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朧大橋の景観と架設について

福岡県 土木部
 道路建設課 技術主査
本 村 庄 治

1 はじめに
上陽町は福岡県南部に位置し,東西は星野村と黒木町,南西を八女市と広川町,北は久留米市と浮羽郡田主丸町に接している。朧大橋の架橋位置は,発心山,鷹取山等の耳納山地の直南麓で北から南ヘ緩やかに傾斜し,特に平地に乏しく,山林や原野の緩斜面には段々畑や茶畑が目立ち,自然豊かな景観美を演出しているところである。町の遺産としては,このような自然美の雄大さと清流星野川にかかる洗玉(一連)橋から宮ケ原(四連)橋迄の石橋を代表に町内には11橋現存しており,「石橋の里,上陽」として広く親しまれている。
朧大橋を必要とする計画路線は,一級町道下横山東西線と称し,上陽町北部地域から近隣都市である久留米市迄の時間短縮を図ることを目的に計画決定した路線であります。(図ー1参照)

2 橋種検討について
(1)設計課題の設定(統一方針)
① 周辺環境との調和(筑後川自然公園隣接)
② 地域性の表現(地域に親しまれる環境づくり)
③ 橋梁の存在(ランドマーク)

(2)設計テーマの設定
① 周辺環境と調和
② 構造美
③ ランドマークとしての役割
④ 親しみの持てる橋:「石橋の里・上陽」

(3)1選次定橋種による検討(表ー1参照)
① 基本構想の立案 ⇒ 12橋種選定
 アンケート調査を実施し広く意見徴収し(架橋付近の居住者及び団体職員,土木工学系の高校及び大学生約500名),定量的な評価 ⇒ 3橋種
  (経済・構造・施工・景観・走行性及び維持管理)

(4)2次選定橋種による検討
表ー1の2,5及び9の3橋種を選定

3 景観検討委員会について
最終選定を控え前記の3橋種を絞り込むために,景観アドバイザーに篠原東京大学教授を迎え,県・町及びコンサルタントにて構成された検討委員会を設置し,下記の検討を行った。
(1)第1回検討委員会
① 架橋位置並びにその規模から機能面の要望も高い橋となるため,「周辺環境との調和」を第一に多方面から検討を行い,本地区のシンボル的存在となるよう計画する。
② 周辺地形状況等からバランスの取れた形状を先に設定し,構造性に固執した考え方は避けること。
③ 模型作成の上,検討。(図ー2参照)

(2)第2回検討委員会
① アーチクラウン部から左右非対称とする場合は,安定感より躍動感のイメージが強くなるため,アーチリブを平面的に拡幅させる等の工夫が必要。この場合,アーチライズ比は可能な限り小さく。
② 側径間部の充腹アーチ構造は重い感じを与えるため,桁下空間をすっきりとした開放感のある構造を基本に検討。
③ 構造形式からできるだけ下方からの眺望に優れるものである。「橋詰広場」や「橋のたもと公園」等からの視点場については,十分注意を払い計画すること。

(3)第3回検討委員会
① アーチリブの平面変化は,直線及び曲線変化の検討を行う。
② 補剛桁とアーチリブ端部に取り付ける鉛直材の勾配についても,直線及び曲線変化の検討を行う(模型と図面にて検討)。
③ RC固定アーチ橋(側径間部:3径間連続タイプ)を採用決定するが,細部は今後決定する。

(4)第4回検討委員会
① アーチリブの平面曲線拡幅と鉛直材の直線勾配の組み合わせが構造バランス等に優れている。
② 実施設計に向けて検討すべき事項。
  a 照明等の設置。
  b 高欄,親柱のデザイン。
  c 排水装置(可能な限り視界に入れない)。
  d 各部材の接続部(アーチリブと鉛直材の取付部等)
  e 橋の足元については綺麗に処理し,細部においても景観性を高めること。

