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熊本天草幹線道路「新天門橋(仮称)橋梁設計計画」について
植田光和

キーワード:熊本天草幹線道路、新天門橋、橋梁設計

1.はじめに

熊本天草幹線道路(図-2)は、熊本市から天草市に至る延長約70㎞の地域高規格道路であり、熊本都市圏と天草地域との交流・連携を強化し、効率的な交通体系の形成を目的に計画されたものであります。その整備効果として、熊本・天草間の交流の強化、交通渋滞の緩和、天草への交通代替路線確保、観光客増加や水産物の価値向上による地域振興などの様々な観点から県民に期待されています。
大矢野バイパスは、熊本天草幹線道路のうち宇城市三角町から上天草市大矢野町を結ぶ、第1種第3級、設計速度60㎞、2車線の自動車専用道路です。この大矢野バイパスが三角ノ瀬戸を渡る箇所、現在天草1号橋である天門橋が架かっている場所の隣に新天門橋(仮称「以下省略」)を架橋する予定です。
本稿では、熊本天草幹線道路(大矢野バイパスに架橋する新天門橋)について紹介します。

2.新天門橋技術検討委員会

現在天草1号橋として知られている天門橋に並列する橋梁となる新天門橋は、橋長が約450m、支間長が200m以上となるため、設計・施工にあたっては、高度の技術力と豊富な専門知識が必要とされます。また、天門橋と並列橋であり、県立自然公園区域内であることを踏まえると景観的な配慮も必要であります。したがって、新天門橋に関する構造・施工技術及び橋梁の意匠についての設計・検討を円滑に進めるため、「新天門橋技術検討委員会」(委員長・大塚久哲九州大学大学院教授)を設立し、審議を行いました。

3.予備設計の概要
1)指名プロポーザルによる発注
前項に述べたように、本橋の設計には高度な技術と長大な海洋架橋の設計について十分な実績を持つ建設コンサルタントを選定するため、予備設計の発注に際しては指名型プロポーザル方式を採用しました。

2)デザインコンセプトの設定
視点場の設定及び周辺環境の調査を踏まえて、技術検討委員会での審議の結果、デザインコンセプトを『周辺の景観に調和するとともに、現天門橋の繊細でありながら緊張感を内在する力強さを損なわず、対比的に技術的進歩が見てとれ、地域にも新しい物語が生まれる魅力的な橋を創造する』と設定しました。

3)橋梁形式の選定

橋梁形式選定に特に影響を与える条件等については以下のとおりです。
  1. ①地理条件:天門橋に並列する海上橋であり、景観的な調和や耐風安定性を考慮する必要がある。
  2. ②地形条件:水際の地形は急激に落ち込んでいるため、海中に橋脚を立てる案は水深が深く工費が増大する。
  3. ③交差条件:現橋と高圧電線(架空線)が近接して架設時に上空制約を受けるため、フローティングクレーン(FC)及び大ブロックによる架設が困難。
以上の条件を踏まえた形式比較検討及び模型等による景観検討を行い、技術検討委員会での審議を行った結果、経済性・維持管理性に優れ、かつ景観においても『三角ノ瀬戸を一跨ぎする姿が地形の状況と並列の関係において調和』している橋梁形式として、「鋼PC複合中路式アーチ橋」(図-3)を選定しました。本橋が完成すれば、国内では最大級のソリッドリブアーチ橋となります。

4.詳細設計の概要
1)公募プロポーザルによる発注
支間長が340mを超えるアーチ橋は他に類例を見ず、設計には非常に高度な技術力が必要となることから、詳細設計については、技術的適正の把握と入札の透明性・競争性について総合的に優れた内容の契約を行うため、公募型プロポーザル方式を採用しました。また、特定にあたっては、公募プロポーザル方式による発注の適否、評価基準、評価手法及び評価の結果の適否について学識経験者に助言を求めながら進めました。

2)補剛桁およびアーチリブの断面検討

予備設計で決定していた補剛桁高さ:2500㎜アーチリブ断面:2500㎜×1800㎜に対して、
耐風安定性および維持管理性を考慮してより経済的な断面の検討を行いました。
補剛桁は、維持管理性、耐風安定性の観点から、以下を満足するものとしました。
  1. 端部リブ間隔600㎜以上、中央部で1800㎜以上の高さを確保する(維持管理上の必要空間)
  2. 補剛桁上端部と地覆上端部を結んだ上側傾斜角を30°程度、補剛桁断面の下側傾斜角を15°程度とする(耐風安定性の確保)
検討の結果、最も鋼重が軽くなり、経済性に優れる補剛桁高:2300㎜、アーチリブ断面:2700㎜×1800㎜に決定しました。

