「八代版三方良し」の取り組みについて
~工事相談会の設置について~
~工事相談会の設置について~
久保田孝行
キーワード:三方良しの公共事業、いきいき現場づくり、八代版三方良し、工事相談会
1.はじめに
機能、強度、出来栄えの美しさも含め、我々が整備する社会資本には、適正な価格で適切な質の仕上がりが求められる。しかし昨今、国内における公共事業の受注競争は次第に激化し、特に企業規模の小さい建設業者を中心に、受注業者は低い落札率で利益を確保しつつ、所定の質の構造物を施工しなければならない困難な状況に直面している。
また、このような状況が継続する中で企業側の経営環境は一層厳しさを増し、各々の施工現場における現場代理人は、従来以上に、より効率的で安全かつ無駄のないマネジメントを求められる中、このような問題への対応が受注者側の責任のみに偏っているという片務性、すなわち受発注者の対等な関係に基づく取り組みの必要性が叫ばれている。
各現場で無駄なく効率的に事業を推進することは、余裕のある工程によって労働者に安全に事故のない工事を行っていただくうえでも大変重要である。加えて、各現場において受発注者の双方が十分な意思疎通を図り、良好な信頼関係にあることは、予期せぬ豪雨や地震等による災害時に、災害協定等に基づく地元企業らの即時対応を行う際にも大きな差になって現れるものと思われる。
本論文は、国土交通省の各事務所で進められている「三方良しの公共事業」あるいは「いきいき現場づくり」に、地域の特性や会社規模等や事務所規模をふまえ、更に工夫を凝らした「八代版三方良し」(図.1)の取り組みについて紹介し、現場の受注者による評価を踏まえた今後の改善策について報告する。
2.いきいき現場づくりの課題
「いきいき現場づくり」の取り組みについて、発注者側の職員に対しては事務所内で「勉強会」などを行い、建設業協会へは「意見交換会」などで仕組みや効果などの説明を行うとともに、現場でも主任監督員などが働きかけを行い「いきいき現場づくり」の施策に取り組んできた。しかし、この「いきいき現場づくり」を進めるなかで、次のような傾向が見受けられるようになってきた。
2.1 工事監理連絡会(三者会議)
工事監理連絡会(三者会議)は平成18 年度から実施し、現在では全工事を対象として取り組んでおり、三者会議を必要としない維持的な工事(維持、除草工事)でも二者会議を実施している。
受注業者へのアンケートの結果からみる工事監理連絡会(三者会議)の評価は、情報の共有化や共通認識が「図られた」または「概ね図られた」という評価がほとんどであり、概ね良好な結果を得ている。
2.2 ワンデーレスポンス
ワンデーレスポンスを良好に行うためには、その問題や課題に対して、受発注者双方が同一の認識を持つことがまず重要である。同一の認識を持つということは、問題の本質について関係者内(主任監督員、工事発注担当課長、技術副所長)の正確な情報共有をすることが大事である。
また、回答期限について、協議内容によっては、発注者(発注担当課)は施工業者への負担を少なくするため、手戻りがないよう幅広く十分な検討を行うため、回答期限以上に期間を必要とする場合もある。よって、ワンデーレスポンスの取り組みは、単にその日の何時までに回答するという書面だけの手続きだけではなく、電話や会議等を利用しての途中経過を報告し、互いに情報を共有する、いわゆる相互理解を深めるためのコミュニケーションを向上することをセットで行うことが課題と考える。
2.3 設計変更審査会
業界との意見交換会の場や工程調整会議等で、受注業者に設計変更審査会のメリット等の説明を行い、開催の働きかけを続けている。また、実際に開催した案件に対して事務所全体で取り組み、双方合意の結果を導き出している。しかし、設計変更審査会の開催件数は、平成22 年度は2件、平成23 年度が1件と少ない状況にあり、この3件は発注側がセットしたもので、受注業者自ら利用することは当事務所では皆無であった。
受注業者が開催を希望しない背景として、①「要望しても開催までに時間がかかる」、②「資料作りが負担」、③「決まり切った設計基準や要領等でしか変更できない」など負のイメージと、審査会のメリットを施工業者が経験していないなど、受注業者と事務所側で認識の違いがあることが考
えられる。このため、合意形成が不十分なまま変更契約を行い、後日、業者からの不満を伝え聞くケースが少なくない。審査会に対する当方と受注業者の認識に相違があるからこそ適正な変更契約を行うためには、相互理解、合意形成をいかにして行うかが課題となる。
えられる。このため、合意形成が不十分なまま変更契約を行い、後日、業者からの不満を伝え聞くケースが少なくない。審査会に対する当方と受注業者の認識に相違があるからこそ適正な変更契約を行うためには、相互理解、合意形成をいかにして行うかが課題となる。
2.4 いきいき現場づくり相談窓口
相談窓口として各事務所の技術副所長等が対応することになっており、設計変更審査会と同様に意見交換等で利用を呼び掛けているが、しかし、全く相談が無くリアルタイムの対応ができないなど機能していない状況にある。受注業者が抱えている問題等が速やかに入手されずに、後々、問題を把握するケースが多く、その殆どがすでに改善等の対応が困難な状況となっている。
これは、受注業者側が相談窓口を利用し問題の改善を図ることなどを体現していないことによる、問題解決機能を認識していないことと考える。
以上のことから、コミュニケーションの向上による相互理解を深めることが「いきいき現場づくり」を推進するうえで重視すべき課題と考えた。
また、コミュニケーションの問題は当方だけでなく、受注業者の本社と現場においても、たびた