(5)選定理由について
① 経済性
いずれも大差はないが,将来の維持管理費を含めて考慮すれば,第3案の鋼ブレースドアーチ橋は塗装費(10年周期)が必要となり他案に比べ劣る。
② 施工性
 a 3案とも特殊技術を必要とする工法でなく,従来の実績の多い架設工法で可能。
 b 架橋位置までの搬入路が狭いため,第3案は製作鋼桁等の運搬可能長に制限がある。
③ 維持管理
第1・2案は,コンクリート橋であるためメンテナンスフリーであるが,第3案は,鋼橋であるため塗装の劣化現象を考慮した維持管理が重要となる。
④ 構造性
第1・3案はアーチリブを支持地盤に固定させるため,剛性が高く,耐震性に優れている。
⑤ 景観
a 第1案は,周辺環境に対し構造形式及び材質・色調面ともに調和しており,「アンケート調査」においても高い評価が得られていた。また,「石橋の里・上陽町」であること,架橋位置の地名である「朧」のイメージからも,「コンクリートアーチ橋」は優れている。
b 第2案は,周辺環境に対し構造形式から見れば調和が図れていなく,「アンケート調査」においても3案中最も低い評価となった。
c 第3案は,周辺環境に対し構造形式としては調和が図られているが,計画地は自然公園区域に属しており,材質及び色調面から見ればコンクリート橋に対し劣る。
⑥ 走行性
いずれも連続形式であるためジョイントが少なく,走行性に優れている。

4 橋名の由来について
はじめて聞いた時は,「おぼろ,漢字はどう書くの。何で。」と不思議に思いましたが,小字名やその由来を聞くと,「なるほど。」と納得。
その由来ですが,「豊臣の時代に,発心城の戦いの末,落城する時に城に火をつけ逃げ落ち延びてきた。落人達が落城を見ていた時,その夜がおぼろ月夜だった。」そこでこの付近を「朧」と名付けたそうです。

5 計画諸元について
 路線名   (町)下横山東西線
 架橋位置  八女郡上陽町大字下横山地内
 道路規格  3種3級
 設計速度  40km/h
 橋  長  293m
 道路幅員  車道6.0m,歩道3.5m
 橋梁形式
   上部工 :RC固定アーチ橋(側径間連続)
   架設工法:ピロンメラン併用工法
   下部工 :直接基礎(深礎杭付)

6 本橋の特徴について
(1)張出し架設中のアーチ中央部(クラウン)のメランと呼ばれる鉄骨部材で仮閉合することにより早期に安定した構造系が得られ,斜吊り材及びグランドアンカー等の架設部材が少なくなる等の経済的施工を行っている。
(2)二股に分岐しているアーチリブ基部の施工には,上記のメラン材を吊り支保工として先行使用し,経済的施工を行っている。
(3)吊り支保工やメランを支える斜吊り材(PC鋼棒φ32)は,アーチリブ閉合後には撤去し,補剛桁のPC鋼材として転用します。

7 張出し架設工法について
(1)バックスティについて
① バックアンカーの基本試験
事前調査にて,地盤の摩擦抵抗係数をτ=10kg/cm2と推定していた。現場にて基本試験を行ったところ,τ=8kg/cm2以上を確認できました。基本試験の結果と地山掘削の影響を考慮し,アンカー長をP2側16.0m,P3側17.0mとして施工しています。
② バックスティ本体の経済比較について
従来のコンクリート巻立て工法は,足場材の使用,コンクリート養生,撤去時に産業廃棄物の発生等の環境面を考慮し(表ー2参照)経済性,施工性等から決定しています。

(2)アーチリブ基部の施工について
アーチリブ基部は平面的に左右に各5.0m拡幅し二股に分岐しており,PC橋のような張り出し施工は施工性,経済性等に不利である。また架設系の設計においてはアーチリブにはひび割れを許さない部材としているために,支保工材等の使用はアーチリブヘの影響を考慮すると使用できない。そのため,本橋の特徴であるメラン材に一部調整材(2主構2列のため)を補足し,吊り支保工材として先行使用し,メラン材の有効活用を図っています。

