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本河内橋の設計について

建設省長崎工事事務所長
三 宅  篤

建設省長崎工事事務所
工事課長
岩 永  実

建設省長崎工事事務所
工事課工事係
川 内  学

1 まえがき
一般国道34号日見バイパスは,長崎市の東の表玄関に計画されているが,現在,東から市内中心部に至る幹線道路としては,国道34号2車線しかなく,最近は特に周辺の大規模団地開発に伴う交通量の増加等で朝夕は,著しい交通渋帯を呈している。
本河内橋は,当バイパス延長7.1kmの中間附近に当り,貯水池に隣接する急傾斜地に位置し,貯水池堰堤をまたぐ形で計画されたPC2径間連続有ヒンジラーメン橋である。
図ー1に計画位置図を示した。
本橋の計画,設計を行う上で架橋地点の諸条件の中でも特に,傾斜地形であることと,現道に沿った線形であることから,構造物の安定性・施工性を重要視した計画が要求された。
本橋は,構造物にも数少く規模も大きくまた,特殊な条件下の構造物でもあるため,計画・設計の概要を紹介する。

2 構造物の計画概要
当計画区間の構造物の計画を行う上で,地形・地質条件および構造条件の他施工性・経済性を考慮する必要がある。本河内橋の計画上の留意点を示すと次のとおりである。
1)計画地点は,本河内低部ダム内に位置しているが,このダムは老朽化が著しく構造物の設置および施工上の制約が大きい。
2)計画地点が急傾斜地であることと,現道に沿って構造物を計画されていることから,形式決定には特に施工性を重視する必要がある。
3)道路線形上,縦断勾配および本河内ダム条件,さらに堰堤部管理橋等の高さの制約を受ける。
4)立地条件から段階施工分割施工等,施工時期,工期的に対応性の有利な形式であること
などが挙げられる。
図ー2に当計画附近の制約諸条件を示した。

3 地形・地質概要
架橋附近の地形は,標高300~400mの山地に囲まれた長崎市街地から東に延びる深い谷地形を呈している。
国道34号は,この谷の南斜面を走っており,国道の上斜面に民家が密集している。
周辺の地質は,安山岩および凝灰角礫岩等を主体とする長崎火山岩を基盤とし,これを覆って分布する崖錐堆積物から構成されている。
当計画地点の支持層としては,基盤となる安山岩および凝灰角礫岩である。

4 橋梁の形式選定
前述の計画,設計条件を踏まえて施工性・経済性に優れ,構造的に有利な形式を選定する。
当計画地点を立地条件よりダム内と傾斜地に分けて形式の選定を行い,比較検討を行った結果,次の形式を採用することとした。
橋梁形式は,制約条件から4形式について比較検討を行い次に示す理由により,PC2径間連続有ヒンジラーメン箱桁橋を採用した。
1)PC2径間有ヒンジラーメン橋は,支間中央の桁高を小さくする必要から有ヒンジ構造とすることによって制約条件を満足出来る。
 A橋台部をカウンターウェイト方式の橋台としP橋脚およびA橋台部より順次張出し施工を行い,閉合するものであるが,経済性に優れ段階施工も可能であること等から他案に比較し有利な形式である。
2)斜張橋案は,桁高を極力小さくするため,コンクリート橋案は主桁を箱桁断面とし,鋼橋案においては,2主桁構造のエッジガーダー形式とした。
 また,交差点部に斜材を設けずA橋台側に主塔を設置しA部にバックステーを設ける構造とした。
 そのため,橋台はアップリフトの関係上,橋軸方向35~40mの長さが必要となり,走行安全性・経済性および施工性においてPCラーメン橋案に比較し劣る。
3)ニールセンローゼ橋案は,桁高を小さくする必要から,下路形式として計画し,架設は直吊式ケーブルクレーンによって行い,主構間隔の配置上,平面線形を大幅に変える必要があり,架設上の制約条件も多く,PCラーメン橋案に比較し劣る。
表ー1に橋梁形式比較表を示す。

