単身赴任
福岡北九州高速道路公社
理事長
理事長
稲 見 俊 明
これまで連続10年にも及んだ単身赴任生活に昨年別れを告げた。もしかすると一応告げたが,になるかもしれない。このためか最近単身赴任中の生活を回想することが多くなった。
単身赴任を余儀なくされるのは,好ましくないと云うが,社会の一般的な考えであり,単身赴任者に対して帰省のための旅費等を支給する企業も次第に増加してきているのが現状と思われる。
単身赴任を余儀なくされる原因についても種々有るが,子供の教育の為と云うのが一番多いのではないだろうか? 高校転校の困難性や大学受験もある。小中学生でも転校のため新しい環境に慣れるのに相当な努力が必要なことや,やはり受験の問題もある。その他持ち家の関係や家族の生活環境の変化に対する受容性も関係してくる。小生の場合も子供の大学受験と転校が一番の原因であった。
種々の原因で,家族とも協議の結果,単身赴任となり,一人で生活を始めて見ると,独身時代の生活に戻るような訳には,簡単にはいかない。奥方をはじめとする家族のサービスがすっかり身にしみ込んでしまっているからである。「お茶!!」と叫んでも,茶が自動的に出て来るシステムにはなっていないのである。自から湯をわかし,茶を入れて飲むまでは,必要にせまられて行うが,その後が大変で,茶がらの仕末が必要で,さらにゴミの仕末へと連動していく訳である。この為,2,3ヶ月で悲嗚を上げることになる。家庭で大事にされた人ほど悲嗚も大きくなる。
この期間を過ぎると単身生活も次第に身に付き,単身生活のノウハウも覚え,食生活のマンネリ化に変化を与えようとする努力もかなり積極的に行えるようになる。
そして,半年もすると押しも押されもせぬ単身赴任者になるのである。
単身赴任の功罪となると,功はなく,罪だけだと云う人もいる。その第一が,二重生活による費用の増大であり,第二が病気で寝込んだときの苦しさ,心細さであろう。どんなに風邪で発熱しても,電話するか,何か最少限の行動をしなければ,何も前進しないからであり,家族の有難みがよくわかる。
それから,家庭生活の破壊と云うことになるが,人によってはこれが一番になる。
しかし,先日某新聞の投書欄に,単身赴任のため父親との対話の回数は減少したが,対話の内容,密度が濃くなったため,以前より良くなった,との奥様よりの投書が掲載されていた。一緒に居ても,「フロ」,「メシ」,「ネル」としか言わないオヤジと何年一緒に居ても,家族との対話の充実が期待できるものでもない。単身生活の苦しみの中に,あまり意識しなかった家族との連帯感が次第に強くなり,妻や子供の立場も理解しようと努力し,反省もするようになる。家族も少ない機会を積極的に活用しようとするので,家庭内の対話も充実することになる。
こんなことから,長期の単身赴任は絶対に良くないが,2年程度の単身赴任生活は,「如何が」,これが私の結論である。舌足らずで誤解される恐れもあるので,「単身赴任のすすめ(?)」としておきます。