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九州地方の反応性骨材の分布地について

九州共立大学工学部教授
松 下 博 通

㈱建設技術研究所福岡支社
菅  伊三男

1 はじめに
コンクリート構造物は,これまで耐久的であり,永久構造物であるとされてきたが,1930年代に米国カリフォルニアにおいてKing City橋のピアのひびわれ損傷に端を発し,多数のコンクリート構造物の異常な膨張やひびわれが発生し衆目を集めた。1940年にT.E.Stantonにより,このコンクリートのひびわれ損傷の原因が骨材中に含まれるある種の鉱物とコンクリート細孔溶液中のアルカリ金属との化学反応によるものであるということが明らかにされた。以来,アメリカを中心としてアルカリ骨材反応の原因と発生メカニズムならびに防止対策に関する調査研究が続けられている。
一方,わが国においては,1950年に藤井により米国の文献紹介が行われた。ついで1951年には,近藤,北川らにより山形県の山村橋および長崎橋の被害調査が行われ,その損傷の発生原因がアルカリ骨材反応によることが報告された。しかし,その後30年間は,国内におけるアルカリ骨材反応の損傷事例は報告されておらず,この種の研究報告も皆無に等しかった。1982年頃から阪神高速道路公団のコンクリート構造物に多くの異常なひびわれが認められ,その原因がアルカリ骨材反応に起因することが確認されて以来,この種の調査および研究活動が本格的に実施されるようになり,今日に至っている。
アルカリ骨材反応は,異常膨張の反応形態からアルカリ・シリカ反応,アルカリ・炭酸塩反応,アルカリ・ケイ酸塩反応に大別される。これらの反応のうち発生事例の多いものは,アルカリ・シリカ反応である。
わが国においては,炭酸塩岩をコンクリート用骨材として使用するようになったのは近年のことである。またケイ酸塩は,岩石の造岩鉱物をなすものであるが,その反応は極めて遅く,生成されるアルカリ・シリカゲルも少ない。このため,わが国においてアルカリ・炭酸塩反応およびアルカリ・ケイ酸塩反応の損傷事例は,今日まで報告されていない。
以上の観点より本稿では,わが国で多く損傷事例が報告されているアルカリ・シリカ反応性骨材を対象として,反応性鉱物を含有している骨材の分布地域を九州地方の地層構成と地層分布より検討考察して推定しようとするものである。

2 九州地方の地質概要
九州地方における堆積岩,深成岩,火山岩および変成岩の占める割合は,図ー1に示すとおりである(1)

九州地方の地質は,主に堆積岩と火山岩により構成されており,深成岩および変成岩の占める割合は少ない。これらの地質の概略の分布は,図一2に示すとおりである(1)(2)
なお,図中に示す地層のうち,花崗岩類は中生代白亜紀後期の花崗岩類と新第三紀の花崗岩類,また変成岩類は片麻岩と結晶片岩を一括して図示している。したがって,これらの地層は,地質学的にも岩石学的にも均質でない点に留意されたい。
この地質略図をもとに,九州地方の岩種別の分布をのべると以下のとおりである。

2.1 堆積岩
大分県臼杵市と熊本県八代市を結ぶ九州のほぼ中央を北東から南西に伸びる脊梁山地には,中生層と古生層が入り乱れて分布している。これらに平行した南側と一部の北九州地方には,中生代白亜紀層が認められる。さらに,中生代白亜紀層分布地の南側および天草諸島には,古第三紀層が分布している。堆積岩を構成する岩石は,砂岩,頁岩ないしは粘板岩,チャート,礫岩などであるが,中~古生層中には石灰岩が挟有されている。また,堆積岩分布地中の主要な断層沿いには,地下深部よりしぼり出された火成岩である蛇紋岩が分布している地域もある。
この他,佐賀県伊万里市,長崎県松浦地区および宮崎市周辺には,新第三紀層が分布している。これらの地方に分布する岩石は,固結度の低い砂岩および頁岩ないしは泥岩により構成されている。
2.2 火山岩
火山岩の分布地域は,主に大分県,長崎県,鹿児島県であり,この他に3県や鹿児島県と熊本県の県境にも分布している。これらの地域に分布している岩石は,概ね安山岩類であるが,大分市南部には流紋岩が分布している。一方,長崎県北部にも火山岩類が分布しており,この岩石は松浦玄武岩類と呼ばれている岩石である。
2.3 火砕流堆積物
火砕流堆積物は,岩石名は熔結凝灰岩および軽石凝灰角礫岩(通称シラス)であり,本来火山岩に含まれるものであるが,工学的にみて特異な岩石であるため,火山岩と区別してここに示している。火砕流堆積物には,阿蘇,姶良および阿多力ルデラ形成時の火砕流堆積物がある。これらの火砕流堆積物は,熊本県の阿蘇山および鹿児島県の桜島を中心として広範囲に分布している。
2.4 花崗岩
火成岩のうち,深成岩に属する花崗岩は,中生代白亜紀後期のものが福岡県と佐賀県の県境の脊振山地に,また新第三紀のものが鹿児島県の大隅半島南部に分布している。
2.5 変成岩
九州地方に認められる変成岩には,片麻岩と結晶片岩がある。片麻岩は,熊本県南部において中~古生層の北側に分布しており,肥後変成岩類と呼ばれている。また,結晶片岩は,構造配列および点紋帯の有無より長崎変成岩類と三郡変成岩類に分けられ,これらは主に緑色片岩と黒色片岩により構成されている。このうち,長崎変成岩類は長崎県の西彼杵半島に,三郡変成岩類は,福岡県の三郡山地と耳納山地および熊本県との県境の筑肥山地に分布している。