5 橋梁概要
位  置:長崎県長崎市河内町地内
路線名 :一般国道34号
道路規格:第3種第2級 V=40km/h
橋  種:プレストレストコンクリート道路橋
橋  格:一等橋(TL-20)
構造形式:PC2径間連続有ヒンジラーメン箱桁橋
主  桁:1室箱桁(拡幅部は,2室箱桁)
橋  台:逆T式橋台(A1),カウンターウェイト方式橋台(A2
橋  脚:ラーメン式橋脚(P1
基  礎:A1橋台(深礎杭φ2.0m)
     P1橋脚,A2橋台(直接基礎)
架設工法:カンチレバー架設工法
橋  長:L=188.0m
支  間:51.3m+136.0m
有効幅員:10.75m~13.75m(片側歩道2.0m)
勾  配:縦断 i=2.52%~8.348%(一部VCL区間)
     横断 i=2.0%

6 設 計
6.1 設計条件
活荷重 :TL-20
設計震度:完成時Kh=0.13
     施工時Kh=0.10
温度変化:±10℃ 床版温度差:+5℃
支点沈下:考慮しない
クリープ係数:主方向設計時 φ=2.0
       横方向設計時 φ=2.6
乾燥収縮度:主方向 εs=15×10-5
      横方向 εs=20×10-5
終局荷重時の荷重組合せ
 1.3D+2.5(L+I)
 1.0D+2.5(L+I)
 1.7(D+L+I)
 但し D:死荷重  L:活荷重  I:衝撃
6.2 材料強度および許容応力度
コンクリート:設計基準強度(σCK
       主 桁σCK=400kg/cm2
       地覆高欄σCK=210 kg/cm2
PC鋼材:主方向  12T 12.7(SWPR)
     横方向  φ32 SWPR95/12
鉄  筋:SD30
     主桁 σsa=1,800kg/cm2
     床版 σsa=1,400kg/cm2
図ー3に本河内橋の橋梁一般図を示した。

7 上部工の設計
7.1 設計概要
本橋は,橋長188mのPC2径間連続有ヒンジラーメン橋で,A橋台からP橋脚までは2セル,P橋脚からA2橋台までは1セルの箱桁断面である。
1支点は橋脚と剛結合,A2支点側は橋台と剛結合した構造となっている。
上部工の施工は,Pの柱頭部12mを支保工施工とし,柱頭部から左右に張出し工法で施工していき,A橋台と支保工施工により連結する。またA2部からはまず橋台付け根部の3mを支保工施工とし,これを起点として張出し工法で施工していき,P~A2径間中央部のヒンジ部で吊り支保工施工で連結する。
設計は,各施工段階を追って,応力照査を行うとともに,完成構造系においても構造モデルを変えて応力度の照査を行い,構造物全体の安全度を確認した。
7.2 構造解析
図ー4に示す施工順序とするため,順次構造系が変化し,主桁の断面力は,施工,完成系および道路平面線形(一部曲線区間)を考慮し表ー2に示す解析方法とした。

7.3 主方向の設計
主方向の設計においては,先に示した構造モデルによって,施工時・完成時における断面力を算出し,各設計断面の応力度照査を行った。図ー5に完成時および架設時の曲げモーメント,応力度を示した。

PC鋼線は,12T 12.7を配置し,P橋脚支点上およびA橋台付け根部の鋼線配置を図ー6に示した。
主方向におけるプレストレス工法については,次の要因を考慮し決定した。
a)PC橋をカンチレバー架設工法で施工する場合,緊張材としてPC鋼棒および,PC鋼線を使用する場合がある。設計,施工面から比較するとPC鋼線を採用する方が有利な場合が少くない。
b)高強度のストランドを使用でき,全体の鋼材量が少なく経済的である。
c)ケーブルを後押入するため継手は必要としない。
d)断面内のシースが少なくコンクリートの打設が比較的容易である。
等々,本設計では特にAカウンターウェイト部も含めて施工性・経済性において比較しPC鋼材(12T 12.7)を採用した。

