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河川改修工事地区における埋蔵文化財
調査への地下レーダ探査の適用

宮崎県都城土木事務所
河川砂防課長
春 口 勝 幸

宮崎県教育庁文化課
主事
谷 口 武 範

応用地質㈱九州支社
技術部計測技術課長
和久野 正 人

応用地質㈱宮崎営業所
所長代理
土 井 富 雄

1 はじめに
日本各地には,石器時代から埋蔵遺跡が多く散在しており,これらの埋蔵遺跡は日本の歴史や文化の発展などを解明するうえで重要なものとなっている。遺跡の保存と保護を目的として昭和25年に制定された文化財保護法の中では,これらの埋蔵遺跡と埋蔵遺物との両者を合わせて埋蔵文化財としている。
最近では,このような埋蔵文化財を包蔵する土地に対して,宅地や工場用地の造成,道路の建設,河川工事,農地改良などによって土地の開発が行われ,このために,土木工事などに先立って埋蔵遺跡を調査する機会が多くなっている。
従来遺跡調査といえば,地面を直接掘る壷掘り調査,トレンチ調査,全面発掘調査などが主流であったが,近年,発掘調査を短期的に経済的,効果的に進め,遺跡の分布状態を知るために,非破壊的な手法(物理探査)による事前調査が行われるようになってきた。
この物理探査には地下レーダ探査,電気探査,電磁気探査,高精度磁気探査などが用いられる。
今回,遺跡調査に用いた地下レーダ探査は,電磁波を地表から地下に向けて放射し,地下から反射してくる波を捉えて地下の構造を探るものである。
調査は河川改修に伴う分水路工事区間において,事前に遺跡の分布状況を把握することを目的に行われた。
本報文では,遺跡調査を対象とした地下レーダ探査の概念と調査事例について述べる。

2 地下レーダ探査
電磁波による反射法探査の着想は比較的古くからあり,本格的な研究は,COOK(1960)が行った理論的研究で始まったといってよい。地下レーダによる地下構造探査は,1970年代に入ると,南極における氷層の厚さ,氷河や海氷の厚さ,月の地下構造,岩塩鉱山,石炭鉱山等の調査結果が報告されている。1970年代後半においては,土や岩の一般的な地盤に対する地下レーダの適用が試みられてきた。これらの研究成果によれば,地盤内を伝播する電磁気的損失による減衰が大きく,その透過力は極めて弱いもので,探査深度に対する限界という問題が常に付きまとう。しかしながら地下構造に対する分解能という点では,他の探査手法には見られない優れた能力を有している。
ちなみに,土質地盤における探査可能深度は2~4m程度である。
地盤内に伝播する電磁波は,主として誘電率が変化する境界面,すなわち,土の空隙率や間隙率の変化する境界面において反射する。埋蔵遺跡に関しては,旧生活面や遺構の上面を境界として土質が変化している場合には,これらの境界面が反射として捉えられることになる。すなわち,堅穴住居跡,水路跡,掘り跡などは,後世に堆積した土に埋もれており,それらの起伏面が反射面となり,また,土中の貝塚や古墳内部の石室などは,それ自体が局所的な反射体となって,地下レーダ記録上に捉えられる。

<装置の概要>
地下レーダ装置のブロックダイヤグラムを図ー1に示す。この装置は送信アンテナ,受信アンテナ,地下レーダユニットおよび各種の外部記憶装置から構成されており,アンテナは送信と受信を分離した2アンテナ方式となっている。

送信アンテナから放射される電磁波パルスは,100Hz~数100MHzの周波数帯域を有するものである。送信アンテナから放射された電磁波パルスは地下の反射面で反射し,受信アンテナによって受信される。受信信号は可聴周波数帯域の電気信号に変換され地下レーダユニットに入力される。このユニットで反射波をより識別し易い信号に処理し,グラフィックレコーダーで可視記録として表示する。

<測定方法>
一般的な測定は,プロファイル測定法とワイドアングル測定法を組み合わせた方法である(図ー2)。プロファイル測定法は,送信アンテナと受信アンテナの間隔を一定に保ったまま測線上を移動して測定を行う方法で,測線下の反射面の形状が,ほぼそのままの形で時間断面として可視記録上に得られ,反射面の起伏の変化や,その構造を直接的に把握することができる。一方,ワイドアングル測定法は,送信アンテナを一点に固定し,受信アンテナを移動して測定を行う方法で,観測された地盤中を伝播する電磁波の走時から,地盤内の電磁波伝播速度の分布が求められる。