3 九州地方の骨材原石分布と採石場の位置
コンクリート用骨材は,軟質なものとか風化したものが混入するとコンクリートの性質に悪影響をおよぼすため,堅硬で耐久的なものでなければならない。ここで,九州地方の地質図から岩石の堅硬さに注目して,コンクリートに使用可能な骨材原石の分布地域を類推してみた。この結果は,図ー3に示すとおりである。骨材原石の分布地を類推するにあたっては,骨材の性質は使用する岩石の種類や風化の程度によって変るものであることより,先にのべた岩石の一般的な性質を考えたものである。九州地方に分布する地層を構成する岩石の一般的な性質は,以下のように考察される。
火成岩である火山岩は,火砕流堆積物のような多孔質なものや軟質なものおよび風化したものを除けば優秀な骨材として使用しうる。また花崗岩も変質したものやマサ状に風化したものを除けば,火山岩と同様に優秀な骨材となる。
堆積岩は,硬軟,粗密,あらゆる種類の岩石があるが,一般に地質年代で新第三紀より古い岩石についてはコンクリート用骨材に使用可能である。特に,砂岩は,コンクリート用骨材として適するが,頁岩や礫岩は,破砕後の形状が角ばったり,吸水率が高いなどの問題より不適当なものが多い。
変成岩は,堆積岩と同様にその性質が広く変化するので,骨材としての適否は一様でないが,九州地方の片麻岩および緑色片岩を主とする結晶片岩は偏平な形状となるが,コンクリート用骨材として使用可能である。
なお,図ー3には,現在骨材を採取している採石場の位置を〔・〕印で併記している。図ー3より岩石の一般的な性質をもとに類推した骨材原石分布地と採石場の位置は,ほぼ一致していることが分かる。

4 反応性骨材の分布
アルカリ骨材反応のうち,わが国で損傷事例が報告されているものは,アルカリ・シリカ反応によるもののみである。
アルカリ・シリカ反応による損傷は,骨材中の反応性を有する鉱物やガラスとコンクリート細孔溶液中の主成分である水酸化アルカリとが反応することにより,アルカリシリカゲルが生成し,このアルカリシリカゲルの吸水・膨張により生じるものである。この反応性シリカ鉱物と細孔溶液との反応には,2つがある。まずはじめに,式(1)で示されるような反応が生ずる。

この反応は,酸・塩基反応であり,水酸化ナトリウムの濃度が低いときは,この反応のみが生ずる。しかし,水酸化ナトリウムの濃度が高いときは,時間の経過とともに式(2)の反応が生ずる。

