一般社団法人

九州地方計画協会

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平成13年度技術士試験を省みて
(建設部門における出題傾向と解答例)

九州技術士センター 普及啓発委員会 専門委員

総   括         津 城  正
九州技術士センター
 普及啓発委員会 委員長

土質および基礎      橋 村 賢 次
日本地研㈱

鋼構造およびコンクリート 舟 本 憲 治
九州電力㈱ 土木建築課

河川,砂防および海岸   竹 下 昌 次
国土交通省 筑後川工事事務所

道   路        江 崎 史 啓
㈱トキワ・シビル 技術部

建 設 環 境      竹 内 良 治
北九州市役所建設局 水質管理課

1 平成13年度技術士第二次試験結果について
平成13年度技術士試験は,新設された総合技術監理部門については,筆記試験の選択科目が8月22日・23日に,必須科目が10月8日に福岡市他全国9箇所において実施された。また,総合技術監理部門以外の部門の筆記試験が,8月22日・23日に実施された。その後,箪記試験合格者に対する口頭試験については,総合技術監理部門以外の部門が,12月上旬~12月中旬,総合監理部門は,平成14年1月下旬~2月上旬に東京で実施された。
受験申込者数は,総合技術監理部門以外が41,758名(うち建設部門26,853名)で,最終合格者数は,4,304名(うち建設部門3,060名となり,合格率は,10.3%と昨年より若干高くなった。また,総合監理部門は,受験申込者数は,9,220名で合格者数は2,267名,合格率は28.5%となった。
前年度と比較してみると,受験申込者数は総合技術監理部門を除く部門で,6.3%(2,458名)増加し,合格者数は27.6%(931名)増えた。
なお,合格者の内訳については次の通りである。(数字は%)
(1) 年代別占有率(平均年齢:44.1歳)
 20代→1.0  30代→31.0  40代→41.8
 50代→22.8  60代→3.2  70代→0.1
(2)勤務先別占有率
 国立機関→4.1  地方自治体→7.4  大学→0.5
 公社・公団→3.8  民間→82.5  自営他→1.6
(3)最終学歴別占有率
 大学→89.3  新旧高専→4.3  その他→5.4

2 技術士法改正の主要点
平成12年4月に技術士法の一部改正,平成12年12月に技術士法施行規則の一部改正が行われ,平成13年度技術士第二次試験から新制度で実施されることになった。技術士法の主な改正点は,次の通りである。
(1)試験制度の改善
 ① 第一次試験受験資格要件に関するもの。
 ② 第二次試験受験資格要件に関するもの。
 ③ 総合技術監理部門の新設に関するもの。
(2)技術士等の資格に関する特例
 ① 技術士等の資格に関する一定の外国の資格を有する者との国際的相互承認。
 ② 第一次試験の合格と同等であると認められた大学等教育機関の課程(JABEE)を修了した者は,技術士補となる資格を有する。
(3)技術士等の公益確保の責務
(4)技術士の資質向上の責務
(5)日本技術士会の目的に,技術士の研修に関する事務が追加

3 筆記試験体験業務
(1)出題問題と内容
建設部門における体験論文の出題問題は,選択科目によって異なるのが通例である。そこで建設部門を代表して次の例を示す。

Ⅰ-1 次の問題について解答せよ。(答案用紙5枚以内にまとめよ。)
あなたが受験申込書に記入した「専門とする事項」について,あなたが技術的責任者として実際に行った仕事のうち,技術士としてふさわしいと思われるものを3例略記せよ。さらに,その中の1例について,(1)業務内容,(2)あなたの技術的責任者としての役割,(3) 技術的問題点とあなたが採った措置,(4)現在の水準から見た評価と改善すべき点について詳述せよ。

