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全国初! 権限代行工事(河川)、直轄砂防事業の完成へ
~平成29年7月九州北部豪雨 赤谷川災害復旧事業完成に向けて~

国土交通省 九州地方整備局 
筑後川河川事務所 技術副所長
九州北部豪雨復興センター長
川 邉 英 明

キーワード:朝倉市、赤谷川、災害復旧

1.はじめに
2017年7月5日の昼頃から夜にかけて、九州北部の福岡県から大分県に強い雨域がかかり、特に朝倉市から日田市北部においては観測史上最大の降雨を記録しました。気象庁は、記録的短時間大雨情報や、九州では初めてとなる大雨特別警報を発表し、7月5日から6日の豪雨を「平成29年7月九州北部豪雨」と命名しました。
この豪雨により筑後川右岸流域では、同時多発的に土石流や斜面崩壊等が発生するとともに、大量の土砂や流木が流下し、甚大な被害をもたらしました。

図1 平成29年7月九州北部豪雨の降雨状況

今回は、平成29年7月九州北部豪雨から5年となる2022年3年末までの取り組みと災害復旧状況を紹介します。

2.被害概要と特徴
今回の豪雨による被害も雨量が多かった筑後川右岸流域に集中しており、死者40人、行方不明者2人、全壊家屋約300戸、半壊約1,100戸、床上浸水約160戸、床下浸水約1,300戸に及んでいます。
このように人的被害を含む甚大な被害が発生した要因としては、前述の豪雨に伴い山腹崩壊が同時多発的に発生したことがあげられます。
この山腹崩壊土砂量は、筑後川右岸流域で、約1,000 万m3と推定され、土質的には風化花崗岩で「真砂土」と呼ばれ透水性や流動性が高い性質を持っています。このため、崩壊した土砂は渓流に留まらず洪水とともに土砂と流木が下流域まで流出したことが通常の土砂災害とは異なる特徴です。これらの土砂と流木は、比較的開けた谷底平野で河道を埋め尽くし、民家等を破壊しながら宅地や農地等に堆積し被害を拡大させました。

写真1 赤谷川沿川での被害状況<

3.全国初となった権限代行工事(河川)
筑後川右岸流域には筑後川に合流する1次支川10河川が流れており、河川管理者別では、国管理の1級河川が3河川(小石原川・佐田川・花月川)、県管理の1級河川が5河川(桂川・北川・白木谷川・赤谷川・大肥川)、朝倉市管理の準用河川が2河川(奈良ヶ谷川・寒水川)となっています。
このうち、二次災害の発生が極めて高い状況で被害の規模が大きく特異な地質条件での施工となる福岡県管理の赤谷川あかたにがわ乙石川おといしがわ及び大山川おおやまがわについて、福岡県知事から国に対し大規模な工事実施体制を自ら行うことが困難として2018年年6月に改正された河川法第16条の4第1 項に基づき権限代行による応急復旧工事及び本復旧工事の要請が行われました。これを受け国は全国で初めての適用となる権限代行による工事に着手しました。

図2 筑後川右岸域に合流する10河川

4.赤谷川水系における砂防事業の必要性
赤谷川水系の河川は延長15.5㎞流域面積(約20.1㎢)河床勾配が1/4 ~ 1/100 の急流河川であり、地質は花崗閃緑岩が主体で、それが風化した径が小さく流動性の高い真砂土で構成されています。
平成29年7月九州北部豪雨における赤谷川水系の斜面崩壊は特に多く、赤谷川支川乙石川おといしがわで約470ヶ所、赤谷川上流で約370ヶ所、赤谷川下流で約220ヶ所、合計約1,060ヶ所にも及び全体約2,500ヶ所の42% が赤谷川流域に集中しています。
また、同豪雨での流出土砂量を見てみると、赤谷川流域全体で約300 万m3であり、平成28年熊本地震の山腹崩壊で国道57号を埋めた土砂量約50万m3の約6 倍の量でした。乙石川流域内の河道や渓流には未だ残存土砂が多く存在し、土石流及び土砂・洪水氾濫による多大な被害が発生する可能性が高いことからその対策が急務となっていました。

写真2 斜面崩壊が多発した赤谷川流域

5.権限代行工事(河川)の災害復旧状況
(1)河川応急復旧工事
被災直後より開始した応急復旧工事は、「二次災害防止のための堆積土砂・流木の撤去」「水の流れによって更なる被害の拡大の恐れがある施設等の保護」「出水のたびに変化する流路の安定化」の大きく3つに主眼を置き応急復旧工事を進め、2019年11月に完了しました。