3 地下レーダ探査の実施例
3-1 調査内容
地下レーダ探査は延長2kmの分水路計画のうち1.4kmの区間について実施した。
調査は概査と精査の2段階に分けて実施し,概査では河川幅30mに対して河川方向に3測線を設け実施した。この結果,遺構存在の可能性が高い区間においては全面発掘調査の対象と考え,遺構存在の可能性が低い区間においては,発掘計画を立案するため精査を行った。総測線長は5,779mである。

3-2 調査地の地形・地質概要
調査地は図ー3に示したように宮崎県北諸県郡三股町に所在し,都城盆地の北東部,沖水川と年見川に狭まれた,西側に緩く煩斜する扇状地端部に位置している。
調査地の表層地質は,既に実施されているボーリング調査や,付近の法面での状況から表ー1のような地質構成である。

3-3 地下レーダ記録による遺構の埋蔵状況の推定
地下レーダ探査によって得られた記録例を図ー4に示す。地下レーダ記録では,緩やかに傾斜した反射面R1が捉えられている。また,この反射面より浅い位置にもやや弱い反射面R2が認められ,調査地における地層の堆積状況が把握されている。反射面R1の深度は深いところで約2.1mと推定される。
地下レーダによって捉えられた地層構成を表ー1の地質構成と対比することによって,反射面R1はKr-Mの下面に,反射面R2はKr-Mの上面に対応しているものと考えられる。この調査地域では,周辺の遺構分布状況より,縄文時代から中世までの遺跡の存在が推定されている。これらの遺跡とKr-M層との関わりを模式的に示すと図ー5のようになるものと考えられる。したがって,地下レーダで捉えられたKr-M層の上面,下面の起伏状況から,遺構の分布を推定することができる。

図ー6~図ー8に遺構によるものと思われる特徴的な記録例を示す。図ー6はKr-M層の下面に凹凸が見られる例であり,図ー7はKr-M層の上面に掘り込みが見られる例である。これらは遺構としては,住居跡床面あるいは土壙状の遺構である可能性が指摘される。図ー8は比較的浅い深度からKr-M層下面に達する溝状の遺構であり,中世の遺構である可能性が高いものである。

3-4 地下レーダ探査結果と発掘結果との対比
今回の調査範囲のいくつかの区間で,探査結果にもとづき発掘調査が行われた。ここに示す発掘区間では,図ー9のようにKr-Mの下面の黒色土がとぎれ,掘り込まれた形状を呈する反射パターンが平面的に連続して検出されている。その分布を平面的に示すと図ー10のようになり,水路延長方向に1本と水路を横断する方向に4本の計5本の溝状遺構があるものと解釈される。また,これら以外にも遺構と考えられる箇所が検出されている。
発掘結果による遺構分布を図ー11と空中撮影による全景を写真ー1に示す。
遺構としては掘立柱建物跡,井戸,溝跡などの遺構等が検出された。また,遺物としては13世紀から17世紀前半の中国産と国産の陶磁器類が出土した。溝跡に対応し,溝跡を横断した測線箇所数21箇所に対し18箇所で一致している。
なお,溝跡と対応しなかった箇所(図ー11のⓐ)では遺構の幅が狭くかつ,地表付近に乱れがあり判別できなかったと考えられる図ー11のⓑは,予想より遺構幅が広くなっている。これは測線の端が遺構の中に位置していることによる。
また,掘立柱建物跡では柱穴跡が数多く確認されているものの,規模が小さく検出するに至らなかった。

6 まとめ
今回,地下レーダ探査の後に発掘調査が行われ探査結果との比較検討を行うことができた。この結果,溝状遺構についてはほぼ整合性の良いことが判明し,地下レーダ探査が有効な調査法であることが実証された。特に,火山噴出物である軽石層(ボラ)は電磁波の良好な反射面となり,土層堆積の変化を的確に読み取ることができた。

参考文献
• 坂山利彦,長田正樹,島裕雅(1986)遺跡調査への物理探査の適用,応用地質㈱年報
• 田村晃一,長田正樹,坂山利彦(1984)電磁波反射法による地下探査(その6)―遺跡調査への適用性― 物理探査学会秋季講演会
• 長田正樹,田村晃一,坂山利彦(1989)地下レーダーの遺跡調査への適用,物理探査学会春季講演会
• 吉田真一,坂山利彦,田村晃一(1989)河川改修工事における地下レーダを使った埋蔵文化財調査の実施例,物理探査学会秋季講演会

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