問題は,受験者が体験した技術士にふさわしい業務について,概略業務と詳述業務について解答が求められる。
1)概略業務数
建設部門全体としては,概略業務数は,2~3件出題される選択科目分野が多いが,例外的に「鉄道」等概略業務のない科目もある。
2)詳述業務数
詳述業務数は,1~2件であるが,2件出題される科目は,概略業務数も2件である。
3)業務概要の内容
業務概要の内容は,選択科目によって異なるが,次のものを幾つか組み合わせて出題されている。
 ① 業務名等(工事名,件名,場所,時期,あなたの地位・役割)
 ② 業務概要(概要,工事概要)
 ③ その他(目的,特色,技術的特徴)
4)業務詳述の内容
詳述の内容も次のものを幾つか組み合わせて出題されている。
 ① 業務内容
 ② 技術的課題(問題点,課題)
 ③ 技術的解決策(創意,工夫した点,技術的提案,対処方法,採った措置)
 ④ その結果(成果,効果)
5)評価と今後の展望の内容
 ① 現時点での評価(再評価,反省)
 ② 将来の展望(技術的応用性,今後の課題,改善すべき点)
 ③ 技術士にふさわしい理由(ふさわしい点)

(2)問題設問の経年変化
1)業務記述数の変化
出題される業務記述数は,主に次の4つのパターンに分かれる。
 ① 概略業務数なし,詳述業務数1件 (鉄道)
 ② 概略業務数1件,詳述業務数1件 (電力土木)
 ③ 概略業務数なし,詳述業務数2件 (土質他)
 ④ 概略業務数1件,詳述業務数1件 (道路他)
業務記述数は,殆ど変化しないが,例外的に①が②になったり(平成12年電力土木),④が②に変化したり(平成11年建設環境)することがあり,業務記述数の変化には注意して受験準備を進める。
2)業務記述内容の変化
業務記述内容は,毎年設問の趣旨は変わらないが,上記内容の組み合わせが毎年変化している。

(3)体験論文の基本的3要素
体験論文作成にあたっては,基本的に次の3要素を念頭におく。
1)体験論文が論文として纏められること
2)自分が関与した業務であること
3)技術士としてふさわしい業務であること

(4)論文作成の留意点
1)「専門とする事項」と論文の見出し(テーマ)とが一致し,目的実現に大変苦労し,技術的な創意・工夫を発揮して問題解決を図った内容にする。
2)わかりやすい文章とは,入口(出発点)が明確であり,途中の道筋が整備されており,読み手が確実に出口(結論)に到達できる文章である。
3)文章の構成は,序論(起)→本論(承・転)→結論(結)の3部構成にして,論理的に展開する。
4)自分の開発技術や研究機関の研究成果をどのように苦労したかを巧みに説明する。
5)現時点からの高次の提言や大胆な将来展望を力説する。

4 筆記試験必須科目(Ⅱ)
必須科目における出題の狙いは,受験生が技術士として技術的・社会的見識,洞察力,およびその根底にある健全な公益確保の思想について表現する能力を問うものである。
(1)出題問題の傾向
平成13年度の建設部門に共通する問題として,毎年2題出題されているが,今年は1題について五肢択一問題が15問出題され,もう1題は例年通りの1問を選択して解答する形式であった。この五肢択一問題は新しい問題形式であるが,やはり社会のトピックス,経済・社会面での知識を問うものである。毎年出題される共通事項を分類してみると次の4種類に分かれる。
1)社会資本整備に関するもの(この問題の出題は,制約条件は変化するが,毎年出題されると思ってよい)
2)建設部門に関するもの(建設部門のあり方,コスト縮減の課題,国際的技術水準の現状について等)
3)建設技術(または技術開発)に関するもの(技術開発のあり方,建設技術の課題,建設技術の果たす役割等)
4)その他,品質,防災等に関する基礎技術

次に,平成13年度の必須科目(建設一般)問題(Ⅱ-2)を示す。

次の2問題のうち1問題を選んで建設部門全体の問題として解答せよ。
(茶色の答案用紙を使用し,解答問題番号を明記し,2枚以内にまとめよ。)
Ⅱ-2-1 これからの社会資本の維持・管理と再生のあり方について,あなたの意見を述べよ。
Ⅱ-2-2 経済社会の構造改革が求められている中で,今後の技術開発のあり方について,あなたの意見を述べよ。