3)橋脚断面の形状

支配的な荷重状態(常時+温度変化)において、構造性・景観性に優れる橋脚断面の検討・選出を下記の3案から比較検討した結果、第3案であるI型断面形状を選定しました。
  1. ・第1案:充実矩形断面(2.5×9.0m)
  2. ・第2案:中空矩形断面(3.5×6.5m)
  3. (内空1.9×4.9)
  4. ・第3案:I型断面(2.8×9.5m)

4)吊材形式の検討

吊材形式については、使用材料による比較(ケーブル案、鋼材案)と、鋼材案については形状に対しても(矩形断面、円形断面)比較を行いました。
  1. ・景  観  性:遠景においては各案での相違点はないものの、近景においてはケーブル案が最も開放感に優れる。
  2. ・構  造  性:ケーブル案の場合、柔構造であり正負曲げモーメントが発生しないため、鋼材(矩形断面、円形断面)案に比べ疲労耐久性が高い。
  3. ・施  工  性:架設の際、ケーブル案が鋼材案に比べ補剛桁との接合時においてキャンバー調整が容易である。
  4. ・維持管理性:ケーブル案は再塗装の手間と足場等が省略できる。また、繰り返し荷重による疲労亀裂等の影響が、鋼材案に比べ軽微である。
以上の結果より、ケーブルが優位となったことから、ケーブル案特有の課題となる動的風荷重に対する振動(渦励振による疲労)等の検証を行い、問題がないことを確認し、ケーブル形式に決定しました。

5)耐風安定性の検討その1(2次元風洞実験)

本橋の補剛桁の動的な耐風安定性に対し、新天門橋単独時と現天門橋との並列時ついて、補剛桁の部分模型による2次元風洞実験を行いました。
2次元風洞実験は以下に示す方法にて実施し、2次元ばね支持模型により15ケースにて実施しました。

①新天門橋(単独時)
新天門橋の補剛桁の耐風安定性について検証した結果、
1) 鉛直たわみ渦励振:発現振幅0.048m<許容振幅0.075m…OK
2) ギャロッピング:発現しない…OK
となり、補剛桁の耐風安全性を確認しました。
②並列時
新天門橋と現天門橋との並列橋としての耐風安定性に問題がないかを確認した結果、単独橋とした場合の挙動と同等あるいはそれ以下となることがわかり、新天門橋の補剛桁は並列橋としての影響が小さいことを確認しました。

6)耐風安定性の検討その2(3次元風洞実験)
本橋のアーチリブを含めた完成系における動的耐風安定性を検証するために、全体系模型による3次元風洞実験を行いました。新天門橋単独時における動的耐風安定性に問題がないことを確認した後、検討ケースは、現天門橋についても全体模型を作製し、並列橋としての実験(写真-3)を一様流及び乱流による4ケースについて行いました。

①天門橋風上(一様流、迎角0°)
振幅は、静的変形量である平均値、動的変形量であるRMS値で評価を行いました。傾向として、三角側(A2側)での振動が大きくなり、現天門橋との並列の影響が見られましたが、低風速域の渦励振、高風速域のギャロッピング発生はなく、耐風安定性に問題がないことを確認しました。また、アーチリブの水平変位の平均値(風速50.8m/s時で約1.3m程度)も静的解析(風荷重時)と近い値が得られたため、併せて解析モデルと実験モデルの妥当性も確認することが出来ました。
②新天門橋風上(一様流、迎角0°)
①の現天門橋風上と比較して、風上側に構造物がないため、風荷重を受ける分、静的変形量(平均値)が大きいことが判りました。一方、現天門橋の並列の影響(ガスト応答など)がないため、動的変形量(RMS値)は減少していることが判りました。
いずれのケースにおいても、3次元風洞試験の結果、有害な振動が発生することはなく、完成系においても耐風安定性に問題がないことを確認しました。

7)耐震安定性の検討(サイト波の作成)

本橋は、地震後における避難経路や救助・救急・医療・消火活動および被災地への緊急物資の輸送路として非常に重要な役割を担っています。そのため、地震時における橋の安全性の確保を念頭に置くとともに、橋の重要度に応じて地域社会生活に支障を与えるような機能の低下をできるだけ抑制することが重要となります。このような橋の役割の重要性を踏まえ、本橋では道路橋示方書に示される標準波を対象とした耐震設計に加え、架橋近傍で想定される大規模地震波(サイト波)も対象とした耐震設計を行いました。サイト波は対象橋梁周辺にある活断層の分布状況を踏まえ、過去に発生した被害地震、予測地震規模及び断層の破壊確率などに基づき「雲仙断層群」「布田川・日奈久断層群」を活断層とした「内陸型地震」の設計入力地震波としました。
図-6に道路橋示方書に示されている標準波形とサイト波(布田川・日奈久断層群)の加速度応答スペクトルを示します。本橋の主要モード(0.3~2.7sec)の帯域では、サイト波のほうが大きくなっている箇所もあることから、サイト波を考慮した耐震設計を行うことで、架橋位置で想定される大規模地震に対しても本橋の耐震安全性を確保する耐震設計を行うことが可能となります。

