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未固結地山での環境に配慮した眉山トンネルの施工について
田中健二朗

キーワード:トンネル、補助工法、注入管理、マイクロベンチ掘削

1.はじめに
「島原道路」は長崎県諫早市の長崎自動車道諫早ICから諫早市郊外を通過し、雲仙市愛野町、島原市を経て、南島原市に至る全長約50㎞の地域高規格道路であり、島原市中心部の渋滞緩和、島原半島地域の円滑な交通の確保や地域振興の支援、および災害など緊急時の代替道路としての機能を有する道路である。島原道路のうち「島原中央道路」(全長約4.5㎞)は、平成24年度の暫定供用を目指し、国土交通省雲仙復興事務所が平成13年4月より鋭意事業を進めている。

天草国立公園」内を通過することとなっているため一部区間をトンネルとして計画しており、工事にあたっては「日本の名水百選」にも選ばれ、島原市民にとってかけがえのない島原の湧水への配慮も必要とされた。そのため、平成11年度より水文調査を実施するなど、環境や水文、防災上の問題などさまざまな検討を行ったうえで、平成21年度に工事に着手することとなった。今回はその眉山トンネル(仮称)の施工事例を通して、未固結地山での環境に配慮した眉山トンネルの施工について紹介する。

2.地質概要と地下水について

当該トンネルが計画されている区域は更新世後期の扇状地堆積物を基盤とし、上部に完新世の扇状地堆積物が覆っている状況であり、約4,000年前の噴火活動により生成されたと言われ、約210年前には「島原大変肥後迷惑」と呼ばれる大崩壊を引き起こした眉山(標高約800m)の火山活動により噴出した礫や砂などの扇状地堆積物と岩屑なだれにより発生した堆積物で形成されている。これらの地質は未固結もしくは半固結状態が不均質に分布しており、透水係数が非常に高いことが特徴である。
地下水について島原市によると、島原市内に約60箇所の湧水箇所が点在しており、その湧出量は22万トン/日と言われ、湧水が島原市の観光資源の1つであるとともに、島原市民にとってかけがえのない生活用水であることから、島原中央道路建設にあたっては、地下水への特段の配慮が必要とされた。これまでの地下水調査(ボーリング調査など)により、地下水はトンネル計画位置より約25~40mほど下に位置していることが分かっており、掘削時に地下水の湧出はないとされたが、施工時に有害な成分が地下水に流出しないことが求められた。

3.工事概要
眉山トンネルは、現在建設中である島原中央道路のほぼ中央に位置する全長約905mのトンネルで、内空断面積約65m2、高さ約7.5m、幅約12mである。

支保パターンは、DⅢaとDⅠパターンの組み合わせで、補助工法は長尺先受け工法、脚部沈下対策としてウイングリブ構造とレッグパイルの組み合わせとした。また、掘削にあたっては「上半先進ベンチカット工法」を用い、ツインヘッダーによる機械掘削とした。工事概要を表-1に示す。

4.トンネル掘削補助工法
眉山トンネルが計画されている地質は、地質概要でも記載しているとおり、未固結で礫や土砂が不均質に分布している。これより掘削時の地山と支保の安定のため、各種補助工法を採用した。補助工法は、天端補強対策として長尺先受け工がトンネル全線で計画されている。切羽面補強対策として長尺鏡補強工、脚部沈下対策としてレッグパイルが坑口付近で計画されている。図-3に坑口部支保パターン図を示す。

5.施工監理委員会と試験施工
本トンネルでは工事着手にあたり、工事を適切かつ円滑にすすめることを目的に学識経験者から構成される「眉山トンネル工事施工監理委員会」を設置した。この委員会において、トンネル全線で計画された長尺先受け工の注入材について、トンネル計画地山での有効性や地下水水質への影響がなく、もっとも地山に適した注入材の選定を行うため、掘削予定地山において試験施工を実施した。試験方法を図-4に示す。

注入材の選定にあたっては、セメント系注入材を中心に5種類を選定した。掘削開始前の地山坑口部に長尺パイプ(φ76.3㎜、L=9.5m)を打ち込み、注入材を圧入した。硬化した改良体を掘り出し、フェノールフタレイン溶液に反応した範囲を目標となる外径(φ45㎝)を有することを確認した。また目視による確認や改良体周辺にも溶液を散布して、注入材の逸走や拡散がないことを確認し、改良体のPH試験など地下水への影響を検証するための試験を実施した。結果を表-2に示す。すべての材料において逸走や拡散などは見られなかったが、材料BとC以外は目標とする改良体の形成が確認できなかった。その結果を「眉山トンネル工事施工監理委員会」にはかり、試験結果と実際に形成された改良体の状況を検証したうえで、注入材料として材料Cを選定した。

6.長尺先受け工の注入管理
補助工法のうち長尺先受け工については、注入材がロッドの周囲に均等に拡散し、改良体を形成するとともに、形成された改良体が相互に結合していることが重要である。そのため注入量や注入圧の適切な管理が重要である。そこで、設定注入量を466L/本(L=12.5m)で設定するとともに、後行孔において注入圧が初期圧+2.5Mpaに達したとき、もしくは設定注入量の1.5倍に達したときで注入作業を終了することとし、特に後行孔の施工に重点をおいた管理手法とした。

7.掘削時の剥落について
7-1.剥落発生の状況

掘削開始後、土被りが薄い坑口部周辺で懸念された変位の増大も見られず、切羽の状況も比較的安定しており、作業も順調に推移した。
しかし、掘削延長125m(№112+15)の長尺先受け工施工を境に、掘削が進行するにつれ急激に地山の状況が悪化、掘削延長144m(№113+14)付近で天端付近が高さ約5m、幅3m、奥行き約2.5mにわたって剥落し、坑内に約40m3の土砂が流入した。そのため、剥落がこれ以上進行しないように、1次的応急処置として剥落箇所内部に吹付けコンクリートを施工し、内部にエアミルクを充填した。
その後、「眉山トンネル施工監理委員会」において対応策を検討した。