(2)情報収集のための参考資料
必須科目問題に解答するための主な参考資料として,以下の資料から収集する方法がある。
1)建設白書(毎年7~8月頃発行される。)
2)土木学会誌(巻頭言,座談会等)
3)土木学会等主催のセミナー(今日的話題が多い)
4)建設業界(日本経済と公共投資に関する話題)
5)技術雑誌(最新技術の話題)
6)新聞の社説,経済面,政治面記事
7)インターネット

(3)論文作成の留意点
1)必須科目における予想テーマはトピックス,災害の発生,最新の技術動向等に関して技術雑誌に記載された話題から出題されることが多い。
2)「社会資本整備」については,殆ど毎年出題されるので,設問の視点がどのように変化しても対応できるように準備しておく。
 ・財政危機状態における公共投資のあり方
 ・持続可能な循環型社会の構築
 ・少子高齢化社会の到来(バリアフリーの概念)
 ・国民の合意形成
3)必須科目の問題は,社会資本整備や技術開発等高次元のテーマとなるので,これらがどのように社会へのインパクトを与えるかについても述べる。
4)答案はキーワード方式による採点となることが多いので,論文は,箇条書きを活用して多くのキーワードを網羅する。
5)設問は,「あなたの意見を述べよ」と出題される。従って,意見は建設白書(「…でなければならない」,「…の必要があると考える」等)として表現する。
6)論文の締めくくりとして「技術的将来の動向」,「建設部門の社会的使命」,「技術者としての自分の役割・抱負」等を述べることが望ましい。

5 筆記試験専門選択科目(Ⅱ-2)
(1)出題問題の傾向
設問は,殆どの選択科目分野においてAグループとBグループから構成されている。殆どの分野で選択制を採用しているが,「港湾および空港」分野においては,2問題ともに必須となっている。また「道路」分野においては,1問題は必須,1問題は選択となっている。
(2)論文作成の留意点
1)次元の大きい設問に対する論文構成
 ① 問題の背景,技術的な動向・状況を論述する。
 ② 前提条件,課題,その影響を展開して問題を提示する。
 ③ 解決策を技術的に説明し,対策を技術的・経済的に評価する。
 ④ 技術的な将来動向を論じ,自分の意見,将来の抱負をのべる。
2)基礎技術的小さい設問に対する論文構成
 ① 問題の原理・定義・概念を説明する。
 ② 問題の技術的課題・対策を説明する
 ③ 技術的動向・将来の考察を論じる。
 ④ その技術に対する意見を論じる。

(3)論文解答例
以上が平成13年度技術士筆記試験の概要ならびに出題傾向とその対策である。以下は,平成13年度筆記試験専門選択科目の中から5問題を選定し,当普及啓発委員会の技術士に模範解答例として執筆を依頼したもので,参考例として示す。

土質および基礎 Ⅰ-2-3
軟弱地盤対策工は,そのメカニズム(改良の原理)により一般的に次のように分類される。
 ①表層処理工法 ②置換工法
 ③押え盛土工法 ④盛土補強工法
 ⑤荷重軽減工法 ⑥緩速載荷工法
 ⑦載荷重工法 ⑧バーチカルドレーン工法
 ⑨サンドコンパクション工法 ⑩振動締固め工法
 ⑪固結工法 ⑫構造物による工法
深さ20mの軟弱地盤上に道路盛土(盛土高5m)を行う場合について,以下の設問に答えよ。
(1)粘性土系地盤で,沈下対策として圧密沈下の促進を図る工法を上記の①~⑫から2つ選定し,それぞれについて工法の名称,工法の概要・特徴・選定理由,留意点について述べよ。
(2)砂質土系地盤で地震時の安定対策として液状化の防止を図る工法を上記の①~⑫から2つ選定し,それぞれについて工法の名称,工法の概要・特徴・選定理由,留意点について述べよ。

