新燃岳)、桜島、阿蘇山、雲仙・普賢岳)などの自然災害にさらされている地域でもある。
そのため、九州地方整備局では、社会資本の整備や維持管理、防災対策等に際し、民間企業等の新技術の活用を積極的に推進し、これら諸問題に対処してきたところである。特にコスト縮減等の発注者ニーズの観点から発注者指定型に関する施策を行ってきた。

1-3 最近の新技術の活用状況等について
ここ数年の九州地方整備局における新技術活用率(新技術を活用した工事件数を総工事件数で除したもの)の推移を見ると、平成20年度に30%を超え、年々ほぼ増加傾向で推移し、平成26年度には50.1%を達成しているが、平成2年度に48.4%となり、ここ3年ほどは横ばい傾向にある。また、発注者指定型の活用率(発注者指定型を活用した工事件数を総工事件数で除したもの)についても平成20年度をピークに20%前後で推移している(図-2参照)。
次章から新技術の促進を図る上で、過去の新技術活用の取り組みの経緯及び施策の変遷について振り返る。また、九州地方整備局における新技術及び発注者指定型促進のための取り組みを紹介し、その意義についてまとめるものとする。

2.新技術施策、取り組みの経緯(図- 3 参照)
2-1 平成10年度~平成13年度
平成10年度にNETISが国土交通省内(旧建設省)で運用開始となり、3年の内部運用を経た後、平成13年から一般公開が開始された。また、一般公開に併せて、特記仕様書記載例、施工管理基準といった全国的な新技術支援施策が始まった。

2-2 平成14年度~平成17年度
九州地方整備局ではNETIS 一般公開の次年度である平成14年度より九州技術事務所においてプロジェクト体制を構築した。具体的には設計段階で現場条件を加味し、活用できる新技術を複数工法抽出し、比較表をつくる工法抽出支援や、契約段階での新技術歩掛、特記仕様書の作成を支援するものである。なお、工法抽出支援は平成16年度に設計業務等共通仕様書へ新技術活用検討が位置付けられて以降、件数は減少した。また、九州地方整備局職員を対象としてNETISに関する説明会を開始した。平成15年度からは説明会の対象者に監督支援業務の担当技術者、受注業者を追加、規模拡大し、取り組んでいる。平成16年度からは、建設技術の開発・普及促進のために、産学官(企業・大学・行政)それぞれが新技術の開発・活用の最新情報等に関する取り組みについての情報発信・交換を目的として「九州建設技術フォーラム」を開始した。
行政ニーズ(コスト縮減等)により取組が加速し、原局より発注事務所へ活用率目標値を通知する等、新技術活用の体制、ルール作りの歴史・文化ができた。設計コンサルタントも新技術活用の比較表作成の手続き・手法を理解するようになった。平成13年度まで新技術活用率は数%で推移していたが、これらの取り組みによって平成14年度以降大きく上昇した。

2-3 平成18年度~平成21年度
全国的に平成18年度からNETIS本格運用が始まり、施工者希望型の追加、工事成績評定でのインセンティブの付与等が新たに追加された。また、新技術の活用促進と技術のスパイラルアップを目的として事後評価の徹底を進め、「活用促進技術」、「推奨技術候補(現在の「準推奨技術」)」、「推奨
技術」といった有用な新技術の枠組みを新設した。平成21年度には設計業務等共通仕様書において、「有用な」新技術の積極的な活用の検討が規定された。

2-4 平成22年度~
平成21年度以降発注者指定型の活用率が低下したことを受け、行政ニーズの観点から平成24年度より新たな取り組みを開始した。平成24年度に発注者指定型運用ルール( 案) を策定し、平成25年度より建設コンサルタンツ協会との意見交換会を始め、毎年開催している。平成26年度からは若手地整職員を対象とした講習会、九州地方整備局技術活用促進会議、産学官新技術活用促進プロジェクトチームを立ち上げ、更なる新技術の活用を推進している。具体的な取り組みについ
ては次章で紹介する。