写真3 2019年11月に完了した河川応急河道

(2)本復旧工事
本復旧の工事内容は、護岸・床固・橋梁・道路に区分され工事を開始するにあたり、住民の方々に復旧計画説明を実施し「計画内容の理解を得る」。小規模出水でも土砂が河道堆積するなどの厳しい施工条件ではあったが、被災から5年となる2023年3月までの復旧完成に向けた「速やかな権限代行工事の工事実施」。住民の方々のより良い通行を確保し「復旧後はより良い生活を実感していただく」ことを主眼に置き工事を実施してきました。

1)計画説明
赤谷川災害復旧は改良復旧により、被災時の河道断面を4倍程度拡大し、平成29年7月九州北部豪雨時の流量を堤防満杯で流す計画とし、大幅に安全度を向上させています。
これらの計画策定にあたっては、被災された方々のご理解を得るために模型実験を用いた説明や各地区への説明など合計100回以上の説明会を実施しています。

写真4 模型実験装置を使用した地元説明会を開催

2)工事実施
工事実施にあたっては、災害時の発生土砂及び工事実施のための土砂量は合計約300 万m3(福岡ドーム約2 個分)であり、日々、ダンプトラック100 ~ 200台が現場内を通行することとなるため、周辺への影響が課題となっていました。
このため、赤谷川災害復旧工事のダンプトラックを明確化することにより運転手の安全運転の啓発に努め、車両管理等を徹底することにより、事故防止等に努めました。

写真5 赤谷川災害復旧工事のダンプトラック

また当初、本復旧だけを通常工事体制で完成させるには約5年間(応急復旧工事を含めると約7年間)と算定されていました。しかし、本復旧として工事できる期間は応急復旧完了からの約3年しか残されてなく、構造物の省人化、出水期施工、ICT 活用などを行うことによって、約半分の工期で完成を目指しました。

写真6 出水期の施工状況

写真7 完成した河道

3)生活道路の完成
道路工事に際して、緊急避難道路である県道八女香春線(県道52号)を集中して工事実施することとしましたが、通行確保しながらの施工によって工事長期化の懸念があり、工事の一部をECI(Early Contractor Involvement) 方式を採用し、最も懸案となっていた松末橋を2022年10月に開通させることができました。
また、全体20橋梁の架設を2022年9月に完成させています。

写真8 令和4年10月23日に開通した松末橋

6.直轄砂防事業の災害復旧状況
(1)砂防応急復旧工事
豪雨後、多くの崩落箇所からの土砂流出が危惧されるため、出水期に向けた準備として既設砂防堰堤の除石工事、仮設の強靱ワイヤーネットやコンクリートブロックによる遊砂地の整備等を2018年5月末に完了しました。

写真9 緊急的に土砂安全度を向上させたブロック堰堤

(2)本復旧工事
本復旧の工事内容は、砂防堰堤・渓流保全に区分され工事を開始するにあたり、砂防事業は河川事業以上に用地買収するまでの事務手続き期間が必要であり、住民の方々から「早期に計画内容の理解を得る」。小降雨でも崩壊する斜面等の厳しい施工条件であったが、被災から5年となる2023年3月までの復旧完成に向けた「速やかな直轄砂防事業の工事実施」を主眼に置き工事を実施してきました。

1)計画説明
被災前、流域内には砂防堰堤が3基構築されていました。平成29年7月九州北部豪雨被害に基づく検討の結果、砂防堰堤は赤谷川12基、乙石川17基、小河内川2基の合計31基構築することとなり、大幅に安全度を向上させています。平成29年7月九州北部豪雨後の緊急点検で応急対策が必要とされた渓流について砂防堰堤等の整備を優先的に実施する方針となり、検討の結果、渓流毎に地元説明を行い、事業に対するご理解を得てきました。

2)工事実施
工事実施にあたっては、用地取得が必要になることから、2021年3月までの3カ年の進捗率は20% 未満の状況でした。残り2年で80%以上を進捗させるためには、工期短縮を図る必要がありました。このため、工事期間短縮のために、コンクリート打設のためのバケット大型化及びクレーンの大型化、砂防ソイルセメントで構築する砂防堰堤については、優良な材料が発生する箇所を事前に確認し統一母材にて施工することで事前調査、試験施工期間等の短縮、施工の効率化を図っています。

写真10 施工中の乙石川砂防堰堤

写真11 大型化したバケットでの施工状況

7.完成に向けて
赤谷川災害復旧事業について、現時点(2022年12月)では河川権限代行工事は2023年3月完成予定、直轄砂防事業については全ての砂防堰堤は2023年3月に完成、一部取付水路が2023年7月に完成予定となっています。これにより、九州北部緊急治水対策プロジェクトでの完成予定である令和4年度目処で概成させることができました。

8.最後に
本事業は、甚大な災害からの地域復旧のための事業であったが、同時に地元の方々の復興の基礎となる事業でもありました。
多くの方々、関係機関のご協力の下、各施工業者の絶え間ない努力により、完成させることができました。
本事業の推進にあたり、関係機関はもとより、施工業者の皆様、地域住民の皆様に深く感謝いたします。

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