1 粘性土系地盤での圧密沈下促進工法
沈下対策としての圧密沈下促進を図る工法は,載荷重工法とバーチカルドレーン工法を考える。
(1)載荷重工法
 ① 概要と特徴
本工法は,構造物の建設に先行して構造物荷重より大きい荷重を盛土その他の方法で地盤上に載荷して,沈下促進とともに,土のせん断強度を増加させ,これらの値が期待している値になるのを確認してから荷重を除去し,構造物を築造する工法である。
特徴としては,大きい載荷重が得られ,材料の大量入手も可能である。施工及び事後の処分も容易であり,現地発生砂が有効利用できる。
 ② 選定理由
本工法は橋梁や建物などの深い基礎を持つ構造物の取付け土や道路・鉄道などの不同沈下対策として実績もあり多用されている。
 ③ 留意点
載荷重工法を適用するに当たっての留意点は沈下を促進させるための荷重の大きさと載荷期間の設定である。盛土時に過大な載荷を行うと,地盤を乱しすべりを発生させる危険もある。

(2)バーチカルドレーン工法
 ① 概要と特徴
軟弱層の圧密速度は軟弱層の排水距離の二乗に比例するので,軟弱層が厚い場合には,圧密に長期間を必要とする。このため,排水距離を短くすることが最も効果的である。
特徴としては,軟弱層内にバーチカルドレーンを設置して,水平方向の排水距離を著しく短くして,目標沈下量を短期間に完了できることである。
 ② 選定理由
軟弱屠が20mと厚いため最終沈下量に達するまで非常に長い時間を要するので,ドレーンを打設することにより排水距離を短くして沈下を促進させる。
 ③ 留意点
盛土施工中に圧密の進行や強度増加を確認することが重要である。近接構造物がある場合には,引込み沈下や盛土側方地盤の隆起に注意する。

2 砂質土系地盤の液状化対策工法
液状化対策工法として,サンドコンパクション工法と固結工法を考える。
(1)サンドコンパクション工法
 ① 概要と特徴
本工法は鋼管ケーシングを地中に貰入させ,引抜き時に砂を圧入し,振動・衝撃で砂質土の密度を大きくして液状化強度を上げるものである。
特徴としては,深部までの改良も可能で細粒分を多く含む砂質土にも締固め効果が大きい。
 ② 選定理由
諦固め効果を利用した液状化対策工法は,古くから使用され実績も多い。
 ③ 留意点
騒音・振動が大きいために,周辺環境への影響を考慮しなければならない。

(2)固結工法
 ① 概要と特徴
液状化対策工法としては,深層混合処理工法が考えられ,砂質地盤内にセメントなどの安定材を攪拌・混合し,地盤を固化させ液状化対策を行うものである。
特徴としては,盛土施工後も改良壁を設けて,せん断変形を抑制する液状化対策が可能である。
 ② 選定理由
本工法は,盛土区域に深層混合処理杭を打設して,地盤全体を固結する全面改良も可能であり,施工が容易である。
 ③ 留意点
固結による工法の留意点としては,地盤に安定材を混合するため地下水や海域における水質管理及び処理地盤の品質管理が重要である。

鋼構造およびコンクリート Ⅰ-2-17-(C)
コンクリート構造物の施工時の品質管理·検査の現伏と今後のあるべき姿について述べよ。

コンクリート構造物は,性能規定ではなく仕様規定型の設計施工が続けられており,構造物の品質は特に保証されることなく,材料・設計・施工が仕様規定に適合していることを検査することで品質管理が行われているのが現状である。このため,構造物の品質を左右する物理的性能や耐久性能が施工後あるいは施工中に不都合が生じても責任の所在が不明瞭になっている。そこで,今後は,第三者評価機関による性能照査型手法を用いた品質保証システムが求められていくと考えられる。
コンクリート構造物の施工時の品質管理・検査は,コンクリート打設前と打設時に分けられ,以下,各々について,現状と今後のあるべき姿を述べる。

(1)コンクリート打設前
設計図書および施工計画書に基づき,使用材料・鉄筋・型枠・支保工の管理を行う必要があり,現状では,特に骨材の品質保証に注意を払う必要がある。これは,全国的に良質な天然骨材資源が枯渇し骨材の品質が低下しているとともに,零細な採取業者が多く十分な品質管理が行われていないためである。
そこで,今後,骨材購入者が骨材プラントヘの立入りを行い抜取り検査で品質の確認を行う制度,あるいは骨材生産者の品質管理を第三者に委ねる制度などの確立が必要であると考えられる。