7.4 横方向の設計
主桁横方向の設計は,上床版はPC部材とし,ウェブ・下床版については,RC部材と考え,構造は図ー7に示すボックスラーメン構造として検討した。
設計断面は,桁高変化および部材厚の変化を考慮し図ー7に示す4断面について検討した。応力検討の結果,床版横締めPC鋼棒は,SBPR95/120,φ32mmを50cm間隔に配置した。

8 下部工の設計
8.1 Aカウンターウェイトの設計概要
本橋はラーメン構造であり,A橋台部ではカウンターウェイト方式を採用している。そのため,明確に上部工,下部工と区別することが難しい。
ここでは,本橋下部工の内,A橋台の計画と設計の概要を中心に示すこととする。
1)Aカウンターウェイト方式橋台の計画
本形式を採用した理由は,先に示した制約条件の内,支間中央部の桁高に制約を受けること,さらに縦断線形,施工条件等よりA橋台側から片側張出しの可能な構造としてカウンターウェイト方式を採用した。計画上の留意事項を示すと,
① 本形式の施工事例が少なく施工規模が大きい。
② 傾斜地形に計画され,構造物の規模から,長期的な安定,地盤と構造物を含めた解析が必要である。
③ PC鋼材の定着をカウンターウェイト内に定着させるが,多室箱型構造の各部材(側壁,隔壁,中間壁および頂版部)の応力状態が不明確であり,各部材を版構造と考え,立体FEM解析にて照査する必要がある。
④ 施工時に対しても立地条件から十分な仮設計画,掘削計画等が必要であり,本体施工時も含めて検討を行う必要がある。
これらの諸要因を勘案し,Aカウンターウェイトの設計は次の方法にて行った。
安定計算:地盤と構造物の安定解析を基本に二次元FEM解析によって照査する。
部材設計:立体FEM解析により各部材の応力流れを把握し部材の設計に利用する。
2)立体FEM解析結果
立体FEM解析は,壁面にて構成される板要素を用いた立体フルモデルとする。
解析は,施工時および,完成時の2ケースについて検討を行った。図ー9に橋台の構造図を示し,図ー10に立体FEMの解析モデルを示した。
支持条件は,XYZ方向の変位を拘束し回転についてはフリーとする。
中間水平壁は,上部工から伝達される力の内主桁下スラブから直接圧縮応力が作用している。
側壁部は,頂版部プレストレス等より圧縮,引張りゾーンが把握出来る。全般的にケーブル配置を変更することにより,既往施工例を参考に検討を行った結果,各部材全体にわたり多室箱断面の応力状態が比較的スムーズに把握出来ることが分り,本解析の重要性がうかがえる。
図ー11にFEM解析結果を示した。また図ー8はPC鋼線の配置概要図を示すものである。

3)二次元FEM解析結果
傾斜地に荷重規模が大きい構造物が長期的に作用するため本設計では,次の項目に留意し,安定性を確認した。
① 地盤と構造物を含めた安定解析
② 斜面上における基礎の安定(段差フーチングによる局部的な安定)
図ー9に示す橋台を斜面上に設置することによって,周辺地盤の変形および,段切りされた基礎の支持力等,静的解析を基本に地盤とフーチングを連続弾性体と考えFEM解析を行った。
解析結果より,地盤の変位量は,弾性変位量として,最大20mm程度である。主応力の方向は,斜面上の支持力形態が把握出来,段切り基礎の安定計算を行う上で参考資料となった。

9 あとがき
本稿では,特に老朽ダム内に構造物を構築し,また,傾斜地に大型構造物を設置する際の留意事項を中心に,本河内橋の概要を述べた。
現在現場では,ダム貯水池部の構造部基礎部分を施工中であり,今後施工上の制約条件が厳しく高度な施工技術が要求されるA2カウンターウェイト・上部工等の施工をすることとなるが,この種の橋梁は構造形式・施工規模的にも数少ない構造物であり,機会があれば施工事例として,別の機会に報告したい。

参考文献
1)建設省 長崎工事々務所:本河内橋詳細設計報告書:平成元年3月
2)J.マチバー:PC橋のカンチレバー架設工法:昭和62年5月
3)橋梁と基礎:道中央自動車道ポロト橋の概要(PP14~19),1981.6

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