8)耐震安定性の検討(耐震設計結果)

耐震解析は、材料非線形性と幾何学的非線形性を同時に考慮できる動的複合非線形解析を用いました。材料非線形は、軸力変動の影響を直接的に考慮できるファイバーモデルを採用し、減衰力は、レーリー型粘性減衰と履歴減衰により考慮することとしました。
静的解析により決定した断面構成に対して時刻暦応答解析を実施した結果、橋脚基部を除く全ての部材が弾性域を超えない応答であり、また橋脚基部も耐震性能を満足する領域での塑性化であることがわかり、大規模地震に対する耐震安全性を満足することを確認しました。

9)接合部の検討(接合部モデル実験)
本橋の最大の特徴でもある鋼とPCの異種材料による混合主桁の接合部は、剛性が急変する力学的不連続点であり、応力集中の発生など、構造上の弱点となりやすい箇所です。このため、主桁に作用する軸方向力、曲げモーメント及びせん断力などの断面力を鋼桁とコンクリート桁との間でスムーズに伝達できるような位置及び構造となるように設計を行いました。

  1. 1)セル内のずれ止め各要素の軸方向力の分担率の検証(後面板とずれ止めの分担率)
  2. 2)ずれ止め配置の妥当性の検証(1箇所あたりの耐力、接合部長さの妥当性)
  3. 3)伝達される軸方向力が一様に分散されているかの検証
上記の事柄を目的としたFEM解析を実施した結果、接合部(孔あき鋼板形式、PBL)に問題がないことを確認しました。
鋼桁とPC桁を接合する混合構造は、連続桁形式(曲げ卓越)や斜張橋形式(軸力卓越)では多くの実績がありますが、本橋は、風時(暴風時)や地震時(L2大規模地震)により、接合部に大きなねじりモーメントが作用することが大きな特徴となっています。しかし、ねじりモーメントが作用する場合の力の伝達機能や破壊に対するメカニズムに対する研究事例が少ないことから、図-9に示す、接合部に従来より用いられている構造に加え、PC鋼材と軸方向鉄筋の外側に螺旋鉄筋を巻き付ける構造について、応力伝達機能・破壊のメカニズムを明確にするための耐荷性能に関わる載荷試験(接合部全体の縮小モデルによる静的ねじり載荷試験)を実施しました。
実験は単セル要素実験3体と連続セル要素実験1体の計4体について九州大学大学院工学研究院建設デザイン部門(建設振動工学研究室)で行い、その結果は以下のとおりです。

  1. 1)コンクリート充填鋼殻セルに純ねじり或いは曲げとねじりが同時に作用する場合のねじり耐力と曲げ耐力の実験値は、すべて設計上の初降伏モーメントを上回っている。このことより、従来の実務設計手法で接合部を設計すれば、安全上は問題がない。
  2. 2)螺旋鉄筋の方は普通帯鉄筋より耐力と剛性が大きい。また、ねじり変形に対しては、螺旋鉄筋は基部だけがねじれ、普通鉄筋は、全体的にねじれるという特徴的な違いを有していることがわかる。
  3. 3)試験体の破壊はコンクリートの露出部(試験体基部)に集中して、コンクリート充填鋼殻セルは殆ど変形も損傷もなかったことから、PBLの力の伝達に問題がなかったことが判った。
  4. 4)コンクリート充填鋼殻セルに曲げとねじりが同時に作用すると、ねじり耐力は大きく低下する。ただし、実橋接合部のFEM解析結果による曲げが一番卓越する場合の曲げモーメント/ねじりモーメント=2:1を載荷しても、ねじり耐力の実験値は設計値を上回っている。
  5. 5)実験結果と弾塑性FEM解析を実施した結果、初降伏までの弾性領域内では、実験値と解析値が良くあっており、実験の妥当性が確認できた。