(2)コンクリート打設時
a)コンクリートの受入れ検査
コンクリートの受入れ検査は,強度・スランプ・空気量・塩化物量であるが,水セメント比や単位水量を直接検査しているわけではなく,コンクリートの強度や耐久性を検証できていない。
そこでコンクリート標準示方書では,印字された自動計量記録装置を用いて,骨材の表面水率および材料計量値から水セメント比や配合を推定する方法が推奨されている。
この方法の特徴は,荷卸し地点で特別な試験を行わなくても全バッチの品質検査ができることにあるが,上記手法では,骨材の表面水率を一定にすること等を前提としており難しい面も多い。そこで,コンクリートの単位水量を直接迅速に測定し水セメント比を推定するとともに早期の強度判定を行う方法が望まれ,現在,単位水量測定法として種々の方法が開発され国土交通省やJRで一部採用されているが,現状では誤差が大きくさらに簡便で高精度な装置の開発が求められている。
一方,全国生コンクリート工業組合連合会では,1995年に第三者の参画による全国統一品質管理監査制度を導入しており,今後は,この制度を柱に,ISOを視野に入れた品質保証システムの確立が求められている。
b)コンクリート構造体の検査
上記の受入れ検査は,あくまで標準養生供試体で保証されるものであり,構造体の品質保証とは成り得なく,コンクリート構造体の品質はコンクリートの製造から養生までの施工過程における品質管理の良否がきわめて大きい影響を及ぼす。
従って,コンクリート構造体の検査を別の供試体で行う場合には,構造体の養生条件や寸法効果等を十分に模擬できる方法で行う必要がある。一方,構造物からコアを採取する方法は,直接,構造体の検査をできる利点はあるものの,構造物に著しい損傷を与える危険性もあり,非破壊試験による方法が求められている。しかし,非破壊試験による方法は,現状では精度に問題があるものも多く,さらに高精度な手法の開発が求められている。
一方,国土交通省では,請負者が当該工事に従事していない社内の者を品質証明員として社内検査を実施する「品質証明制度」を規定しており,今後の施工者の立場からの品質保証として重要な試みと考えられる。

河川・砂防および海岸 Ⅰ-2-2
源流から海岸域までに存する土砂に係る課題を抽出し,それらの課題を解決するための総合的な土砂管理について論ぜよ。

1 土砂管理上の課題
我が国の気象は温帯地帯に属し降雨量が多く,特に梅雨期,台風期に集中することが特徴である。また,地形は急峻で脆弱地が多いため土砂流出に起因する災害が多発しており土砂管理は河川事業の中で重大な問題になりつつある。
土砂管理に関する治水,利水及び環境の課題を①山地部,②ダム等,③河道部,④河岸部に大別して述べる。
 ① 山地部
 ・山地崩壊,地滑り,土石流による土砂災害
 ・河道流出土砂での河床上昇,氾濫被害
 ・土砂生産域の生態系の変化
 ② ダム等
 ・貯水池堆砂による有効容量の減少
 ・ダム貯水池上流の河床上昇による洪水危険性の増大
 ・ダム下流部への供給土砂量の減少
 ・長期堆砂の泥土化に起因する水質悪化と富栄養化,放流水の濁度
 ② 河道部
 ・河床低下による河川構造物の破損,局所洗掘
 ・水位低下による水生動植物の生息減少
 ・砂利採取による河床低下
 ④ 河岸部
 ・河川からの土砂供給量の減少に起因する海岸線の後退
 ・砂浜消失による景観,生態系の変化
 ・河口の塩水遡上,河口閉塞
これまでの砂防,ダム,河川,海岸の個別対応では,成果も一定範囲にとどまる。森林を含む山地から海岸までの土砂の運動領域全体を流砂系として捉え総合的な土砂管理を行う必要がある。

