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路面凍結を防ぐ新しい舗装の試み

九州共立大学工学部土木工学科
 教授
牧 角 龍 憲

1 はじめに
もし,アスファルトあるいはコンクリート舗装そのものが発熱するならば,路面の凍結防止や融雪対策がより効率的に行えるのではないだろうか,という発想から実施した試みを本報で紹介する。すなわち,アスファルトおよびコンクリートそのものに電流を流して,ジュール熱による効率的な発熱機能を付加させようとするもので,さらには太陽電池エネルギー程度の小電力でも発熱が可能か否かを検討したものである。
舗装材にそのような機能を持たせるためには,母材に一様に混ぜ込むことが可能で,導電性が高いとともに耐久性に富む素材が適している。そこで,繊維補強コンクリートなどに用いられる炭素繊維の内,高導電性を有するピッチ系炭素繊維を対象にして,母材に通電機能を付加できるか否か,繊維の形状や混入率が通電性能にどのように影響するかについて調査した。
炭素はもともと乾電池の芯にも用いられる導電材であり,ピッチ系炭素繊維はその特性が活用できると同時に,形状がやや捩れていて相互に絡みやすいため,舗装材中に混入した場合には繊維が 3次元的にランダムに接触して一様な導電性能を付与できることが想定される。また,繊維混入舗装材を路面近傍に集中して配置できること,混入量の調整が容易であること,特別な維持管理を必要としないことなどの利点もあり,通電性能次第では,有望な路面凍結防止策になり得ると考えられる。
※電気の流れる量に比例して出る熱

2 炭素繊維を混入した舗装材の通電試験
(1) 試験概要
アスファルトはもともと絶縁材に近く,これに通電性能を期待することは全く未知の分野である。したがって,透水性舗装に用いる開粒度アスコンおよび密粒度アスコンそれぞれについて,施工可能な範囲で出来るだけ多量の炭素繊維を混入した条件下で,試行錯誤的に通電性状を調べた。
コンクリートにおいては,劣化診断で自然電位測定などが用いられるように,わずかではあるが導電性を有していることから,セメントペーストに炭素繊維を混入することによりどこまで通電性を高めることが出来るかを主眼において調べた。
試験に用いたピッチ系炭素繊維は,表ー1に示す5種類の市場流通品である。この内,アスコンの試験には繊維のアスペクト比(糸長/糸径)が最大のS-234を用いた。

面的な発熱機能が期待できるためには,舗装材自体の電気抵抗が数100Ω以下になるとともに,任意の場所で通電できる性能が求められる。この性能を前提として,繊維を混入したアスコン試験体(5cm×30cm×30cm)およびセメントペースト試験体(3cm×7.5cm
×13cm)の両端を銅板ではさみ,汎用テスタにより電気抵抗を測定した。その測定状況を写真ー1および写真ー2に示す。

(2)試験結果
実施工可能な範囲で炭素繊維を混入できる限界の混入率(重量比)は,開粒度アスコンで1%,密粒度アスコンで2.4%,セメントペーストで4%であった。そして,いずれの場合においても汎用テスタで測定可能な通電性能が認められた。
図ー1に測定結果を示すが,電気抵抗の測定値は対数目盛りでプロットしており,繊維混入率の増加に伴って顕著に電気抵抗が低下する,すなわち通電性能が顕著に高まることがわかる。
次に,発熱量は消費電力量に比例することから,図ー2に100V電圧で通電した場合の消費電力量の算定結果を示す。セメントペーストにおいては,炭素繊維混入率に比例して電力量が増加しており,約300W近い電力(熱源)を消費することになり,発熱機能を付加できる可能性がかなり高いことが認められた。
一方,アスファルトにおける消費電力は小さく,繊維混入のみでは効果的な発熱機能は期待できないことがわかる。

3 おわりに
今回の試みで,舗装材に発熱機能を付加できる可能性が確認でき,また,太陽電池の小電力でも十分機能できる可能性も確認できた。この結果を踏まえて,実舗装への適用可能性および効率的な発熱システム等について検討を進める予定である。

最後に,共同研究者としてご協力をいただいた国土交通省九州技術事務所,ならびにアスファルト試験体の作製に際してご協力をいただいた日本道路㈱九州支店九州技術センターの関係各位に厚くお礼申し上げます。

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