沖縄県における今後の社会資本整備のあり方
沖縄県 土木建築部 土木整備統括監 金城淳
1.はじめに
沖縄県においては、復帰後の38年間、沖縄の振興計画に基づく総合的な施策の推進と県民の不断の努力により、各面にわたる本土との格差は大幅に縮小し、社会経済は着実に進展してきた。
社会資本整備においても、道路やモノレール、空港・港湾等の交通基盤をはじめ、区画整理による基地跡地の整備、公園・海岸整備など特色ある地域づくりとともに、ダム建設による水資源の安定供給や、河川整備・砂防などの防災対策による安全・安心な県土づくりが進展した。しかしながら、目標である自立型経済の構築には至っておらず、今後とも産業振興や質の高い観光リゾート地の形成等に寄与する基盤整備を重点的・効率的に進めていく必要がある。
2.「新たな計画」における社会基盤整備の課題
沖縄県においては、平成23年3月に終了となる沖縄振興計画に代わる新たな計画の策定に向けて、総点検作業を実施するとともに、県民の参画と協働のもとに、20年後の沖縄のあるべき姿を目指した「沖縄21世紀ビジョン」を策定し、これらに基づく「新たな計画の基本的考え方」を平成23年7月にまとめた。今後は、この「基本的考え方」に基づき、平成23年度末までに新たな計画である「沖縄21世紀ビジョン基本計画(仮称)」を策定する予定である。
この「基本的考え方」の中では、県民の望む沖縄県の将来ビジョンを実現するため、グローバル化等に対応した空港・港湾・道路など交通基盤の更なる充実・強化、豊かな自然環境や伝統・文化の保全・再生等による沖縄らしい風景やまちなみの再生・創造、地震や津波など東日本大震災の経験を教訓とした災害に強い県土づくり、沖縄の離島地域の定住条件の向上などが示されており、そのための各施策を重点的に推進していく。
3.国際交流拠点の形成を支援する空港・港湾の機能拡充
沖縄県が我が国、アジア・太平洋地域等とともに発展していくためには、アジア地域等との人・モノ・情報等の交流ネットワーク機能の強化が不可欠であることから、那覇空港及び那覇港を基軸とする国際交流・物流拠点の形成を図る必要がある。
このため、那覇空港については、本県の持続的振興発展に寄与し、また、将来にわたり国内外航空ネットワークにおける拠点性が発揮できるように滑走路増設等の整備を図るとともに、国際線ターミナルの新設及び国際航空物流基地の更なる展開を計画している。
一方、那覇港は、国際物流拠点の形成を目指し、船舶の大型化等、多様化する物流ニーズに応えるため、国際コンテナターミナルの整備が進められている。平成23年8月には、那覇港と那覇空港を結ぶ臨港道路空港線(那覇うみそらトンネル)が開通し、物流の効率化が期待されている。今後、ロジスティクスセンターを含む背後地の整備などを推進し、更なる国際物流関連産業の集積を促進することとしている。
また、那覇港は、国際クルーズ船が多数寄港する日本有数のクルーズ船寄港地であることから、平成21年9月に大型クルーズ船専用バースが暫定供用を開始したところであり、アクセス道路を含めた平成26年度の完成供用を目指し整備を進めているところである。
4.道路交通ネットワークの構築
沖縄県は、陸上交通の大部分を道路に依存しており、平成15年の沖縄都市モノレールの開業により新たな公共交通手段の選択が可能となったものの、道路は依然として県民の暮らしと産業経済活動を支える上で重要な役割を果たしている。
一方、自動車保有台数の増加や中南部都市圏への人口集中等により交通渋滞が慢性化し、路線バスの定時運行ができずバス離れが加速するなど、道路交通サービスの低下の悪循環が生じている。
このような状況に対応するため、広域交通拠点(那覇空港、那覇港)と各圏域拠点都市のネットワーク化を図る那覇空港自動車道、沖縄西海岸道路、南部東道路等の整備及びこれらと一体的に機能する体系的な幹線道路網(通称「ハシゴ道路ネットワーク」)の構築を図っている。また、公共交通については沖縄都市モノレールの沖縄自動車道への延長整備とともに、基幹バスシステムの導入によるバス網再構築の検討など総合的な交通体系の視点を踏まえ陸上交通の円滑化を促進している。
5.沖縄らしい風景・まちなみの再生・創造
沖縄県特有の自然環境やアジア、東南アジア諸国との交流によって育まれてきた歴史・文化がもたらす独特の県土景観は、先の大戦や戦後の米軍基地建設、本土復帰後の急速な社会資本等の整備をはじめとする様々な開発に伴い、本来残すべきその多くが失われてしまったと指摘されている。また、地域における人間関係やライフスタイルの変化に伴い、暮らしや生活の風景も変わりつつある。
このような現状を踏まえ、地域の個性を生かした質の高い風景・まちなみの再生・創造を図るため、市町村の景観計画策定や地域コミュニティーの活動を支援し、首里城などの歴史遺産や古民家、赤瓦、石垣などの歴史的・伝統的な各地域の景観資源の保全・活用等に努めるとともに、多自然川づくりや海岸、渓流など自然環境の再生による沖縄らしい風景づくりを積極的に進めていく。
現在、景観行政団体となり、景観行政に意欲的に取り組む市町村は41団体中12団体であり、県としては、引き続き移行に向けた支援を行うとともに、伝統集落・歴史的まちなみ景観の形成や、自然環境・歴史的風土に配慮した社会資本整備を促進していく考えである。
6.災害に強い県土づくり
沖縄県は島しょ県であると同時に台風の常襲地域でもあることから、県民の生命・財産を守るため、東日本の教訓を踏まえた生活基盤の強化・整備や地震・津波対策、治水・土砂災害・高潮対策等に取り組む必要がある。
このため、これまで進めてきた治水や高潮・土砂災害対策等に加え、公共施設及び住宅・建築物の耐震化や公園等の整備による避難地の確保、津波対策を早急に進めるとともに、大規模災害時における施設の早期復旧や緊急輸送道路の確保、空港・港湾における緊急輸送機能の確保等についても、県防災計画の見直しを踏まえ対応していく予定である。
また、自然災害による人的被害の軽減を図るこが重要であることから、ハード対策だけではなく、災害・防災情報提供等の充実、ハザードマップの活用など、ソフト対策の強化も合わせて進めていく。
7.離島の定住条件の向上
沖縄県は、東西1,000キロメートル、南北400キロメートルの広大な海域に、大小160の島々からなる島しょ県で、近年、外洋離島の存在は、我が国の領海、領空、排他的経済水域の確保など、重要な役割を果たしている。
このような離島の役割を評価し、離島住民が住みなれた島で安心して暮らし続けるためには、生活基盤など定住条件の向上を図る必要がある。
このため、新石垣空港や伊良部架橋などの整備を推進するとともに、住宅の安定供給のための公営住宅整備や地域特性等に配慮した公園、下水道等の整備に取り組み、生活環境の向上を図る。
8. おわりに
これまでの社会資本整備を通して培った技術やノウハウの中には、アジア・太平洋地域が抱える課題に通じるものがあることから、沖縄県においては、技術による国際貢献に取り組むとともに、県内建設産業のグローバル化支援を進めていく。
沖縄県の今後の社会資本整備のあり方については、日本の再生・魅力向上のためにも沖縄の果たす役割は重要であり、島しょ県であるがゆえに課題も多いが、地理的優位性・文化的特性を最大限に生かして「自立的発展のバネとなる戦略的なインフラ整備」を強力に推進していく考えである。