2 課題解決のための対応策
土砂移動の特徴は緩やかに,長期にわたり不連続に移動する。
影響が具現化するのに時間を要する因果関係も明白になりにくい。また,スケールが大規模なため問題が生じたときの対策は緊急なものが多く,かつ即効性が期待しにくい。このため早急かつ継続的な取組みが重要である。
ここに,土砂管理上課題解決のための対応策を述べる。
 ① 山地部
 ・生産土砂抑制対策としての森林の保全.回復
 ・砂防ダムのオープンタイプ化,既設砂防ダムのスリット化による土砂流出促進
 ② ダム等
 ・貯砂ダム設置による堆積土の泥土化防止と軽減
 ・ダム貯水池堆積土砂の除石,運搬,下流河道,海岸に還元
 ・排砂バイパス,排砂ゲートの設置
 ② 河道部
 ・河川構造物保護のため根固工,河床低下防止の床固工の設置
 ・河床低下対策としての砂利採取の規制
 ④ 河岸部
 ・離岸堤による侵食防止で砂浜の保全,創出を図る
 ・養浜による砂浜の創出,砂の人工的移動等が考えられる。

3 今後の展開
これらの土砂管理の根底には,自然の営力を基本にし,多少の人為的制御を加え,開発行為以前と類似した状態で土砂を流すという考え方と取り組みが必要であろう。そのためには以下のシステム及び技術開発が急がれる。
 ① 上流の河道情報(河床材料,河床形状)の収集により,供給土砂量の変化を予測する流砂系を一貫したモニタリングの手法の開発
 ② ダムにおける新たな土砂管理システムの確立
 ・既設ダムの土砂排出システムの確立
 ・新たなダム計画における土砂管理システムの確立
 ③ 海岸部における土砂管理の技術開発

道路 Ⅰ-2-2
歩行者及び自転車の安全で円滑な通行に配慮した道路計画・施設対策について高齢者を含めて述べよ。

1 はじめに
21世紀を迎えた我が国において,世界一の長寿国となっていると同時に出生率の低下という「少子高齢化」が進んでいる。人口問題研究所「日本の将来推計人口」(平成9年)によると,高齢化がこのまま進むと,2016年に65歳以上の老齢人口はピークに達し,2025年前後には,4人に1人が高齢者になると予測されている。こうした高齢者,体の不自由な人たちの社会環境に対応していくため,平成12年5月に「高齢者,身体障害者等の公共交通機関を利用した移動の円滑化の促進に関する法律」(通称「交通バリアフリー法」)が成立した。

2 歩道の現状
歩道の現状については,現代が車中心の社会であり,車を重視した道路整備であり,車両専用道路はあっても,歩行者がゆっくりくつろいで歩ける歩道はごくわずかである。以下歩道の現状について問題点をあげる。
 ・歩道幅員が狭い。(車椅子利用者には不便)
 ・歩道乗り入れ部に,段差・傾斜があり,高くなったり低くなったりと「波打ち歩道」となっている。
 ・歩道の中に電柱・看板類が立っている。
 ・市街地において歩道に自転車が放置されている。
 ・歩行者と自転車が混在していて,歩行者の列に自転車がぶつかりそうである。
 ・目の不自由な人にとって,道標となる誘導用ブロックの設置が少なく,配色がわかりにくい。

3 歩道整備の推進
以上,既設歩道の問題点を述べたが,道路計画・施設対策を進めていく上で,次のような取り組みが求められている。
 ① 「交通バリアフリー法」の活用
 ・鉄道駅と駅前の一帯の地域に,病院・老人福祉センター・商店街・駐車場・公園等を面的に整備して利便性を考慮する。
 ・各施設をスロープ・エレベーター付横断歩道橋を設置して誰でもが通行の快適さを求められる。
 ② 歩行空間の確保
高齢者・身体の不自由な人が安全かつ円滑に自立して移動できるよう以下のような施策を行う。
 ・幅員4.0m以上の広幅員歩道の設置
 ・歩道の段差,傾斜の改善
 ・視覚障害者用誘導ブロックの設置
 ・電線類地中化の推進
 ・車椅子に対応した経路案内板や休憩施設の設置
 ・自転車専用道の設置,普及・自転車駐輪場の増設(市街地における交通拠点施設周辺部)
 ③ 地域における車両と歩行者の分離
住宅地域においては,通過車両の進入を抑え,地区内の暮らしの安全を確保するため「コミュニティゾーン形成」を推進する。これは,歩行者優先の空間として以下の施策を行う。
 ・コミュニティ道路の設置
 ・ハンプ設置等による車両の進入を防ぐ
 ・地域内の車両速度規制実施
 ・時間帯,曜日別による道路の規制(一方通行,車両·車種の進入制限)
 ・一定範囲内の道路開放(車両進入禁止)