(3)吊り支保工の解体について
架設時には,アーチリブ躯体が無く容易に施工可能だが,解体時には吊り支保工上に躯体がありTクレーンでの解体作業は非常に困難な状況であります。また,本四架橋にて鋼桁落下事故が発生した後であり,安全確保を充分図る必要があった。そのため,(図ー6参照)の様にロワリングジャッキを4基使用する施工計画を立て解体作業を行った。以下に,作業フローチャートを示す。

① 準備工
  アーチリブ外側足場解体
  吊降し装置取付
  仮支持鋼棒の設置
  斜吊り材緊張解放
  安全装置(鋼棒)の設置
② 吊降ろし作業
  約500mmストロークの反復施工
 (鋼材の応力変化をリアルタイムに確認し安全確保に努めた。)
  底型枠取外
  斜吊り材の跡処理
③ 吊降ろし終了
  仮支持鋼棒の撤去
  吊降ろし装置の撤去
④ 吊り支保工解体
  Tクレーンによる解体
  仮置き場への運搬
  補足材のスクラップ処理
⑤主要機材
  吊り下げケーフル   12T15
  定着具(固定側)   D12T15M
  定着具(ジャッキ側) 12T15M319
  緊張ジャッキ     SF-MRLジャッキ

(4)メラン材架設について
メラン材架設は,150tTクレーンにより1主構ずつの単材架設とした。作業足場は従来の単管足場工法に比べ,独自に発案した移動式足場を使用し作業の安全性向上,落下物の危険回避及び作業効率の向上を図りました。(図ー7参照)

(5)メラン材の仮閉合の施工について
メラン材は,平面的に3本の主鋼材をトラス状に組立ている。このため,日中の部材温度は各部材で相違しており鋼材の温度変化は常に一様でなく,仮閉合時には気温変化の小さい夜間から早朝が一番良い。(図ー8参照)

(6)斜吊り材について
① 架設時の緊張力について
架設完了後に補剛桁のPC鋼棒として使用されるため,架設時の応力を許容値の50%に押さえ,本設時の緊張に影響を与えない様に考慮している。また,組立解体時に衝撃等を与えないように注意し作業を行っている。(表ー3参照)

② 保護材について
斜吊り材は,日中の気温変化による伸縮を極力抑える目的から,ポリエチレン系の断熱材を鋼棒に巻き付け保護を行うが,使用前に断熱材厚がどの程度必要か現地にて実験を行いその材厚を決定している。(表ー4,写真ー2参照)

(7)自動計測について
コンクリートアーチ橋は,架設構造系と完成構造系が大きく異なる施工法が採用されることが多く,架設中は不静定次数が高く構造系が逐次変化するために,複雑な応力状態となる。本橋では,斬新なデザインを多く取り入れた独特な構造系を有しています。
架設構造系の殆どが鋼材のために,日中の気温変化による施工管理が重要となります。以下にその概要を示します。(図ー5参照)
① 架設材の安全管理
 アンカーの抜け出し,斜吊り材の張力変化,仮支柱・ピロン柱の座屈等の管理
② 基礎構造物及び地盤の挙動監視
 メラン閉合迄は,架設系を支える最も重要な役目を担っているアーチアバット及びバックアンカーを定着している基礎地盤の挙動監視
③ アーチリブの応力測定
 アーチリブコンクリートが設計計算どおりに挙動していることを確認
④アーチリブ及びメラン材のたわみ管理
 常時のたわみ観測は,アーチリブの上越し量の管理

8 おわりに
平成13年度に朧大橋の施工が完了し,供用していますが,現在下部工施工時の法面等が露出してる状況です。
最後,埋戻が完了し工事施工跡が緩和されると,朧大橋がより自然景観に馴染んで行くことを期待します。また,本橋が石橋同様に地域のシンボルとして親しまれて行くことを期待します。

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