3.最近の九州地方整備局における新技術活用促進のための取り組み
3-1 発注者指定型運用ルール(案)の策定
平成24年度に九州技術事務所では、新技術を活用する(事業) 事務所に対して、工法抽出・歩掛作成などを(発注)支援するための新技術発注支援(工法抽出・歩掛作成)運用マニュアル(案)、発注者指定型運用ルール(案) を策定している。これにより、( 事業) 事務所の発注担当者が新技術の工法抽出等について統一の見解を持ち、設計業務受注業者へ適切な指導を行えるようになった。

3-2 建設コンサルタンツ協会との意見交換会
平成25年度より、新技術に関する建設コンサルタンツ協会との意見交換会を開始した。意見交換会では九州地方整備局の取り組み内容や活用率等について情報共有し、業界として抱えている新たなニーズ、課題等の発掘を行うための情報交換を行っている。

3-3 講習会の開催
平成26年度より、主に技術系若手職員を対象として、基礎技術講習会(新技術活用)を開催している。講習会では2日間の日程で、新技術活用に関する基礎知識(概要、NETISを用いた工法検索、工法比較検討、活用効果調査等)の習得と演習(NETIS検索機能を活用した工法比較検討等)を通して、新技術活用の重要性を再認識してもらうことを目的としている。また、実際の業務及び工事目的物の品質向上にも繋がると考えている。

3-4 産学官新技術活用促進PT
平成22年11月26日九州大学と九州地方整備局との連携・協定に関する協定書が締結された。これに基づく研究・開発等について協働し、かつ推進することを目的として社会基盤技術創造研究推進協議会(以下、「協議会」という。)が平成24年8月3日に発足した。
また、平成26年度より、協議会の規約に基づき、「九州のフィールドに適応した新技術の活用促進に関する研究」を促進・実施することを目的としてプロジェクトチーム(以下「PT」という。)を設置し、PTの運営を円滑に実施するために、専門分野毎に産学官(コンサルタント、学識者、九州地方整備局)のメンバーにより構成されたワーキンググループ(以下「WG」という。)を設置した。
これは設計担当者等の負担軽減による新技術の活用促進を目的とし、以下の2つの背景から新技術の比較表を作成するものである。
 ①九州の地理的条件に合致するなど現場での活用のニーズが高い工種に関する技術。
 ②NETIS登録技術が数多あり、技術の特徴等違いが明確で無く、設計業務における比較表作成や技術選定が困難な技術。
九州地整では①,②を踏まえ、軟弱地盤処理工及びコンクリート構造物補修工の比較表作成を行っている。
なお、WGで作成した比較表は、一定の条件の基、現場ニーズ等の条件に合致する技術を抽出することを目的とし、実工事現場で活用可能な類似の複数技術が抽出可能となっている。
比較表を積極的に活用することで、現場で活用する新技術の選定、九州地方への適応性の検討が容易になり、今後、より一層発注者指定型の活用促進が図られると考える。

3-5 九州地方整備局技術活用促進会議
平成26年度より、九州の地勢、現場ニーズ等と我が国を取り巻く社会状況の変化を踏まえて、九州地方整備局で重点的に活用すべき技術テーマを明確にするとともに、新技術等の活用促進及び技術研究開発の推進を図ることを目的とし、九州地方整備局技術活用促進会議を設置している。
会議では、新技術の活用促進のための活用目標値や、WGによる比較表の活用等の目標を行動計画として盛り込み、年度毎にフォローアップしている。

4.おわりに
九州地方整備局では平成14年当初は技術事務所長のトップマネジメントで、予算、人員、体制を確保し、日々進捗管理を行っていた。現在は上記の取り組みを継続していくことで職員・コンサルへの教育を実施し、発注者指定型の活用を積極的に推進している。
また、発注者指定型を推進していくことでコスト縮減等の行政ニーズに対応することができると考える。
今後も、よりよい新たな技術が生まれ、安全・安心な暮らしを支える社会基盤の形成に寄与できるよう、九州地方整備局としても産・学・官との連携を図り、新技術の活用を推進していくつもりである。

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