まずロックボルトを用いて地山に直接縫いつけ、その後、剥落の際に充填塊前方の緩みが大き
くなっている可能性も否定できないことから、充填塊を貫くように長尺先受け工を施工し、充填塊前方の改良を実施した(図-8参照)。

7-2.剥落後の長尺先受け工の検討

発生原因として天端部に巨礫が存在していた可能性があり、この巨礫が長尺先受け工のラップ長約50㎝と一番短くなっていた区間に集中載荷したためと考えられる。またこれに加え、注入圧が上がりにくかったことから局所的に緩い地質状況が存在し、改良体の形成が部分的に不十分となったことが考えられる。これらが複合的に重なった事案であると推察された。
ラップ長が短くなることへの対応は図-9に示すとおりに、断面拡幅部を延長し長尺先受け工の撤去部分をなくした。また長尺先受け工の長さを12.5mから13.5mに変更した。これによりラップ長を確保しつつ、片持ち状態の改善を図ることとした。

また注入管理の対応について、当初の注入材の注入管理フローは先行孔(奇数孔)においては設定注入量で打ち止めし、後行孔(偶数孔)においては設定注入量の1.5倍で打ち止めすることとしていた。
検討の結果、図-10に示すように後行孔において、最大で設定注入量の2倍で打ち止めとすることとした。

8.終点側坑口部の坑内変位対策
8-1.掘削時の状況

この長尺先受け工改善後は、坑内変位も安定し、順調に作業の進捗を図ることができ、当初計画どおり、土被りが2D以上となる№117+2において支保パターンをDⅠ-bに変更した。
その後、沈下量が増加傾向に転じたため、支保パターンの変更について検討した。その結果、施工監理委員会での了承を受け№136+9.0においてDⅢa-1に変更することとし、今後の切羽の自立状況に応じてDⅢa-2に変更し、鏡ボルトを追加することとした。
しかし、終点側坑口に近づいた№139+19付近より、再び地山の状況が悪くなり、図-10に示す改善後の注入管理手法においても先行孔の圧力が上昇しない状態となった。
そのため、対応について検討し、後行孔において、所定の圧力(初期圧+0.5Mpa)に達するまで注入作業を実施し、注入量に上限を設けないこととした。その結果、最大で設定注入量の7倍の注入を行う箇所も出現したが剥落等の異常は発生することはなかった。

8-2.施工方法の検討

今後もとくに脚部の沈下量が卓越することが考えられ、対策を講じる必要があると判断し、DⅢa-2への変更(鏡ボルトの追加)、及び両脚部のウイングリブおよびレッグパイルの追加について、施工監理委員会において検討した。
鏡ボルトの追加については、切羽が比較的安定傾向にあることやこれまでの施工結果で、起点側では当初計画より鏡ボルト施工区間を短縮したことより、切羽の安定には長尺先受け工が効果的であると考えた。また脚部の沈下対策について、ベンチ長を3~5mとするマイクロベンチ掘削の施工により早期インバート閉合し、変位を抑制することとした。これでも変位が大きいようであれば、ウイングリブやレッグパイルの併用を検討することとした。

8-3.変更後の施工結果

マイクロベンチ施工は、その効果を検証するため、施工前と施工後における沈下測定及び支保工の応力測定を行った。
図-13~16にマイクロベンチ掘削変更前後の計測結果を示す。沈下測定は、マイクロベンチ掘削変更前後の最終沈下量は39㎜から18㎜となり、20㎜程度の沈下抑制効果が確認された。鋼製支保工の軸力では、マイクロベンチ掘削変更前は、上半、下半、インバートの各施工段階で応力解放による応力の変動が見られるが(図-14)、マイクロベンチ掘削変更後は、応力の変動が無く早期に収束傾向に向かっていることがわかる(図-16)。吹付けコンクリート応力測定結果も同様の傾向を示しており、最終応力は変更前後で同程度であった。マイクロベンチ掘削採用により支保工に掛かる応力に影響を与えるものではないことが判った。
図-12に計測結果を基に解析を行った結果を示す。マイクロベンチ掘削による早期閉合によりトンネル周辺地山の発生ひずみが抑制されており、トンネルの安定性が向上したと見ることができる。

9.おわりに

今回、未固結地山での環境に配慮したトンネル施工の実績や補助工法の採用経緯について述べた。土被りが最大でも約35m程度で、全線にわたって未固結の地山が連続しているという条件に加え、島原市民の地下水への高い関心を考慮し、作業着手前から委員会を踏まえた設計方針の検討や施工中における学識者と一体となった検討体制など、万全の体制により工事を進めてきたため、迅速かつ的確に現地の変化に対応することができた。
また、着手前に試験施工を行い、改良体を実際に露頭させて適切な注入材量、注入管理の妥当性を検証するとともに、地下水に影響がない材料を選定し、実際に施工中、施工後において地下水の観測データに異常が見られなかったのは、順調な進捗の一助となる大変有意義なものとなった。
さらに、地下水への関心が非常に高い島原市民を意識し、地下水への影響が無いことをさまざまな角度から検証するとともに、計17回にもわたる現場説明会により、多くの市民に工事の内容を理解いただけたことは特筆に値する。
平成22年11月下旬にトンネルは貫通し、平成23年3月に本体工事は完了した。
また、島原中央道路は平成24年度の完成に向け、全線で工事を進めている。
最後に本工事の施工に際して、「眉山トンネル施工監理委員会」の各委員の皆様から多大なるご指導を賜った。ここに記して感謝の意を表す。

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