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水防災意識社会再構築ビジョンに基づく九州の取組について
的場孝文

キーワード:水防災意識再構築、水害リスク、防災・減災

1. はじめに
平成27年9月に発生した関東・東北豪雨災害は、我々治水事業に携わるものに大きな課題を突きつけました。鬼怒川の決壊は、1949年(昭和24年)8月のキティ台風以来、66年ぶりのものでしたが、堤防決壊による氾濫流の勢いもあり、全壊53戸、大規模半壊1,581戸、半壊3,491戸、床上浸水150戸、床下浸水3,066戸の家屋被害が発生しました。また、氾濫水による浸水は、常総市の約3分の1にあたる約40km2に及び、浸水が解消するまでに約10日間を要しました。特に、住民避難については、避難等の遅れもあり約4,300名もの住民が逃げ遅れ、約1,340名もの住民がヘリコプターで救助される事態となりました。

2.水防災意識社会再構築に向けた動き
このような背景を踏まえ、平成27年10月に国土交通大臣から社会資本整備審議会会長に対して「大規模氾濫に対する減災のための治水対策のあり方について」が諮問され、平成27年12月10日に「大規模氾濫に対する減災のための治水対策のあり方について~社会意識の変革による「水防災意識社会」の再構築について~」が答申されました。
答申では、行政や住民、企業等の各主体が、水害リスクに関する十分な知識と心構えを共有し、避難や水防等の危機管理に関する具体的な事前の計画や体制等が備えられているとともに、施設の能力を上回る洪水が発生した場合においても、浸水面積や浸水継続時間等の減少等を図り、避難等のソフト対策を活かすための施設による対応が準備されている社会を目指すことが示されました。

3. 九州における洪水被害とこれまでの取組
九州は全国平均よりも降水量が多く、これまでも多くの水害に遭ってきました。北部九州を中心に甚大な被害を被った昭和28 年西日本水害、昭和32年の諌早豪雨をはじめ、近年においても宮崎県下を中心に甚大な被害をもたらした平成17年台風第14号、鹿児島地方を襲った平成18年7 月豪雨、そして記憶にも新しい平成24年九州北部豪雨などです。
平成17年の大淀川や五ヶ瀬川、平成18年の川内川の水害時においても、今回の鬼怒川のように避難計画等の課題、防災情報の課題、住民避難の課題など数多くの課題が示されました。その際の取組は、現在でも十分活用できるものが多いため、ここで少し紹介させて頂きます。
避難計画等の課題ですが、当時、自治体は避難勧告・避難指示の発令に対する明確な基準を有しておらず、また空振りを恐れて発令が遅れることもありました。その反省を踏まえ、各自治体では、河川水位状況等を踏まえた発令基準の見直しが進められました。また、自治体の適切な発令をサポートするため、洪水時に河川の水位状況や今後の予測について、河川事務所長から自治体の首長に直接伝える「ホットライン」を始めました。避難所については、公表されていた浸水想定を踏まえ、1次避難所、2次避難所等に分け、洪水の段階に応じた対応が出来るように計画の見直しが図られました。
防災情報の課題に対しては、臨場感のある情報を住民に提供するため、河川カメラの映像をHP等で提供すると共に、放送局への動画提供を始めました。また、インターネット等にアクセス出来ない人を対象に、NHKのデータ放送で水位・雨量等の状況提供を開始しました。
住民避難の課題については、九州川標プロジェクトとして様々な取組を進めてきました。避難の目安となるよう水位の呼び名を「避難判断水位」や「氾濫危険水位」など避難行動に資するものに変更しました。また、市町村が作成したハザードマップを基に、地区単位でのより詳細な避難検討を行った「マイ防災マップづくり」や「まちごとまるごとハザードマップ」も進めております。また、地域住民の防災意識向上を図るための防災教育についても、少しづつではあるが、取組に着手しました。

4.水防災意識社会に向けた九州の取組
今回の鬼怒川において、救助された住民が約4,300名もいたことを先に述べました。これは、避難勧告、避難指示を発令する自治体の認識、地域住民の防災意識における課題を再提示したものでした。
そのため、避難勧告・避難指示を発令する自治体の首長を対象に、洪水予報やホットラインなど、出水時に河川管理者から提供される情報とその対応等について確認するための「トップセミナー」を行うと共に、流下能力が低い箇所など洪水が氾濫するリスクが高い区間について、河川管理者、地方公共団体、水防団、自治会等で現地を点検する共同点検を実施しました。
また、自分が住んでいる地域の災害リスクを知ってもらうとともに、適切な避難行動に資することを目的として、「想定し得る最大規模の降雨を対象とした浸水想定区域」の公表を進めています。
従来から公表していた浸水範囲・水深に加え、浸水継続時間や洪水時家屋倒壊等想定氾濫区域を示すことにより、水平避難が必要な区域、垂直避難が可能な区域を知ってもらうようにしています。
自治体の適切な避難勧告・避難指示の発令をサポートする取組としては、ホットラインに加えタイムラインを進めています。タイムラインは、「いつ」「何を」「誰が」行うかを事前に決めておくもので、現在は避難勧告に着目したタイムラインの作成を自治体とともに実施しています。六角川や球磨川等においては、タイムラインを積極的に活用して、住民の適切な避難や地域の被害最小化につなげるため、自治体の防災行動を踏まえた詳細版の検討にも取り組んでいます。
住民に分かりやすい情報をキチンと伝える取組としては、NHKのデータ放送で行なっている河川水位等情報提供の民放への拡大、ホームページ版で公表していた「川の防災情報」のスマホ版の整備や河川カメラ情報の追加、レーダー雨量計の高性能化によるより詳細な雨量情報の提供、洪水予報と連動したプッシュ型エリアメールの導入などを進めて行きます。
主体的に行動できる人材を育成するための取組としては、遠賀川や川内川で取り組んでいる教育機関と連携した水防災教育の普及・拡大を進めていくとともに、河川協力団体など、地域住民との協働によって、より住民目線の対策に取り組んで行きます。
社会経済への影響を最小限に抑えるための取組としては、緊急排水計画の策定や治水ダムの危機管理型運用についても検討を進めていく予定です。

5.おわりに
災害外力が激化する中で、地域の被害を最小化するためには、地域住民の安全・安心に責任を有する自治体を中心として、防災に携わる関係機関の協働が必要不可欠です。水防災意識社会再構築においては、全国に先駆けて九州で取り組んできた取組に加え、市町村、県、国が協議会の場で目標を共有して取り組んで行くこととしています。

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