これらの反応は,シリカ鉱物の構造をゆるませ鉱物粒子の内部に向かって(1)および(2)の反応が進行し,アルカリシリカゲルが生成されていく。
この反応の進行は,反応性シリカ鉱物の鉱物組成と粒径,また反応性シリカ鉱物を含む岩石の種類,粒度,温湿度等の種々の条件によって変化する(4)
アルカリ反応性を有するシリカ鉱物は,石英質系と非石英質系に大別される。石英質系の反応性シリカ鉱物は,結晶の微細な石英,または地殻運動等により破砕・ひずみをうけた石英であり,主に変成岩類に含まれている。
非石英質系の反応性シリカ鉱物は,トリディマイト,クリストバライト,オパール,玉ずい,火山ガラスおよび脱ガラス化した火山ガラスである。
これらの鉱物のうち,トリディマイトとクリストバライトは,低圧下で安定であり,地表または地表近くの条件でのみ生じ,シリカに過飽和な火山岩,特に安山岩や流紋岩などの石基や気孔部に産出し,深成岩や変成岩には産出しない。
オパールは,非晶質であり,熱水作用をうけた火山岩,凝灰岩および堆積岩中に広く認められ,岩石の空隙や割れ目を充填して産出することが多い。玉ずいは,石英の微小結晶の集合体からなり,岩石の空洞を充填したり,空洞の壁面に乳頭状やぶどう状をなして産出する。さらに,オパールと玉ずいは,シリカ質堆積岩や堆積岩中の膠着物質としても出現する。ここでいうシリカ質堆積岩とは潜晶質シリカ,オパール,玉ずいおよび石英等からなる岩石であり,主にチャートと呼ばれている堆積岩である。
火山ガラスは,高温のマグマが地表または水中に噴出するか,地表近くで他の岩体に貫入して急冷し,結晶せずに固化した天然のガラスであり,溶岩流または岩脈として産する通常の火山岩の石基部分に含まれる場合が多い。また,火山ガラスは,地表条件で熱力的に不安定であり,いずれは結晶化する。事実,古い地質年代の火山ガラスは認められない。このように,結晶化した火山ガラスを脱ガラス化した火山ガラスといい,この中には石英,トリディマイトやクリストバライトのようなシリカ鉱物やアルカリ長石などが認められる。
火山岩類の占める場合の多い九州地方においては,これらの反応性シリカ鉱物のうち,トリディマイトは,岩石記載のなされている文献に多く報告されている。特に,クリストバライトは,佐賀県鹿島市周辺の玄武岩,長崎県東彼杵町と琴海町,大分県宇佐市,日田市および日出町周辺の安山岩中に含まれている報告(5)がある。
以上の点を考慮した場合,火山岩,すなわち安山岩類,玄武岩類および流紋岩類は,少なくとも反応性シリカ鉱物を含んでいることになり,「反応性のあるシリカ鉱物が高率で含まれるおそれのある岩体」といえる。
変成岩には,片麻岩と結晶片岩がある。このうち,片麻岩は,変成形式は低圧型であり,やや反応性シリカ鉱物を含む岩体といえる。また,結晶片岩には,長崎変成岩類と三郡変成岩類があり,いずれも変成形式は高圧型であるが,シリカ鉱物の含有率が低いこともあり,これらの変成岩は,いずれもやや反応性シリカ鉱物を含む岩体といえよう。
堆積岩のうち,骨材に使用されるものは,古第三紀以前の古い地質年代のものである。九州の火山活動は,これらの堆積岩が堆積固結したのちの比較的新しい地質年代であり,堆積岩中に火山岩に起因する反応性シリカ鉱物を含むことはない。堆積岩中に含まれる反応性シリカ鉱物としては,堆積岩中の膠着物質あるいはシリカ質堆積岩中のオパール,玉ずいなどである。したがって,変成岩と堆積岩は「岩種によっては反応性シリカ鉱物を含むおそれのある岩体」といえる。
花崗岩は,安定した鉱物により構成されており,「反応性シリカ鉱物を殆ど含まない岩体」といえる。
これらの考察より,九州地方における反応性骨材の分布を示すと図ー4に示すとおりとなろう。

5 反応性骨材分布と損傷事例発地点の対応
筆者らがこれまでにコンクリート構造物(主に土木構造物)の損傷調査に関係し,アルカリ・シリカ反応によると判断したものは少なくない。
損傷をうけたコンクリート構造物がアルカリ・シリカ反応によるものであるか否かの判定は,(財)土木研究センターによる「コンクリートの耐久性向上技術の開発」の「コンクリート構造物におけるアルカリシリカ反応の実態調査法(案)」の判定方法によった。すなわち,外観観察よりアルカリ・シリカ反応に起因すると考えられるものについて,表ー1の(1)に示す調査を実施し,(2)に示す判定にしたがい,アルカリ・シリカ反応の疑いの強いものを選定した。

この方法によりアルカリ・シリカ反応に起因するコンクリート構造物の損傷事例の発生地点を図ー4に〔×〕印で示す。これらのプロットは,同ー地域に多数発生したものもあるが,これを一点でプロットしたものもある。
この結果,九州におけるアルカリ・シリカ反応によるコンクリート構造物の損傷事例は,長崎県と大分県に多発しており,一部熊本県と鹿児島県にも認められる。これらの損傷発生地区は,いずれも「反応性のあるシリカ鉱物が高率で含まれるおそれのある岩体」に位置するか,その近傍にあり,反応性骨材を使用していることが推定される。

6 まとめ
本論文は,九州地方の地層構成と地層分布より反応性骨材の分布を推定することを試みた。すなわち,岩石の堅硬さからコンクリート用として使用可能な骨材の分布地域を類推し,さらにその分布地域のうち,反応性シリカ鉱物を含むと考えられる地域を岩体の生成過程から考察・推定した。この結果,火山岩は「反応性のあるシリカ鉱物が高率で含まれる岩体」と判定され,建設省土木研究所・(社)セメント協会研究所(1989):骨材の化学的反応に関する試験方法の標準化に関する共同研究報告書に示されているアルカリ・シリカ反応の分布図と概ね一致した。これらのことより,地質学的にみた岩体の生成過程から反応性骨材の分布地を予測することは可能であるといえ,損傷事例発生地点も予測した反応性骨材分布地と一致した。最後に,本論文をまとめるにあたりショーボンド建設株式会社には資料の提供をいただいた。また,麻生セメント株式会社中央研究所には,試料分析をしていただいた。ここに,記して感謝の意を表します。

参考文献
1 地質調査所:日本地質アトラス
2 九州地方土木地質図編纂委員会(1986):九州地方土木地質図解説書
3 建設省土木研究所地質化学部・㈳セメント協会研究所(1989):骨材の化学的反応に関する試験方法(化学法)の標準化に関する共同研究報告書
4 岸谷孝一,西澤紀昭,他編(1987):アルカリ骨材反応,技報堂出版
5 麻生セメント株式会社中央研究所報告(1985)

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