10)色彩の検討

新天門橋のデザインコンセプトには「周辺との調和」が謳われており、色彩についてもこのデザインコンセプトに則り、現天門橋と一体となって生まれる風景全体において「周辺風景と調和する」色を、「くまもとカラーガイド 色彩景観ガイドライン」(熊本県土木部H20.3)に準拠し選定するものとしました。
①一次検討:彩度の有無
「周辺景観との調和」という観点から、現天門橋で用いられている色彩及び「くまもとカラーガイド」に記載されている「天草景観形成地域にふさわしい色彩」より5色を選定し比較しました。
この5色に「有彩色・無彩色」双方が含まれていますが、フォトモンタージュによるカラーシミュレーションを行った結果、「調和」という観点からは有彩色は目立ちすぎであり本橋には相応しくないと判断しました。無彩色については、例えば牛深ハイヤ大橋のように桁は灰色に塗装されていますが、海上部では海面の色が映り込むことで青く見える、という事例もあります。無彩色での塗装をすることで、自然の色を反射し、より周囲に馴染む効果が期待できると判断しました。

②二次検討:明度の比較と塗り分け
本橋を構成する大きな要素である「アーチ」と「桁」を明示的に見せるため、部材ごとの塗り分けについて検討を行いました。その前提条件としては、
  1. コンクリートの明度は現地計測の結果「80」
  2. 桁はコンクリートと鋼が接合部によって一体化された、水平方向に連続する部材であるため、補剛桁はできるだけコンクリートに近い色彩である「N-80」とし、水平方向の視覚的な連続性を確保する
とし、アーチの色彩を「N-90」(ほぼ白)、「N-80」(明灰、桁の色と同色)、「N-72」(灰、現天門橋鋼材と同色)の3色での検討を行いました。その結果、下記の特徴を有したアーチ「N-72」、補剛桁「N-80」という色を選定しました。
  1. 1)フォトモンタージュによるカラーシミュレーションの結果、補剛桁よりもわずかにアーチの明度が低く、アーチと桁の役割が明確化されている
  2. 2)現天門橋の色彩とほぼ同じ明度であり、景観全体の中で調和する
  3. 3)比較的落ち着いた佇まいを見せ、白色に比べ光線のあたり具合による明度差が大きく、時刻に応じて様々に変化して見える効果が高い

11)維持管理マニュアルの作成

本橋は、100年以上の供用年数を確保するため、耐久性を向上させる技術を組み合わせ、部材の取替を容易にする工夫を行うことにより、最小限の維持管理で最大限の長寿命化を図るいわゆるミニマムメンテナンス橋を目指しました。また、変状に応じた補修・補強の対処方法を「維持管理マニュアル(案)」に整理することで、「維持管理作業に対する標準化」を目指すこととしました。
本橋の「維持管理マニュアル(案)」は、既に熊本県で作成している熊本県橋梁長寿命化修繕計画(H21.3)及び熊本県橋梁点検マニュアル(H20.7)に長大アーチ橋及び複合橋としての本橋特有な維持管理対象を追加して策定したものです。

5.本設計における技術的な進展のまとめ
1)解析技術の進歩による長大アーチ橋の実現
コンピューター等の進歩により高度な解析が可能となった結果、大規模地震を再現解析し、柔軟性を高め(長周期化)、耐震性に優れる構造となりました。また、解析技術を駆使することで、スレンダーな外観を保ちながらソリッドリブアーチ橋としては日本一支間長の長いアーチ橋が実現する運びとなりました。

2)設計技術の進歩による新型式(複合アーチ)の実現
数多くの実験と研究の積み重ねにより、新技術と新工法の採用が可能となった結果、鋼部材とコンクリート部材を適材適所に採用した複合構造で、初期建設コストを縮減できました。また、風洞模型実験を活用し、主桁形状そのものの工夫で耐風安定性に優れる構造となりました。

3)保全技術の進歩によるミニマムメンテナンス橋の実現

新材料や防食技術等の進歩により、橋を構成する部材数を最小化&単純化して、塩害に強く維持管理しやすい構造としたことで、橋の一生に掛かる維持管理費の削減が可能となりました。
再塗装等の100年間の維持費は、トラス橋(現橋)と比べ1/5.6(12/67億)に削減できる見込みです。

6.おわりに

昭和41年の天草五橋の開通により、天草地域は、島民の悲願であった離島の解消が図られました。今後さらに、この新天門橋を含めた幹線道路などの交通基盤整備を進めることで、熊本天草間の交流促進や観光振興、地域防災の向上などに寄与することができ、県民の総幸福量の増大につながるものと期待されております。
また、現在の「天門橋」は、建設当時、連続トラス橋としては、世界一の支間を誇った歴史に残る名橋であります。今回計画しております「新天門橋」は、現在の「天門橋」とともに周辺に調和しながらも橋梁技術の進展が感じられる橋で、後世に長く親しまれる名橋となって、県民の大切な財産になるものと信じ、事業進捗を着実に図る所存です。

(参考HP)
http://www.pref.kumamoto.jp/soshiki/94/sin-tenmonkyou.html

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