4 おわりに
高齢化社会の入り口に入っている今日,高齢者・障害者の人たちが,便利で快適な生活を亨受できるように,国のハード,ソフト両面のバランスのとれた施策の実施とともに,地域社会の理解,協力が重要になってくる。そうしてまもなく到来する超高齢化社会に対応していかなければならない。

建設環境 Ⅰ-2-2(A)
建設分野において,「地球温暖化問題への対応」の観点から考えられる具体的な対応策とその予想される効果について論ぜよ。

1 はじめに
地球温暖化は地球環境問題の内,最大かつ緊急の課題となっている。そのメカニズムは,化石燃料の燃焼により,大気中の二酸化炭素(CO)が増加してきた。一方,地球は太陽から可視光線で受けたエネルギーを赤外線で宇宙に放射することで,気温のバランスを取っていた。ところが,CO2は宇宙に放射される赤外線を吸収し,気温を上昇させている。実際,200年間で大気中のCO2は,280ppmから360ppmに増加している。
この対策として,京都で国際会議がもたれ,1990年を基準として,2010年頃までに,日米欧それぞれ,6,7,8%減少させることとした。温室効果ガスはCO2だけでなくC44,N2O,HCF,FCF,SF6の6種とした。フロンの温室効果はCO2の数千倍あるので,極く微量でも問題となる。
以下,建設分野における具体的な対応策とその効果について述べる。

2 対応策
(1)土木計画学の見直し
我が国の人口動態は2007年から減少していくことが明らかとなっている。長期的な人口減少傾向は縄文晩期(30万人→7万人)以来の大事と捉えるべきである。これに対し,多くの事業種で表記の課題は右肩上りのものとなっている。
既に大都市における水需要のように右肩下りになっている事業もある。右肩下りの計画学が確立していないため,水道料金値上げが収益減に拍車を掛けている現象に悩まされている。
かといって,全て右肩下りではなく,団塊世代の動向や社会激変緩和のための特殊出生率を上げる施策など,必要にして十分な社会資本を整備する施策が最も重要な鍵となる。

(2)省資源・省エネ・リサイクルの技術開発とその推進等
環境基本法・環境基本計画につづき,循環型社会形成推進基本法,各種リサイクル法等,施策体系が確立しつつある。建設事業においても建設リサイクル法により,建設廃材を建設資源としての有効利用が義務づけられた。
したがって,建設事業において,計画,設計施工,維持管理の各段階での省資源等の技術開発に取り組まなければならない。また,LCA,LCCなどの新たな考え方により,長寿命化・メンテフリーなどを取り込み,投資効率を上げなければならない。
厳しい財政事情により,従来のスクラップ&ビルドが困難となっており,リニューアルが重要な事業となっている。事実,ゼネコンにおいてもリニューアルの新事業部を設けている。リニューアルに当たって,外部断熱,二重サッシ,屋上緑化,局所空調などの導入により相当の省エネが期待される。街路樹も成長の早い木(シナサワグルミ)よりも,用材価値の高いケヤキなどの方が,CO2固定の点からも優れている。

3 予想される効果(特にリニューアル・緑化)
石油ショック以前に計画・設計された建築物は原油1バレルが3ドルの思想で建てられている。私の前職場である環境利学研究所は昭和49年に竣工したものである。これをゼネコンに省エネリニューアルを試算させたところ,最大30%の省エネとなり20年で元が取れる試算が出た。
旧福岡県庁跡地に建設されたアクロス福岡は南側を斜面緑化とした斬新なビルである。真夏時,この緑地と周辺との温度差を調査したところ,最大3℃の気温低下がみられた。
このように,屋上・街路の緑化は都市のヒートアイランド現象の抑制に大きな効果が期待される。21世紀は限られた費用で,最大の効果を生むべく,事業のプライオリティーを評価し,順次社会資本の整備を図っていくべきと考える。

