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定置式水平ジブクレーンを活用した技能労働者の
負担軽減への取り組み

国土交通省 九州地方整備局
福岡国道事務所 工務課長
大 川 雄一郎

キーワード:定置式水平ジブクレーン、省力化、負担軽減

1.はじめに
日本の建設現場の課題として、技能労働者の高齢化や若手入職者の減少による人手不足が懸念される中、建設工事の生産性向上等の取り組みとして、国土技術政策総合研究所(以下、国総研)と九州地方整備局福岡国道事務所(以下、福岡国道)は、施工現場で負担となっている「大量の重い・長い物を運ぶ」作業の省力化・負担軽減を目的に定置式水平ジブクレーン(以下、ジブクレーン)を使用した試行工事を実施した。国土交通省が主導し、ジブクレーンの試行工事を行うのは九州では初めての取り組みである。
本稿では、ジブクレーンの試行工事の概要及び生産性・安全性に与える影響等に関する技能労働者の意見について紹介する。

2.試行工事の概要
(1)試行内容
一般国道3号鳥栖久留米道路の思案橋川橋A1橋台(本線、ON ランプ、OFF ランプ)の躯体において、ジブクレーンによる施工を行った(表- 1、図- 1)。
国総研にて、試験施工の作業内容や作業時間を記録し、作業状況は常時録画するなどモニタリングを実施した。今後、これらを検証することで適用条件等を整理して、生産性・安全性等に与える影響を把握、評価するものである。

表1 試行工事の概要

図1 試行工事位置図

(2)定置式水平ジブクレーン
日本の建設工事では、現場内での資材等の運搬は、移動式油圧クレーンが主流であるのに対し、特にヨーロッパなどではジブクレーンが主流となっている。使用頻度について、日本では、移動式油圧クレーンを必要な作業時だけ調達し現場に持ち込むのが一般的である一方、ヨーロッパでは、工事期間中の最初から最後まで一定期間、現場に据え置くのが通常で、必要な時にいつでも使うことができる。
今回使用したジブクレーンは、ドイツのリープヘル社製のクレーン「53K/J」であり、高さ約30m、長さ約40m、総重量54.8t。電気モーターで駆動し、360度旋回、水平方向と上下方向にフックを移動させて物を運ぶ構造であり、2本掛け仕様時(ジブ長さ23m迄)の最大吊り荷重は2tで、先端部(ジブ長さ40m迄)でも1tを吊ることが可能である。今回の試行工事では、国総研所有から福岡国道へ所管換えし、福岡国道より受注者(株式会社南組)へ貸与され、施工した(図- 2)。

図2 定置式水平ジブクレーン

3.試行工事での活用・運用方法
(1)運搬・設置組立
令和4年2月7日に、試行工事現場へジブクレーンを搬入し、同8日から稼働を開始した。国総研(茨城県つくば市)からの運搬・設置組立までを国総研の発注業務にて実施した。運搬に際し、ヨーロッパでは、本体基部、本体マスト・ジブを一体とし牽引台車に搭載し、クレーン付きトラックで牽引して運搬しているのが一般的であるが、リープヘル社製のクレーン「53K/J」は、日本の道路交通規則に適合するように改良されたクレーンで、本体基部と本体マスト・ジブとを2 分割にしてトレーラーで運搬した(写真- 1)。

写真1 ポールトレーラーによる運搬状況

設置にあたっては、本線、ON ランプ、OFF ランプ3基の橋台が作業範囲内となるように計画し、生コンクリートポンプ車の配置位置や資材置場を考慮した。設置地盤の最大アウトリガー反力は403kN であり、平板載荷試験により地盤反力を確認し、敷鉄板によるジブクレーン姿勢の安定と補強対策を実施した(図- 3、写真- 2、3)。現場では架線の張替えが生じたものの、商用電力が利用できたため発動発電機の動作音による騒音発生はなかった。

図3 仮設計画図

写真2 組立時の状況

写真3 定置式水平ジブクレーンの設置状況

(2)施工方法
一般的な移動式油圧クレーンは、専門のオペレーターの操作が必要となるが、ジブクレーンは、操作の熟練度に応じ人選し、特別教育講習を受けた技能労働者が自ら操作が可能である。
これにより、操作者が鉄筋等の吊り荷を近くで目視でき、確認しながら吊り上げ、吊り下げ、横移動を無線操作機で行なえ、安全性向上に繋がった(写真- 4、5)。操作性については、当初、クレーンの移動に伴う荷振れが大きく、慣れるのに苦労を要したが、経験を積むごとに解消されていった。

写真4 操作状況

写真5 橋台躯体の生コンクリート打設状況

ジブクレーンを活用するにあたり、操作者は、事前にクレーン運転特別教育(5t 未満)講習を受け資格を取得した上で、ジブクレーンの操作・点検方法習得のため、運転者および点検者向けの教育講習を実施した。運転者教育講習は、ジブクレーンに特化した内容の座学並びに実地研修を半日実施した。また、点検者教育講習は、元請け職員にてクレーン定期自主検査者安全教育講習を受け、2日間の座学および実機を使用した教育講習を実施した。

(3)効果の検証(モニタリング調査)
技能労働者の作業軽減や現場作業の効率化に向けたジブクレーンの効率的な活用方法を検討するためのモニタリング調査を実施した。調査方法については、国総研にて、現場の作業状況を固定カメラによる常時録画を行い、作業内容や作業時間をスマートフォン等で工事日報として記録した(図- 4、写真- 6、7)。これらの記録から、各作業日における技能者の作業の変遷・作業手待ち日等を整理することができ、今後、国総研にて計測データの分析を行い、生産性や安全性、効率に与える影響等について検討を行う予定である。

左 図4 工事日報を記録 右 写真6 固定ビデオカメラ

写真7 現場の作業状況をカメラで常時録画

4.技能労働者の意見
専門のオペレーターが操作する一般的な移動式油圧クレーンに対して、ジブクレーンは教育講習を受けた技能労働者が自ら操作でき、今回の試行工事で、実際に操作した技能労働者や受注者からの意見をとりまとめた(表- 2)

表2 技能労働者の意見

また、受注者への聞き取りから作業員の負担軽減・省力化も確認された。工事日報データ等を用いて、ジブクレーン活用時における橋台底盤から上部作業足場1,281掛m2を設置した際の累計作業員数を算出したところ、当該現場が、3基の横並びの橋台を施工するため、足場の組み替え等、比較的余裕をもって作業ができたこともあるが、一般的な移動式油圧クレーン活用時と比べ、約30%削減された結果が得られた(表- 3)。

表3 作業員数の削減状況

5.おわりに
ジブクレーンは、工事の最初から最後まで常時現場に存在し、技能労働者がいつでも自由に使用でき、精神的余裕と作業工程の柔軟さを与える。
また、吊り荷を常に視認できるクレーン運転、操作による安全性の向上にも繋がり、技能労働者等が気持ちの余裕、安心感、時間の余裕を持てること、それらの結果として工事現場の生産性の向上に寄与するものと考える。
将来的に、現場内で「大量の重い・長い物」を人が運ばなくてすむ労働環境に変えることができる可能性を有しており、今後も試行工事を実施し、施工現場の効率化、生産性向上、安全性向上に向けて、ジブクレーンの有効的な活用方法に関する調査、研究を更に進めていくことが重要と考える。
最後に、今回の執筆にあたり、貴重な資料や情報提供を頂いた施工者である株式会社南組の工事関係者や国土技術政策総合研究所の皆様に感謝の意を表す。

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