既設横軸ポンプ形排水機場における立軸ポンプの施工について
国土交通省 遠賀川河川事務所
機械課長
機械課長
竹 井 昭
1 はじめに
菰田排水機場は,遠賀川左岸に熊添川が合流する地点に近い飯塚市菰田に建設された排水機場で,遠賀川の支川である流域面積5.5㎢の旧碇川の内水排除を目的とし,昭和46年に5m3/s×2台の横軸斜流ポンプが建設されたものであるが,今回,近年の内水被害状況を鑑み,5m3/s×1台の増設を行うにあたり始動性,信頼性の向上等を図るためポンプ形式等の検討を行い,九州では初めてのプルアウト形立軸ポンプを採用することとしたので紹介する。
2 既設排水ポンプ設備及び増設ポンプ設備概要
既設ポンプ設備及び増設ポンプ設備の概要は,下記のとおりであり,図ー1に機場全体図を示す。
(1)既設ポンプ設備
既設ポンプ台数 2台
ポンプ形式 横軸斜流
ポンプロ径 Φ1500mm
吐出量 5.0m3/(s・台)
実揚程 2.65m
全揚程 3.6m
原動機形式 水冷ディーゼル機関
原動機出力 265kw
始動方式 空気始動(分配弁方式)
除塵機形式 前面掻揚式
燃料貯油槽形式 地下タンク式 20kℓ
天井クレーン 5t手動式
(2) 増設ポンプ設備増設ポンプ台数 1台
ポンプ形式 プルアウト形立軸軸流ポンプ
ポンプロ径 Φ1500
吐出量 5.0m3/(s·台)
実揚程 2.65m
全揚程 3.5m
原動機形式 空冷ディーゼル機関(ボンネット式)
原動機出力 300kw
始動方式 セルモータ方式
3 検討方針
本施工にあたっては,下記の内容に基づき検討を実施した。
(1)始動性,信頼性を重視した検討を行う。
(2)本機場は,当初横軸ポンプにて計画されており,既に設置されている2台のポンプも横軸ポンプである。したがって,立軸ポンプの採用にあたっては,以下の点に留意し検討を行った。
① 土木強度的に問題ないか。
② 天井クレーン容量は問題ないか。(トラッククレーンによる据付も合わせて検討する。)
③ 天井クレーンの吊り上げ高さに問題ないか。
(3)ポンプ形式の検討は,高比速度化,高流速化による軽量化及びコスト縮減を念頭に比較検討を行った。
(4)主原動機設備は無水化を図り,系統機器の簡素化による信頼性の向上の検討を行った。
(5)系統機器設備の検討にあたっては,主ポンプ1台の増設に伴う既設系統機器の容量確認と遠隔化を念頭においた更新,新設計画の検討を行った。
(6)除塵設備については,除塵機1台の増設とこれに伴う既設設備(コンベヤ,機側操作盤)の改造内容の検討を行った。
4 ポンプ軸形式の比較
ポンプ軸形式は,吸込性能,維持管理性,始動性,操作性,経済性等を考慮し決定するものとし,「立軸」と「横軸」の一般的な比較を表ー1に示す。
比較表より,本機場では運転の始動性,操作性及び遠隔化対応を重視し,「立軸形」を優先して選定することとした。
5 標準形立軸ポンプの問題点
先に記したとおり,本機場の土木,建築は横軸ポンプの設置を前提に施工されているため,立軸ポンプの設置に際してはいくつかの問題点があげられる。
ここで,標準形立軸ポンプの場合の問題点と対応の可否をまとめると表ー2のとおりとなる。
上表より,荷重の増加及び吊り高さについては対策を施すことにより対応可能となるが,天井クレーンの大幅な容量アップに対して,既設の建築強度上問題があるといえる。
従って,立軸ポンプの採用にあたっては,
・トラッククレーンによる直接搬入,据付
・プルアウト形ポンプの採用によるメンテナンス時の吊り上げ質量の軽減
・既設床面強度に対する対応
・歯車減速機の吊り上げ質量の軽減
について検討を行い,採用の可否を行った。
6 対策案の検討
(1)トラッククレーンにより直接搬入,据付を行う場合
トラッククレーンによる搬入イメージ及び搬入ルートを図ー2に示す。今回搬入に必要なトラッククレーンの容量は200tとなり,トラッククレーンの自重も約200tとなることから,機場への侵入の際,機場入り口の橋の強度がもたない。したがって,本機場においては,トラッククレーンにより直接搬入,据付を行う案は採用できない。
(2)プルアウト形の立軸ポンプを採用する場合
ポンプ形式をプルアウト形にすることにより,外部ケーシングと吐出ベンド,羽根車,主軸を分けて搬入することができ,吊り上げ質量の軽減が可能である。
プルアウト形立軸軸流ポンプの吊り上げ質量は,
・外部ケーシング部(揚水管部)……約12t
・吐出しボウル,羽根車,主軸部……約5.3t
である。
ここで,外部ケーシングについては,一度据え付けた後は引き上げる必要がないことから,仮設を組んで対応するものとした。
これにより,天井クレーンの容量を5.0tから7.5tに容量アップすれば,ポンプの外部ケーシング以外の部材及び機器の据付及びオーバーホール等のメンテナンスは対応可能となる。
なお,天井クレーンの5.0tから7.5tへの容量アップについては,建築強度上問題ないことを確認した。
以上の検討内容をまとめて標準形ポンプとプルアウト形ポンプの比較表を表ー3に示す。
(3)既設床面強度に対する対応方法
図ー3に示すとおり,既設床面の強度不足を補強架台により,吸水槽ピアに荷重分散させることにより対応することとした。
7 減速機搭載型立軸ポンプの採用の可否について
立軸ポンプと横軸原動機の組合せの場合,動力伝達装置としてポンプ上部(架台上)に直行傘歯車減速機を設置することが一般的である。ただし,今回の場合,原動機の基礎コンクリートボリュームが大きくなり,既設床面強度に対して問題があることから採用できない。
このような場合に対しては,近年の技術開発により入力軸と吐出し曲管の中心が同一水平線上にすることのできる減速機搭載型立軸ポンプにより対応する場合が増えてきており,減速機搭載型立軸ポンプの採用可否と採用できない場合の代案について検討を行った結果,一般的な減速機搭載型立軸ポンプの上部(吐出ベンド+歯車減速機部)の吊り上げ質量は約11.7tであり,本機場での制約条件を考慮すると採用できない。
よって,今回は減速機架台の上に搭載型と同様の構造をした別置の歯車減速機を設置することとし,このときの地上部の吊り上げ質量は,以下のとおり分割されいずれも7.5t未満となる。図ー4に歯車減速機組立図を示す。
・歯車減速機……約5.3t
・減速機架台……約6.0t
・吐出しベンド…約3.4t
8 メンテナンス時における分解要領について
オーバーホール等のメンテナンス時のポンプ分解要領を図ー5に示す。
9 おわりに
今回,横軸ポンプで施工されている排水機場において,プルアウト形立軸ポンプ及び減速機搭載型と同様の構造をした別置の歯車減速機を採用することにより,天井クレーンの吊り能力の軽減及び吊り高さの低減を図ることができ,主ポンプ設置のオーバーホール等の分解整備を行う場合においても,分解可能となったことにより,メンテナンス性も向上することができた。また,既設床面の強度不足を補強架台により荷重分散することによって,既設の機場本体を変更することなく据付を行うことができた。
今後設備の老朽化に伴い横軸のポンプ設備を立軸のポンプ設備に更新する場合の参考となれば幸いである。