び齟齬(そご)が見られることがあり、受注業者・事務所の関係者全員のコミュニケーション向上も重要な課題の一つである。
び齟齬(そご)が見られることがあり、受注業者・事務所の関係者全員のコミュニケーション向上も重要な課題の一つである。
これらのことから八代になじむ「いきいき現場づくり」の運用として、「八代版三方良し」の検討を行った。
3.「八代版三方良し」の検討
八代河川国道事務所でも「三方良し」を目指して取り組んでいるが、成果は限定的な状況にある。片務性を解消するためには、額面通りの「いきいき現場づくり」ではなく、地域の特性、事務所規模、事業状況に応じた実効性の高い取り組みが必要である。実効性を考えれば国民を含めた「三方
良し」のメリットを短期間に実現するのは難しいため、先ず二者(発注者、受注者)でメリットが出る方法として、受発注者が気持ちよく仕事ができる関係を構築することを目指した。
良し」のメリットを短期間に実現するのは難しいため、先ず二者(発注者、受注者)でメリットが出る方法として、受発注者が気持ちよく仕事ができる関係を構築することを目指した。
その実現にあたっては、これまでのワンデーレスポンス、設計変更審査会の状況を見ると、コミュニケーションの向上による相互理解が課題である。このためコミュニケーションを活発化して、率直に意見を言い合える環境づくりとして、変更契約審査会より敷居を低くした「工事相談会」を設置することとした。
また、現在の状況として現場技術者が協議・指示の内容を会社首脳へ報告することが負担となっている状況が見受けられるため、現場技術者の負担を軽減し、さらに受発注者双方の上層部がその場で状況を把握し、方針を確認・決定することができるよう「工事相談会」のメンバー構成に、現場技術者に加えて受注業者の会社首脳も組み込むこととした。
4.工事相談会
工事相談会の運営をするにあたって、当初は次の運用のもとに開催した。
①現場で悩んでいるすべての案件を対象とする。
②メンバー構成は関係者全員で相互理解を行うため、受注業者は会社首脳と現場代理人または監理技術者、発注者側は技術副所長をはじめ事業対策官、工事発注担当課長、主任監督員とし事務局を品質確保課とする(表.1)。
③打ち合わせ資料は、見開き図や現地状況のわかる現場の手持ち資料とする。
④毎週火曜日午後に定例化し、案件登録は前週金曜日までとする。
開催までの手続きフローを図-2に示す。
5.工事相談会の実施
平成23 年11 月より試行を始め、平成23 年度5回(うち飛び込み1件)実施した。
5.1 相談事例と対応状況
まず、当初契約と現場状況の相違を発注者側が確認し、それに伴う協議の手順、双方それぞれの検討内容およびスケジュールを確認した。
以後は双方で確認した協議手順で現場を進め、問題があれば再度相談会を活用することにした。
相談会の結果、双方が現場状況に応じた施工性について、意見を出し合い試験施工の方向性を見出した。
後日、試験施工などの結果をもとに施工方法に対し新たな問題が発生したため、再度施工方法の手順を確認し、以後は通常の協議で完成に至った。
「工事相談会」(写真.1)では参加者の意見交換が活発に行われ、短時間で共通認識を醸成することが可能となった。またその中で発生した運営方法が追加され以下にそれを示す。
5.2 相談会開催中に発生した運用
「工事相談会」を開催していく過程に於いて、当初、考案した運用に加えて次の運用を追加した。いずれも受注者への負担軽減を考慮した運用である。
①現場状況、問題点は主任監督員が説明し、受注者の現場代理人等は補足程度の説明とする。
②発生した問題点を解決するため、発注者、受注者関係者の全員がこれまで経験した知見(経験、事例)を出し合う。
この場合、発注者側は話しやすい雰囲気作りに努めることが必要。
③問題解決の方向性、受発注の仕事分担、検討のスケジュールなど決められる事項はその場で決める。
④継続が必要な課題はそれぞれが持ち帰って検討し、必要があれば再度相談会を開催する。
⑤受注業者が新たに資料を作成して来た場合は、副所長自ら作成不要を伝える。また、手持ち資料をもとに検討するため、その場で略図等を描いて意思疎通を図る。
⑥1件当たりに要する時間は1時間程度としし、受注業者に負担をかけない。
⑦発注者側の技術伝承のため、河川、道路案件問わず事務所内職員のオブザーバーでの参加を促す。
⑧飛び込みの案件も可とする。
6.おわりに
「八代版三方良し」は、事務所を取り巻く地域性と事務所規模・事業内容を考慮し「変更設計審査会」の簡易版を意識し「工事相談会」に取り組んだ。しかし、広範な問題に対して取り組んでいくうちに、受発注者の関係者が情報を共有し短期間に問題解決を見い出していくことから、面談版
ワンデーレスポンス(リアルワンデー)という性格を帯びてきた。
ワンデーレスポンス(リアルワンデー)という性格を帯びてきた。
本年度もこれまで4件相談(昨年度:4件)があり、これまで延べ10 社が「工事相談会」を経験し問題の早期解決の糸口を見い出している。
「八代版三方良し」は、これまで現場関係者が集まる場にてPR(図.3)をしてきているが周知を更に進めて行く必要がある。周知の取り組みのひとつとして、現場で気が付いたときに受注業者への働きかけも重要であり、全受注業者が自発的に利用するよう普及に取り組みたい。
最後に「いきいき現場づくり」は、国民、受注者、発注者それぞれのメリットを実現させることが目的である。地域性、事務所規模、事業規模により環境が異なり、既存のツールだけでは「いきいき現場づくり」の効果を上げることは難しい場合がある。このため、効果を上げる手段として、地域に応じたツールの改良などの取り組みが必要と考える。