6 口頭試験問題の傾向とその対策
技術士試験は,技術コンサルタントとして十分な能力と資質を持っているかどうかを問う試験であると言える。試験時間は,30分程度であるが,受験者1人に対して,試験官2~3名から質問を受ける相当に厳しい口頭試験である。
以下,質問の内容とそれに対する研修方法ならびに面接時の心得について述べる。
(1)質問の内容
質問の内容は,大きく分けて次の7項目にわけられ,その例を示す。
1)受験の動機,将来計画,資格取得と仕事との関係等に関する質問
 例① 受験の動機と資格取得後の将来計画は何ですか?
 例② 他に資格があるのに,何故,技術士を受験したのですか
2)業務経歴,特許・著述の有無,コンサルタント経験等に関する質問
 例① 体験業務で書かれた以外で,失敗例や反省事例はありませんか?
 例② 特許や論文の発表がありますか?
3)筆記試験に関する質問
 例① 体験論文における技術上の問題点にいて詳細に述べて下さい。
 例② 体験論文のどういうところが技術士としてふさわしいと思うか。
4)技術に関する質問
 例① 解析手法の選定や地盤常数の選定に最新の注意を払うとありますが,具体的にどういうことですか?
 例② 21世紀の建設業界はどのようになると思いますか?
5)基礎知識に関する質問
 例① 建設リサイクルについてどう考えるか?
 例② 循環型社会をどのようにイメージしているか?
6)技術士制度の認識に関する質問
 例① 技術士の倫理・義務に何かありますか?
 例② 技術士法の改正により,技術士法の義務に新たな責務が追加されるが,知っていたら答えて下さい。
7)その他(一般常識,語学力等)の質問
 例① 重大事故が起った場合,あなたの立場でまず何をしますか?
 例② ITへの取り組みを具体的に説明して下さい。

(2)研修方法の留意点
 ① 受験申込書に記入した職務内容を説明できるようにしておく。
 ② 筆記試験の答案を整理して補足,修正,不備箇所の見直しを行う。
 ③ 技術的知識(選択しなかった問題の技術,体験業務の周辺技術,最新技術等)を整理し,理解しておく。
 ④ 技術士法改正の主な変更事項を理解しておく。特に,技術士法の5義務は,暗記しておく。
 ⑤ できれば,技術士の先輩等に模擬面接試験をしてもらうと本番の試験において落ち着いて対応できる。

(3)面接時の留意点
 ① 受験の態度は,背筋を伸ばして腰掛け,やたらと手足をうごかさないこと。質問をうけ解答するときは,試験官に柔らかい視線をあてながら答える。
 ② 質問は良く聞き,慌てず一呼吸おいて答える。
 ③ 質問の内容が不明な場合には,「恐縮ですが,もう一度お願いできませんでしょうか」または,「ご質問(の趣旨)は…でよいでしょうか」と伺ってみる。
 ④ 論議に際しては,相反する「安易な妥協」と「自説への固執」に慎重な均衡を図り,争論・喧嘩は絶対にしてはいけない。
 ④ 女性も採点者(答弁態度,試験官との癒着等のチェック)であることを認識しておく。

7 おわりに
(有)九州技術支援センターは,国土交通省OB,地方公共団体,建設コンサルタントなどの職員で,技術士資格や学位を有する方々を講師に招いて,技術士受験講座を開設しております。講師と受験者とがマンツーマン形式で議論し,模擬試験を実施し,答案を添削する,答案の記述要領を手ほどきする,といった方式で,教育・指導しております。
その結果,難関といわれている技術士試験に,今回も数名の方が合格されました。本文中に模範的な論文解答例として掲げた方々です。
今や国家資格が是非とも必要な時代であります。読者諸兄の中で,未だ技術士資格を有しておられない方がおられましたら,当センターの受験講座に奮って御参加下さい。講師一同,心よりお待ち申し上げております。

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